結果および考察

 

異なる光条件下で栽培した植物の生長解析

・クヌギ(ブナ科落葉広葉高木、Quercus acutissima
 相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区で約0.002、9%区で約0.005、13%区では約0.009、100%区では約0.013と相対光量子密度が高い区ほど直線的に高くなった(図9)。すなわち本種は裸地的な非常に明るいところでよく生長するが、他の植物に被陰されると生長が悪くなり、林床のような暗い環境では、生長が著しく悪くなると考えられる。
 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2 day-1)は、3%区で約0.915、9%区で約1.63、13%区では約2.34、100%区では約5.3と相対光量子密度が高い区ほど高く、13%以下の光条件では著しく低い値となった。
 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR,m2 g-1)は、区間で大差なく、約0.003〜約0.004となった。
 以上の結果から本種のRGRが光条件が明るい区ほど高くなった原因は、NARすなわち光合成活性の変化であると考えられる。
 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す比葉面積(SLA,m2 g-1)は、100%区では約0.013と低くなり、光条件が暗い区ほど高くなった。
 器官重量比のうちLWRは、各区で約17%〜約27%の範囲であり、光条件との明確な関係性は認められなかった。
 SLAの上記のような変化は、光が不足して光合成活性が低下した際に、より薄い葉を生産することによって限られた、光合成生産量を有効に葉の生産につなげるという、多くの植物に見られる特性と同じである。しかし暗い環境下でLWRもLARも増加しないため、結果としてNARの低下を補うことができず、RGRの著しい低下を引き起こしてしまうのだと考えられる。
 以上の結果より、本種はより、明るい場所ほど生育に適していると考えられ、光条件により生長が大きく左右されてしまうと推察される。

・コナラ(ブナ科落葉広葉高木、Quercus serrata
 相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区で約0.0016、9%区で約0.007、13%区では約0.01、100%区では約0.017と相対光量子密度が高い区ほど直線的に高くなった(図10)。すなわち本種は裸地的な非常に明るいところでよく生長するが、他の植物に被陰されると生長が悪くなり、林床のような暗い環境では、生長が著しく悪くなると考えられる。
 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2 day-1)は、相対光量子密度3%区で約0.329、9%区で約1.45、13%区では約1.87、100%区では約4.65と相対光量子密度が高い区ほど高くなり、13%区以下の光条件区で著しく低い値になった。
 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR,m2 g-1)は、約0.0038〜約0.0054の範囲であり、光条件との明確な関係性は認められなかった。。
 以上の結果から本種のRGRが光条件が明るい区ほど高くなった原因は、NARすなわち光合成活性の変化であると考えられる。
 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す比葉面積(SLA,m2 g-1)は、100%区では約0.01と低くなり、光条件が暗い区ほど高くなった。
 器官重量比のうちLWRは、各区で約26%〜約32%の範囲であり、光条件との明確な関係性は認められなかった。
 SLAの上記のような変化は、光が不足して光合成活性が低下した際に、より薄い葉を生産することによって、限られた光合成生産量を有効に葉の生産につなげるという、多くの植物に見られる特性と同じである。しかし暗い環境下でLWRもLARも増加しないため、結果としてNARの低下を補うことができず、RGRの著しい低下を引き起こしてしまうのだと考えられる。
 以上の結果より、本種はより明るい場所ほど生育に適していると考えられ、光条件により生長が大きく左右されてしまうと推察される。

