調査・実験方法

植物の開花フェノロジーと植物相調査

 アドバンテスト・ビオトープ内の全域において、月に1度踏査を行い、植栽種以外の開花植物種をリストアップした。調査日は2009年4月24日、2009年5月21日、2009年6月25日、2009年7月23日、2009年9月24日、2009年10月22日であった。

 高崎観音山(高崎市石原町)、男井戸川調節池建設予定地(伊勢崎市豊城町)、の天沼親水公園(太田市新田上田中町)、妙参寺沼親水公園(太田市新田大根町)においては、植物の生育期間中に1〜2回踏査を行い、植栽種以外の開花植物種をリストアップした。調査日は2009年6月19日および2009年10月29日(男井戸川調節池建設予定地)、2009年8月26日(天沼親水公園・妙参寺沼親水公園)、2009年11月12日(高崎観音山)であった。

 開花・結実している植物を中心として、デジタルカメラによる撮影または採取を行い、その後植物図鑑を用いて種の同定を行った。なお今回の調査方法では、踏査により視認可能な種が対象になるため、比較的量の多い植物種をピックアップすることになる。

 また高崎観音山については、文献調査(滝田吉一(1996)「観音山の植物 里山の花を訪ねて」高崎市)によって、過去およそ20年間に生育が記録された植物種のリストを作成した。

気温・地温測定

 アドバンテスト・ビオトープ内10地点(図4)において、地上約1mおよび深さ約10cmの土壌中にそれぞれ温度データロガー(TR−52,T&DCorporation)を設置し、気温及び地温を測定した。気温測定に際しては、センサ先端部分をアルミニウムカバーで覆い、直射日光が当たるのを避けた。測定期間は気温、地温ともに2008年10月22日から2009年12月17日であり、この間30分おきに気温と地温を自動記録した。測定データから、地点別に月ごとの日最高気温および地温・日平均気温および地温・日最低気温および地温の平均値と標準偏差を算出した。

毎木調査

 アドバンテスト・ビオトープ内の樹林において、樹高2m以上の成木の種名と、位置、胸高直径(DBH, Diameter at Breast Height)、樹高を測定した(図2)。樹高15m以下の樹木については、巻尺を用いてDBHを測定し、測竿(A-006 15m検測竿, 竹谷商事)を用いて直接樹高を計測した(測定した成木は182本)。15m以上の樹木については巻尺を用いてDBHのみを測定し、町田(2005)および過去の研究(後述)における実測結果から作成した以下の回帰式(図6)を用いて、各々の樹木のDBHから樹高を推定した(推定した成木は385本)。

樹高(m)=2.3933+0.40657×DBH(cm)

測定日は2009年5月21日、2009年6月25日、2009年7月23日、2009年9月24日、2009年10月22日、2009年11月26日、2009年12月17日であった。

リター生産量測定

 アドバンテスト・ビオトープ南側林内において、ポリエステル網を張った一個の開口面積が0.132m2のプラスチック籠(本稿では以後「リタートラップ」と表す)を一直線上に、約2m間隔で10個設置した(図5写真6)。これにより落葉・落枝(リターフォール)を得て、月に一度回収して持ち帰った。送風定温乾燥機(ADVANTEC FC−610)内で、80℃で一週間乾燥させた後、電子天秤(Sartorius BP 310S)を用いて乾燥重量を測定した。リタートラップの設置期間は2009年4月24日から2009年12月17日であった。

樹木現存量、炭素固定量、年間炭素固定速度の算出

 アドバンテスト・ビオトープに生育する成木について、樹木現存量、炭素固定量、炭年間炭素固定速度を、今回の毎木調査結果と、過去の研究結果(後述)、および群馬大学構内混交林における実測結果から作成した回帰式により算出した。

DBHと樹高から地上部および根の現存量の算出を行う際には、以下の6つの論文に記載されているデータをもとに作成した以下の回帰式を用いて行った。

・大北(1985)「クヌギ林の施業試験」広葉樹研究 3号

・甲斐(2006)「コナラ人工育成試験−25年間の成績−」九州森林研究 59号

・後藤・小南・深山・玉井・金澤(2003)「京都府南部地方における広葉樹二次の地上部現存量及び純生産量」森林総合研究所研究報告2号

・長野県の森林CO2吸収評価認証委員会(2008)「第二回委員会 資料2」

・橋詰(1985)「落葉広葉樹二次林の改良施業に関する研究(?)クヌギ二次林の生長に対する整理伐と施肥の効果」鳥取大学農学部研究報告38号

・宮本・都築・吉田(1985)「クヌギ林のほだ木用原木生産量の予測」林業試験場研究報告 333号

クヌギの現存量(kg)=クヌギの個体重量(kg)+クヌギの葉の重量(kg)

クヌギの個体重量(kg)= クヌギの地上部重量(kg)+クヌギの地下部重量(kg)

クヌギの地上部重量(kg)=0.668×1.36×クヌギの幹材積(m3)×1000

クヌギの幹材積(m3)=0.00009×(DBH(cm)^(1.86343))×((樹高(m)^(0.85008))

