はじめに
オオブタクサは(標準和名:クワモドキ、学名:Ambrosia trifida)は主として河川敷や道ばたに生息する、北アメリカ原産のキク科ブタクサ属の一年生帰化植物である。日本では1952年(昭和27年)に静岡県清水港に上陸しているのに気付いたのが最初とされる(長田1972)。
そもそも帰化植物とは、自然の営力によらず、人為的営力によって、意識的または無意識的に移入された外来植物が野生の状態で見いだされるものをいう。そして、ある植物が帰化植物と呼ばれるためには三つの条件が備わっていなければならない(長田1976)。
まず第一に人間が外国から持ち込んだ植物であるということだ。植物が外国から持ち込まれるルートは大別して2つあり、1つは輸入物資などに紛れて持ち込まれ、いつの間にか帰化をしてしまう場合と、もう1つは観賞用、食用、薬用、飼料などといった目的で輸入された有用植物たちが、いつの間にか野外へ逃げ出して野生化したような場合である(浅井1993)。
第二には野生の状態で見いだされることである。生育に人間の保護を必要とするチューリップなどは帰化植物とはいえない。
第三には外来植物であるということが挙げられる(長田1976)。
一般的に、明治以降に日本に侵入し、定着した植物のことを帰化植物といい、第二次世界大戦後には、帰化植物の急激な増加が認められている(浅井1993)。現在、日本には既に621種(宮脇1994)から800種(浅井1993)もの帰化植物が侵入しているといわれていて、それら帰化植物には撹乱依存種が多いことが示唆され、その半数以上が、日本と気候条件の比較的類似した欧州及び北米の原産であることが示された。(宮脇1994)。
帰化植物は強い競争力により、種の多様性を低下させ、日本固有の植物相を変化させてしまう可能性がある。実際に、ハワイにおいて外来植物が栄養塩の循環や土壌の成分組成を変化させて、在来種を駆逐したという報告(Vitousek,1986;Vitousek
et al.1987)や、緑化目的に導入した植物種が、群落中の在来種の生長を抑圧した例もある(Wilson,1989)。
オオブタクサも非常に強い競争力と撹乱依存性を持っており、時には6mにも達する(鷲谷1996)巨大な草丈と高個体数密度により、侵入地でしばしばオオブタクサ単純大群落を形成し、植物の種多様性を低下させる。例えば埼玉県浦和市、荒川の河川敷にある特別天然記念物田島ヶ原サクラソウ自生地において、オオブタクサが繁茂すると他の出現植物種数が減少することが明らかになっている(宮脇1994)。オオブタクサは他の植物に比べ発芽時期が早く、芽生えサイズが大きいことがこの強い競争力を支えていると考えられる(西山1989)。また、オオブタクサの高い個体数密度と、その木化した茎は人間のアクセスに支障をきたし、さらには夏の終わりから秋にかけて頭状花をつけ、黄色い花粉を大量に散布し、花粉症の原因にもなるのである。オオブタクサは群馬県内でも生育が確認されており、その分布は水上町まで達していること、水上で生育する個体群は発芽可能な種子を生産していることが判明した。そして、群馬県内のオオブタクサはすでに繁茂している南関東地域と比較して、ほぼ同等の生育が可能だということが示された(高橋2001)。
そこで本研究では分布北限域でのオオブタクサの生長様式、種子生産量の解明と、利根川流域での分布拡大の可能性の解明を目的として、水上町と伊勢崎市内においてオオブタクサの個体群密度、生長速度、種子生産量などを調べた。また、水上町で採取したオオブタクサを群馬大学構内で人工的に栽培し、伊勢崎市と水上町における生長パターンとの比較を行った。