・シラカシ(ブナ科常緑高木、Quercus myrsinaefolia
 相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区で約0.0019、9%区で約0.0022、13%区では約0.0021、100%区では約0.0059と明るい区ほど高くなったが、13%以下の区間でのRGRの差は小さかった。すなわち本種は裸地的な非常に明るい環境下でよく生長し、他の植物に被陰された暗い環境下でも一定の生長をとげると考えられる(図11)。
 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2 day-1)は、相対光量子密度100%区では約2.17と高くなったが、13%以下の区間では約0.583〜0.776の範囲であり、差は小さかった。
 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR,m2 g-1)は、約0.0030〜約0.0039の範囲であり、光条件との明確な関係性は認められなかった。
 以上の結果から本種のRGRが13%以下の区間で差が小さくなった原因は、NARおよびLARの差が小さいこと、すなわち光合成活性が変化しないことであると考えられる。
 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す比葉面積(SLA,m2 g-1)は、100%区では約0.009と低くなったが、13%以下の区では約0.012〜約0.016の範囲であり、大差はなかった。
 器官重量比のうちLWRは、各区で約30%〜約42%の範囲であり、光条件との明確な関係性は認められなかった。
 以上の結果より、本種はより明るい場所ほど良く生長するが、13%以下の暗い光環境下においてはNAR、LAR、SLA、LWRなどに表されるように光合成活性と形態が大きく変化せずに、結果として一定の生長をとげることができると考えられる。

 

群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林林床の相対光量子密度

 相対光量子密度(RPPFD)は、測定期間中(4月13日〜6月20日)において約87%から約7%へと、大きく低下した(図12)。特に6月1日から6月20日には、RPPFD は7%〜13%と低い値となった。こうしたRPPFDの季節変化は、上層を覆う高木の葉の展開に伴うものであると考えられる。
 高畠(2012)は2011年に同様の測定を行い、林床植物の生育期間である5月初めから9月末までのRPPFDの平均値が21.3%と比較的明るいため、林床にはアズマネザサやヒナノガリヤス、アキノキリンソウ、ノコンギク、ヤクシソウといった里山植物と多くのシラカシ・コナラの稚樹が多数生育できるとしている。しかし6月以降は、今回の測定結果と同様に、RPPFDは低くなった。
 以上の結果から、本雑木林林床の光環境は、6月以降は稚樹の生長を妨げるような暗い状態になるといえる。

 

毎木調査

群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林
 クヌギ、コナラ、シラカシの合計178本(クヌギ稚樹1本、コナラ稚樹56本、シラカシ稚樹121本)の稚樹の根元直径と樹高、同樹種の成木の合計7本(クヌギ成木4本、コナラ成木2本、シラカシ成木1本)のDBHを測定した(図13,14)。各樹種の根本直径またはDBHの最大値は19.4cm、最小値は0.175cmで、2cm以下の階級にある個体が最も多かった(図13)。各樹種の樹高の最大値は10.3m、最小値は0.11mで、2m以下の階級にある個体が最も多かった(図14)。
 コドラート内における立木密度は、コドラートが0.02haであるので、約9250本 ha-1と算出された。

チノー・ビオトープ
 コナラの成木(163本)のDBHと樹高を測定した。DBHはおおよそ20cm以下の範囲にあり、5cm〜15cmの階級にある個体が最も多かった(図15)。樹高はおおよそ2m〜14mの範囲にあり、6m〜10mの階級にあるもの最もが多かった(図15)。
 本ビオトープの総面積は約1.0119ha(青木 2011)であり、コナラの植林面積を総面積の約1/3と推定すると、立木密度は約483本 ha-1と算出された。

 

リター生産量

 群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林において、リターフォール量=リター生産速度は、10月〜11月に最大0.055 ton ha-1day-1、6月〜7月に最低0.008 ton ha-1day-1となった(図16)。リター生産は10月から12月に集中していた。これは落葉広葉樹の落葉によるものであると考えられる。
 5〜6月は台風の影響のため、各リタートラップから回収されたリター量にバラツキが生じ、標準偏差が大きくなった。また、常にある程度のリター生産速度があるのは、針葉樹林である、アカマツから毎年落葉していたことと、積雪期間がないことによると考えられる。
 本研究では12月〜4月のリターフォール量を測定していないので、この間の値を亀澤(2002)の結果を用いて推測して補完し、リター生産速度を1年当たりに換算すると、総リター生産量は8.2 ton ha-1day-1と算出された。
 本雑木林における、2005年の年間総リター生産量は6.2 ton ha-1yr-1と推定された(渡慶次 2006)。また2008年には、台風の影響でリター生産速度が高く見積もられ、13.8 ton ha-1yr-1と推定された(小野 2007)。
 日本の各森林で計測された年間リター生産量は、亜寒帯・亜高山常緑針葉樹林で4.23 ton ha-1yr-1、温帯常緑針葉樹林で4.57 ton ha-1yr-1、温帯落葉広葉樹林で4.07 ton ha-1yr-1、照葉樹林で6.51 ton ha-1yr-1であり、熱帯林は9.87 ton ha-1yr-1である(堤 1987)。
 以上の結果から、本雑木林における年間総リター生産量は、全国平均と比べて高く、また台風などの影響による年変動が大きいといえる。

