結果および考察

冷湿処理期間と培養温度に対する発芽の依存性

・オオキンケイギク

 1ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、最終発芽率は10/6℃〜22/10℃の温度区で約83%以上と高い値となったが、これらより高い温度区では低下し、30/15℃では約33%となった(図5)。

 2ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、最終発芽率は10/6℃〜25/13℃の温度区で87%以上と高い値となったが、30/15℃では約35%と低くなった(図6)。すなわち、30/15℃以外の温度区での最終発芽率は、1ヶ月の冷湿処理を施した場合よりも高くなった(表5図16)。

 過去の研究結果においても、本種は10/6℃〜25/13℃の広い温度区で、高い発芽率となることが示されている(津村 2002)。津村は冷湿処理を施さなかったが、本種は10/6℃〜15/7℃で高い発芽率(約72%〜81%)となった。今回の実験結果と先行研究の結果をまとめると、オオキンケイギクの発芽最適温度域は、10/6℃〜25/13℃と広く、また冬を経験しなくても、種子が散布されて吸水し適温におかれれば、発芽可能となる植物であると考えられる。また、30/15℃の温度区では最終発芽率が低くなったことから、本種の種子は散布後に高温度にさらされると一部に二次休眠が誘導されて、土壌シードバンクを形成すると推察される。

 

・オオブタクサ

 1ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、最終発芽率は30/15℃と25/13℃の温度区では約7%以下となった。一方、10/6℃〜22/10℃の温度区では約40%〜57%となった(図7)。

 2ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、最終発芽率はいずれの温度区においても、1ヶ月の冷湿処理を施した場合と比べて有意な差は見られなかった(表5図816)。

 過去の研究結果においても、本種は10/6℃〜22/10℃の広い温度区で高い発芽率となるが、これらより高温下では発芽率が低くなることが示されている(高橋 2001;石川ら 2003;茅島 2005)。以上の結果から、オオブタクサの種子休眠の解除には1ヶ月以上の冷湿期間が必要であり、比較的低い温度区(10/6℃〜22/10℃)が発芽最適温度域であると考えられる。こうした特性を有するため、本種は早春に他種に先駆けて発芽を開始し、明るい生育環境と長い生育期間を得ることで、巨大な草体に生長することができるものと推察される。また25/13℃および30/15℃の温度区では最終発芽率が低くなったことから、本種の種子は散布後に高温度にさらされると一部に二次休眠が誘導されて、土壌シードバンクを形成すると推察される。

 

・アメリカセンダングサ

 1ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、最終発芽率は10/6℃で約1%、30/15℃で約13%となり、これ以外の温度区では、すべて0%となった(図9)。

 2ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、最終発芽率は22/10℃で約81%、これ以外の温度区で約91%以上の高い値となった(表5図1016)。

 以上の結果から、アメリカセンダングサの種子休眠の解除には2ヶ月以上の冷湿処理が必要であると考えられる。また2ヶ月冷湿処理後の本種の発芽率が全ての温度区で高い値となり、最終発芽率に達するまでには116日間という長い期間が必要であったことから、本種の種子は散布後に2ヶ月以上の冬を経験した後には、早春から夏にかけて広い温度域において発芽し続けることができるものと考えられる。また本種が土壌シードバンクを形成する可能性は低いと考えられる。

 鈴木(2010)は群馬県邑楽郡明和町(アドバンテスト群馬R&Dセンタ内ビオトープ)で採取したアメリカセンダングサの種子について、同条件で53日間の発芽実験を行った。この実験結果では、低温区(10/6℃〜17/8℃)では今回と同等の結果が得られているが、高温区(25/13℃〜30/15℃)では異なる結果となっている。すなわち、本種の高温区での最終発芽率は、鈴木の結果(53日目の最終発芽率が約62%〜89%)よりも、今回の実験での53日目の結果(最終発芽率でない値で約51%〜65%)が低い値となった。このことは、使用した種子の産地が異なっていることに起因していると推察される。すなわち、鈴木が使用した種子は標高30m程度の地で採取されており、今回は標高800mの榛名山西麓で採取した種子を用いているため、標高差の分、親植物の生育環境としての気温環境が異なる。今回用いたアメリカセンダングサの種子は、その生育地である榛名山西麓の寒冷な気候に適応しているため、高温では発芽速度が低下してしまう、すなわち発芽の温度依存性には、地域個体群間で遺伝的な差異があると推察される。

