実験・調査方法

 

材料植物

・クヌギ(ブナ科落葉広葉高木、Quercus acutissima
 コナラと並んで、山野で最も普通に見る落葉高木の一つである、高さは15mくらいになる。日本では岩手県や山形県以南の各地に広く分布する。陽樹である。
雑木林を形成するクヌギは二次林とよばれ、ブナ林や照葉樹林といった極相林が伐採などにより消滅した後にいくつかの植生遷移を経て生成するものである。もともと群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林は河川敷であるのでクヌギの成木が多く存在している。
・コナラ(ブナ科落葉広葉高木、Quercus serrate
 雑木林の代表種として知られており、日当たりの良い山野に普通に見られ、高さは15〜20m、大きいもので30mになる。日本では雑木林に多く見られ、全国各地にもみられる。根は深く伸張し、特に種根がしっかり発達するので台風や大雨などでも倒壊の恐れが少ない。陽樹である。クヌギと同様に雑木林を形成するコナラは二次林とよばれ、ブナ林や照葉樹林といった極相林が伐採などににより消滅した後にいくつかの植生遷移を経て生成するものである。
・シラカシ(ブナ科常緑高木、Quercus myrsinaefolia
 山地に生え、20mくらいになる。福島県以西の山地に自生するが、主に関東地方の照葉樹林帯に多い。公園樹や低木として利用されることが多く、陰樹である。また、シラカシは暖温帯域を広く覆う極相林の主要構成樹種の一つである。

 

異なる光条件下における栽培実験

 クヌギ、コナラ、シラカシは、2010年4月に群馬大学荒牧キャンパス構内に播種し栽培した一年生実生を、2011年4月に、1本ずつプラスチック製苗ポット(約200mL容量)に植栽した。用土は黒土を用いた。これらの苗を約1ヶ月、群馬大学荒牧キャンパス構内の裸地で前栽培した。寒冷紗を用いて相対光量子密度を3%、9%、13%、100%(裸地)に調節した4つの光条件区を、群馬大学荒牧キャンパス構内の裸地に設けた。栽培中は2-3日に1度水道水をポットから水が流れ出るまで十分灌水した。
 前栽培終了後に、初期サンプリングを行った。その際、苗のみかけのサイズが大きい順に並べ、これを順番に等区分して、区分ごとサイズ分布と個体数がおおむね同等になるようにした。このうち1区分を初期サンプルとして採取し、残りの区分をそれぞれの処理区に供した。栽培は138日間行った。
 サンプリングした個体はそれぞれ根・茎・葉に分け紙袋に入れ、送風定温乾燥機(FC-610,ADVANTEC・DRS620DA,ADVANTEC)に入れて1週間80℃で乾燥させた。
電子式上皿天秤(BJ210S Sartorius)で乾燥重量を測定した。葉面積はカラースキャナー(GT-8700 EPSON)を用いて解像度300dpi、16bitグレーでスキャンした後、ImageJ 1.41o(NIH)を用いて面積を測定した。今回は113.03㎠あたり1607285ドットとした。

 

生長解析

 生長解析の各パラメータは、以下の式を用いて算出した。
・相対生長速度(RGR:Relative Growth Rate):各個体の乾燥重量ベースの生長速度を表す指標である。
 RGR=(1n(TW2)−1n(TW1))/(T2−T1)
 TW1:当月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
 TW2:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
 T1:当月サンプリング日
 T2:次月サンプリング日

・純同化率(NAR:Net Assimilation Rate):各個体の光合成活性を表す指標である。
 NAR=(TW2−TW1)(1n(LA2)−1n(LA1))/(LA2−LA1)/(T2−T1)
 TW1:当月サンプリング日における個体総乾燥重量(g)
 TW2:次月サンプリング日における個体総乾燥重量(g)
 LA1:T1における個体の葉面積(m2
 LA2:T2における個体の葉面積(m2
 T1:当月サンプリング日
 T2:次月サンプリング日

・葉面積比(LAR:Leaf Area Ratio):各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す指標である。
 LAR=(LA1/TW1+LA2/TW2)/2
 TW1:当月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
 TW2:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
 LA1:T1における個体の葉面積(m2
 LA2:T2における個体の葉面積(m2

