結果および考察
発芽の温度依存性解析
発芽実験1
アドバンテストビオトープ内と、群馬大学荒牧キャンパス構内で採取した18種の植物の種子の発芽の温度依存性は以下の通りとなった。
1.
アメリカフウロ(フフウロソウ科、越年生草本、Garanium carolinianum L.)
本種は北アメリカ原産で、太平洋諸島やアジアの広い範囲に侵入・定着している外来種である(清水・森田・廣田2001)。培養62日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では17/8℃、22/10℃で92.0%と、最も高くなった(表2、図3、図22)。このような温度依存性を有する植物の種子は、地温の低い季節には発芽せずに、早春に地温が高くなってから発芽すると考えられる。また、最適温度を越えると発芽率が低くなることから、高温により二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性があると推察される。
2. イヌムギ(イネ科、多年生草本、(Bromus catharticus Vahl.)
本種は南アメリカ原産で、日本には明治の初期に侵入し、現在は全国の農耕地や道ばたに定着している(清水・森田・廣田)。本種の培養は30/15℃、22/10℃の2つの温度区のみで行ったが、培養62日後の最終発芽率は、22/10℃の方が約94%と高く、30/15℃においては約69%であった(表2、図4)。高い温度(30/15℃)での発芽率が低くなることから、高温により二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性が示唆される。
3. カモガヤ(イネ科、多年生草本、Trifolium
repens)
本種は地中海〜西アジア原産であり、日本には明治初期にアメリカから侵入し、現在は北海道から九州に定着している(清水・森田・廣田)。培養62日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では変化が少なく、すべての温度区において85%以上の高い発芽率となった(表2、図5、図21)。このような温度依存性を有する植物の種子は、土壌中に十分な水分があれば発芽し、成長するものと推察される。また、設定温度範囲内においては、最適温度が認められなかったことから、土壌シードバンクを形成する可能性は低いと考えられる。
4. カモジグサ(イネ科、多年生草本、Agropron tsukushiense var.pransiens)
本種は日本の在来種で、全国の道ばた、野原などに生育しているとされる(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では変化が少なく、すべての温度区において90%以上の高い発芽率となった(表2、図6、図22)。このような温度依存性を有する植物の種子は、土壌中に十分な水分があれば発芽し、成長するものと推察される。また、全温度域において90%以上の高い発芽率を有することから、本種は土壌シードバンクを形成する可能性は非常に低いと推察される。
5. カラスノエンドウ(マメ科、二年生草本、Vicia angustifolia var. segetalis)
本種は日本の在来種で、本州から南の原野に生育しているとされる(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では30/15℃で最も高い(約89%)値となった(表2、図7、図23)。このような温度依存性を有する植物の種子は、日当たりのよい攪乱地などの裸地において、地温が急激に上昇することを環境シグナルとして発芽する「ギャップ検出機構」を有すると推察される。
6. ギシギシ(タデ科、多年生草本、Rumex. japonicus Houtt.)
本種は日本の在来種で、全国の田畑のあぜや湿った道ばた、原野などに生育している(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では、17/8℃において約74%と最大となり、30/15℃においては約63%で最小となった(表2、図8、図22)。このような温度依存性を有する植物の種子は様々な季節に発芽するが、発芽に最適な温度を越えると発芽率が低くなることから、一部は高温により二時休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性があると推察される。
7. キツネアザミ(キク科、越年生草本、Hemistepta
lyrata)
本種は日本の在来種で、本州より南の田畑や道ばたに生育している(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では25/13℃以下では非常に低かった(約15%以下)のに対して、30/15℃で最も高い(80%)発芽率となった(表2、図9、図23)。このような温度依存性を有する植物の種子は、日当たりのよい攪乱地などの裸地において、地温が急激に上昇することを環境シグナルとして発芽する「ギャップ検出機構」を有すると推察される。
8. キュウリグサ(ムラサキ科、二年生草本、Trigonotis peduncularis)
本種は日本の在来種で、全国の畑、道ばたに生育する(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、全体に低めではあるが、設定温度範囲内では、17/8℃で最大(約25%)になり、25/13℃、30/15℃においては0%と、発芽最適温度が顕著である(表2、図10、図22)。このような温度依存性を有する植物の種子は、地温の低い季節には発芽せずに、春に地温が高くなってから発芽すると考えられる。また最適温度を越えると発芽率が低くなることから、高温により二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性があると推察される。
