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教員紹介

富山慶典 (とみやま・よしのり)教授

富山慶典

TOMIYAMA, Yoshinori

  • 出身地: 東京都
  • 最終学歴/学位: 東京理科大学大学院理工学研究科博士課程/工学博士(東京工業大学)
  • 研究室: 社会情報学部棟405
  • 所属学会:数理社会学会,社会情報学会(SSI),日本行動計量学会,日本地域学会,日本計画行政学会
  • 専門分野: 意思決定科学,集合的意思決定論,eデモクラシー論
  • 担当科目: 意思決定科学,行動的決定理論,集合的選択論,記号論理学,情報処理演習,情報処理入門
  • 個人ページ: http://www.si.gunma-u.ac.jp/~tomiyama/index.html

現在の研究テーマ


代表的な研究業績

専攻分野・研究内容紹介

個人の意思決定 −決める過程が大切−

「アイスクリームは好き?」と聞かれたら,イエスと答えますか,ノーと答えますか。「宿題は?」と聞かれたら,どうでしょうか。みなさんの多くは,あれこれ想像して「アイスクリーム,イエス」「宿題,ノー」と答えたのではないかと思います。それでは,じつは「アイスクリームはにんにく味です」と言われたら,どうでしょうか。顔をゆがめてノーと答えるでしょう。また,「宿題は週末には出ません」と言われたら,どうでしょう。今度は,にこにこ顔でイエスと答えるにちがいありません。

これは,内容をよく確かめないですぐに決めてしまうことの怖さを,小学校低学年に授業で学ばせる教材の一部です。若者の投票率低下が社会問題となりはじめた1980年代に,米国のアリゾナに誕生した非営利団体「キッズ投票USA」によって提供されています。この団体は,未来の民主主義のために有権者予備軍である子供たちに投票にかんする教育をおこなうことを使命としています。投票するという行為自体は簡単ですが,投票行動にいたる意思決定の過程が重要であるという考え方を基本としています。

社会の意思決定 −多数決は万能ではない−

いま,それぞれの有権者が意思決定の過程を大切にして投票したとしましょう。たとえひとりひとりの有権者がよ〜く考えて投票したとしても,有権者全員の投票が同じになるとは限りません。有権者は,さまざまに異なる立場にたったり,異なる価値観を持っていたりするからです。そうだとすると,ここで新たな問題が発生します。それは「有権者の異なる投票をどのように集約して,ひとつの社会の意思決定を導き出すか?」という問題です。この問題に対する答えとして,“多数決”を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。多数決は,日本だけでなく,世界中でもっともよく知られ使われています。投票の研究でも,これまでにもっとも多く注目されてきています。しかし,多数決で物事を決めるのは常に容易であるとは限りません。『 』で囲まれた次の問題を解いてみてください。

『次の表は,A,B,Cという三つの政策の優劣について,X,Y,Zの3人が下したそれぞれの評価を示したものである。XとZは政策Aが政策Bより優れていると考え,Yは政策Bが政策Aより優れていると考えているから,この場合3人で多数決を行うと,2対1で,政策Aが政策Bより優れているという結論がでるだろう。BとC,AとCの優劣についても,同様にして決めることができる。このようにして定められたA,B,C相互の優劣の関係を前提とすると,最も優れた政策はどのように決まるだろうか。ここで,3人の多数決でAがBよりも優れているという結論がでた場合をA>Bと表示するとして,3人の多数決の結果についての記述として正しいものを,下の(1)〜(4)のうちから一つ選べ。


        最も優れた政策次いで優れた政策最も劣った政策

(1)B>Cであり,A>Bであり,C>Aとなるから,多数決で最も優れた政策を決めることはできない。

(2)A>Bであり,B>Cであり,A>Cとなるから,多数決で最も優れた政策を決めることができる。

(3)B>Cであり,C>Aであり,B>Aとなるから,多数決で最も優れた政策を決めることはできない。

(4)A>Bであり,C>Aであり,C>Bとなるから,多数決で最も優れた政策を決めることができる。』





正解は(1)です。B>CかつC>Aから,B>Aが予想されるのですが,実際には逆のA>Bとなってしまっています。つまり,B>C>A>B・・・と循環してしまうので,最も優れた政策を決めることができない,というわけです。これは,コンドルセ(Condorcet)の「投票のパラドックス」と呼ばれています。1999年の大学入試センター試験「公民」の政治・経済の問題として出題されました。

人生は意思決定の連続である

個人にも社会にも,さまざまな意思決定があります。想像してみてください! 高等学校を卒業するときには,進学か就職か。家庭なら,買いかえは洗濯機かテレビか。会社なら,事業の拡大か縮小か。地域なら,市町村合併に賛成か反対か。国なら,イラクから自衛隊を撤退させるかさせないか。国連なら,安全保障理事会を拡大するかしないか。ここにあげた意思決定はまだまだほんの一例です。人生は意思決定の連続であり,社会は意思決定で満ちているといっても過言ではありません。

よりよい意思決定を目指して

ただ決めるだけでいいというなら,何の問題もありません。サイコロを投げて決めてもいいし,他人に決めてもらってもいいからです。しかし,ただ決めればいいという状況は極めて少ないのではないでしょうか。さきの例が示すように,意思決定の結果が将来の自分や家庭,組織,地域,国,世界に大きな影響をおよぼしかねないからです。ただ単に決めるというのではなく,“よりよい決定をしなければならない”理由がここにあるのです。

よりよい意思決定のためには“情報”が不可欠です.しかし,現実に入手できる情報は不確実・不完備・不完全です.情報の収集・処理・蓄積にはさまざまなコストがかかるため,情報に無制限にアクセスすることはできず,情報の価値を評価して取捨選択しなければならないからです.人間の情報処理能力にも限界があります.これらからは何人も逃れることはできません.ここに,意思決定と情報に関する根本的な問いがあります.すなわち,「このような情報環境のもとで,われわれは意思決定をどのようにしているのか(記述的問い),どのようにすべきなのか(規範的問い),アドバイスによって他者の意思決定を改善できるのか(処方的問い)」というものです.

意思決定の研究は,人間なら誰しもが避けて通ることのできない意思決定にかんして,これまでに得られた知見を踏まえ,これらの根本的な問いに答えて,世のため人のためになる新たな知見を生み出すことをめざしています。

Last Update 2012/03/19