結論

 本研究の結果より、アドバンテストビオトープ内に生育する植物の育成管理および外来種の駆除方策、また、在来種の創出について以下のような提言ができる。

 植物相調査によりビオトープ全域において確認された72種の植物のうち、今年度に初めて確認された種が33種あった。今後もビオトープ内における植物の多様性が増大していく可能性が高いと考えられる。このうち外来種が7種、在来種が26種と在来種の比率が高く、本来のビオトープの目的にかなった植物相になってきているといえる。しかし、外来種は一般に繁殖力が強いため、外来種9種に対しては今後、個体の除去をはじめとした管理が必要である。

植物の分布位置・分布面積調査により、在来種のカントウヨメナの分布が地点数・面積ともに増加していることが明らかになった。これはカントウヨメナが風による種子散布方式をとっているためであると考えられる。このように、本種はビオトープ内で自力で拡大・定着していく可能性が示唆されたため、本種を積極導入する必要はないかもしれない。一方同じ在来種であっても、未だスミレ科の種が竣工後4年目になる本ビオトープにおいて、ほとんど確認されていない。スミレの種子はアリによって散布されるので移動距離が短く、またビオトープ周辺ではほとんどスミレ科の種が確認できないことから、自然に移入してくる可能性は非常に低いと考えられる。したがって、スミレ科については積極導入も検討していく必要がある。

 ビオトープの気温・地温調査によって、森林の環境緩和作用により林内の一日の温度差が低草地、高草地と比べて小さくなっていることが明らかになった。さらには、狩谷(2004)によれば、当林内の相対光量子密度が、2003年(星野2003)と比較して低下していることも明らかになっている。これらのことは、当林内には外来植物が侵入しにくい環境がしだいに形成されていることを示唆するものである。本研究によって明らかになったように、外来植物の中には、地温の日変化が大きいと発芽しやすいものが多く見られ、また、一般に外来植物は明るい光条件下で生長が良く、暗い所ではあまり生育しないからである。

 発芽の温度依存性解析実験1の結果からは、グループBに属する外来種のアメリカフウロ、ギシギシ、ツボミオオバコについては個体の除去を続けても短時間での完全な除去は難しいと考えられる。しかし、開花前あるいは結実までに引き抜きまたは刈り取りをすることで、土壌シードバンクを有効的に縮退させることは可能であると考えられる。一方在来種であるヤブジラミは、永続的シードバンクを形成することが示唆されたことから、今後もビオトープに定着・拡大していくことが期待される。

 発芽実験2においては、グループBに属する外来種のイトバギク、オオアレチノギク、セイタカアワダチソウの3種が、冷湿処理の繰り返しや、一時的温度変化という「環境シグナル」では休眠が解除されず、土壌シードバンクの持続性が高いことが推察された。これらの種については、比較的長期にわたって、開花前または結実前に継続的に引き抜き・刈り取りを行って土壌シードバンクを縮退させていく必要があると思われる。一方、在来種のヨモギについては永続的シードバンクを形成して、今後もビオトープ内に定着・拡大していくことが期待される。

 植物の開花フェノロジーと分布位置調査により、月ごとにどの場所にどのような植物が開花するかが明らかになった。これを看板にしてビオトープ利用者に情報提供すれば、ビオトープ利用者の増加や利用方法の充実を図ることができると考えられる。

 アドバンテストビオトープにおいて多様な植物相を創出させるためには、繁殖力の強い外来種を除去することに加えて、ビオトープ周辺から風散布や鳥散布によって種子が持ち込まれる在来種を、定着・拡大させる方策を講ずることが重要であると考えられる。外来種の除去のためには、本研究で解明された生態学的特性をもとにして、今後も個体の引き抜き・刈り取りを継続していくことで、土壌シードバンクを縮退させる必要がある。外来種が減少すれば、外来種と比べて繁殖力の弱い在来種の定着が、より促進されると考えられる。

 ビオトープづくりは自然の自己回復力に手を添えるという創造作業の一局面である。そのため、学術調査に基づいた積極的な育成管理が必要である。また、ビオトープ利用者への情報提供を促進することにより、利用者のビオトープに対する理解や関心を深め、ひいては今後の生長をともに見守っていくことにつながると期待される。

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