9.コオニタビラコ(キク科、越年生草本、Lapsana apogonoides)
本種は日本の在来種で、九州より北の水田に多く生育する(林1983)。培養62日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では最小が10/6℃で約15%、最大が30/15℃で24%と差異が少なかった。(表2、図11、図21)。このような温度依存性を有する植物の種子は、土壌中に十分な水分があれば季節に関係なく発芽し、成長するものと推察できる。また、温度区間で最終発芽率に大きな差はなく、全体平均で20%程度であるため、土壌シードバンクを形成している可能性もあると示唆される。
10.ジシバリ(キク科、多年生草本、Taraxacum
albidum)
本種は日本の在来種で、全国の畑、あぜ、乾燥した裸地などに生育する(菅原1990)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では変化が少なく、すべての温度区において75%以上の高い発芽率となった(表2、図12、図21)。このような温度依存性を有する植物の種子は、土壌中に十分な水分があれば発芽し、成長するものと推察できる。また、シードバンクを形成する可能性は低いと考えられる。
11.シマスズメノヒエ(イネ科、多年生草本、Paspalum dilatatum)
本種は南アメリカ原産であり、日本では1950年代に小笠原で見いだされ、現在は北陸、関東以南に分布している(清水・森田・廣田2001)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では、全体に低い(約0.3%以下)結果となった(表2、図13、図21)。これは、採取した種子に不稔の種子が多く混入していたためと考えられる。
12.スイバ(タデ科、多年生草本、Rumex.
acetosa L.)
本種は日本の在来種であり、九州以北の野原や田畑のあぜ道などに生育する(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では、22/10℃で約65%と最も高くなった(表2、図14、図22)。このような温度依存性を有する植物の種子は、地温の低い季節には発芽せずに、春に地温が高くなってから発芽すると考えられる。また最適温度を越えると発芽率が低くなることから、高温により二次休眠が誘導され、シードバンクを形成する可能性があると推察される。
13.スミレ(スミレ科、多年生草本、Viola.
Mandshulica)
本種は日本の在来種で、九州以北の山野の日当たりのよいところに生育する(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では、17/8℃で約67%と、最大となった(表2、図15、図22)。また10/6℃においては約9%であり、他の温度区と比べて著しく低い発芽率になっている。このような温度依存性を有する植物の種子は、地温の低い厳冬季には発芽せずに、春になって地温が高くなると発芽すると考えられる。また最適温度を越えると発芽率が低くなることから、高温により二次休眠が誘導され、シードバンクを形成する可能性があると推察される。
14.セイヨウタンポポ(キク科、多年生草本、Taraxacum officinale)
本種はヨーロッパ原産であり、日本には明治初期に北海道に侵入持ち込まれたとされる(清水・森田・廣田)。培養62日後の最終発芽率は、全体に低かったが、設定温度範囲内では、22/10℃で最大(約4.7%)となった(表2、図16、図21)。本種については冷湿処理を行わず、乾燥状態で保管していた種子を用いて実験を行ったため、冬を経験していないことにより全体の発芽率が低くなった可能性ある。そのため、今後は冷湿処理を行った上で再度実験を行う必要がある。
15.ツボミオオバコ(オオバコ科、一〜二年生草本、Plantago lanceolata)
本種は北アメリカ原産であり、日本には大正から昭和の初めに侵入し、現在では都市周辺の道ばたや河原の砂礫地などに定着している(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では17/8℃において約75%と最大になり、25/13℃、30/15℃においては、60%程度となった(表2、図17、図22)。このような温度依存性を有する植物の種子は、地温の低い厳冬季には発芽せずに、早春に地温が高くなってから発芽すると考えられる。また最適温度を越えると発芽率が低くなることから、高温により二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性があると推察される。
16.ハルノノゲシ(キク科、一〜二年生草本、Sonchus oleraceus)
本種は日本の在来種であり、九州以北の畑や道ばたなどに生育する(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では差異が少なく、すべての温度区において85%以上の高い発芽率となった(表2、図18、図21)。また10/6℃区においては、培養後30日の時点では60%程度の発芽率であったが、63日後には、他の温度区と同様に約89%程度まで発芽率が徐々に上昇した。このような温度依存性を有する植物の種子は土壌中に十分な水分があり、時間をかけさえすれば、高い確率で発芽し、生長するものと推察される。そのため、永続的シードバンクを形成する可能性は低いと考えられる。
17.ムシトリマンテマ(ナデシコ科、一または越年生草本、Silme antirrhina L.)
