結果および考察

異なる土壌で栽培した植物の生長解析

・ハリエンジュ(外来植物・要注意外来種)

ハリエンジュは、ハリエンジュ林土壌で栽培中に大多数が枯死してしまい(黒土で15個体中2個体、ハリエンジュ林土壌で15個体中13個体枯死)、最終サンプリングを行うことが出来なかった。これでは生長解析が成立しないので、ハリエンジュについては、それぞれの培養土における個体の死亡率を比較する。

個体の死亡率は黒土では約13%であったのに対し、ハリエンジュ林土壌では約87%と非常に高くなった。ハリエンジュ自身も、自らが出すアレロパシー物質によって著しく生長・生存が阻害されると推察される。

・コセンダングサ(外来植物)

相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、ハリエンジュ林土壌で低くなり、有意な差が見られた(P<0.0001)。黒土では約0.04、ハリエンジュ林土壌では約0.03となった(図4)。光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、黒土では約4.7、ハリエンジュ林床土壌では約4.2だったが、有意な差ではなかった。各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、いずれの培養土でも約0.010となり、有意な差はない。

各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す(SLA, m2 g-1)は、黒土で約0.019、ハリエンジュ林土壌で約0.014と大きな差はなかった。

以上の結果から、本種の生長はハリエンジュ林土壌に含まれる思われるアレロパシー物質によって阻害されると考えられる。またハリエンジュ林土壌でのRGR方が低くなったのは、NARすなわち光合成活性の低下が原因であると考えられる。しかし、両者のNARは有意な差ではなかったので、再検証実験を行う必要がある。

・ショカツサイ(外来植物・県内危険外来種)

ショカツサイは、ハリエンジュ林土壌で栽培中に多くの個体が枯死してしまい(黒土で15個体中5個体、ハリエンジュ林土壌で15個体中8個体枯死)、残った個体も著しく生長が悪かったので、最終サンプリングを十分に行うことが出来なかった。そのため、ショカツサイでは生長解析が成立しない。したがってショカツサイについても、それぞれの培養土における個体の死亡率を比較する。

個体の死亡率は黒土では約33%であったのに対し、ハリエンジュ林土壌では約53%と高くなった。ショカツサイも、ハリエンジュの持つアレロパシー物質によって著しく生長・生存が阻害されると推察される。ただしショカツサイは移植に非常に弱い植物であり、黒土での死亡も多かったので、検証実験を行う必要がある。

・ナガバギシギシ(外来植物)

相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、ハリエンジュ林土壌で低くなり、有意な差が見られた(P<0.0001)。黒土では約0.08、ハリエンジュ林土壌では約0.05となった(図5)。光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、黒土では約10.2、ハリエンジュ林林床土壌では約5.3だった(P<0.0001)。各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、いずれの培養土でも約0.01となり、有意な差ではなかった。各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す(SLA, m2 g-1)は、いずれの培養土でも約0.01となった。

以上の結果から、本種の生長はハリエンジュ林土壌に含まれると思われるアレロパシー物質によって阻害されると考えられる。またハリエンジュ林土壌のRGRの方が低くなったのは、NARすなわち光合成活性の低下が原因であると考えられる。

・チヂミザサ(在来植物)

相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、黒土では約0.05、ハリエンジュ林土壌では約0.06となったが、有意な差ではなかった(図6)。光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、黒土では約4.2、ハリエンジュ林床土壌では約4.7だったが、有意な差ではなかった。各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、いずれの培養土でも約0.01となり、有意な差でない。各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す(SLA, m2 g-1)は、いずれの培養土でも約0.03となった。

以上の結果から、本種の生長はハリエンジュ林土壌に含まれる思われるアレロパシー物質によって阻害されないと考えられる。

・ミゾコウジュ(在来植物・準絶滅危惧種)

相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、ハリエンジュ林土壌で若干高くなり、有意な差が見られた(P<0.0001)。黒土では約0.04、ハリエンジュ林土壌では約0.05となった(図7)。光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、黒土では約3.7、ハリエンジュ林床土壌では約4.2だったが、有意な差ではなかった。各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、いずれの培養土でも約0.01となり、有意な差でない。各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す(SLA, m2 g-1)は、いずれの培養土でも約0.02となった。

以上の結果から、本種の生長はハリエンジュ林土壌に含まれると思われるアレロパシー物質によって、少なくとも阻害されないと考えられる。またハリエンジュ林土壌では光合成活性であるNARが高くなったことから、RGRも高くなったと考えられる。しかし、両者のNARは有意な差ではなかったので、再検証実験を行う必要がある。

・メハジキ(在来植物)