・比葉面積(SLA:Specific Leaf Area):各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す指標である。
 SLA=LA/TW
 LA:次月サンプリングにおける個体の葉面積(m2
 TW:次月サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)
・器官別重量比:光合成産物をそれぞれの器官にどれくらい配分したかを示す指標である。
・葉重比(LAR:Leaf Weight Ratio)
 LWR=LW/TW
 LW:次月サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)
 TW:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

・茎重比(SWR:Stem Weight Ratio)
 SWR=SW/TW
 SW:次月サンプリングにおける各個体の茎乾燥重量(g)
 TW:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

・根重比(RWR:Root Weight Ratio)
 RWR=RW/TW
 RW:次月サンプリングにおける個体の根乾燥重量(g)
 TW:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

それぞれのパラメータ間には、以下のような関係がある。
 RGR=NAR・LAR
 LAR=SLA・LWR
 これらの式によって、処理区間でRGRまたはLARの変化があった場合、それがどのパラメータの差異によって引き起こされたかを確認することができる。

毎木調査

 2012年8月、群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林内に0.02ha(20×10m)の調査プロットを設定し、この中のクヌギ、コナラ、シラカシの稚樹、成木の位置、根本直径を測定し、測定樹木にナンバープレートを取り付け、個体識別した。稚樹の根本直径はノギスを用いて測定した。稚樹の樹高はスライドスケール(バカボー君)を用いて測定した。測定した稚樹は、クヌギ1本、コナラ56本、シラカシ121本の合計178本であった。
 コドラート内にある成木(クヌギ4本、コナラ2本、シラカシ1本の合計7本)については、胸高直径(DBH, Diameter at Breast Height)を巻き尺を用いて測定した。鈴木(2010)の作成した以下の回帰式を用いて、各々の成木のDBHから樹高を推定した。
樹高(m)=2.3933+0.40657×DBH(cm)

このデータを基に樹木位置図を作図した(図2)。
 チノー・ビオトープにおいては2012年5月〜9月の間に、2010年に植栽されたコナラの成木163本について、巻き尺を用いてDBHを測定し、測竿を用いて樹高を測定した。

 

リター生産量測定

 群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林において、ポリエステル網を張った一個の開口面積が0.0962m2 のプラスチック籠(以後「リタートラップ」と表す)を一直線上に、約2m間隔で10個セットで2列設置した(写真2)。
 これにより落葉・落枝(リターフォール)を得て、月に一度回収して持ち帰った。
 落葉・落枝は送風定温乾燥機(ADVANTEC FC-610)内で、80℃で一週間乾燥させた後、電子天秤(Sartorius BP 310S)を用いて乾燥重量を測定した。
 リタートラップの設置期間は、2012年4月24日から2012年11月27日であった。また2012年12月〜2013年3月のデータがとれなかったため、亀澤(2002)のデータを用いてこの間の値を推定した。

 

樹木の現存量・純生産速度の推定

 群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林に設置した調査プロット内に生育する、クヌギ、コナラ、シラカシについて、2012年の毎木調査の結果を基に、以下のように過去の研究結果およびそこから求めた回帰式を適用することにより、樹木の現存量および純生産速度を推定した。推定の際に用いた回帰式は、KaleidaGraph 4.1(ヒューリンクス)を用いて作成した。

2012年の樹木の現存量の推定

 クヌギ、コナラについては、以下の6つの論文に記載されているデータをもとに、以下の回帰式を作成した。これらの回帰式を用いて、それぞれの個体のDBHと樹高から、地上部および根の現存量の推定を行った。
・大北(1985)クヌギ林の施業試験.葉樹研究3号.
・甲斐(2006)コナラ人工育成試験-25年間の成績-.九州森林研究59号.
・後藤・小南・深山・玉井・金澤(2003)京都府南部地方における広葉樹二次の地上部現存量及び純生産量.森林総合研究所研究報告2号.
・長野県の森林CO2吸収評価認証委員会(2008)第二回委員会 資料2.
・橋詰(1985)落葉広葉樹二次林の改良施業に関する研究(Ⅱ)クヌギ二次林の生長に対する整理伐と施肥の効果.鳥取大学農学部研究報告38号.
・宮本・都築・吉田(1985)クヌギ林のほだ木用原木生産量の予測.林業試験場研究報告333号.