本種はヨーロッパ原産で、日本には幕末に侵入したとされる(清水2003)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では、全体に低い(約4.6%以下)結果となった(表2、図19、図21)。これは、採取した種子に不稔の種子が多く混入していたためと考えられる。
18.ヤブジラミ(セリ科、越年生草本、Torilis
japonica)
本種は日本の在来種であり、全国の野原に多く生育する(林1983)。培養63日後の最終発芽率は、設定温度範囲内では、22/10℃において約53%と最大となり、30/15℃において約39%で最小となった。(表2、図20、図22)このような温度依存性を有する植物の種子は様々な季節に発芽するが、最適温度を越えると発芽率が低くなることから、一部は高温により二次休眠が誘導され、シードバンクを形成する可能性があると推察される。
以上18種の植物の種子発芽の温度依存性を、最終発芽率をもとに4つのグループに大別する。
グループA(図21):設定温度範囲(10/6℃〜30/15℃)においては、すべての温度区において高い(70%以上)発芽率を有するか、または設定温度範囲内で最終発芽率に差がない種。カモジグサ、コオニタビラコ、ジシバリ、ハルノノゲシの在来種4種と、カモガヤ、シマスズメノヒエ、セイヨウタンポポ、ムシトリマンテマの外来種4種が該当する。これらの種は、土壌シードバンクを形成する可能性は低いと推察され、温度以外の環境要因が充足されることにより、季節を問わず発芽する可能性が高い。
グループB(図22):設定温度範囲内において発芽に最適な温度区が存在する種。最適温度区は17/8℃または22/10℃である。キュウリグサ、スイバ、スミレ、ヤブジラミの在来種4種と、アメリカフウロ、ギシギシ、ツボミオオバコの外来種3種が該当する。これらの種は高温(30/15℃)で発芽率が低下することから、高温によって種子が休眠し、シードバンクを形成するものと推察される。
グループC:設定温度範囲では、温度が高い区では著しく最終発芽率が高くなるが、温度が低い区では低くなる種。狩谷2004の中では秋に種子が成熟する植物10種が該当することが示されたが、今回春〜夏に種子が成熟する植物種を用いた発芽実験1においては該当種がなかった。
グループD(図23):設定温度範囲では、カラスノエンドウとキツネアザミの在来種2種が該当する。これらの種は、最高温(30/15℃)のみで高い発芽率となり、カラスノエンドウは90%程度、キツネアザミは80%程度の最終発芽率を有した。これは、前述のようにギャップ検出機構を有しているためと考えられる。これらの種は、攪乱地などの日当たりのよい裸地を好んで発芽すると推察される。
発芽実験2
1. アオビユ
本種は1度目の発芽実験においては、25/13℃以下では最終発芽率が非常に低かったのに対して、30/15℃では極めて高(90%程度)かった(狩谷2004)。しかし、発芽実験2における最終発芽率は、25/13℃以下の温度区においても70%を越える結果となった(表5、図24、図46)。これは、培養後21日目に1日だけ培養温度を約3℃上昇させた一時高温処理が「環境シグナル」となって、休眠が解除されたことを示していると考えられる。すなわち、本種が「ギャップ検出機構」を有することを検証したものといえる。
2. アメリカイヌホウズキ
本種は1度目の発芽実験において、最終発芽率が22℃以上で100%であった(狩谷2004)ため、17/8℃と10/6℃の2つの温度区のみでの実験となった。17/8℃においては、1度目の発芽実験の最終発芽率が70%程度であったが、発芽実験2により、残りの30%程度の種子も順調に発芽し、約99%の最終発芽率となった(表5、図25、図45)。また10/6℃においては、培養20日までは10%程度の発芽率であったのが、21日以降に急激に高くなり、80%程度となった。これは、一時高温処理による影響であると考えられる。すなわち、本種においては、一時的にでも温度がある「限界」を超えると、一斉に休眠が解除されて発芽に至ることが示されたといえる。
3. イトバギク
本種は2度目の発芽実験においてはほとんど発芽しなかった(図26、図44)。したがって、本種の1度目の実験で未発芽であった種子については、単純に冷湿処理を繰り返したり、一時的には高温交代温度という「環境シグナル」を与えても、休眠が解除されないことが示唆されたといえる。すなわち、残存種子が死亡していないのであれば(少なくとも見かけ上は腐敗・委縮はなかった)、永続的シードバンクを形成する可能性が高いといえる。
