結 論
本研究により、赤城山小沼においては、全体として亜高山帯の湿った場所を生育場所とする植物が多数生育していることが確認されたものの、人口堰など整備の為の工事が行われていた場所は、植物の多様性が低いという結果が得られた。また、榛名山西部においては、里山として利用されている落葉樹林や棚田の合間に土盛りによって整備された溜池には、多数の湿地生在来植物の生育が確認された。
赤城小沼は長年にわたって極端な整備が行われておらず、粕川の源流集水域として良好な状態を保っているといえる。しかし、2005年の春に入り口付近の歩道が整備された、駐車場、公衆トイレも立派なものであるため、今後は観光客の増加が予想される。しかし、隣接する覚満淵におけるワイド木道の敷設のような、利用と保全のバランスを欠いた形の整備があってはならない。すでに覚満淵における先行研究で明らかになっているように(新岡 2001)、こうしたバランスを欠いた整備は植物種多様性を低下させ、結果的に観光資源としての価値さえも激減させて、持続可能な利用を不可能にすると考えられる。
榛名山西部では、今では珍しく、里山としての持続的な利用を前提とした維持管理が、住民によって適切に行われている地域であるといえる。おそらく住民は、そこに生息する植物がどれだけ貴重なのかを経験的に知っており、それらを含めて地域全体がうまく生きていくことを目指すことで、普段の生活サイクルが自然と植物の保全に繋がっているのではないか、と考えられる。当地域の特産品であるシイタケ栽培のためのホダ木を採取するために、コナラ林が計画的に伐採され、萌芽によって再生している。また、落葉は集められ、ミョウガ畑に搬入されて、堆肥となっている。御社の横から湧き出ている清水は、里山が浄化しているものであり、その流れ出るところでは、もう一つの特産品であるワサビが栽培されている(増田 私信)。こうした生活サイクルの中にとけ込むように、多くの在来植物が生育し、結果として保全されているのである。
当地域では住民の多くが農業を営んでいるので、農業の抱える後継者不足問題から免れられないかもしれない。そのなかにあっても、里山と共生する生活サイクルと、それが在来植物の保全の重要な要因となっているという貴重な関係が維持されることを期待したい。また、今後はさらに学術的調査を続けて、この関係維持に繋がるような形で知見を蓄積することが必要であると考えられる。
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