 

樹木の現存量と炭素固定量の推定

 群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林での毎木調査をもとに算出された、コドラート内の各稚樹の単位面積当たりの樹木現存量はクヌギ稚樹0.0057ton ha-1、コナラ稚樹0.151ton ha-1、シラカシ稚樹2.21ton ha-1、各稚樹と各成木をあわせた樹木総現存量は約82ton ha-1となった(表3)。 さらに単位面積当たりの樹木総現存量の値82ton ha-1に、炭素換算係数の0.5を乗じると、炭素固定量は41tonC ha-1となり、これに調査面積を乗じた0.82 tonCが本雑木林に樹木として現在蓄積されている炭素量ということになる。
 またチノー・ビオトープにおけるコナラの個体現存量は最大180kg程度で、多くが100kg以下の階級にあった(図15)。これらの総和である樹木現存量は7.64ton、森林面積当たりの樹木現存量は約22.7ton ha-1となった。さらに単位面積当たりの樹木現存量の値22.7ton ha-1に、炭素換算係数の0.5を乗じると、炭素固定量は11.35tonC ha-1となり、これに調査面積を乗じた3.82tonC が本ビオトープ内に樹木として現在蓄積されている炭素量ということになる。
 本雑木林とチノー・ビオトープを比べると、単位面積あたりの現存量は、本雑木林のほうが約3.6倍高かった。これは立木密度の違いが原因であると考えられる。
 これまでに計測されている日本の各森林の現存量は、冷温帯ブナ林での350ton ha-1〜熱帯雨林の600ton ha-1の範囲にある(依田 1971)。このことから、本コドラート内での樹木総現存量は、自然林の約1/7〜1/4、本ビオトープにおけるコナラの樹木現存量は、自然林の約1/26〜1/15に相当すると考えられる。