 なお、22/10℃の温度区で最終発芽率が低くなっているのは、シャーレに種子をランダムに入れた際に、種子として成熟していないものを他の温度区よりも多く選んだ事が原因であると思われる。

 

・ヒメモロコシ

 1ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、最終発芽率は全ての温度区で約0%〜7%と非常に低い値となった(図11)。

 2ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、低温度区(10/6℃〜17/8℃)ではほとんど発芽せず、これらより高い温度区では温度が高いほど最終発芽率が高くはなったが、30/15℃でも約16%となった(表5図1216)。

 先行研究(佐藤 2005;狩谷 2004、ギニアグラスとあるのは本種の誤り)によると、採取1年以内の本種の種子は、冷湿処理を施してもしなくても、30日程度の培養で、10/6℃〜30/15℃の広い温度区域で約71%〜100%が発芽した。これらの結果から、本種は地温の低い冬季にも発芽して生長を開始し、土壌シードバンクを形成する可能性は低いと推察されている。

 今回使用した種子は2年前に採取したものであるので、先行研究の結果と合わせて考えると、ヒメモロコシの種子は、冷蔵庫に保管しても約2年で経年劣化により発芽能力が著しく低下するといえる。したがって本種の種子は、野外において未発芽のままであっても、速やかに発芽能力を失っていくと推察される。

 

・イヌムギ

 1ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、温度の高い区ほど培養初期の発芽率が高くなる傾向が見られた。しかし最終発芽率は、全ての温度区で約84%〜100%と非常に高くなった(表5図1316)。このため、2ヶ月の冷湿処理を施す実験は行わなかった。

 先行研究によると、冷湿処理を施さずに行った発芽実験においても、同様に広い温度域で高い最終発芽率となった(柴宮 2009;佐藤 2005)。以上のことから、イヌムギの種子は十分吸水できれば冬季でも発芽が可能となり、また土壌シードバンクを形成する可能性は低いと考えられる。

 

・カモガヤ

 1ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、温度の高い区ほど最終発芽率が高くなったが、全体に非常に高い値(約84%〜95%)となった(表5図1416)。このため、2ヶ月の冷湿処理を施す実験は行わなかった。

 佐藤(2005)が行った冷湿処理を施していない種子を用いた実験でも、本種の培養60日後の最終発芽率は全温度区で90%以上となった。以上のことから、カモガヤの種子は十分吸水できれば冬季でも発芽が可能となり、また土壌シードバンクを形成する可能性は低いと考えられる。

 

・ハリエンジュ

 本種の種子は、17/8℃以上の温度区で速やかに発芽し、培養開始後5日でおよそ70%〜80%の種子が発芽した。また最終発芽率も約88%〜94%と高くなった。一方10/6℃では発芽は遅く、種子の半数が発芽するまでに27日間かかったが、最終発芽率は79.3%に達した(表5図1516)。

 以上のようにハリエンジュの種子は、高い温度条件下であれば吸水後5日以内に多くが発芽し、また低い温度条件下でも時間をかければ高い発芽率となることから、広範な気候下の地域で発芽することが可能であると推察される。

ハリエンジュは栃木県と群馬県を流れる渡良瀬川の河川敷において繁茂し、樹林化している。1998年に大きな洪水があり、渡良瀬川の中流にある草木ダムの水が放水されてから、その下流にある桐生市内の河川敷においてハリエンジュが急増し樹林化した(清水 2005)。ハリエンジュは草木ダムのさらに上流部の足尾町において、鉱毒で裸地化した山々の緑化のために、15年ほど前まで盛んに播種・植林された。本種は種子および倒木や根から容易に発芽し再生するので、洪水の際に足尾町と草木湖からこれらが流下してきて桐生市内に定着し、樹林化したと考えられている(慶野 2005)。ハリエンジュの種子の旺盛な発芽能力から、放置すれば今後も全国各所で種子による侵入・分布拡大が続く危険性が高いと考えられる。

