結果および考察

植物相

アドバンテスト・ビオトープ

 アドバンテスト・ビオトープ(図2写真1)では、2009年度(4月〜10月)の調査により、在来種86種、外来種33種の計119種の生育と開花が確認された(図3表1)。これまでの調査では、2006年には在来種92種、外来種21種の計113種(依田 2006)、2007年には在来種79種、外来種22種の計101種(高岩2007)、2008年には在来種94種、外来種38種の計132種(高橋2008)が確認されている(図3)。年によっては確認できなかった種もあるため、全生育種数を毎年確認できているわけではないが、未確認種、新規確認種の収支としては、近年は継続的に動的平衡状態にあるものと考えられる。

 2009年も、ミゾコウジュ、フジバカマ、ミコシガヤといった湿地性絶滅危惧種や(写真789)、イヌトウバナ、ユウガギク、ホタルブクロ、ヌカキビ、クサコアカソといった、里山植物も継続して生育が確認された(写真10)。特にミゾコウジュは、ビオトープ内外で多数生育し開花したことが確認できた。本種の個体数は年変動が大きく、2008年度は個体数が少なかった(高橋 2009)。しかし2009年の大量開花によって多数の種子が生産されたと考えられるので、今後も継続的に生育・開花していくと期待される。一方フジバカマとユウガギクは、2008年と比べると確認個体数はやや減少し、個体サイズも小さい傾向にあった。これは2009年に草刈りがうまく行われなかったことが原因であると推察される。今後は、フジバカマとユウガギクの主な成長期(夏)に入る前に、1〜2回草刈りを行うことによって、再び良好な生長と増殖が見込まれるようになるものと考えられる。

 今年度の調査での出現植物の総種類に占める外来種の割合は、約28%であった。これまでの調査では、2001年度に38%、2002年度に45%、2003年度に36%、2004年度に33%、2006年度に19%、2007年度に22%、2008年度に29%であったことから、今年度は前年度とほぼ同程度であったといえる(図3)。

 2009年の調査で生育が初めて確認された種は5種で、全て在来種であった。初出在来種はオオバヤナギ、ナキリスゲ、ヤブミョウガ、カモノハシ、ネムノキで(写真1112、13、14、15)、いずれも山野の水辺または湿ったところを生育地とする種である。ビオトープ内での初出現植物数のうち在来種の占める割合は、2002年度が63%、2003年度が67%、2004年度が79%、2006年度が89%、2007年度が94%であったのに対し、今年度は100%と、年々高くなってきている。これは外来種駆除を継続的に行った成果といえる。ただし、確認された外来種のうちセイタカアワダチソウ、ヒメモロコシ、イヌムギ、カモガヤ、メリケンカルカヤは、地下茎や種子により旺盛に繁殖するため完全な駆除が困難となっている。しかし、引き抜きまたは刈り取りにより勢力を抑制していくことは可能なので、今後も継続して勢力抑制を図っていく必要がある。

 2009年度の各月に開花が確認された植物(表1)のうち、在来種数は、4月に36種、5月に13種、6月に17種、7月に2種、9月に6種、10月に11種となった。すなわち、ビオトープの目的にあった最も良い景観となるのは、4月であるといえる。

高崎観音山(高崎市石原町)

 現地踏査の結果、3地点合計で在来種40種、外来種1種の計41種の生育が確認された(表2写真2)。これらのほとんどが、山野性植物または畑地性雑草であり、外来種は生育するが個体数が非常に少なかった。2つのコナラ植林地ではコナラの樹高が10m前後であることから、林齢はおよそ20年程度であり、それ以前は畑として利用していたと推定される。こうした履歴を有する植林地であるために、山野性植物または畑地性雑草が混在し、またコナラによる被陰によって外来種の生育が抑制されているものと考えられる。放置林は道路の切り通しの崖上にあるため、ほとんど人の手が入っていないと思われる。このためか、確認された植物は全て山野性植物であり、外来植物は生育していなかった。

