研究方法
1オオブタクサの種子発芽実験
オオブタクサの種子を水上の最北限の群落と前橋市内の群落で採取した。両地点の種子とも2ヶ月間の冷湿処理を施した。冷湿処理期間中はバットに水で湿らせたクッキングペーパーを敷いたものを地点ごとにつくりこの上にオオブタクサ種子を播種し4℃の冷蔵庫に保存した。
冷湿処理期間を終了した種子の中から両地点とも300個体ずつ取りだし、濾紙を2枚ずつ敷き蒸留水を入れた直径9cmのプラスチック製のシャーレの中に50個体ずつ播種した。これを両地点とも6個ずつ作成し、温度勾配恒温器(日本医化器械製作所、TG100-ADCT)に入れた。温度勾配恒温器内の環境は昼の14時間を30℃、夜間の10時間を15℃とする高温環境と、昼の14時間を15℃、夜間の10時間を7℃とする低温環境とした。全てのシャーレを実験開始から5日間は毎日、その後は1〜3日に1度観察し、発芽種子は取り除いた。肉眼で幼根が確認できたら発芽とした。また、観察日ごとに蒸留水をつぎ足して常時湿らせ、水分を一定に保った。これを新たな発芽がみられなくなるまで71日間続け、積算発芽率を最終発芽
率とした。
2調査地概要
水上には調査地を水上町大穴の湯桧曽川にかかる幸知橋のたもとにおいた。ここは利根川と湯桧曽川の合流場所付近で、北緯36度47分48秒、東経138度59分23秒の地点である。
伊勢崎は調査地を伊勢崎市柴町の市民憩いの家付近の利根川沿いの場所においた。この地点は北緯36度17分32秒、東経139度9分51秒である。
3オオブタクサの生存調査
水上と伊勢崎の両調査地点に2メートル四方のコドラードを設置し、コドラード内の個体の一部にプラスチックラベルを針金を用いてとりつけた。水上は2001年5月14日に320個体、伊勢崎は同年6月2日に300個体にラベルをつけた。水上は7月25日より、伊勢崎は7月26日より約1ヶ月おきに10月までラベルをした個体全ての生死の確認を行った。
4オオブタクサの生長解析
水上の調査地点から2001年5月30日にオオブタクサ実生を採取し、群馬大学構内で実験的に栽培した。栽培は8月14日までは雨水を避けるために密閉されていないビニールハウス内で行い、ハイポネックス2000倍液を週に2回あたえた。水は1〜3日に1度、水道水をあたえた。また、オオブタクサの成長にあわせて、大きい鉢への植えかえを行った。栽培用の鉢には栽培開始から7月9日までは直径9cm高さ8cm体積約500cm3、7月10日から8月13日までは直径13.5cm高さ11cm体積約1600cm3、8月14日以降は直径25cm高さ26cm体積約13000cm3の円柱形のポットを使用した。栽培用の土は8月14日まではバーミキュライトを使用し、それ以降は黒土を使用した。9月6日以降は、虫による食害から防ぐために寒冷沙で全面を被覆したハウス内で栽培を行った。
水上、伊勢崎の調査地点と群馬大学構内で栽培したオオブタクサをサンプリングした。水上の調査地点では5月7日に20個体、7月24日、8月28日、10月1日、10月19日には10個体ずつ行った。伊勢崎の調査地点では5月15日に10個体、7月30日、8月30日、10月3日、10月17日には5個体ずつ行った。大学構内で栽培したオオブタクサは7月11日、8月15日、9月25日、10月30日に10個体ずつ行った。そして、根、茎、葉、花に分け葉面積を計測したのち、80℃で1週間乾燥させ、乾燥重量を計測した。本研究におけるオオブタクサ種子とはオオブタクサ偽果のことを指す。乾燥にはADVANTECのFC-610を使用し、乾燥重量の計測にはsartoriusのBP310Sを使用した。
各生長パラメーターの計算は下記の式により行った。
LAR(m2/g)
LAR=(LA1/W1+LA2/W2)/2
W1:前サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
W2:現サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
LA1:前サンプリングにおける1個体あたり葉面積(m2)
LA2:現サンプリングにおける1個体あたり葉面積(m2)
RGR(g/g/day)
RGR=(lnW2-lnW1)/(T2-T1)
T1:前サンプリング日
T2:現サンプリング日
W1:T1における個体総乾燥重量(g)
W2:T2における個体総乾燥重量(g)
NAR(g/ m2/day)
NAR=(W2-W1)(lnLA2-lnLA1)/(LA2-LA1)/(T2-T1)
T1:前サンプリング日
T2:現サンプリング日
W1:T1における個体総乾燥重量(g)
W2:T2における個体総乾燥重量(g)
LA1:T1における1個体あたり葉面積(m2)
LA2:T2における1個体あたり葉面積(m2)
SLA(m2/g)
SLA=LA/LW
LA:1個体あたり葉面積(m2)
LW:1個体あたり乾燥葉重(g)
LWR
LWR=LW/W
LW:1個体あたり乾燥葉重(g)
W:1個体あたり総乾燥重量(g)
SWR
SWR=SW/W
SW:1個体あたり乾燥茎重(g)
W:1個体あたり総乾燥重量(g)
RWR
RWR=RW/W
RW:1個体あたり乾燥根重(g)
W:1個体あたり総乾燥重量(g)
伊勢崎、水上の両調査地の地上約50cmほどで直射日光にさらされない場所に温度データロガー(T&D Corporation,TR-52)を設置し、気温を計測した。水上の調査地は2001年5月3日〜同年10月26日まで行った。7月23日15時までは20分間隔、それ以降は10分間隔の気温計測を行った。伊勢崎の調査地は2001年6月2日〜同年11月6日まで行った。7月23日12時分までは20分間隔、それ以降は10分間隔の気温計測を行った。
5オオブタクサの発芽日の推定
水上の調査地におけるオオブタクサの発芽日の推定は、オオブタクサの芽生えのバイオマスを発芽日として、1回目にサンプリングしたオオブタクサのバイオマスから、RGRをサンプリング1〜2回目のものと同じとして逆算して行った。計算は下記の(1)式による。
伊勢崎の調査地のオオブタクサは、調査開始時には既に同時期の水上のものに比べ、バイオマスが大きくなっていた。そのため、伊勢崎の調査地におけるオオブタクサの発芽日の推定は、バイオマスの推移を指数関数曲線に回帰し、そこからオオブタクサの芽生えのバイオマスを発芽日として、逆算した。計算は下記の(2)式による。
なお、オオブタクサの芽生えのバイオマスは「宮脇1990図6.発芽時バイオマスの頻度分布.a」より中央値を取って13mgとした。
Time=(lnW2-lnW1)/RGR …(1)
W1=0.00023146* Time5.7337 …(2)
W1:オオブタクサの芽生え推定バイオマス(g)
W2:サンプリング1回目のオオブタクサのバイオマス(g)