 

異なる光条件下・土壌窒素濃度下で栽培した植物の生長解析

・オオキンケイギク

 異なる光条件下において、オオキンケイギクの相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区では約0.010、9%区では約0.048、13%区では約0.055、100%区では約0.108となった(図17)。すなわち本種は明るい処でよく生長するが、林床のような暗い環境(後述)では生長が著しく悪くなると考えられる。このことは、本種が主に道路沿いや河川敷といった明るい環境下に分布する理由の一つであると推察される。

 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、3%区で0.3、100%区で5.5と相対光量子密度が高い区ほど高くなり、特に13%以下の光条件区で著しく低い値となった。

 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、処理区間で大きな差はなく、0.026〜0.040であった。

 以上の結果から、本種のRGRが光条件の明るい区ほど高くなった原因は、NAR、すなわち光合成活性の変化であると考えられる。

 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表すSLA(m2 g-1)は、3%区で0.086、100%区で0.032と相対光量子密度が高い区ほど低くなり、特に100%区で著しく低い値となった。器官別重量比はこれと逆の傾向を示したので、結果としてLARは処理区間で大きな差がでなかったものと考えられる。

 

・アメリカセンダングサ

 異なる光条件下において、アメリカセンダングサの相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区では約0.040、9%区では約0.072、13%区では約0.077、100%区では約0.089となった(図18)。すなわち本種は裸地のような明るい処から日陰まででよく生長するが、相対光量子密度3%以下のような暗い環境下では生長が著しく悪くなると考えられる。このことは、本種が主に河川敷といった明るい環境下や山間地の谷津田(谷間にあるので日照時間が短い)のような半日陰に分布する理由の一つであると推察される。

 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、3%区で0.8、100%区で5.0と相対光量子密度が高い区ほど高くなり、特に13%以下の光条件区で著しく低い値となった。

 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、暗い光条件の区ほど高くなり、3%区では0.049 、9%区では0.035、13%区では0.03、100%では0.025となった。

 以上の結果から、本種のRGRが光条件の明るい区ほど高くなった原因は、NAR、すなわち光合成活性の変化とLAR、すなわち葉の量の変化であると考えられる。しかし、相対光量子密度の低下に伴うNARの低下をある程度、LARの増加が補い、結果として13%区と9%区でのRGRは、100%区と有意な差がないほどになったと考えられる。このことは、本種が暗さに耐えて生き延びるしくみの一つと考えられ、山間地の谷津田(谷間にあるので日照時間が短い)のような半日陰に本種が分布する理由の一つであると推察される。

 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表すSLA(m2 g-1)は、3%区で0.116、100%区で0.037と相対光量子密度が低い区ほど高くなり、特に3%区で著しく高い値となった。器官別重量比はこれと同様の傾向を示したので、結果としてLARは、暗い光条件の区ほど高くなったものと考えられる。このことは、光が不足して光合成活性が低下した際に、より薄い葉を生産することによって、限られた光合成生産量を有効に葉面積の生産につなげるという、多くの植物に見られる特性と同じものであると考えられる。

 

・イヌムギ

 異なる光条件下において、イヌムギの相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区では約0.007、9%区では約0.032、13%区では約0.041、100%区では約0.076となった(図19)。すなわち本種は明るい処でよく生長するが、林床のような暗い環境(後述)では生長が著しく悪くなると考えられる。このことは、本種が主に道路沿いや草原といった明るい環境下に分布する理由の一つであると推察される。

 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、3%区で0.06、100%区で4.3と相対光量子密度が高い区ほど高くなり、特に13%以下の光条件区で著しく低い値となった。

 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、暗い光条件の区ほど高くなったが、その変化率は大きいものではなかった。

 以上の結果から、本種のRGRが光条件の明るい区ほど高くなった原因は、NAR、すなわち光合成活性の変化であると考えられる。

 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表すSLA(m2 g-1)は、3%区で0.068、100%区で0.038と相対光量子密度が高い区ほど低くなり、特に100%区で著しく低い値となった。器官別重量比はSLAと同様に100%区で著しく低下したので、結果としてLARは100%区では低くなったものと考えられる。