<クヌギ>
  クヌギの現存量(kg)= クヌギの個体重量(kg)+クヌギの葉の重量(kg)

  クヌギの個体重量(kg)= クヌギの地上部重量(kg)+クヌギの地下部重量(kg)
  クヌギの地上部重量(kg)= 0.668×1.36×クヌギの幹材積(m3)×1000
  クヌギの幹材積(m3)= 0.00009×(DBH(cm)^(1.86343))×((樹高(m)^(0.85008))
  クヌギの地下部重量(kg)= クヌギの地上部重量(kg)×0.25
  クヌギの葉の重量(kg)= クヌギの地上部重量(kg)×(1.2091+0.010993×クヌギの地上部重量(kg))/ 100
<コナラ>
  コナラの現存量(kg)= コナラの個体重量(kg)+コナラの葉の重量(kg)

  コナラの個体重量(kg)= コナラの地上部重量(kg)+コナラの地下部重量(kg)
  コナラの地上部重量(kg)= 0.668×1.36×コナラの幹材積(m3)×1000
  コナラの幹材積(m3)= 0.00009×(DBH(cm)^(1.81163))×((樹高(m)^(0.90953))
  コナラの地下部重量(kg)= コナラの地上部重量(kg)×0.25
  コナラの葉の重量(kg)= コナラの地上部重量(kg)×(3.9588+0.0082769×コナラの地上部重量(kg))/ 100

 シラカシについては、クヌギの式を適用した。この措置はデータの不足起因する不可避なものであった。

2012年以降の樹木の年間純生産量の推定

 相対生長速度の推定
 上記の過去の研究論文に記載されているクヌギおよびコナラの生長に関するデータは、実生から樹齢20年程度のところまでしかない。そこでこれ以降の樹齢(50年まで)の個体に関する値を推定することとした。
 クヌギとコナラについては、上記の過去の研究論文に記載されていデータに加えて、群馬大学荒牧キャンパス構内雑木林で測定された最大樹高および最大DBH(鈴木 2010)を用いて非線形回帰分析を行い、以下のような関係式を得た(図3,4)。


 クヌギの樹高(m)= 23.029-23.157×EXP(樹齢×(-0.044184))
 クヌギのDBH(cm)= 36.887-37.452×EXP(樹齢×(-0.028191))
 コナラのDBH(cm)= 23.029-23.157×EXP(樹齢×(-0.044184))
 コナラの樹高※(m)= 0.7097×DBH(cm)+0.093666


 ※コナラの樹高と樹齢の関係を表す回帰式は、有効な推定ができなかった。そこでコナラの樹高とDBHの関係を表す回帰式を作成した(図4)。
 これらの回帰式を上記の過去の研究論文に記載されているクヌギおよびコナラのデータに適用して、樹齢2年〜50年における各個体の樹高とDBHをシミュレートした。
 これら樹高とDBHの推定値に、上記の鈴木(2010)の作成した式を適用して、各樹齢における各稚樹個体の各器官の重量をシミュレートした。その2年の間の差分を個体重量の増加として、以下の式より相対生長速度(RGR)を算出した。
 RGR(Kg Kg-1 yr-1)= (個体重量の増加, Kg)/(2年間の個体重量の平均値, Kg)
 これらの結果をもとにRGRと個体重量について非線形回帰を行い、以下のような関係式を得た。


 クヌギのRGR(Kg Kg-1 yr-1)= 1/(1.8448 + 0.065756×個体重量-8.4205×10-5×個体重量2 + 1.3504×10-7×個体重量3)(図5
 コナラのRGR(Kg Kg-1 yr-1)= 1/(1.5938 + 0.086277×個体重量 - 0.00015608×個体重量2 + 0.00000031392×個体重量3)(図6


 シラカシについては、筑波大学構内アカマツ林において1984〜1994年の間に測定された実生の樹高と根元直径の結果(山下・石川 未発表)を用いて、鈴木(2010)の計算式により各稚樹個体の各器官の重量をシミュレートし、ここから以下の式を用いてRGRを算出した。
 シラカシのRGR(Kg Kg-1 yr-1)= (84年-94年の個体重量の増加, kg)/(11年間の個体重量の平均値, kg)
これらの結果をもとにRGRと個体重量について非線形回帰を行い、以下のような関係式を得た(図7)。
 シラカシのRGR(Kg Kg-1 yr-1)= 0.082172-0.00819×ln(個体重量) (lnは自然対数)
 なお各樹種の成木については、すでに最大サイズに達していると想定し、RGRをゼロとした。

