調査・実験方法

植生調査
 植生調査とは、特定地域に生育する植物の種構成とその構成比を明らかにする手法である。足尾を除く各調査地において、コドラード法による植生調査を行った。コドラート法とは、調査地に正方形の枠(=コドラート、今回は2m×2m)を設置して、そのコドラードを真上から見下ろした際に、枠内に生育する各植物が枠内を覆う面積比を被度(%)として求めるものであり、目視によって行う。植物の種名の判定は、各植物をデジタルカメラで撮影または採取した後、植物図鑑を用いて行った。なお、足尾町内渡良瀬川河川敷では、植物の分布密度が極めて低く、コドラート法が適用できないため、植生調査を行わず、後述の植物相調査を行った。
  群馬県桐生市内の渡良瀬川中流河川敷の植生調査は、桐生大橋上流部(以下、桐生大橋上流と称する)と松原橋上流部(以下、松原橋上流と称する)において行った。桐生大橋上流部では、ハリエンジュ林床3箇所、ススキ草原内3箇所にコドラートをランダムに配置して行った。松原橋上流では、ハリエンジュ林床3箇所にコドラートをランダムに配置して行った。松原橋上流のハリエンジュ林は、後述するように200531日に皆伐されて後に萌芽再生しているものであり、萌芽の高さは2m前後である。一方、桐生大橋上流のハリエンジュ林は、伐採の履歴はなく、樹高10m前後のハリエンジュからなる。調査日は200669日および915日であった。
 アドバンテスト・ビオトープにおいては、コドラートをビオトープ内の異なる立地に固定し(ヨモギ草原2箇所、水源の丘1、ヨシ原横1、ススキ群落内1、チガヤ群落内1、林内3箇所)(図22006427日、525日、629日、729日、929日、1026日とほぼ1ヶ月おきに植生調査を行った。
 西榛名地域では、後述する土壌シードバンク解析実験に合わせて、1箇所(コードネーム「夢の花園」。以下、保護上の理由により、当地域内の地点名呼称は、群馬県自然環境調査研究会によるコードネームとする)で2006813日に行った。

植物相調査
 コドラート法による植生調査は、限られた面積内の植物相について解明する手法であるので、植物種多様性の低い地域以外では、見落とす種が多い。そこで、植物種多様性の低い桐生市内の渡良瀬川河川敷を除く調査地においては、広範囲にわたる生育植物種をリストアップする植物相調査を行った。各調査地域を踏査して、開花・結実している植物を中心として、デジタルカメラによる撮影または採取を行い、その後植物図鑑を用いて種の同定を行った。なおこの調査方法では、踏査により視認可能な種が対象になるため、比較的量の多い植物種をピックアップすることになる。
 栃木県足尾町内の渡良瀬川河川敷では、花の渡良瀬公園付近(写真1の約300mを踏査して行った(以下、足尾と称する)。調査日は、20051027日、200647日、95日であった。
 アドバンテスト・ビオトープでは、ビオトープ内全域(図2を踏査して行った。調査日は、20061026日であった。
 西榛名地域では、コードネーム「ミョウガ畑」「夢の花園」「夢の花園入り口」「大沢ため池」「ワシタニヒルズ」の5箇所の調査地を踏査して行った。
調査日は、2006518日、813日、827日、107日であった。