 

・カモガヤ

 異なる光条件下において、カモガヤの相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区では約0.0(有意な増加なし)、9%区では約0.016、13%区では約0.032、100%区では約0.096となった(図20)。すなわち本種は明るい処でよく生長するが、林床のような暗い環境(後述)では生長が著しく悪くなると考えられる。このことは、本種が主に道路沿いや草原といった明るい環境下に分布する理由の一つであると推察される。

 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、3%区で0.0(有意な値なし)、100%区で4.0と相対光量子密度が高い区ほど高くなり、特に13%以下の光条件区で著しく低い値となった。

 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、暗い光条件の区ほど高くなったが、その変化率は大きいものではなかった。

 以上の結果から、本種のRGRが光条件の明るい区ほど高くなった原因は、NAR、すなわち光合成活性の変化であると考えられる。

 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表すSLA(m2 g-1)は、3%区で0.068、100%区で0.044と相対光量子密度が高い区ほど低くなり、特に100%区で著しく低い値となった。器官別重量比はSLAと同様に100%区で著しく低下したので、結果としてLARは100%区では低くなったものと考えられる。

 

・ハリエンジュ

 異なる光条件下において、ハリエンジュの相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区では約0.0(有意な増加なし)、9%区では約0.02、13%区では約0.03、100%区では約0.04と100%区でも比較的低くなった(図21)。すなわち本種は明るい処でよく生長するが、林床のような暗い環境(後述)では生長が著しく悪くなると考えられる。このことは、本種が主に道路沿いや河川敷といった明るい環境下に分布し、その形成する樹林には、本種の実生がほとんどない理由の一つであると推察される。

 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、3%区で0.0(有意な値なし)、100%区で3.0と相対光量子密度が高い区ほど高くなり、特に13%以下の光条件区で著しく低い値となった。

 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、暗い光条件の区ほど高くなったが、その変化率は大きいものではなかった。

 以上の結果から、本種のRGRが光条件の明るい区ほど高くなった原因は、NAR、すなわち光合成活性の変化であると考えられる。

 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表すSLA(m2 g-1)は、3%区で0.090、100%区で0.035と相対光量子密度が高い区ほど低くなり、特に100%区で著しく低い値となった。器官別重量比は大差はなかったが100%区での低下がみられたので、結果としてLARは100%区では低くなったものと考えられる。

 本種の器官別重量比は、生育光条件区間で大差がなく、特に葉への分配率はほとんど差がない。このような生長特性は、陽樹特有のものである。陽樹とは、日光のよく当たる明るい場所でよく育つが、密で暗い環境では生育できない樹木である。暗い環境下でも生存・生長できる耐陰性のある植物は、相対光量子密度の低い場所では資源の分配を葉へと集中させたり葉を薄くする(SLAを増加させる)ことによって、LARを増加させ、暗い環境下で少しでも光を獲得しようとする。しかしハリエンジュは陽樹なので、今回の実験結果のように暗い環境下でも器官別重量比とSLAが変わらず、結果としてNARの低下を補えずにRGRの低下を招くのである。

 渡良瀬川流域におけるハリエンジュの分布調査で、河川敷のヨシなど比較的背の高い在来植物が繁茂している場所では、これらの植物に被圧(覆い隠されて光不足で生育不良をきたすこと)されてハリエンジュの実生がほとんど確認されなかった(慶野 2005)。このことからも、ハリエンジュは陽樹としての生長特性を持ち、光条件に生長が大きく左右されてしまうと推察される。

 

・オオブタクサ

 異なる光条件下において、オオブタクサの相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、相対光量子密度3%区では約0.002、9%区では約0.051、13%区では約0.060、100%区では約0.092となった(図22)。すなわち本種は明るい処でよく生長するが、林床のような暗い環境(後述)では生長が著しく悪くなると考えられる。このことは、本種が主に道路沿いや河川敷といった明るい環境下に分布する理由の一つであると推察される。

 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、3%区で0.05、100%区で5.9と相対光量子密度が高い区ほど高くなり、特に13%以下の光条件区で著しく低い値となった。