相対生長速度(RGR, g g-1day-1)は、黒土では約0.03、ハリエンジュ林土壌では約0.04とハリエンジュ林土壌で若干高くなったが、有意な差ではなかった(図8)。光合成活性を表す純同化率(NAR, g m-2day-1)は、黒土では約2.7、ハリエンジュ林床土壌では約3.0だったが、有意な差ではなかった。各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す葉面積比(LAR, m2 g-1)は、いずれの培養土でも約0.02となり、有意な差ではない。各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す(SLA, m2 g-1)は、黒土では約0.01、ハリエンジュ林床土壌では約0.02だった。

以上の結果から、本種の生長はハリエンジュ林土壌に含まれる思われるアレロパシー物質によって阻害されないと考えられる。

これらの結果から、少なくとも実験材料に用いた植物種においては、外来植物の生長はハリエンジュ林土壌に含まれる思われるアレロパシー物質によって阻害され、その原因は主として光合成系が阻害されることであると言える。特にハリエンジュそのものとショカツサイはアレロパシー物質によって枯死に至る可能性が高いことが示唆された。また在来植物は総じて、アレロパシー物質によって生長阻害を受けないと言える。

ハシフー(2010)が同種の植物の種子発芽に対するハリエンジュ生体に含まれる思われるアレロパシー物質の影響を解析した結果は、本研究の結果と逆で、在来植物の方が外来植物よりも高い阻害を受けた。これらの結果の整合性を確認するためには、今後さらに多くの植物種を材料として研究を進める必要があるが、基本的にはアレロパシー物質の影響は、種ごとに異なるのかもしれない。

栽培時の気温

栽培実験期間中の温室内の気温(図9)は、最高気温が40℃を越える日もあったが、ほとんどの日時で10℃〜40℃の範囲内であった。植物の生育にとって、おおむね適当な条件だと考えられる。

植物相調査

桐生大橋横のハリエンジュ除去地には2段の段丘と人工河道がある。今回は段丘1段目と2段目を調査した。またこの調査地は2010年に河毛が調査しているので、結果を比較し植生遷移について考察することとする。

段丘1段目(上段)では、49種の植物の生育を確認した。そのうち18種が外来種であった。段丘2段目(下段)では、31種の生育が確認され、そのうち15種が外来種だった。どちらの段丘にも強い競争力を持つオオブタクサやセイタカアワダチソウが生育していた(表2)。また、マメ科の在来種のクズの繁茂が確認された。クズは根粒菌と根で共生して土壌を富栄養化させるため、オオブタクサなどの外来種の侵入を後押ししている可能性がある。

2010年の調査では、段丘1段目(上段)で13種の植物が確認され、外来種は1種であった。今回の結果と比較すると、2010年だけ確認された種は7種、2011年だけ確認された種は44種、2010年と2011年に共通して確認された種は5種だった。2011年に種数が大幅に増加したが、外来種も多く侵入してきている。このため当地では、植生遷移の初期段階が順調に進行していると考えられる。今後も植生遷移の進行を順調に進めるためには、これ以上の外来種の侵入を食い止める必要がある。

段丘2段目(下段)では、2010年に27種の植物が確認され、外来種は8種あった。2010年だけ確認された種は13種、2011年だけ確認された種は17種、2010年と2011年に共通して確認された種は14種だった(表2)。

段丘2段目の共通種として、河川敷植生の典型的な構成種であるススキ、ツルヨシ、ヨシが生育していた。このため当地でも、植生遷移の初期段階が順調に進行していると考えられる。

桐生大橋横ハリエンジュ林林床では、27種の植物を確認した。そのうち外来種は4種であった。2010年の調査では、16種を確認しそのうち3種が外来種だった。2010年だけ確認された種は6種、2011年だけ確認された種は17種、両年とも確認された種は10種だった(表3)。ハリエンジュ林林床では、在来植物の種数が増加したが、全体の種数は少ない。ハリエンジュが在来植物の生育や植生遷移を阻害していると考えられる。

以上の結果から、ハリエンジュ除去地の方がハリエンジュ林床よりもはるかに植物の種多様性が高いことが明らかになった。ハリエンジュの皆抜・抜根と表土の除去は、本来の河川敷植生の再生に有効だと考えられる。しかしハリエンジュ以外の、オオブタクサやシナダレスズメガヤといった外来種、そして在来種でありながら外来種の侵入を後押ししかねないクズなどの、旺盛な競争力を持つ植物種が侵入してくる可能性がある。自然な植生遷移を手助けするためにも、定期的な外来種の除去が必要である。