 文献調査の結果、当地においてはこの20年程度以内の間に、在来種100種、外来種6種の計106種が生育していた可能性があることが明らかになった(表3)。これらのほとんどが山野性植物であり、外来種は非常に少ない。またラン科の絶滅危惧種も複数含まれている。

 以上の結果から、当地からコナラ・在来種および土壌をチノー・ビオトープに移植した際、比較的速やかに山野性植物群落が再生できることが期待される。ただし、アドバンテスト・ビオトープでも竣工直後には外来種が繁茂し、刈り取り・引き抜き駆除を継続的に行ったので、同様の育成管理手法を講ずることが不可欠であると考えられる。

男井戸川調節池(伊勢崎市豊城町)

 3ヵ所の保存土壌から、2回の調査で、在来種24種、外来種4種の計28種の出現が確認された(表4写真3)。これらの植物は、当地が水田として利用されていた時期に形成された永続的土壌シードバンクから発芽したものと考えられる。

 出現した在来種は主として水田・湿地性または畑地性のものであり、また外来種の出現は少数であったことから、この保存土壌を竣工後に当地に撒き出すことによって、かつての在来種植生の迅速な再生がはかられると期待される。

 2008年には、当地において直近の自生地から導入されたアサザをはじめ、オモダカ、カワヂシャ、シャジクモの計4種の絶滅危惧種の生育が確認されており(高橋 2009)、当地は生物の保護上の重要性が高いといえる。一方、水田の強雑草であるキシュウスズメノヒエは特に確認された個体数が多かった(高橋 2009)。今年温存中の表土からも、キシュウスズメノヒエの出現が確認され、直近の男井戸川のほとりで外来種のアオビユの生育が、男井戸川の流れの中で外来種のオランダガラシ(クレソン)の生育が確認された。以上の結果から、今後遊水池の管理を続けていく過程では、絶滅危惧種の出現と共にキシュウスズメノヒエなど外来種が出現する可能性もあり、外来種を選択的に引き抜き駆除す必要があると推察される。なお遊水池造成中は、アサザは群馬大学荒牧キャンパス内で保護されており、これを竣工後に当地に再移植することになっている。

天沼親水公園(太田市新田上田中町)

 現地踏査の結果、在来種11種(絶滅危惧II類のコギシギシを含む)、外来種8種の計19種の生育が確認された(表5写真4)。これらのほとんどが、水田・湿地性または畑地性雑草であり、外来種の個体数が多く見られ、特に川沿いに繁茂していた。これ以上外来種が侵入すると在来種の生育に支障をきたす可能性が高いので、今後在来種の生育立地を確保するために、外来種の草刈り、引き抜き駆除を実施して、勢力を抑制する必要があるといえる。また水質が好ましい状態ではないとも見えたので、これを改善することで水生・湿性植物の生育が促進されるものと考えられる。当該地は公園であるため、行政による管理と、地域住民や訪れる人々の日常的な協力で、より豊かな植物相へと誘導することが可能であると考えられる。

妙参寺沼親水公園(太田市新田大根町)

 現地踏査によって、在来種11種、外来種4種の計16種の生育が確認されたが、このうちアサザ、ガマ、ミソハギ、ノハナショウブは植栽されたものと思われる(表6写真5)。湖岸は垂直に切り落とされたコンクリート護岸であり、湿性植物の定着には全く適さない構造となっている。このため当地に生育する植物種数が少なくなっているものと考えられる。調査時に確認した限りにおいて、妙参寺沼の水は汚れて濁り悪臭が漂うといった、好ましい状態ではなかった。これが日常的な状態であるとすれば、その原因は水の流出入速度が低いこと、ガマが大量に繁茂しすぎて、その枯死体が富栄養化を引き起こしていること、などが推察される。ガマは穂から種子を多数近隣に飛散させ、地下茎が残っていれば増殖していくため、放っておくとすぐに水面をも覆いつくす可能性のある種である。しかし根絶はできないものの、定期的な除去作業と水の循環により、ある程度生育を抑制することができると考えられる。

