結果および考察

リター生産

 群馬大学構内混交林において、リターフォール=リター生産速度は11〜12月に最大(0.07t/ha/day)、7〜8月に最低(0.003t/ha/day)となった(図1)。本研究では12月〜3月のリターフォールを計測していないので、この間の値を亀澤(2002)の結果を用いて推測して補完すると、一年間の総リター生産量は 6.2t/ha/yearと推定された(図2)。町田(2005)によると2004年の本混交林におけるリター生産速度は、11〜12月に最大(0.08t/ha/day)、8〜9月に最低(0.006t/ha/day)となり、一年間のリター生産量は7.7t/ha/yearと算出された。したがって、リター生産量は2004年に比べて19%少ないことになる。2005年は2004年と比べて真夏日が非常に多いなど、木本植物の生育条件が悪かったためなのかもしれない。堤(1989)によれば、わが国の森林におけるリターフォール量は、3〜8t/ha/yearであるが、この量は気候によって異なり、温度の増加とともに多くなる。日本の緯度35°前後における温帯では、リター生産量は約6t/ha/year前後とされている。したがって2004年と2005年に算出されたリター生産量は、この一般的な値とほぼ同等であると考えられる。

 リター生産は2004年と同様10月〜12月に集中していた。これは、落葉広葉樹(コナラ、クヌギ)の落葉によるものであると考えられる。また、常にある程度以上のリター生産速度があるのは、常緑針葉樹であるアカマツから年中少しずつ落葉しているためであると考えられる。

土壌CO2放出速度測定時の地温・土壌含水率の季節変化

 土壌CO2放出速度測定と同時に測定した地点で、同時に測定した瞬間値である。土壌CO2放出速度測定と同時に測定した瞬間の地温は、大きな地点間変異はなかった(図3)ので、各月の平均値について検討することにする。月別に平均すると、地温は7月〜8月に最も高く(23.0℃〜24.8℃)、12月に最も低く(7.5℃)なった(図4)。群馬大学構内混交林において、一年を通して連続測定した地温(図5)は、1月に最低値(6.0℃)で一定であり、無積雪期間は絶対値、季節変化パターンともに、瞬間値とほぼ同等となった。すなわち、土壌CO2放出速度測定によって人為的に地温が変化したことはなく、自然状態により近い状態で測定を行うことができたといえる。町田(2005)によると、2004年の地温は7月〜9月に最も高く(24.0℃程度)、12月に最も低く(9.7℃)、2005年の地温季節変化パターンとほぼ同等であった。

 土壌含水率は測定地点間で差異がみられ、季節にかかわらず10〜30%の分散があった(図6)。これらの値を月ごとに平均すると、10月に最も高く(45.9%)、4〜6月に最も低く(19.0%)なった(図7)。10月は、測定中に小雨が降ったため測定を一時中断し、雨が止んでからふたたび測定を開始したため含水率が高くなったと考えられる。町田(2005)によると、2004年にも測定地点間で差異がみられ、季節にかかわらず10〜40%の分散があった。これらの値を月ごとに平均すると、5月に最も高く(34.6%)、7〜9月に最も低く(12.7%)なった。2004年5月は、台風によって土壌含水率が高くなったと考えられる。土壌含水率は降雨など気象条件の影響を受けやすいため、このように連続する2年の間でも値に大きな差異が生じたものと考えられる。今後は、土壌含水率も連続測定の必要があると考えられる。

土壌CO2放出速度

 測定地点間別に比較すると、特に地点14では常に値(2.0g/hr/m2)が高く(図8)なった。地点14を除いても、土壌CO2放出速度に有意な差異がみられた。7・8月には、地点7で連続して値が高く(2.7g/hr/m2)、これに比べると地点2は連続して値(0.6g/hr/m2)が低かった(図8)。土壌CO2放出速度は、土壌中の微生物がリターを分解することで放出されるCO2、植物根の呼吸によるCO2、それ以外の地中深くから放出されるCO2の3つが含まれている。したがって、こうした地点間の持続的な変異は、リター量(リターの厚さ)の違いの他に、土壌微生物植物根の量的違いなどにも起因するものと推察される。