クヌギの地下部重量(kg)= クヌギの地上部重量(kg)×0.25

クヌギの葉の重量(kg)= クヌギの地上部重量(kg)×(1.2091+0.010993×クヌギの地上部重量(kg))/ 100

コナラの現存量(kg)=コナラの個体重量(kg)+コナラの葉の重量(kg)

コナラの個体重量(kg)= コナラの地上部重量(kg)+コナラの地下部重量(kg)

コナラの地上部重量(kg)=0.668×1.36×コナラの幹材積(m3)×1000

コナラの幹材積(m3)=0.00009×(DBH(cm)^(1.81163))×((樹高(m)^(0.90953))

コナラの地下部重量(kg)= コナラの地上部重量(kg)×0.25

コナラの葉の重量(kg)= コナラの地上部重量(kg)×(3.9588+0.0082769×コナラの地上部重量(kg))/ 100

 群馬大学構内混交林(アカマツ、クヌギ、コナラ、シラカシの混交林)においては、2004年に毎木調査が行われている(町田 2005)。2009年11月-12月に同様の毎木調査を行い、同一であると判断することができた成木について、以下の式により単木の生長速度を算出した。

 生長速度(kg/year)=(2004年の現存量(kg)-2009年の現存量(kg))/ 5

 さらに2009年度の樹高、DBHと、2004-2009年の5年間の単木の平均的な生長速度の関係を表す以下の回帰式を作成し、この回帰式にアドバンテスト・ビオトープ林の毎木調査で得られたデータを入れることによって、各成木の生長速度を推定した。

生長速度(kg/year)=1.0953×e^(0.090383×2009年のDBH(cm))

 以上より、年間の純生産速度を以下の式により算出した。

 純生産速度(t/ha/year)=樹木生長速度(t/ha/year)+(リター生産速度(t/ha/year)-リター分解速度(t/ha/year))

なおクヌギ、コナラ以外の樹種については、クヌギの式を適用した。この措置はデータの不足起因する不可避なものであった。

リター分解速度測定

 メッシュサイズ0.09mm2、全体の大きさ690 cm2(縦30cm×横23cm)のポリエステル網の袋(本稿では以後「リターバック」と表す)をアドバンテスト・ビオトープの南側林内に10個設置した(図5写真6)。これらのリターバックに現場のリター層(原形をとどめている範囲の厚さ)を構造を崩さないように切り取って入れ、元の場所に戻した。また、リターバックを設置した際に、周辺4地点からリターを採取して持ち帰り、湿重量と乾燥重量を計測した。持ち帰ったリターの湿重量と乾燥重量から、設置した時点でのリターの含水率を推定した。これらの結果をもとに、1日あたりのリター乾燥重量減少速度を以下の式から求めた。

 1日あたりのリター乾燥重量減少速度=(リターバック設置時の推定乾燥重量−リターバック回収時の乾燥重量)/日数

リターバックは2009年4月24日に設置し、2009年12月17日に回収した。

発芽の温度依存性解析

 2008年10月16日アドバンテスト・ビオトープ内において採取したアメリカセンダングサ、チカラシバ、メリケンカルカヤ、同日群馬県東部を流れる谷田川の川岸において採取したフジバカマ、2009年10月22日にアドバンテスト・ビオトープ内において採取したメハジキの計5種類の植物の種子を用いた(表9)。これらの種子を、石英砂を敷き蒸留水を入れたプラスチック製シャーレの中に播種し、温度均配恒温機に入れて培養した。温度均配恒温機内の温度設定は30/15℃、25/13℃、22/10℃、17/8℃、10/6℃(昼14h、夜10hr)の5段階とし、各温度区ごとに1植物につき、種子を50粒入れたシャーレを3つ用いた。培養開始後、すべてのシャーレを毎日(3週間目からは、2・3日おき)観察し、肉眼で幼根の出現が確認できたものを発芽種子として、数を数えた後に取り除いた。また観察日ごとに蒸留水をつぎ足して常時湿った状態を保った。

 アメリカセンダングサ、チカラシバ、メリケンカルカヤ、フジバカマの4種類の種子については、培養前に62日間(2009年6月16日から2009年8月17日まで)4℃で冷湿処理を施した。このうち、3種類の種子(アメリカセンダングサ、チカラシバ、メリケンカルカヤ)は、2009年8月17日から2009年10月9日までの 53日間、フジバカマの種子は2009年8月17日から2009年9月17日までの31日間、温度均配恒温機で培養した。メハジキの種子については、冷湿処理は施さずに2009年10月26日から2009年11月30日までの35日間、温度均配恒温機で培養した。

 その後、発芽が見られなかった種子について、3種類の種子(アメリカセンダングサ、チカラシバ、メリケンカルカヤ)は、再度冷湿処理を31日間(2009年10月9日から2009年11月9日まで)施した後、再び温度均配恒温機で2009年11月9日から2009年12月9日までの30日間培養した。発芽が見られなかったフジバカマの種子についても、再度冷湿処理を36日間(2009年9月17日から2009年10月23日まで)施した後、再び温度均配恒温機で2009年10月23日から2009年11月30日までの38日間培養した。

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