アドバンテスト・ビオトープの気温・地温

 2008年11月27日から2009年10月26日までの期間に連続測定を行なった結果、10地点間の気温・地温条件には、植生や草丈に関連した差異があることが明らかになった(図4表78)。すなわち、日最高気温を期間平均でみると、草丈の低い草地(ヨモギ草原や芝地)、草丈の高い草地(チガヤ草原やススキ草原)で高く、林床で最も低かった。特に、7月から8月の夏の時期の日最高気温の月平均値は草原で28.9〜33.1℃以上になったのに対し、林床では28.0〜30.6℃と顕著な違いがあった。一方、日最低気温は、林床で高く、草丈の低い草地と草丈の高い草地で低い傾向を示した。特に、12月から2月の冬の時期の日最低気温をみると、草原の月平均値−1.0〜0.9に比べ、林床では−0.6〜2.0℃と値が高いことが顕著であった。日平均気温においては、植生による違いはほぼ見られなかった。

 地温については、日最高地温を期間平均でみると、草丈の低い草地と草丈の高い草地で18.0℃、林床で14.7℃と、林床で低い傾向がみられた。日平均地温も同様に草地では高く、林床では低くなった。特に、7月から8月の夏の時期の日平均地温をみると、草原で23.7〜25.8℃以上になったのに対し、林床では22.7〜24.3℃と林床で低くなった。日最低地温においては、植生による大きな違いは見られなかった。

 これらのことから、林床においては気温・地温の高低差が小さいといえる。これは樹木の成長や高草原の成熟によって日光が遮断され、温度環境が緩和されるという、植生による環境形成作用が働くようになったためと考えられる。これにより、攪乱地を好む外来植物の侵入が発芽レベルで抑制され、在来植物の生育が促進される。一方、草丈の低い草地では気温・地温の高低差が大きかった。今年度の調査において、湿地生絶滅危惧種のミゾコウジュが芝地に多数確認できたのも、このためと考えられる。これらのことと、水源の林における気温・地温の値をみると、アドバンテスト・ビオトープの植生が、里地・里山地域の環境に近づきつつあると推察される。

アドバンテスト・ビオトープにおける樹林の炭素固定とリター分解

毎木調査

 アドバンテスト・ビオトープ内の樹林において、567本(ビオトープ内東側および小川より内側の林地319本、ビオトープ内南側の林地248本)の成木のDBHと樹高を測定した(図2)。アドバンテスト・ビオトープ内東側および小川より内側の林地には、北関東地方の平野部に生育する代表的な樹種であるシラカシ、コナラ、クヌギの苗木(主として樹高50cm前後)が2002年頃に多数植栽された。2009年の毎木調査の結果、これらの樹木の樹高分布は最大で11m、最小で2m、平均5.5m程度と推定された。DHB分布は最大で36cm、最小で2cm、平均8m程度と推定された。(図6図7)。林床には実生由来のシラカシ、クヌギ、コナラの稚樹が多く見られた。一方、ビオトープ内南側の林地は、ケヤキ、クスノキ、シラカシ、エノキなどの樹種が植栽されており、樹高分布は最大で41m、最小で2m、平均12m程度と推定された。DHB分布は最大で96cm、最小で1.7cm、平均24cm程度と推定された。(図8図9)。ビオトープ内ではこの他、アラカシ、イロハモミジ、スダジイ、コブシ、ハンノキ、カワヤナギなどの樹種が植栽されている。これらの成木の分布する地点における立木密度はビオトープの林地面積が約0.631haであるので、1haあたり約898.5本と算出された。

