結論

 本研究により、外来植物の多くは、発芽・初期生長過程の特性に種ごとに違いはあるが、いずれも生存競争を勝ち抜くような特性を持ち、定着能力が高いことが明らかとなった。

 種子発芽の温度依存性解析により、オオキンケイギク、オオブタクサ、ヒメモロコシ、イヌムギ、カモガヤの種子において、早春または土壌中に十分な水分があれば冬季からでも発芽が始まり、早い時期からの発芽によって生育期間が長くなり、他種よりも大きく生長する可能性が示唆された。オオキンケイギク、オオブタクサの2種では、高温下で種子の二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性が示唆された。すなわち、これらの種の種子のうち、早春に発芽しなかった種子は、次年の最適な発芽時期になるまで土壌シードバンクを形成するものと考えられる。アメリカセンダングサの種子は、発芽するためには2ヶ月以上の冬を経験することが必要で、約4ヶ月間におよぶ長期間の間に、広い温度域で発芽することが可能であることが示唆されたが、最終発芽率はいずれの処理温度下でも高かったため、土壌シードバンクは形成しないと推察された。ハリエンジュの種子は、不透水性の種皮が傷つき、種子の吸水がなされれば、冬を経験する必要はなく、高い温度下(17/8℃〜30/15℃)なら5日以内にほとんどの種子が発芽し、低温下(10/6℃)でも時間をかければ約80%の種子が発芽したため、広範な温度条件下で発芽が可能であると考えられる。

 異なる光条件下で栽培した外来植物の生長解析により、オオキンケイギク、オオブタクサ、イヌムギ、カモガヤは、明るい場所でよく生長することが示された。これらの種は他種の実生がみられない冬季または早春から発芽する特性を持つ植物であるため、このような生長特性を有するものと考えられる。アメリカセンダングサは、明るい環境下でよく育ち、比較的暗い環境下でもある程度の耐陰性を持っているので生育することが可能であると考えられる。ハリエンジュは、陽樹特有の生長特性がみられ、暗い場所では極端に生育が阻害されることが明らかとなった。河川敷の攪乱地に多く生育がみられるハリエンジュは、陽樹としての特性を生かして、明るい立地で早く生長して他種を圧倒する優占種となると考えられる。

 異なる土壌窒素濃度下で栽培した生長解析により、オオブタクサは土壌窒素濃度が高いほど早く生長することが明らかになった。オオブタクサは、最も土壌窒素濃度の高いハイポネックス1000倍施肥区において、無施肥条件区NAの約2倍の相対生長速度を示した。

 各地のオオブタクサ群落下で採取した土壌の窒素濃度分析を行った結果、ハイポネックス3000倍施肥区に相当する窒素濃度が検出された。菅平オオブタクサ群落では、畑に用いられる肥料により、利根川オオブタクサ群落では、マメ科植物のクズに共生する根粒菌による窒素固定よって土壌窒素濃度が高くなったと考えられ、オオブタクサが生育する場所では、土壌が富栄養化しており、オオブタクサが今後さらに巨大化する可能性が示唆された。

 ハリエンジュが樹林化している神流川と渡良瀬川の河川敷で採取した土壌の窒素濃度分析を行った結果、ハイポネックス3000倍施肥区に相当、または1000倍施肥区以上の窒素濃度が検出された。ハリエンジュはクズと同様、根に共生する根粒菌によって空中窒素を固定し、土壌を富栄養化させるといえる。このためハリエンジュは貧栄養土壌に適応している在来種を排除し、富栄養化土壌を好む競争力の強いオオブタクサなどの外来植物の侵入を助長していると考えられる。

 群馬大学荒牧キャンパス構内のハリエンジュ林林床で相対光量子密度の季節変化を計測したところ、ハリエンジュの葉が展開し始める6月の上旬からおよそ4ヶ月間、林床は相対光量子密度10%程度以下の暗い環境が続くことが示された。

 神流川、渡良瀬川で行った植物相調査によって、ハリエンジュ林林床やクズの群生している場所では、土壌が富栄養化しており、オオブタクサやセイタカアワダチソウなどの競争力の強い外来植物の生育が確認され、河川敷において外来種が優占種となる危険性が示唆された。

 以上のような河川敷における現状を放置すれば、ハリエンジュによる土壌の富栄養化と光環境の悪化がさらに進行するのではないかと危惧される。また、同じように主に河川敷を生育場所とするオオブタクサなどの、土壌が富栄養化した環境を好む競争力の強い外来植物が、今後さらに河川敷の植生に侵入する危険性が高いとも考えられる。日本の河川敷に生育する在来植物種の多くが、貧栄養土壌に適応しており競争に弱い種なので、競争に強い在来・外来の植物と競合すれば淘汰され衰退していく危険性が高いであろう。今後さらに外来植物の分布状況や環境適応様式について、研究を進めていく必要がある。

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