 各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、13%区以下の暗い処理区では0.03であったが、100%区では0.019とこれより低くなった。

 以上の結果から、本種のRGRが光条件の明るい区ほど高くなった原因は、NAR、すなわち光合成活性の変化とLAR、すなわち葉の量の変化であると考えられる。

 各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表すSLA(m2 g-1)は、3%区で0.078、100%区で0.028と相対光量子密度が高い区ほど低くなり、特に100%区で著しく低い値となった。器官別重量比は13%以下の光条件区ではほとんど変化がないが、100%区では著しい低下がみられたので、結果としてLARは100%区では低くなったものと考えられる(荒木 2011)。

 異なる土壌窒素濃度下において、オオブタクサの相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、無施肥条件区(NA区)では約0.042、3000倍施肥条件区では約0.069、1000倍施肥条件区では約0.081となった(図23)。施肥条件区NAでのRGRの値を基準とすると、施肥条件区3000倍ではNAの約1.7倍、施肥条件区1000倍では約1.9倍の値となり、施肥しない場合でも十分に生長するが、より多く施肥した方がより早く生長するといえる。

 光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、無施肥条件区で2.6と最も低くなり、これに対して3000倍施肥条件区、1000倍施肥条件区ではそれぞれ4.7、5.3と倍近い値となった。LAR、SLAには処理区間で有意な差は見られなかった。

 以上の結果から、本種のRGRが、土壌窒素濃度が高い区ほど高くなった原因は、NAR、すなわち光合成活性の変化であると考えられる。

 茅島(2005)もオオブタクサについて類似の施肥実験を行い、ハイポネックス1000培養液が本種の生長を著しく促進することを明らかにした。これらのことは、本種が原産地の北米で低地の湿地や畑地といった土壌窒素含量が比較的高い立地で繁茂している(鷲谷 1996)ことの原因の一つであると推察される。

 

栽培時の環境条件

 栽培実験期間中の群馬大学荒牧キャンパス構内の裸地における気温と光量子密度の季節変化(図24)をみると、気温はほとんどの日時で20℃〜40℃の範囲内、PPFDの日最高値はほとんどの日で500μmolm-2s-1以上であったので、植物の生育にとっておおむね適当な条件であったと考えられる。ただし、2010年は記録的酷暑の年であり、7月〜9月の日最高気温がしばしば40℃を越えていたので、植物の生長にとって何らかのマイナス影響があった可能性は否めない。

 

外来植物生育地の土壌窒素濃度

・オオブタクサ生育地(菅平、前橋市内利根川河川敷)

 菅平オオブタクサ群落の土壌の全窒素濃度(N mg L-1)は53.9、このうち硝酸態窒素濃度(NO3 mg L-1)は48.4、亜硝酸態窒素(NO2 mg L-1)は1.3、アンモニア態窒素濃度(NH4 mg L-1)は4.2であり、アンモニア態比は0.08であった(表6図25)。

 利根川オオブタクサ群落では、Nは39.8、このうちNO3は26.8、NOは2.8、NH4濃度 は10.2であり、アンモニア態比は0.27であった。

 菅平オオブタクサ群落は畑の横であるため、畑に用いられている肥料により土壌窒素濃度が高くなったと考えられる(写真8)。

 利根川オオブタクサ群落では、肥料が使用されている地点ではないのにもかかわらず、菅平と同レベルの高い土壌窒素濃度となった。この地点の周りにはクズが生育している。クズはマメ科の多年生つる植物で、ハリエンジュと同じく根に根粒菌を共生させて窒素を固定させることで土壌を富栄養化させる性質がある。茅島(2005)によると、クズのない地点と比べるとクズのある地点では、NO3濃度は2.9倍〜4.0倍高くなることがあり、今回の利根川オオブタクサ群生地においてもクズによってNO3濃度が高くなったものと考えられる。また利根川でのアンモニア態比が菅平よりも高くなっているが、これは利根川河川敷の土壌が、含水率の高い状態が多いため、還元的な土壌環境になっているためと推察される。