4. イヌビエ
本種は1度目の発芽実験において、17/8℃以上では94%以上の最終発芽率となったため、発芽実験2においては10/6℃の温度区のみでの実験となった。発芽実験2開始直後の発芽率は2%程度であったが、培養後21日以降から徐々に発芽し、25日目からは急激に発芽率が高くなり、最終発芽率は約87%にまでなった(表5、図27、図45)。これは一時高温処理による影響であり、本種においては、一時高温処理により一時的にでも温度がある「限界」を越えると、一斉に休眠が解除されて発芽に至ることが示されたといえる。
5. ウシハコベ
本種は1度目の発芽実験においては、17/8℃以上では約80%以上の最終発芽率となっていたが、10/6℃では約12%しか発芽しなかった(狩谷2004)。発芽実験2においては、17/8℃以上の最終発芽率は1度目の最終発芽率と大きな差異がみられなかったが、10/6℃では10日目以降から徐々に発芽がみられるようになり、21日目以降に急激に発芽率が高くなり、最終発芽率が合計約97%となった(表5、図28、図45)。これは一時高温処理による影響であり、本種においては、一時高温処理により一時的にでも温度がある「限界」を越えると、一斉に休眠が解除され、発芽に至ることが示されたといえる。
6. オオアレチノギク
本種は発芽実験2においてはほとんど発芽しなかった(図29、図44)。 したがって、本種の1度目の実験で未発芽であった種子については、単純に冷湿処理を繰り返したり、一時的に高温交代温度という「環境シグナル」を与えても、休眠が解除されないことが示唆されたといえる。すなわち、残存種子が死亡していないのであれば(少なくとも見かけ上は腐敗・委縮はなかった)、永続的シードバンクを形成する可能性が高いといえる。
7. オオニシキソウ
本種は発芽実験2では25/13℃以上の温度区では新たな発芽がほとんど見られなかったが、22/10℃以下の温度区では徐々に発芽がみられ、培養21日目以降はさらに発芽率が高くなり、最終発芽率は合計約36〜50%まで上昇している(表5、図30、図45)。これは一時高温処理による影響であり、本種は低い温度区においては、一時高温処理により一時的にでも温度がある「限界」を越えると、一斉に休眠が解除されて発芽に至ることが示されたと言える。
8. カゼクサ
本種は1度目の発芽実験においては17/8℃以上で80%以上の最終発芽率となっており、10/6℃では全く発芽が見られなかった(狩谷2004)。発芽実験2においては培養後21日以降から発芽率が急激に上昇し、最終発芽率は合計約73%になった(表5、図31、図45)。これは一時高温処理による影響であり、本種においては一時的にでも温度がある「限界」を越えると、一斉に休眠が解除されて発芽に至ることが示されたといえる。
9. カントウヨメナ
本種は1度目も、発芽実験2においても培養後の最終発芽率は0%であった(狩谷2004、表5、図32)。本種は今回採取した種子が不稔であったと推察される。
10. ギシギシ
本種は1度目の発芽実験においては17/8℃、22/10℃、25/13℃においてはほとんど全てが発芽したため(狩谷2004)、発芽実験2においては30/15℃と10/6℃の2つの温度区のみでの実験となった。30/15℃においては、1度目の発芽実験の段階で最終発芽率が平均で95%であり(狩谷2004)、発芽実験2においては全く発芽がみられなかった。一方10/6℃においては、1度目の発芽実験で最終発芽率が約49%であり、発芽実験2における最終発芽率は合計約83%になった(2回目の冷湿処理期間中に発芽したものについては含まれていない)(表5、図33、図45)。すなわち、本種においては、10℃より低い温度では冷湿処理を繰り返すことにより、休眠が解除されることが示唆され、季節的シードバンクを形成するものと考えられる。一方、30℃を越える高温では一部は発芽せずに休眠が継続し、永続的シードバンクを形成するものと推察される。また本種は発芽実験2の前に行った2度目の冷湿処理中にも平均で14%の種子が発芽した(表3b)。これは、本種において高温によって誘導された二次休眠が、部分的ではあるが冷湿処理によって解除されたことを示していると考えられる。
11. ギニアグラス