土壌窒素・リン濃度

・培養土壌

ハリエンジュ土壌の合計窒素濃度(Total-N)は、約0.03 mgg−1だった。このうち硝酸態窒素濃度(NO3)は約0.025、亜硝酸態窒素濃度(NO2)は約0.00006、アンモニア態窒素濃度(NH4)は約0.004、アンモニア態比は約0.13となった。また、全窒素(TN)は約0.009、全リン(TP)は約0.001であった(表4、図10)。

一方、黒土のTotal-Nは約0.03となった。そのうちNO3は約0.024、NO2は約0.00002、NH4は約0.005、アンモニア態比は約0.16であった。また、TNは約0.01、TPは約0.0001だった(表4図10)。

以上のように、いずれの無機栄養分濃度も培養土間で大差がなく、ほぼ同じ値を示している。このことから、異なる培養土で行った栽培実験で得られた結果は、土壌窒素・リン濃度の差によるものではなく、ハリエンジュ林土壌に含まれると思われるアレロパシー物質によって生じたことが裏付けられたといえる。

・渡良瀬川

桐生大橋横のハリエンジュ区の土壌のTotal-N(mg L-1)は約86.4だった。そのうち、NO3は約85.0、NO2は約0.1、NH4は1.3、アンモニア態比は約0.02であった。また、TNは約30.0、TPは約0.3だった(表4図11)。

2010年に河毛が当地で同様の測定を行った結果は、Total-Nが約43.7で、そのうちNO3は約34.0、NO2は約1.3、NH4は約8.4、アンモニア態比は約0.2であった。今回の測定結果はこれらの値よりも高くなっており、Tota-Nは約2倍の値である。これは、窒素濃度が増加したというより、同じ調査場所でも、土壌をとる位置によって窒素濃度にバラツキがあるからとも推察される。ハリエンジュ林土壌の窒素濃度を正確に知るためにも、今後は測定地点を増やして、分析を行う必要がある。

ハリエンジュ除去区の土壌のTotal-Nは約101.4だった。そのうち、NO3は約91.7、NO2は約0.3、NH4は約9.4、アンモニア態比は約0.09となっている。また、TNは約131.0、TPは約3.3だった(表4図11)。

当区では、2008年1月にハリエンジュの皆抜・抜根と表土の除去が行われた。しかし、今回の分析で、N、TN、TPが未だに高い値を示した。これは、2010年に河毛が行った神流川ハリエンジュ伐採地における分析結果と一致している。以上のことから、ハリエンジュを表土ごと除去しても、土壌の富栄養化現象はしばらく続くと考えられる。この現象が除去後いつまで続くのかを知るためにも、今後さらなる調査が必要である。

林床の相対光量子密度の季節変化

群馬大学荒牧キャンパス構内のハリエンジュ林林床では、2011年6月18日から10月19日の長期にわたって相対光量子密度が10%程度以下と、暗い環境が続いた。(表5図12)このような暗い環境下では、林床の植物は光を十分に得られないため、生育が阻害されてしまうと考えられる。ハリエンジュ林林床で植物種が非常に少なく、アズマネザサが林床全面を覆っているのはこのことが原因ではないかと推察される。

なお、地点?は道路脇でハリエンジュの立木密度が低いため、相対光量子密度は比較的高いままだった。ここは外来種のショカツサイが毎年繁茂している。

同大学構内の雑木林では、一部の地点で相対光量子密度が10%以下になる時期(2011年6月18日から10月19日)があった。(表6図13)この林床ではアズマネザサが繁茂する部分と、ヒナノガリヤス、アキノキリンソウ、ノコンギク、ヤクシソウといった里山植物と多くのシラカシ・コナラの稚樹が生育する部分がモザイク状にみられるように、植物種多様性はハリエンジュ林よりも高い。

この雑木林で5月3日の測定開始日でも相対光量子密度が低いのは、常緑樹のアカマツが生育しているためだと考えられる。

これらを元にハリエンジュ林と雑木林の相対光量子密度を比較してみる。比較に用いるのは、林床植物の生育期間である5月初めから9月末までの相対光量子密度の平均値である。ハリエンジュ林林床では、地点1、2、3、5の平均値が約16.2%となった(地点4はハリエンジュの立木密度が低いため除外した)。一方雑木林では、地点?から?の平均値が約21.3%となった(表5,6図14)。

以上の結果から、ハリエンジュ林より雑木林の方が、林床植物の生育期間の相対光量子密度が高いといえる。雑木林林床で植物が多数生育できるのは、このためと考えられる。逆にハリエンジュ林林床では、長期にわたって光環境が悪化するため、植物の生育が難しく単調な植生になると推察される。

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