 オオブタクサの施肥実験に用いた肥料(ハイポネックス)は、主に硝酸態窒素を含んでおり、アンモニア態窒素は非常に少ない。施肥時のNO3は、3000倍区では34.3(mg L-1)、1000倍区では103.0となっていた。菅平と利根川のオオブタクサ群落の土壌には、施肥実験における3000倍区と同等かそれ以上の濃度のNO3が含まれているといえる。すなわちオオブタクサの生育地では、高い土壌窒素濃度により本種の生長が促進されていると推察される。

 

・神流川・渡良瀬川

 ハリエンジュが現在樹林化している林床における土壌窒素濃度は、桐生大橋横ハリエンジュ林林床では、Nは43.7、そのうちNO3は34.0、NO2は1.3、NH4は8.4であり、アンモニア態比は0.19であった(表6図25)。神流川ハリエンジュ林林床では、Nは160.4、そのうちNO3は132.2、NO2は10.0、NH4は18.2であり、アンモニア態比は0.15であった。

 神流川でハリエンジュを除去した裸地における土壌窒素濃度は、Nが91.6、そのうちNO3 は83.4、NO2は4.0、NH4は4.3であり、アンモニア態比は0.07であった。

 もともとハリエンジュがほとんど生育していない神流川河川敷における土壌窒素濃度は、Nが28.9、そのうちNO3は11.8、NO2は0.5、NH4は16.6であり、アンモニア態比は0.53であった(表6)。

 ハリエンジュが生育している土壌のNが高い原因は、マメ科の根に共生している根粒菌にある。根粒菌が空中の窒素ガスを固定することで、ハリエンジュの体内窒素濃度が高くなり、そこから供給されるリター(落葉、落枝)から土壌に窒素が供給されるものと考えられる。神流川と渡良瀬川のハリエンジュ林林床の土壌には、オオブタクサ施肥実験における3000倍区と同等かあるいは1000倍区に匹敵するかそれ以上の濃度のNO3が含まれているといえる。このような富栄養化は、オオブタクサのような窒素濃度が高いほどよく生長するタイプの植物の成長を促進すると考えられる。外来植物にはこのタイプが多いと思われるので、ハリエンジュ林林床の植生を調査してみる必要がある(後述)。

 神流川ハリエンジュ除去裸地では、2010年の春頃にハリエンジュの皆伐・抜根作業が行われ、その際に地表近くの土壌も一緒に除去された。しかし今回の分析によって、NO3が未だに高い状態にあることが明らかになり、その値は、もともとハリエンジュの生育がほとんどない地点と比べても3倍もあった。以上の結果は、ハリエンジュを地表近くの土壌ごと除去しても、土壌の富栄養化影響は除去が困難であることを表していると考えられる。

 

ハリエンジュ林内における相対光量子密度の季節変化

 群馬大学荒牧キャンパス構内のハリエンジュ林林床では、2010年6月8日から2010年10月18日の間、ハリエンジュの葉が茂っているため相対光量子密度が10%程度以下となり、およそ4ヶ月間、ハリエンジュ林の林床では暗い環境が続いていた(写真7表7図26)。このためか林床の植物種は非常に少なく、アズマネザサが林床全面を覆っていた。なお、地点?は道路わきでハリエンジュの立木密度が低いため、相対光量子密度は調査期間の間、比較的高いままだったが、ここは毎年外来種のショカツサイが繁茂している。

 2010年10月18日の荒牧キャンパス構内のハリエンジュ林林床での相対光量子密度の値と、2010年10月17日に渡良瀬川河川敷松原橋横のハリエンジュ林林床、桐生大橋横ハリエンジュ林林床の値を比較すると、非常に近い値であるといえる。このことから河川敷に群生しているハリエンジュ林の林床においても、群馬大学のハリエンジュ林の林床と酷似した相対光量子密度の季節変化が起きていると考えられる(表8)。

 