本種は1度目の発芽実験においては、17/8℃以上の温度区で100%の最終発芽率となった(狩谷2004)ため、発芽実験2では10/6℃の温度区のみでの実験となった。発芽実験2開始時には約71%であった発芽率は、培養63日後に合計96%となった(表5、図34、図43)。しかし、一時高温処理を行った培養21日目には既に約95%の種子が発芽していたため、一時高温処理の発芽促進効果は不明である。
12. コセンダングサ
本種は1度目の発芽実験において、17/8℃以上の温度区では約94%以上の最終発芽率となった(狩谷2004)ため、発芽実験2においては10/6℃の温度区のみでの実験となった。発芽実験2開始時には45%程度の発芽率であったが、培養21日以降に急激に発芽し、培養63日後の最終発芽率は合計96%となった(2回目の冷湿処理期間中に発芽したものについては含まれていない)(表5、図35、図45)。これは一時高温処理の影響であり、本種においては、一時高温処理により一時的にでも温度がある「限界」を越えると、一斉に休眠が解除されて発芽に至ることが示されたと言える。また、本種は発芽実験2の前の冷湿処理期間中に平均で16%発芽した(表3b)。
13.ススキ
本種は1度目の発芽実験と発芽実験2での差異は、17/8℃以上の温度区においてはみられない。一方10/6℃においては、一度目の発芽実験での最終発芽率が0%であったが、発芽実験2の培養63日後の最終発芽率は約16%になった(表5、図36、図45)。培養21日以降から発芽率が少しずつ上昇してきた。これは一時高温処理による影響であり、本種においては、一時高温処理により一時的にでも温度が13℃程度を越えると、部分的に休眠が解除されて発芽に至ることが示されたと言える。しかしこのような休眠解除は、培養温度が17℃以上の場合には働かないとも考えられる。
14.セイタカアワダチソウ
本種は1度目の発芽実験において、すべての温度区で発芽率が非常に高く、85%以上であった(狩谷2004)。発芽実験2においては新たな発芽はほとんどなかったため(表5、図37、図44)、土壌シードバンクを形成する可能性は低いか、形成したとしても、小さいものにとどまると考えられる。
15.チカラシバ
本種は1度目の発芽実験においては、17/8℃以上の温度区で最終発芽率が100%となった(狩谷2004)ため、発芽実験2においては10/6℃の温度区のみでの実験となった。発芽実験2では実験開始時には1%の発芽率であったものが、培養21日以降にも多くが発芽し、最終発芽率は100%となった(表5、図38、図45)。これは一時高温処理の影響であり、本種においては、一時的にでも温度がある「限界」を越えると、一斉に休眠が解除されて発芽に至ることが示されたと言える。また一時高温処理前までに80%程度の種子が発芽していたことから、本種は10℃以下の低温においては季節的シードバンクを形成するものと考えられる。
16.チヂミザサ
本種は1度目の発芽実験において17/8℃以上の温度区では約97%以上の最終発芽率となった(狩谷2004)ため、発芽実験2においては10/6℃の温度区のみでの実験となった。発芽実験2開始時には約1%程度の発芽率であったが、培養21日以降に発芽率が急激に高くなり、培養63日後の終発芽率は33%となった(表5、図39、図45)。これは一時高温処理の影響であり、本種においては一時高温処理により一時的にでも温度がある「限界」を越えると、一斉に休眠が解除されて発芽に至ることが示されたと言える。
17.ヘラオオバコ
本種は発芽実験2においてはほとんど発芽しなかった(図40)。すなわち、1度目の実験で未発芽であった種子については、単純に冷湿処理を繰り返しても休眠が解除されないことが示唆されたといえる。本種は採取できた種子数が少なかったので、今後さらに検討を進める必要がある。
18.ヨシ
本種は1度目、発芽実験2での差異は極めて小さく、培養後の最終発芽率は約3%以下であった(狩谷2004、表5、図41、図43)。本種は今回採取した種子の大半が不稔であったと推察される。
19.ヨモギ
本種は発芽実験2においてはほとんど発芽しなかった(図42、図44)。本種の1度目の実験で未発芽であった種子については、単純に冷湿処理を繰り返したり一時的には高温交代温度という「環境シグナル」を与えても、休眠が解除されないことが示唆されたといえる。すなわち、残存種子が死亡していないのであれば(少なくとも見かけ上は腐敗・委縮はなかった)、永続的シードバンクを形成する可能性が高いといえる。
