河島基弘

河島基弘 (かわしま・もとひろ)教授

河島基弘 教授
  • 出身地: 静岡県浜松市
  • 最終学歴/学位: 英国エセックス大学博士課程/社会学博士
  • 研究室: 10号館507
  • 所属学会: 日本マス・コミュニケーション学会,ヒトと動物の関係学会,日本比較文化学会
  • 専門分野: 社会学,人類学,環境倫理
  • 担当科目: 情報メディア論,現代文化論,マスコミ論,専門外国語,教養英語
  • 個人ページ: http://www.si.gunma-u.ac.jp/~mkawa/index2.html

現在の研究テーマ

  • 人間と動物の関係についての歴史的・比較文化論的考察
  • メディアによる他文化表象の研究

代表的な研究業績

  • 『神聖なる海獣―なぜ鯨が西洋で特別扱いされるのか』, ナカニシヤ出版,2011(単著)
  • 「米豪の日本イメージ ― 靖国問題を事例として ― 」大石裕・山本信人編著『イ メージの中の日本』,慶應義塾大学出版会,2008,pp. 111-133.
  • 「米英メディアが見た日中摩擦」大石裕・山本信人編著『メディア・ナショナリズムのゆくえ』,朝日選書,2006,pp. 183-219.

専攻分野・研究内容紹介

大学教員になるまでの遍歴

私は物心ついた時から動物が好きで,子供時代の夢は動物学者になることでした。しかし,高校の生物の授業があまりにも退屈なため挫折。また,社会問題への関心が強くなったこともあって,大学では政治学を専攻し,卒業後の職業として記者を選びました。記事を書くという作業は楽しく,また記者として,普通では会えないような多くの著名人に会うこともできました。しかし,日々の事象に追われて深く考える時間が持てないことに欲求不満が募り,「アカデミズムの観点からこれまで自分が経験してきたことを整理したい」と思い,イギリスの大学院への留学を決めました。というのは建前で,記者を辞めた本当の理由は,9年も働いて仕事に飽きがきていたこと,一度海外で生活してみたいと考えたことでした。また,「人生は1回しかないのだから,好きなことをやってやろう」という思いもありました。

イギリスには結局8年間滞在しました。最初の2年間は修士課程に在籍したため,授業の予習やエッセイ(小論文)の提出,試験の準備などでちょっとハードな生活を強いられました。しかし,そんな生活も博士課程に入って一転。次の5年間は,自分の好きな時に好きな本を読み,好きな研究をし,好きなテレビを見て(イギリスのテレビ・ラジオ番組は質が高いうえに,ユーモアもあって最高です。この国が現在世界に誇れる唯一,もとい最高の商品だと思います),好きなだけ酒を飲み,いろいろな国の人と好きなだけ語り合うという夢のような日々が続きました。記者時代のように,他社の「特ダネ」の後追いをさせられることも,上司に怒られることもありません。お金はないけれど,ストレスも束縛も責任もないという究極の自由です。そして最後の1年間は,主にイギリス人学生相手に社会学の補助教員のような仕事をしました。学生が話すなまりの強い英語が聞き取れなかったり,テストの採点でネイティブの崩し字を読めなかったりと苦労もありましたが,今となっては楽しい思い出です。そして,日本に戻って2年間ほどフリーターをした後,大学教員の端くれになりました。

イギリスからみた日本

私の博士論文のテーマは「なぜ鯨が欧米で特別視されるのか」というものです。日本にいると想像しにくいのですが,欧米,特にアメリカ,イギリス,オーストラリア,ニュージーランドのような英語圏の国々では,鯨やイルカは特別な存在であり,「大自然の象徴」,「海の人類」などと見られています。このテーマを思い立ったのは,イギリスのメディアに日々接して,イギリス人の日本批判が,(1)第二次世界大戦中における日本軍のイギリス兵士に対する残虐行為と,(2)環境問題に対する日本人の鈍感さ,特に捕鯨の習慣--の2つに絞られることに気づき,それなら論文のテーマにしてみようと考えたからです。

論文執筆中は,「日本人だから捕鯨を擁護するのだろう」と思われるのが癪だったこともあり,また,動物虐待の非人道性を論じた文献に感化されたこともあって,5年間ほど肉を食べないベジタリアンの生活をしました。日本に帰って来て,今ではすっかり肉食生活に戻ってしまいましたが... 話が脱線してしまいました。私の現在の研究テーマは博士論文の延長線上にあり,1つは人間と動物の関係についての考察,もう1つはメディアによる他文化表象の問題です。私の専門は社会学,人類学,環境倫理などですが,この3分野とも上記のテーマを研究する際の大きな武器になります。

社会科学における理論とは

ところで,みなさんは社会科学,特にその理論に対して,どのような印象を持っているでしょうか。社会学や人類学に対する批判としてよく聞かれるのは,数学や物理学など自然科学の理論と違って厳密な意味で現象を説明できない,分かりきったことにもったいぶった理屈をつけているだけである--などというものです。実際,社会学をかじってみて私が最初に感じたのは,理論ばかりで事実を見ていないということでした。それならと,「フィールドワーク(現場に出て長期の観察やインタビューをすること)が必須で,地に足の着いた学問であると思われた人類学も勉強してみましたが,この学問も理論と事実の橋渡しに苦労していることが分かりました。

それでも敢えて言います。理論は必要です。少なくても頭の整理にはなるし,今まで知らなかった新しい視点を提供してくれることも少なくありません。また,ごく稀にですが,社会現象のほとんどを一言で説明できる社会理論というものも確実に存在します。皆さんも,そのような学問や理論に巡り合えるといいですね。