 月ごとに平均すると、土壌CO2放出速度は7・8月に最も高く(1.5g/hr/m2)、11月に最も低く(0.3g/hr/m2)なった(図9)。町田(2005)によると、2004年の本混交林における土壌CO2放出速度は5・6月に最も高く(1.4g/hr/m2)、12月に最も低く(0.2g/hr/m2)なった。2004年と2005年の土壌CO2放出速度は季節変化、値もほぼ同等であったといえる。すなわち、本混交林においては、地温の低い冬期には、土壌含水率にかかわらず土壌CO2放出速度が低くなり、地温の高い春から夏にかけては、土壌含水率が高い時のみ、土壌CO2放出速度は高くなることが示された。

地温と土壌CO2放出速度の間には、有意な正の相関がみられた(図10)。地温は夏期に高く、春・冬期に低かったので、土壌CO2放出速度が春・冬期に低下するのは、地温の低下が一因であると考えられる。

 土壌含水率と土壌CO2放出速度の間には、有意な正の相関がみられた(図11)。微生物によるリター分解速度や植物根の呼吸速度は土壌含水率と密接な関係をもっており、土壌含水率の高い夏に高く、土壌含水率の低い冬には低くなる(堤 1989)。したがって、これらの生物活性から構成される土壌CO2が放出速度も、土壌含水率が高い季節に高くて土壌含水率の低い季節に低くなるために、このような相関関係が生じたと考えられる。また、日本の平地森林のように土壌含水率に大きな季節変化のある土壌においては、土壌含水率も土壌CO2放出速度の季節変動をもたらす主な要因となると考えられており(木村・波多野 2005)、本研究の結果もこれを支持するものである。

群馬大学構内混交林において、連続測定した地温(図5)と、地温とCO2放出速度の瞬間値の関係式(図10、CO2放出速度瞬間値=地温×0.66604-0.3689)を用いて算出したCO2放出速度の月別積算値は8月に最も高く(955.1g/m2/month)、12月に173.3g/m2/monthと最も低くなった(図12)。こうした季節変化パターは、携帯型CO2センサーを用いて測定した瞬間値の季節変化パターン(図9)と整合性のある結果である。すなわち、土壌CO2放出速度測定によって人為的に土壌CO2放出速度が変化したことはなく、自然状態により近い状態で測定を行うことができたといえる。

土壌CO2放出因子分解

土壌から放出されるCO2には、土壌微生物のリター分解によって放出されるCO2の他に、植物根の呼吸や大型土壌動物の呼吸が含まれる。河原との玉原高原ブナ林での共同研究においては、ブナは細根層がリター直下にあるため、リター、細根をほとんど攪乱なしに除去することが可能である。今回はこの特性を利用して、玉原高原ブナ林において.リター、細根を順番に除去して測定を行った結果、CO2はリターから39%、細根から33%、細根層より深い土壌から27%の割合で放出されていると算出された。本混交林では、根圏分布が複雑なためこのような実験ができなかったため、玉原高原ブナ林で得られた値を基にして、各放出源別のCO2放出速度を算出した(表1)。木村・波多野(2005)によると微生物・土壌動物によるCO2生成量の方が、植物根の呼吸によるCO2生成量よりもやや大きく、全体の30〜70%であるとされている。まだ一定の値は得られていないが、今回の結果は、この従来の結果と整合性のある結果であるといえる。今後はさらに測定点、測定回数を増やして、季節変化を考慮した解析を行う必要がある。

 

リター分解速度

リターの水分量の推定がうまくいかなかった(表2)ため、リター分解速度の値がマイナスと算出され月別のリター分解速度は正確に測定できなかった(表3)。このため、年間平均リター分解速度のみを示す(図13)。また、10月からリターバックとダミーリターバックをサンプリングしなければならなかったが、アクシデントにより、12月にサンプリングを行った。年間リター分解速度は、全地点が全体平均値とほぼ同等(0.00191g/g/day)となり、地点間に大きな差異はなかった。町田(2005)によると、2004年の本混交林林床での分解速度は、測定期間(4月〜12月)の平均で0.002g/g/dayと、2005年の値とほぼ同等であった。堤(1989)によると、コナラの4月〜11月までのリター分解率は38.2%とされている。本研究で算出された2005年同時期の本混交林におけるリター分解率は39.4%、2004年は34.1%であり、上記の一般的とされる値とほぼ同等となった。