現存量と純生産速度に対する光環境と温度上昇の影響シミュレーション

 前述のように、荒牧キャンパス構内雑木林林床では、相対光量子密度(RPPFD)は生育期間初期の4月〜5月にはRPPFDは40%以上となったが、これ以降のほとんどの間、RPPFDが7〜20%程度と比較的暗い環境条件となっていることが明らかになった。
 そこでシミュレーションにはRPPFD3%、9%、13%、100%の各光環境を想定する(シナリオ)ことにした。また遠山(2012)が異なる温度条件下でクヌギ、コナラ、シラカシを栽培した結果を用いて、2012年から2061年の50年間に気温が段階的に2℃上昇することも、シミュレーションに想定することとした。なお各シナリオともモデルの単純化のため、50年間樹木の枯死も新規参入もない、成木は2012年時点で最大サイズとなっていて生長はしない、という前提を置いた。
 2012年から2061年の50年間の樹木現存量、樹木純生産速度(樹木のCO2固定速度のベース)シミュレーションの結果、クヌギ、コナラはRPPFDが低いシナリオほど値が著しく低下したが、シラカシではRPPFDによる影響が比較的少なかった(図17〜27表4,5,6)。2061年には、雑木林全体の樹木総現存量は2012年比で1.1倍(RPPFD3%)〜19倍(100%)、純生産速度は1.8倍(3%)〜348倍(100%)と、生育光環境によって大きく異なった(図20〜27表4,5)。この結果から、将来雑木林の光環境が比較的暗くなる場合にはシラカシの、逆に比較的明るく維持される場合にはクヌギ・コナラによるCO2固定が平地雑木林において重要となると考えられる。
 2061年までの50年間に気温が段階的に2℃上昇するシナリオにおいては、シラカシのみが温度上昇により生長が促進される(遠山 2012)ことから、シラカシの樹木現存量および樹木純生産速度が増大した(図28,29表7)。2061年には、雑木林全体の樹木総現存量は2012年比で1.1倍(RPPFD3%)〜20倍(100%)、樹木総純生産速度は3.4倍(3%)〜380倍(100%)と、生育光環境によって大きく異なるが、気温上昇なしのシナリオに比べて全体に高い値となった(図20〜29表8)。
 以上の結果から、今後の生育光環境と温度上昇は樹種ごとに異なる影響を与え、その結果として雑木林全体の樹木現存量と純生産速度も影響を受けることが予測された。
 以上のシミュレーションにより、群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林では、温度上昇がない場合には、2061年に樹木総現存量が約86ton ha-1(RPPFD3%)〜1561ton ha-1(100%)になると推定された(図20〜27表6)。これまでの森林の物質生産研究により、温帯落葉樹林の現存量の平均値は300ton ha-1、純生産速度の平均値は12 ton ha-1yr-1と実測されている(ホイタッカー 1975)。
 したがって本シミュレーションで得られた樹木総現存量および樹木総純生産速度は、RPPFDの高いシナリオでは明らかに過大評価となっている。そこで2061年の樹木総現存量および樹木総純生産速度が温帯落葉樹林の値に近くなるように、シミュレーション時のRPPFDの比率を変えてみた。その結果、RPPFD3%、9%、13%をそれぞれ0.3程度、100%を0.1程度の比率で与えると、樹木総現存量および樹木総純生産速度ともに実測値に近くなることが明らかになった(表9)。
 以上のシミュレーション結果から、現実的な生育光環境の比率を前提として、気温が2℃上昇した場合の2061年の樹木総現存量および樹木総純生産速度は、気温上昇がない場合と比べてそれぞれ17(ton ha-1)、1.3(ton ha-1 yr-1)増加し、317(ton ha-1)、13.3(ton ha-1 yr-1)となると予測された。

 

リター分解率・分解速度

 群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林におけるリター分解率は、リターバッグを置いた地点間で0.36〜0.64の範囲と大きな差異が認められ、平均値で0.47となった(表10)。すなわち本雑木林においては、リターは1年以内にほぼ半分が分解または流亡して、林外にCO2またはそれに近い低分子状態で放出されると考えられる。
 リター分解速度は、平均で0.0018 g g-1 day-1となった。小野(2008)は本雑木林で0.0016〜0.0021 g g-1 day-1、玉原高原ブナ林で0.0007〜0.0015 g g-1day-1と算定していることから、全体的には、リター分解速度は本雑木林のような平地林で高く、玉原高原ブナ林の様な高地林ではこれより低くなるといえる。こうした地点間、森林間のリター分解速度の差異は、温度・土壌含水率といった物理化学的環境条件の違いと、リターの質の違いにより引き起こされるとされる(堤 1987)。

 リターは純生産速度の一部として算定されるが、以上の結果のように、多くの部分が速やかに分解されCO2として放出される可能性が極めて高い。今後はこのプロセスも含めることで、シミュレーションモデルをさらに精緻なものへと改良する必要があるといえる。

 

推定式間の結果比較

 本シミュレーション構築のために作成した推定式(阿部式)と、鈴木(2010)の作成した推定式(鈴木式)を用いて算出した、チノー・ビオトープのコナラの樹木生長速度および純生産速度の推定値を比較したところ、いずれも阿部式による値が鈴木式よりもはるかに大きな推定値を算出することが明らかになった(図30,31)。これは、鈴木式がコナラのサイズの大きな個体の測定結果を多く取り入れて作成されたのに対し、阿部式は主に稚樹と若木といったサイズの小さな個体の測定結果を使用して作成されたことに起因すると思われる。
 データの不足から、今のところこれ以上の検証はできないが、今後は鈴木式を用いてシミュレーションを行い、結果を比較する必要がある。

 


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