炭素固定量、年間炭素固定速度

リター生産量

 アドバンテスト・ビオトープの南側林内において、リターフォール量=リター生産速度は11〜12月に最大0.04t/ha/day、5〜6月に最低0.004t/ha/dayとなり、リター生産は9〜12月に集中していた(図11)。これは落葉広葉の落葉によるものであると考えられる。また、常にある程度以上のリター生産速度があるのは、常緑針葉樹であるクスノキやシラカシなどから年中少しずつ落葉しているためであると考えられる。本研究では、12〜4月のリターフォールを測定していないので、計測していない月の分を単純に補完し、リター生産速度を1年当たりに換算すると、総リター生産量は5.44t /ha/yearと算出された。

 群馬大学構内混交林(アカマツ、クヌギ、コナラ、シラカシの混交林)における、2005年の年間の総リター生産量は6.2t/ha/yearと推定されている(渡慶次2006)。玉原高原ブナ林における、2007年の年間の総リター生産量は6.3t/ha/yearと推定されている(小野2008)。このことから、アドバンテスト・ビオトープの森林における総リター生産量は、群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林より、約1t/ha/year小さい値であるといえる。これは、アドバンテスト・ビオトープにおける単木の樹齢が、比較的若いためと推察される。したがって、今後アドバンテスト・ビオトープの樹木が生長することにより、次第にリター生産量も増加すると考えられる。

リター分解速度

 アドバンテスト・ビオトープの南側林内において、リターバッグ法により測定したリター分解速度は0.0016g/g/dayとなった。リターバッグの面積が690cm2であることと、前述のリター生産速度から換算すると、年間平均で3.91t/ha/yearのリターが分解されることになる。またこの分解量は、リター生産の約71%に相当することから、単純計算上は、毎年1.52 t/ha/yearのリターが差し引きとして土壌に蓄積される計算となる。すなわち、生産されたリターのうち、約3/10程度が翌年に持ち越されるものと推定される。

 群馬大学構内混交林における、2007年の平均リター分解速度は0.0017g/g/day、玉原高原ブナ林では0.0011g/g/dayであった(小野2008)。また、群馬大学構内混交林と、玉原高原ブナ林における2004年の年間のリター分解率は、およそ76%と30%程度と算出されている(町田 2005)。今回の調査結果では、アドバンテスト・ビオトープにおけるリター分解速度と年間リター分解率は、群馬大学構内混交林のリター分解速度と年間リター分解率と同等の値となったといえる。

 リター分解速度は、温度・土壌含水率といった物理化学的環境条件の違いと、リターの質の違いが反映するとされているので(堤1987)、今後は地温や土壌含水率の測定を行い、同一林内においてもリター分解速度が場所ごとに差異があることを考慮して、ビオトープ森林生態系のCO2収支の計算を行う必要がある。また、月別リター分解速度を測定するなどリター分解の季節変化を解明することにより、より詳細な炭素固定速度を推定する必要があると考えられる。

樹木による炭素固定量と年間炭素固定速度

 アドバンテスト・ビオトープでの毎木調査の結果に基づいて算出された、ビオトープ内の樹木の現存量は、99.7tonとなった(表11)。この値を、林地面積(およそ0.631haとして推定)で割ると、単位面積当たりの現存量は158.0ton/haとなった。これまでに計測されている森林の現存量は、冷温帯ブナ林での350ton/ha〜熱帯多雨林での600ton/haの範囲にある(依田1971)ことから、本ビオトープの樹木現存量は、自然林の約4/1〜1/2に相当すると考えられる。

 さらに、単位面積当たりの現存量の値158.0ton/haに、炭素換算計数の0.5を乗じると、炭素固定量は77.6tonC/haとなり、これに調査面積を乗じた49.0tonCが、アドバンテスト・ビオトープに樹木として現在蓄積されている炭素量ということになる。