植物相調査

 神流川では、ハリエンジュ林林床と河川敷の2カ所で調査を行った。神流川ハリエンジュ林林床では、ハリエンジュを含めて36種の植物の生育が確認された。科ごとでみると、キク科(6種)、イネ科(3種)、マメ科(3種)の植物が多い。外来植物種は10種確認された。10種の外来植物種の中には、オオブタクサやセイタカアワダチソウなどの競争力の強い種が含まれていた(写真1)。外来植物は一般的に土壌が富栄養化している方が生育に適している(鷲谷・森本1993)。そのため、ハリエンジュによって林床が暗い環境となっても、マメ科の植物に共生している根粒菌によって土壌が富栄養化し、外来植物が十分に生育することができると考えられる。また、ハリエンジュの葉、茎、根のどの器官においても、ハリエンジュを含め植物の発芽を抑制する成分が含まれており、外来植物よりも在来の植物に対しての抑制効果が高いことが過去の研究より示されている(ペレンゲル 2010;河田 2009)。本研究の相対光量子密度の季節変化計測により明らかになったように、ハリエンジュが多く生育すると、暗い環境が4ヶ月近く続く(図26)ことも含めて、ハリエンジュ林林床では在来植物が生育しづらい環境となっていると考えられる。

 神流川河川敷では、29種の植物の生育が確認された。科ごとでみると、イネ科(7種)、キク科(5種)の植物が多い。外来植物は13種確認された。神流川上流には下久保ダムがあり、そこから定期的に放水が行われているため、下流となる調査地点の河川敷は攪乱された状態が続いている環境であると考えられる。そのため、河川敷で確認された植物は攪乱地依存型の植物や日当たりの良い環境、河原などの水辺の環境を好む植物が多くみられた。なお、神流川河川敷には準絶滅危惧種のカワヂシャが生育しており、今回の植物相調査で36個体を確認した(写真34表9)。

 渡良瀬川では、松原橋横ハリエンジュ林林床、桐生大橋横ハリエンジュ除去地(段丘と人工河道内)および桐生大橋横ハリエンジュ残存林林床で調査を行った。松原橋横ハリエンジュ林林床では、34種の植物の生育が確認された。そのうち外来植物は6種だった。競争力の高いオオブタクサやセイタカアワダチソウが生育しており、草本相は神流川ハリエンジュ林林床と類似していた。しかしここでは、エノキ、オニグルミ、カジノキなどの在来高木8種の稚樹が多く生育しており、木本相は神流川ハリエンジュ林林床とは異なり、本来の在来木本種で構成される本来の河川敷雑木林が再生してきているものと推察される。また、ハリエンジュ林の中にオギが密生していた場所があり、そこではハリエンジュの実生はみられなかった(写真5表10)。これは、ハリエンジュが陽樹であるため、オギの密生下の暗い環境では生育できないためと考えられる。

 桐生大橋横段丘1段目では13種の植物の生育を確認し、そのうち外来植物は1種であった。段丘1段目は、調査日以前に刈り取りが行われていたため、確認できた種数が少なかった。段丘2段目では27種の生育を確認し、そのうち外来植物は8種だった。河川敷を生育地として好むオオブタクサの多数の生育が確認された。ハリエンジュと同じくクズもマメ科に属し、根に根粒菌を共生させているので土壌を富栄養化させる効果がある。このためクズの生育している河川敷では、巨大なオオブタクサが出現することが多い。人工河道内では、18種の植物の生育を確認し、そのうち7種が外来植物であった。放水路としての役割を持つ人工河道であるが、普段は水が少量しか流れていない。このため湿地などの水辺を好む在来種アキノウナギツカミや特定外来種オオカワヂシャ、外来種オランダガラシなどが生育していた。桐生大橋横ハリエンジュ林林床では、16種の植物の生育を確認し、そのうち3種が外来植物だった。ここでは、オギの多数の生育がみられた。ハリエンジュ林の近くにオギとススキの密生地帯があり、そこから種子が散布され定着したものと考えられ、桐生松原橋横ハリエンジュ林林床でもみられたように、オギの密生する場所ではハリエンジュの生育は確認されなかった(写真6表11)。

 以上の結果より、ハリエンジュの皆伐・抜根と表土の除去は、その後の自然な河川植生の回復にある程度効果があると考えられる。しかし、ハリエンジュやオオブタクサを含む外来植物の再侵入・再生長を放置すれば、結局外来植物の巣窟になってしまう危険性も高いと思われる。

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