以上19種の種子発芽の温度依存性を1度目の発芽実験の最終発芽率をもとに、グループA〜Dに大別し(図43〜46)、1度目の発芽実験の最終発芽率と発芽実験2の最終発芽率を比較する。
グループA(図43):1度目の発芽実験において、設定温度範囲(10/6℃〜30/15℃)においては、すべての温度区において高い(70%以上)発芽率を有する、または温度区間で最終発芽率に差がない種。在来種のヨシと外来種のギニアグラスが該当する。季節を問わず、温度以外の環境要因(例えば土壌水分)が満たされれば発芽すると推察される(狩谷2004)。発芽実験2において、ギニアグラスは一時高温処理を行う前に95%程度の種子が発芽していたため、一時高温処理による発芽促進作用は確認できなかった。またヨシは前述の通り、今回採取した種子が不稔であったと推察されることから、一時高温処理による発芽促進作用は確認できなかった。
グループB(図44):1度目の発芽実験において、設定温度範囲(10/6℃〜30/15℃)内で発芽に最適な温度区が存在する種。最適温度区は、22/10℃または25/13℃と比較的高い。セイタカアワダチソウ、イトバギク、オオアレチノギク、ヨモギが該当し、すべてキク科の植物である(狩谷2004)。ヨモギが在来種で、それ以外の3種は外来種である。高温(30/15℃)で最終発芽率が低下することから、高温によって二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性があると推察された(狩谷2004)。発芽実験2において高温(30/15℃)での新たな発芽がほとんどなかったことから、冷湿処理の繰り返しや、一時的温度変化という「環境シグナル」では休眠は解除されず、土壌シードバンクの持続性が高いと考えられる。
グループC(図45):1度目の発芽実験において、設定温度範囲(10/6℃〜30/15℃)では、温度が高くなるにつれて最終発芽が高くなる種。1度目の発芽実験では10/6℃の最終発芽率が他の温度区と比べて非常に低いことから、主として春になって地温が17℃以上になってから、発芽すると推察される(狩谷2004)。イヌビエ、チヂミザサ、チカラシバ、カゼクサ、ギシギシ、ウシハコベ、コセンダングサ、アメリカイヌホオズキの8種が属すサブグループでは、10/6℃以外の温度区では70%以上が発芽した。したがってこれらの種が土壌シードバンクを形成する可能性は低いと推察される(狩谷2004)。またオオニシキソウ、ススキの2種が属するサブグループでは、最終発芽率は最大でも50%程度であることから、高温によって二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性があると推察される(狩谷2004)。このグループCに属す種のうち在来種にはイネ科が多く(5種)、また外来種は3種のみである(狩谷2004)。発芽実験2からは、このグループCに属する種のうちギシギシ以外の種については、一時高温処理による発芽促進が認められた。すなわち、低温で培養されても一時的な温度上昇で休眠が解除されるので、土壌シードバンクの持続性は低いと考えられる。一方ギシギシについては、一時高温処理による発芽促進が見られなかった。それは、本種が1度目の発芽実験では冷湿処理を行わずに培養した結果、このグループCに属することとなったが、発芽実験1において冷湿処理を行った上で培養した結果では、グループBに属することとなったためであると考えられる。
グループD(図46):外来種のアオビユのみが属すグループである。本種だけ別グループに類別した理由は、本種が1度目の発芽実験において、30/15℃でのみ高い(90%程度)発芽率を有し、「ギャップ検出機構」と推察されたからである(狩谷2004)。発芽実験2では、25℃以下の温度区においても70%以上の高い最終発芽率となった。これは、培養21日目の一時高温処理を環境シグナルとして、発芽が促進されたためと推察される。本種が「ギャップ検出機構」を有していることが再度検証されたといえる。
植物の開花フェノロジーと植物
2004年度(4月〜10月)の7回の現地調査により、ビオトープ内全域において72種(外来種24種、在来種48種)の植物の生育が確認された(表6)。このうち、2004年度に初めて出現が確認された種は33種(外来種7種、在来種26種)であった。ビオトープ内の初出現植物数のうち在来種の占める割合は、初年度が約63%、前年度が約67%であったのに対し、今年度は約79%と、年々高くなってきている。
