結果および考察

<ハリエンジュ>


1.渡良瀬川流域における分布現況

 渡良瀬川流域における分布現況調査により、ハリエンジュが複数本生育している地点が、合計68地点確認された(表6)。なお、桐生市赤岩橋から足利市までの渡瀬川流域については、あまりにも多くのハリエンジュが生育していたため、記載していない。赤岩橋よりも上流でハリエンジュが分布していたのは、主として土砂の堆積する河川敷が形成されている地点であり、数地点においてルートサッカーの出現が確認された。一方、渡良瀬川上流には随所に大きな岩だけで形成された河原があるが、こうした地点ではハリエンジュは生育していないことも確認された。また上流の足尾の山間部においては、ハリエンジュが多数植林されており、ここから種子が川の流れに乗って運ばれるために、中流域の川の中州や河川敷にハリエンジュが多数分布しているのではないかと考えられる(図23)。
 足利よりも下流の栃木県佐野市周辺においては、ハリエンジュの分布はほとんどみられなかった。このあたりの、河川敷にはヨシなど比較的背の高い在来草本植物が繁茂しており、ハリエンジュのはこれらの植物に被圧(覆い隠されて光不足で生育不良をきたすこと)されて生育できないのではないかと推察される。
 桐生川においては、上流の標高420m付近まで探索したが、ハリエンジュの分布はみられなかった。
 以上より、渡瀬川流域におけるハリエンジュの分布域は、土砂の堆積する河川敷および扇状地状に開けた桐生市内が主で、岩石河原や、足利市よりも下流のヨシなどの繁茂する河川敷には生育していないことが明らかになった。

2.ハリエンジュの種子発芽特性

 ハリエンジュの種子は、種皮に傷をつけて不透水性を解除し、かつ種皮に含まれる発芽阻害物質(培養初期に蒸留水を茶色に染めた物質がそれであると推察される)を除去しないと、ほとんど発芽しないことが明らかになった(図24)。
 発芽の温度依存性をみると、30/15℃、25/13℃の両温度条件下では最終発芽率が20%に満たなかった。これらの高温条件下において発芽率が低かったのは、吸水後にほとんどの種子が腐ってしまったためである。これに対し、22/10℃、17/8℃、10/6℃では種子が腐ることはなく、最終発芽率は40%〜80%であった。また、温度が低い区ほど最終発芽率が高かった(表7)。
 以上の結果から、野外におけるハリエンジュの種子発芽には、まず種皮に傷がついて吸水が可能となること、および種皮に含まれるであろう発芽阻害物質が、洗い流されることが必要不可欠であると考えられる。このような第1条件は、まさしく河川敷において充足されるものと考えられ、ハリエンジュが河川敷で猛威をふるっている原因の1つと推察される。また発芽が低温で非常に良いことから、本種が寒冷な北方の河川において、今後も分布域を拡大する恐れがあると考えられる。

3.年輪解析

 非萌芽幹と萌芽(ルートサッカーを含む)幹の間には、年輪ごとに積算した積算半径の増加パターンには顕著な差はみられなかった
図25)。しかし、非萌芽幹の初期年輪を確認することはできなかったので、この比較は非萌芽幹が比較的高い生長速度を有する時期と、萌芽幹の初期生長期を比較していることになっていることに留意しなくてはならない。すなわち萌芽幹は、非萌芽幹の”最大”生長速度に匹敵する速度で、発生初期から生長するものと推察される。清水(1999)も、萌芽によるハリエンジュの旺盛な再生能力を報告している。こうした生長の早い萌芽という生存様式を有することも、ハリエンジュが河川敷で大きな林を形成する一因であると考えられる。

4.群馬大学荒牧キャンパス構内における樹高・DBHの頻度分布

 群馬大学荒牧キャンパス構内において、ハリエンジュとハナダイコンが同所的に生育している地点(本稿ハナダイコンの章を参照)で、ハリエンジュの樹高とDBHを測定した。すべてのハリエンジュについて樹高を測定することは、莫大な労力を有するので、まずは12本の木について樹高とDBHの関係を定式化した。その結果、ハリエンジュの樹高(H)とDBHの間に、以下のような関係式を得た(図26)。
   H (m) =21.75-12.88log(DBH)(m)
ただし樹高が15mを越えるものについては、写真撮影の際に木をあおって撮影しているので、過小評価になる可能性が高い。
 群馬大学荒牧キャンパスのハリエンジュ林は、キャンパス造成から今日までの約30年間で形成されたと考えられる。測定した木のうちで樹高が最も高いものは18mあり、14m以下の樹木が32本中29本あったこと、DBHにおいて0.3m以下の樹木が32本中30 本あった(図27)。すなわち、このハリエンジュ林では多くの成木が生長途中にあり、さらに、倒木による萌芽や萌芽更新で本数が増加する可能性もあるので、今後さらに多くの種子を生産し分布を拡大していく危険性が高いと考えられる。また、このハリエンジュ林の林床にはハナダイコンの大群落があるので、ハナダイコンの開花・結実期の春から初夏、さらにハリエンジュが落葉する秋にかけて、ハナダイコン群落下に生育する在来植物は、十分な光を受けられないため生育できず、排除されてしまう可能性が示唆された。

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