樹木個体重量に対する光環境と温度上昇の影響シミュレーション
 上記の式を用い、群馬大学荒牧構内雑木林の調査プロット内にある稚樹が今後どのように生長していくかのシミュレーションを行った。シミュレーションは2013年〜2061年までの間、枯死脱落がないと仮定し、Excelを用いて手計算により行った。
 (個体重量,kg) = (1 + (前年の個体重量/2, kg)/(1 - (前年の個体重量/2, kg)) ×(RGR, kg kg yr-1)×(光減少係数)
 光減少係数は、図9,10,11に示された栽培実験結果(後述)から算出した、相対光量子密度の低下によるRGRの低下を表す係数で、100%区でのRGRの値に対する相対値である。


 遠山(2012)の研究より、シラカシは温度上昇によりRGRが増加するという結果がでている。そこで、相対光量子密度100%、13%、9%、3%が継続し、かつ50年で2℃気温上昇が起こる(毎年0.04℃上昇)という仮定を付与した場合のそれぞれの個体重量は、以下の式を用いて算出した。
 (個体重量,kg) = (1 + (前年の個体重量/2, kg)/(1 - (前年の個体重量/2, kg)) ×(RGR, kg kg yr-1)×(光減少係数)×(気温影響係数)
 気温影響係数は、遠山(2012)によって示された栽培実験結果から算出した、温度上昇によるRGRの増加を表す係数で、0℃上昇区でのRGRの値に対する相対値である(図8)。

現存量と純生産速度に対する光環境と温度上昇の影響シミュレーション
 上記のような各仮定のもとでシミュレートした、稚樹と成木の個体重量の今後50年間の推移の結果から、群馬大学荒牧構内雑木林の調査プロット内にある稚樹と成木の個体現存量と個体純生産速度の今後50年間の推移を、以下の式を用いてシミュレートした。
<クヌギおよびコナラ>
 (個体現存量, ton ha-1)=(個体重量, ton ha-1)+(個体葉重量の和,ton ha-1
 (個体純生産速度, ton ha-1 yr-1)=(個体現存量の増分, ton ha-1 yr-1) +(個体葉重量の和, ton ha-1 yr-1)※
  ※クヌギおよびコナラは落葉樹であるので、毎年すべての葉が改めて生産されるため。
<シラカシ>
 (個体現存量, ton ha-1)=(個体重量, ton ha-1)+(個体葉重量, ton ha-1
 (個体純生産速度, ton ha-1 yr-1)=(個体現存量の増分, ton ha-1 yr-1)※
 ※シラカシは常緑樹であるので、個体葉重量は加算されない。

 これらの値を、群馬大学荒牧構内雑木林の調査プロット内にある稚樹と成木について樹種ごとに総和したものを、それぞれ樹木現存量、樹木純生産速度とした。また群馬大学荒牧構内雑木林の調査プロット内にある稚樹と成木についてすべて総和したものを、それぞれ樹木総現存量、樹木総純生産速度とした。

 

リター分解速度測定

 メッシュサイズ0.09mm2、全体の大きさ690cm2(縦30cm、横23cm)のポリエステル網の袋(以降リターバッグと表す)を調査地内のリタートラップの横に計10個設置した(写真3)。これらのリターバッグには、現場のリター層(原形をとどめている範囲の厚さ)を構造を崩さないように切り取って入れ、元の場所に戻した。リターバッグを設置した際に、周囲のリターを回収し湿重量と乾燥重量の重量を計測し、設置した時点でのリターの含水率を推定した。これらの結果をもとに、1日あたりのリター乾燥重量減少速度を以下の式から求め、リター分解速度とした。

  1日あたりのリター乾燥重量減少速度=(リターバッグ設置時の推定乾燥重量 -リターバッグ回収時の乾燥重量)/日数

 リターバッグの設置期間は、2012年4月13日〜12月26日の間であった。

 

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