柿本敏克 (かきもと・としかつ)教授
- 出身地:大阪府
- 最終学歴/学位:大阪大学大学院人間科学研究科/博士(人間科学), University of Kent at Canterbury/PhD
- 研究室:10号館402
- 所属学会: 日本社会心理学会,日本グループ・ダイナミックス学会,日本応用心理学会,日本シミュレーション&ゲーミング学会,ヨーロッパ実験社会心理学会
- 専門分野: 社会心理学, グループ・ダイナミックス
- 担当科目: 社会心理学,人間関係論,社会行動基礎実習・応用実習,コミュニケーション特論など
- 個人ページ: http://www.si.gunma-u.ac.jp/~kakimoto/
現在の研究テーマ
- 仮想世界ゲームを用いた集団内・集団間のダイナミックスに関する実証的研究
- 電子コミュニケーション場面における状況の現実感測定のための指標開発 →関連研究の紹介ページ
- 社会的アイデンティティと集団間関係に関する認知社会心理学的研究
代表的な研究業績
- 「社会的アイデンティティ研究から見た自己の社会性」下斗米淳編著『社会心理学へのアプローチ』(自己心理学6),金子書房,2008,pp. 65-84.
- 「集団間葛藤を引き起こす心理諸過程に関する一考察 ― 社会的アイデンティティと集団間葛藤」『偏見とステレオタイプの心理学』(現代のエスプリ第384号), 至文堂,1999,pp. 172-184.
- 「内集団バイアスに影響を及ぼす個人差変数」『社会心理学研究』,第11巻,1995,pp. 94-104.
専攻分野・研究内容紹介
社会心理学とは
社会心理学の目的は、人の社会的行動の原理を科学的に追求することです。
これだけでは抽象的すぎるのでもう少し説明しますと、多くの場合、われわれは日々、色々なレベルで他の人と関わりあいながら生活していますが、この「他の人との関わりの中でなされる行動」を社会的行動と呼びます。一定の手続きを用いてその中に法則性を見つけること、その法則性がどのような原理によって出来上がっているかを探ること、これが社会心理学の目的です。
社会心理学の研究テーマ
研究テーマとしては、例えば
「自己とは何か、それはどんな働きをするのか」
「人の印象はどのように決まっていくのか」
「口で言うことと実際にやることが違う人がいるが、どうなっているのか」
というような、どちらかと言うと個人の『内部』に焦点を当てたテーマから、
「人と人とのコミュニケーションではどのようなことが起こっているのか」
「他者に対する好意を決める要素は何か」
「人間関係の種類や働きにはどのようなものがあるか」
といった主に個人同士の『関係』に係わるテーマ、さらには
「集団内で多数派の力はどのように働くか」
「集団を導く効果的なリーダーシップはどのようなものか」
「集団間の対立はどのようにして起こり、それはどうしたら解消できるか」
などの『集団内』・『集団間』のレベルで働くダイナミックスの解明とその応用といった、いくつものレベルの、幅広い問題が扱われます。
ここに列挙したものに加えて、流言や流行、世論や文化といった『社会』レベルの問題も忘れてはならない重要なテーマです。
社会心理学との出会い
こうした社会心理学に私が向き合うようになったのは、次のような経緯からです。
元々「将来、科学者になりたい」という希望はもっていましたが、大学進学を決める辺りでは、まだ自分がやりたいことが何かを決めることができませんでした。SF小説が好きで、特に「心理歴史学」なるものがキーワードであるアシモフの「ファウンデーション」シリーズには大変興味をそそられましたが、残念ながらSFはSFです。実際にそんな学問があるわけでもなく、学部選びの直接の材料にはなりませんでした。しかし、一つだけはっきりしていたのは、何かに特化した学問だけはやりたくないということでした。という訳で、大学進学にあたっては、取りあえず、当時はまだ珍しかった文理融合の(比較的「文」よりの)今で言う「学際系」学部を選びました。これって何かに似ていますね。
こうして大学・学部選びという人生の一大事を曖昧にすり抜けたのも束の間、その学際系学部でも一旦入学すると、その中でいくつかの選択を迫られることになりました。ここでもまだ選択することができなかった私は、「特化せず、できるだけ多くの可能性を残す」という方略を用いました。これを数回繰り返した結果として、自然と導かれていった「(最大)公約数的」な学問が、私の専門としている社会心理学です。そう、「最大」か否かは別として、社会心理学は「公約数的」な学問であると言うことはできるでしょう。なぜ、そう言えるのかについては、機会があれば直接お話したいと思います。
「個人」、「集団」、「社会」をつなぐもの
最初に述べましたように、社会心理学のなかには「個人」、「集団」、「社会」といった複数のレベルで、多様な問題が扱われます。多様性は魅力である一方で「各論の寄せ集めにすぎない」、と悪口を言われ兼ねない状況とも言えます。こうした複合的構成をもつ社会心理学のなかで私が研究上の拠り所としているのは、ヨーロッパ社会心理学のなかで生まれてきた「社会的アイデンティティ・アプローチ」と呼ばれる研究アプローチです。詳しいことは省略しますが、広く言うとこれは、集団を中心に置いて、個人と集団(・社会)の関わりそのものを研究テーマとするもので、そこには個人と集団(・社会)をつなぐ理論モデルが組み込まれています。このアプローチから、従来の社会心理学では別の現象と考えられていたものを統一的に説明するような試みがいくつも生まれています。博士研究のためにその中心地である英国ケント大学に留学した際には、この魅力的なアプローチの中で最も重視されてきたある現象の、根本的メカニズムの解明に取り組みました。この探究は今でも私の中では研究の柱であり、形を変えて続いています。
普遍性を求めつつ、その本質を追究する。――― 格好よく言うと、これがこれまでの私のスタイルだったということになります。とは言え、もちろん関連する個別の問題にもいくつか取り組んできました。多様な個別研究の存在によって初めて、より豊かな普遍性が生まれると考えるからです。
現在は上で述べた事を念頭に置きつつ、より一般的に、社会心理学の研究推進のための道具立ての部分に主に取り組んでいます。これはこれで面白かったりしますが、少しずつ柱の部分と絡めるように努力しているところです。