榛名山西部における調査研究
群馬県自然環境調査研究会で、本年度の「里地・里山」調査地域として指定された地域での研究であり、本調査会と合同で現地調査を行った。なお、群馬県の依託事業として本調査会で調査研究が行われていることから、政策上の理由で結果の公表が制限されることがあり、本論文においても一部に公表が制限されている部分がある。
研究方法
植物相調査
調査会の予備調査情報に基づき、植物種多様性の高い4つの地点において重点的に調査を行った(図2:非公開)。調査は、2005年5月23日、8月1日、9月25日に行った。地点1については、さらに1-A)コナラ林縁、1-B)林道、1-C)御社付近の3つに地点を分割して調査をおこなった。なお、9月25日の調査では、調査時間が短かったため、1-C)御社付近は調査を行わず、地点1-A、1-Bは区分せずにまとめて調査した。各地点で観察を行い、複数個体の生育が確認できた植物種をリストアップした。採取した植物については、研究室に持ち帰り、図鑑(林弥栄編 1983)を用いて同定を行った。採取のできた植物は持ち帰ってラミネート加工し、植物標本を作製した。この他の植物種については、デジタルカメラで撮影し、同定を行った。
相対光強度測定
8月1日の調査時には、地点1をコナラ林縁、スギ植林地横林道、コナラ林奥、スギ植林奥の4地点に分け、各地点において、光量子センサー(ライカ社製 LI190SA)を用いて、光量子密度を測定した。その直後に、地点1に近接する裸地で光量子密度を測定し、それぞれの相対値を算出した。当日は晴天であったので、定義上この相対値は相対光量子密度とはならないため、本論文では以後これを「相対光強度」と称する。各地点数回(5から6回)測定し、その平均値を算出した。
土壌含水率測定
相対光強度測定の直後に、地点1をコナラ林縁、スギ植林地横林道、コナラ林奥、スギ植林奥の4地点に分け、各地点において、土壌含水計(Delta社製 Theta Probe)を用いて、土壌含水率の測定を行った。各地点数回(5から6回)測定し、その平均値を算出した。
結果および考察
相対光強度および土壌含水率
地点1内では、林の状態によって、物理的環境は顕著に異なっていた(表4)。すなわち相対光強度は、コナラ林では1.9%〜9.6%、スギ植林奥では4.9%、林道では100%であった。コナラ林では、林縁近くでは9.6%であった相対光強度が、奥に入ると1.9%と、スギ植林奥よりも低くなった。
土壌含水率は、コナラ林では63.2%〜70.4%、林道で72.9%、スギ植林奥では79.0%であった。すなわち、スギ林内のほうがコナラ林内よりも土壌が湿潤であると言える。
植物相(表5)
8月1日の調査において、地点1では合計21種の生育が確認された(表6-A)。
地点1の中を分割して調査した結果、地点1-Aコナラ林縁ではコバギボウシ、シュロソウなど計7種類、地点1-B林道ではイタドリ、オカトラノオなど計14種類の植物の生育が確認された。9月25日の調査においては、地点1-A、1-B合わせて新たにイワガラミ、オオバショウマなどを加え計22種類の植物の生育が確認された(表6-B)。
地点1-C御社付近は、地点1-Aより続くスギ植林の奥に入ったところにある。御社の裏には沢があり、非常に暗い環境である。周辺でヤグルマソウなど3種類の生育が確認された。
以上より、地点1においては、相対光強度が高くなるにつれて、植物種多様性が高くなることが示唆された。当地点で最も相対光強度が高かったのは林道であり、その周囲では中程度の人為的攪乱があるものと考えられる。このために多くの植物種が生育可能となったものと考えられる。しかしこの林道に続く砂利道には生命力の強いオオバコが多数分布しており、攪乱強度が高くなれば、林道周辺の植生にも侵入する可能性があると推察される。
地点2は、棚田水田の最上部にある溜池である。この溜池周辺はコンクリートが用いられていない、土盛りされた土手である。ここではアケボノソウ、ウシクグ、コケオトギリなど計13種類の生育が確認された。
地点3も棚田で、中間部と最上部に溜池がある。地点2よりも棚田の枚数が多く、付近は住宅地である。側溝はコンクリートで整備されている。ここでは、アキノウサギツカミ、アレチヌスビトハギなど計16種類の植物の生育が確認された。
地点4の水田は、林に囲まれた場所にあり、高い樹木により日当たりが遮られている。そのためか生育が確認された植物種数は10種類と少ない。しかし、ホシクサ、ヒロハイヌノイゲ、コナギなど、里山湿地に特有と言える植物の生育が確認された。
地点2、3どちらにも生育する植物は、水田の畦などを好むウシクグのみしか確認されず、両地点では基本的に種組成が全く異なるという結果が得られた。すなわち、同じ地域にあるため池でも、管理形態によって生育する種には大きな違いが生ずること明らかになったといえる。したがって里山地域において在来植物種の多様性を高く維持するためには、管理方法にも多様性があった方が良いのかもしれない。ただし、外来種の侵入を許すような強い人為的攪乱を引き起こす管理方法は、論外である。実際、本研究で対象とした棚田周辺でも、コンクリート製の幅2mにもなる水路が随所に敷設されていたが、その直近では多数の外来植物の生育が目撃された。
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