 群馬大学構内混交林における、2004年から2009年までの5年間の、単木の生長速度と2009年時点での樹高・DBHとの関係は、曲線的な関係となった(図12)。この関係を直線回帰式で表し、これに基づいてアドバンテスト・ビオトープの樹木の単木の生長速度を推定した。さらに、この単木の生長速度をすべて足し、林地面積で割ると、20.8t/ ha/ yearとなった。この値に、毎年1.5 t/ ha/ yearのリターが差し引きとして土壌に蓄積される分を足した、22.3 t/ ha/ yearが、アドバンテスト・ビオトープ林の、単位面積当たりの年間純生産速度となる。これまでに計測されている森林の純生産速度は、日本の自然森林では15〜22t/ ha/ year程度、熱帯多雨林で28.6 t/ ha/ yearの範囲にある(依田1971)ことから、本ビオトープの林地の純生産速度は、自然林と同程度であると考えられる。

 さらに、年間純生産速度の値22.3 t/ ha/ yearに、炭素換算計数の0.5を乗じると、年間炭素固定速度は11.1tonC/ ha/yearとなり、これに調査面積を乗じた7.0tonC/yearが、アドバンテスト・ビオトープで行われている年間炭素固定速度ということになる(表11)。このことから、本ビオトープの森林全体としては活発な生長を続け、プラスの純生産をあげていると考えられる。

種子発芽の温度依存性

 アドバンテスト・ビオトープ内と、谷田川で採取した5種類の種子発芽の温度依存性は、以下のようになった。

アメリカセンダングサ(キク科、一年草、Bidens frondosa

 本種は北アメリカ原産の外来植物で本州から九州に広く分布しており、水田等の湿地や道ばたに生育している。2ヶ月間の冷湿処理を施した後の培養53日後の最終発芽率は、30/15℃では89.3%、25/13℃では62.0%、22/10℃では70.0%、17/8℃では54.7%、10/6℃では44.0%であった(表10図13)。すなわち、設定温度範囲内では30/15℃で最大となり、温度が高くなるにつれてほぼ高くなった。このように、2ヶ月間の冷湿処理を施した後の発芽実験では、全ての設定温度で40%以上が発芽した。したがって、本種の休眠解除のためには、2ヶ月以上の冷湿処理が必要であると推察される。このような度依存性を有する植物の種子は、日当たりの良い草地において発芽しやすく、地温の低い湿地においても比較的強い繁殖力を持つことができると考えられる。

 再冷湿処理を施した後の培養83日後の最終発芽率は、30/15℃では変化は見られなかったが、25/13℃では84.0%、22/10℃では84.7%、17/8℃では74.0%、10/6℃では49.3%と、多く発芽した(表10図18)。これは、再冷湿処理により、未発芽であった種子が二度目の冬を経験し、休眠が解除されて発芽に至ったためと考えられる。このように再冷湿処理を施し時間をかけることで、どの温度条件でも比較的高い最終発芽率が得られたことから、本種は広汎な気候帯の地域で発芽することができると考えられる。また、発芽の最適温度は22/10℃〜30/15℃であると推察される。

チカラシバ(イネ科、多年草、Pennisetum alopecuroides

 本種は日本の在来種で、全国の道ばたや荒れ地に生育している。2ヶ月間の冷湿処理を施した後の培養53日後の最終発芽率は、30/15℃では98.7%、25/13℃、22/10℃、17/8℃の温度区では100%、10/6℃では66%であった(表10図14)。一方、培養前に冷湿処理を施さないで実験を行った場合では、最終発芽率は17/8℃以上の温度区で100%、10/6℃では1.0%であった(狩谷2004)。このことから、冷湿処理を施したことで、10/6℃の温度区では半数以上の種子が休眠から解除され発芽が促進されたと推察される。