本混交林林床における平均リター分解速度0.00191g/g/dayに無積雪期間(258日)と12月から3月の値を亀澤(2002)の結果を用いて算出した年間のリター分解率は約70%となる。すなわち、生産されたリターのうち、約30%が翌年に持ち越されるものと推定される。2004年においては年間のリター分解率は約76%程度(町田 2005)であり、気象条件に年格差があるとしても、年間のリター分解率は比較的安定しているものと考えられる。今後は、リターの含水率を正確に測定する手法を開発する必要がある。

<玉原高原ブナ林との比較>

リター生産

 玉原高原ブナ林において、リター生産速度は11月から12月に最大(0.07t/ha/day)となり、7・8月に最低(0.005t/ha/day)となった(河原 2006)。玉原ブナ林では冬季積雪期間のリターフォールは測定できなかったが、この期間の値をゼロとするならば、一年間のリター生産量は4.5t/ha/dayと算出された(河原 2006)。堤(1989)によれば、高緯度で気温の低い地域ほど、年間リター生産量は小さくなる。すなわち玉原高原ブナ林のほうが高地に位置して気温が低いため、群馬大学構内混交林よりも年間リター生産量が低くなったものと考えられる。また立木密度は、玉原高原ブナ林で1haあたり約487本、群馬大学構内混交林では1haあたり約1466本(町田 2005)である。群馬大学構内混交林の立木密度は玉原高原ブナ林の約3倍となっており、この違いによるとも考えられる。

土壌CO2放出速度測定時の地温・土壌含水率の季節変化

 群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林の間で地温を比較すると、全体としておよそ5〜11℃、群馬大学構内混交林の方が高かった(河原 2006)。

 群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林の間で土壌含水率を比較すると、全体として群馬大学構内混交林における土壌含水率は約10〜50%、玉原高原ブナ林における土壌含水率は最低でも60%ある(河原 2006)。すなわち、群馬大学構内混交林の土壌含水率は玉原高原ブナ林の土壌含水率より常に低いといえる。

土壌CO2放出速度

地温と土壌CO2放出速度の間には、群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林の2調査地いずれにおいても、有意な正の相関がみられた(河原 2006)。地温は測定期間内において、およそ5℃〜11℃玉原高原ブナ林のほうが低かったので、群馬大学構内混交林よりも相対的に寒冷な玉原高原ブナ林のほうが、より低い地温下でも土壌CO2放出速が高くなるものと考えられる。

土壌含水率と土壌CO2放出速度の間には、群馬大学構内混交林において有意な正の相関がみられ、玉原高原ブナ林では、有意な相関はみられなかった(河原 2006)。玉原高原ブナ林では、土壌含水率が年間を通して60%以上と非常に高い状態にあるのに対して、本混交林では10%-50%と大きな季節変化が見られた。このため、玉原高原ブナ林では土壌含水率が土壌CO放出速度の制御因子として影響せず、逆に本混交林では制御因子として大きく影響しているものと考えられる。

リター分解速度

 玉原高原ブナ林林床での無積雪期間の平均リター分解速度は、測定期間(5月〜11月)の平均で0.00194g/g/dayと算出され、群馬大学構内混交林と同等の値となった。堤(1989)によると、コナラの4月〜11月までのリター分解率は38.2%とされており、本研究で算出された同時期の群馬大学構内混交林における2005年のリター分解率は39.4%、玉原高原ブナ林においては25.6%であった。すなわち、コナラリターを多く含む群馬大学雑木林のリター分解率はコナラのリター分解と同等であり、ブナリターはこれに比べると分解されにくいかもしれない。今後は、ブナリターとコナラリターを同じ制御温度条件下で培養して分解速度を比較するなど、さらに精緻な実験による検討が必要であると考えられる。

 玉原高原ブナ林林床でのリター分解速度0.00194g/g/dayに無積雪期間(181日)をかけると、年間のリター分解率は約35%となる。これに対して群馬大学構内混交林においての年間リター分解率は70%となった。この差異は、積雪によるリター分解の停止期間の有無によるものと考えられる。

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