井門 亮

井門 亮 (いど・りょう)教授

井門 亮 教授
  • 出身地: 愛媛県
  • 最終学歴/学位: 学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程単位取得満期退学/修士(イギリス文学)
  • 研究室:  10号館401
  • 所属学会: 日本英語学会,日本語用論学会,日本認知言語学会,英語語法文法学会,学習院大学英文学会
  • 専門分野: 英語学,語用論,関連性理論
  • 担当科目: コミュニケーション論C,メディア・イングリッシュC,英語1年,英語2年,選択英語AⅡなど
  • 個人ページ: http://www.si.gunma-u.ac.jp/~ryoido

現在の研究テーマ

  • 英語学・語用論の観点からのコミュニケーション分析
  • 文脈を考慮に入れた言語表現の解釈に関する日・英比較分析
  • 人間の発話解釈のメカニズムに関する認知的研究

専攻分野・研究内容紹介

言語学・英語学とは

「言語学」と聞いて,どのような学問分野を思い浮かべますか?「言語」と言うからには,ことばに関連した研究をするのだろうということは容易に想像できるのではないかと思いますが,具体的にどういったことを研究しているのか,はっきりとイメージできる人は少ないのではないでしょうか。もしかすると,何ヶ国語も自由に使うことができるように色々な外国語を勉強したり,英語や日本語などの文法規則を調べ,規範的な言語使用を研究したりするのが言語学だと思っている人もいるかもしれません。

言語学は,外国語を学び,その言語を運用できるようになることを目指す,いわゆる「語学」とは違います。もちろん色々な外国語を学習してマスターするということは,とても価値のあることですが,(残念ながら?)言語学はそれを直接的な目標にしているのではないのです。言語学とは,言語の本質を科学的・客観的に分析し,「言語知識とはどのようなものか」,「言語知識はどのように獲得されるのか」,「言語知識はどのように使用されるのか」といった,人間のみが生得的に持っている「言語に関する能力」の解明に取り組む学問領域なのです。そういった言語学の中でも,特に英語という個別言語を対象にした分野が「英語学」(言い換えるならば「英語の言語学」)です。言語学(英語学)は,さらに研究対象に沿って,音韻論,形態論,統語論,意味論など様々な領域に分けられますが,私が専門にしているのは,「人間は話し手の発したことば(発話)をどのように解釈しているのか」ということを研究する「語用論」と呼ばれる分野です。

語用論とは

それでは,次の発話 (1-4) の意味を考えてみましょう。

(1)  A: How is Taro feeling after his first year at university?
B: He didn't get enough units and can't continue.

(2) (前橋駅にて)群馬大学までは距離がありますよ。

(3)  A: 今夜飲みに行かない?
B: 明日英語のテストがあるんだよ。

(4) 彼は天才だね。

私達が普段用いていることばは,話し手が伝えようとしていることのすべてを記号化(言語化)して,言い尽くしているわけではありません。発話によって記号化された情報と,聞き手が解釈する内容との間にはギャップがあるのです。例えば (1B) では,he が誰を指すのか,何のために enough ではないのか,unit はどういった意味か,誰が何を continue できないのかといった解釈に必要な情報がことばとして明示的には述べられていません。(2) では,「前橋駅と群馬大学の間には距離がある」という当たり前こと(注:前橋駅構内に群馬大学はありません)しか言っていませんが,この発話から「前橋駅と群馬大学の間には,思っているよりも結構距離があり,バスかタクシーで行った方が良い」といった情報が読み取れるでしょう。(3B) は,飲み会への誘いを断っていると理解できますが,もちろんその意味もこの発話によって記号化されていません。(4) も,「彼は生まれつき非常に優れた才能を持っている」という字義的な意味として理解されるかもしれませんが,文脈によっては「彼は馬鹿である」という皮肉としての,正反対の意味を伝える場合もあるでしょう。こういった例からも明らかなように,人間の発話解釈は,記号化された情報を復元するだけの単純な作業ではありません。聞き手は,発話によって与えられた(不十分な)情報を手がかりにして,多くの場合,言語化されている以上のことを補って解釈しなくてはならないのです。

それでは,断片的な情報しか言語化していない発話から,どのようにして私達は話し手の意図したメッセージを理解しているのでしょうか。直観的にも,相手の言おうとしていることを好き勝手に推測して解釈しているのではなく,発話解釈の根底には,何らかの原理・原則が働いているのではないかと考えられるでしょう。語用論は,そういった人間の発話解釈の仕組みについて,発話が解釈される過程と,その過程を支配している原理の解明を目指しています。そして,私達がコミュニケーションを行う際には,文法的知識に加えて,人間の持つ認知的な能力や,聞き手の持つ想定,話し手の意図,発話の状況といった非言語的知識も用いているということを,英語や日本語などの様々な事例を通して明らかにしようとしているのです。

ことばについて考える

ことばは,私達にとって空気のように非常に身近な存在なので,日常生活において,ことばについて考えるということはほとんどないでしょう。また,私達は普段から当たり前のようにことばを媒介にして思考したり,コミュニケーションを行なったりしていますので,ことばについて研究していると言うと,「なんだ,そんな当たり前のことを研究しているのか」と思われるかも知れません。しかし,当たり前のように思える事象こそ論理的に説明するのが難しく,またその中に興味深い研究課題が埋もれていることもあるのです。