 再冷湿処理を施した後の培養83日後の最終発芽率は、30/15℃では変化は見られなかったが、10/6℃では94.7%と、多く発芽した(表10図19)。これは、再冷湿処理により、未発芽であった種子が二度目の冬を経験し、休眠が解除されて発芽に至ったためと推察される。30/15℃、10/6℃の温度区で、再冷湿処理後も発芽せずに残っていた種子の数個は、黒く変質し見かけ上の腐敗・萎縮が見られた。これを考慮すると、本種は再冷湿処理を施した後では、全ての温度区で100%に近い発芽率であったといえる。すなわち、本種は10℃以下の低温においては季節的シードバンクを形成するものと考えられる。

メリケンカルカヤ(イネ科、多年草、Andropogon virginicus

 本種は北アメリカ原産の外来植物で、関東地方以西に広く分布し、荒れ地や湿地に生育している。2ヶ月間の冷湿処理を施した後の培養53日後の最終発芽率は、30/15℃では80.7%、25/13℃では88.0%、22/10℃では61.3%、17/8℃では0.67%、10/6℃では0.67%であった(表10図15)。このような温度依存性を有する植物の種子は、地温の低い冬期には発芽せずに、春になり地温が高くなってから発芽して成長を開始するものと考えられる。また、30/15℃と25/13℃における発芽率が80%以上であることから、発芽の最適温度は25/13℃〜30/15℃であると推察される。

 再冷湿処理を施した後の培養83日後の最終発芽率は、17/8℃のみ12.7%と高くなった(表10図20)。これは、再冷湿処理により、未発芽であった種子が二度目の冬を経験し、休眠が解除されて発芽に至ったためと推察される。しかし、このように単純に冷湿処理を繰り返すことによる休眠解除は、培養温度が10/6℃の場合には働かないと考えられる。

フジバカマ(キク科、多年草、Eupatorium fortunei

 本種は、関東地方以西に分布する在来種で、野原や河原に生育している。かつては秋の野草の代表として七草に含められていたほど身近な植物であったが、河川敷の埋め立てや護岸工事による自生地の消失や、除草剤を用いた土手の管理などにより個体数が減少し(鷲谷 1996)、国のレッドリストでは準絶滅危惧種に指定されている。群馬県レッドリストでは絶滅危惧I類に指定されている。2ヶ月間の冷湿処理を施した後の培養31日後の最終発芽率は、30/15℃では7.3%、25/13℃では14.0%、22/10℃では24.0%、17/8℃では21.3%、10/6℃では22.7%であった(表10図16)。すなわち、本種の種子は低温での発芽性に優れていると考えられる。さらに、最適発芽温度を越えると発芽率が低くなることから、高温により二次休眠が誘導される可能性があることも示唆される。一方、冷湿処理を施さないで実験を行った場合では、最終発芽率は30/15℃では最大の14.0%、10/6では最小の0%であったことから(高岩 2007)、本研究における今回の2ヶ月間の冷湿処理により、休眠が解除されたと推察される。ただし、高岩(2007)は2007年にアドバンテスト・ビオトープで採取した種子を、本研究では2008年に谷田川で採取した種子を用いた。 

 再冷湿処理を施した後の培養69日後の最終発芽率は、30/15℃では12.0%、25/13℃では24.0%と高くなった(表10図21)。これは、再冷湿処理により、未発芽であった種子が二度目の冬を経験し、休眠が解除されて発芽に至ったためと推察される。また、最終発芽率が24.0%以下であったことから、発芽しなかった種子が土壌シードバンクを形成する可能性があると考えられる。

メハジキ(シソ科、越年草、Leonurus japonicus

 本種は日本の在来種で、本州から沖縄に広く分布しており、道ばたや荒れ地に生育している。

 冷湿処理を施さないで行った、培養35日後の最終発芽率は、30/15℃では78.0%、25/13℃では69.3%、22/10℃では57.3%、17/8℃では5.3%、10/6℃では0%であった(表10図17)。このような温度依存性を有する植物の種子は、日当たりの良い撹乱地や裸地において、気温が急激に上昇することを環境シグナルとして発芽する「ギャップ検出機構」を有すると推察される。

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