2004年度の各月に開花が確認された植物(表7)のうち、在来種数は、4月に12種、5月に6種、6月に2種、7月に2種、9月に10種、10月に5種であり、ビオトープの目的にあった最もよい景観がうかがえるのは、4月であるといえる。
植物の分布位置・分布面積
2004年6月〜9月にかけて、ビオトープ内において19種計、31地点の植物の分布位置・分布面積を計測した。外来種はオランダガラシ、ヘラオオバコの2種であった。(表8、図47〜65)ヘラオオバコは、分布面積1地点で分布面積が最大(484m2)であり、このまま定着・拡大すると周囲の在来種の生育を妨げるおそれがあるため、継続的に個体を除去していく必要があると考えられる。また、年間を通して月別に見ていくと(図66〜71)、分布面積が最も大きかったのは、2月と3月にみられたオオイヌノフグリ(狩谷2004)、4月のオニウシノケグサ(狩谷2004)、6月のヘラオオバコ、7月のイグサ、9月はコブナグサであった。このうち、オオイヌノフグリ、オニウシノケグサ、ヘラオオバコは外来種であり、分布面積が拡大してきていることから、周辺植物への影響がある場合には、継続的な個体の除去の必要があると考えられる。一方、9月から10月にかけてカントウヨメナ(写真2)の分布が6地点で確認され(表8)、2003年の2地点と比べて分布域が増えてきている。また、分布面積も拡大してきていることから、今後ビオトープ内で定着・拡大していくことが期待される。
気温・地温測定
2004年4月〜11月の立地環境別の気温は、日最高気温と日平均気温はすべての月で低草原(ヨモギまたはシバの草原)が最も気温が高く、次いで高草原(ススキまたはオギの草原)、林内という結果となった。一方、日最低気温はすべての月で林内が最も高く、次いで低草原、高草原という結果になった(表9)。地温についても、日最高地温、日平均地温は低草原の方が林内よりも高く、日最低地温は、林内の方が低草原より高かった(表10)。これらのことから、林内においては気温・地温の高低差が小さいといえる。これは、樹木の生長によって、森林の環境形成作用がはたらくようになったためと考えられる。
林内の相対光量子密度
林調査地点の内計16地点において、相対光量子密度は10.6〜39.2%の範囲であった(表11)。相対光量子密度10%きざみの頻度分布(図73b)にしてみると、10〜20%区分内に9地点があり、20〜30%では4地点があった。2003年度の調査結果(星野による、図73a、地点数は36)と今年度の調査結果を比較すると、2003年度においては、50%以上の地点は7地点あったのに対し、今年度は0地点と大幅に減っていた(狩谷2004データ改正)。こうした高い相対光量子密度の地点数の大幅な減少は、ビオトープ造成時に植栽された高木の成長によるものと考えられる。外来植物の多くは直射日光の多い立地を好むため、今後ビオトープ内の林床においては、外来植物は減少することが期待される。
動物・昆虫の生息状況
2003年度の調査の結果、29種の鳥類、122種の昆虫類をはじめ、様々な生き物が確認された。また、地域生態系オオタカが確認されたことから、ビオトープは、生き物の生息空間としての熟度が高くなってきたと考えられる(清水建設2003)。さらに今年度には鳥類のアオジとバンが初確認されている。また、2004年10月の調査では7目18科23種の鳥類が確認され、2003年10月に確認された鳥類は5目11科16種であったことから、今年度の確認種は大幅に増加した(清水建設2004)。このように動物・昆虫の生息が多様化してきているのは、年々植物種数が増えることにより、多様な生態系が創出されていることと密接に関係しているものと考えられる。
アンケート調査
(株)清水建設により、2004年3月15日〜2004年3月19日にアドバンテスト群馬R&Dセンタの全従業員を対象にして、本ビオトープに関するアンケートが実施された。その結果、全体として以下のことが明らかになった(清水建設2004)。
・60%の従業員が散策や運動に利用している
・70%以上の人が景観向上、癒し・安らぎの効果を感じている
・池・水辺に対してビオトープの効果を感じる人が特に多い
・今後の利用では子供たちの自然体験の場としての活用、野生動植物や昆虫の保護・育成、自然観察会などのニーズが高い
また、2004年10月11日にはアドバンテスト従業員の家族が参加して、ザリガニ釣りイベントが行われた。
以上のように本ビオトープは、従業員による利用と良好な効果が次第に増大してきているものと思われる。