土壌シードバンク解析実験
 土壌中の種子から発芽してくるものを逐次カウントする、実生発生法(荒木・安島・鷲谷 2003)に準じ、狩谷(2004)と同様の方法で行った。
 足尾では、200647日(1回目)および94日(2回目)の2回土壌を採取して、それぞれについて実験を行った。群馬県桐生市内の渡良瀬川では、2005128日に桐生大橋上流(ハリエンジュ林床3箇所、ススキ草原3箇所)および松原橋上流(ハリエンジュ林床3箇所)で土壌を採取した。アドバンテスト・ビオトープでは、コドラートを固定した各地点(ヨモギ草原2箇所、水源の丘1、ヨシ原横1、ススキ群落内1、チガヤ群落内1、林内3箇所)において、20051124日に土壌を採取した。群馬県西榛名地域では、2006330日にミョウガ畑、夢の花園、2地点で各3箇所、2006813日に大沢ため池、夢の花園、ワシタニヒルズ(いずれもコードネーム)において土壌を採取した。土壌は、50cm×50cmの枠内で、表層リターを除いた深さ25cmより採取した。採取した土壌はビニール袋に詰め、湿ったままの状態で4℃の冷蔵庫内に保管することで冷湿処理を施した。これは、人工的に冬を経験させることにより発芽を促進するための処理である。冷湿処理前に、土壌の乾燥を防ぐために200cc程度水道水を加えた。冷湿処理期間は、採取土壌ごとに違うが、12ヵ月間である。冷湿処理後、各サンプルごとに土壌を定量(300gから700g)サンプリングし、約25cm×30cmのプラスチックトレイに均一に敷き詰めた。敷き詰めた土壌の厚さはおおむね1cmとなった。ここに土壌含水率が100%になるように十分水道水を灌水した後、25/10℃(昼 14h、夜 10hr)に制御した人工気象器(MLR-350SANYO)と、群馬大学荒牧キャンパスに設置したビニールハウス内(約35/10℃)に設置して培養した。土壌の乾燥が早いため、トレーごとにビニール袋を被せた。人工気象器内の昼間の光量子密度は、蛍光灯を用いて70μmol m-2s-1 に調整し、ビニールハウス内は太陽光による自然照明で、いずれも植物の実生の生育には十分な光条件であった。培養中は毎日、新規出現個体の有無を確認し、またその度に水道水を追加して、常に土壌含水率を100%程度に保った。新規出現個体は、ある程度大きくなって種の判定が可能になるまでそのまま培養し、その後すべて抜き取って標本とした後、出現個体数を計数し、種の判定を行った。培養期間は調査地ごとに異なるが、新規出現個体がみられず、種の判別が可能な大きさに生長するまで行ったため、最長で約4.6ヵ月間となった。

発芽実験
 アドバンテスト・ビオトープ内において佐藤(2005)が2004年に採取した主要植物4種(ギシギシ、キュウリグサ、キツネアザミ、スイバ)、2005年から2006年に同地内で採取した5種(オオニシキソウ、キンエノコロ、コマツヨイグサ、ヤブツルアズキ、ミゾコウジュ)の種子について発芽実験を行った。また群馬県西榛名地域で2006年に採取した主要植物2種(アキノタムラソウ、サジオモダカ)の種子についても実験を行った。すなわち、本研究の発芽実験に用いた植物は11種である(表12
 石英砂を約70cc敷いた直径9cmのプラスチック製シャーレを1植物につき15個用意し、それぞれに成熟した種子を選別して50個ずつ入れた。各々のシャーレに蒸留水を約20cc注入し、200691日から102日までの32日間、4℃で冷湿処理を行った。ただし、ヤブツルアズキは、冷湿処理を行っていない。また、冷湿処理中に種子の乾燥を防ぐため、2回蒸留水を注入した。この冷湿処理によって、種子に人工的に冬の低温を経験させることにより、胚の後熟を促進するなどして休眠の一部解除を促すことになる。
 2006102日から1216日までの76日間、温度勾配恒温器(TG-180-5LTG100 ADCTNK SYSTEM)にシャーレを入れて培養した。温度勾配恒温器内の温度は30/15℃、25/13℃、22/10℃、17/8℃、10/6℃(昼14hr、夜10hr)の5段階とし、各温度区に1植物につき3シャーレを用意した。すべてのシャーレを観察し、肉眼で幼根の出現が確認できたものを発芽種子として、数を数えた後に取り除いた。また観察日ごとに蒸留水をつぎ足し、常時湿った状態を保った。

土壌窒素分析
 植生調査または植物相調査を行った各地点において土壌を採取して、土壌中の窒素分析を行った。200694日に足尾で、20061018日に桐生大橋上流と松原橋上流で、2006127日にアドバンテスト・ビオトープで、2006107日に西榛名地域で、各調査地点内の3箇所から土壌を採取した。土壌は、表層約1cmを取り除いて、その下10cmの部分から採取しビニール袋に詰め、測定まで冷凍庫で保管した。
 各箇所の土壌30gを蒸留水30mlで懸濁して、約10分間放置した後、ガラスファイバー製濾紙(GFC-NO2ADVANTEC)を用いて濾過した。この濾液中の硝酸態窒素濃度、亜硝酸態窒素濃度、アンモニア態窒素濃度を、ポータブル簡易窒素計(NM-10, 東亜ディーケーケー)を用いて測定した。
 各地点の土壌30gを送風低温乾燥機(FC-610ADVANTEC)を用いて80℃で1週間乾燥させた後、乾燥重量を測定し、湿潤重量と乾燥重量の差分をもって土壌含水量を算出した。この土壌含水率を基にして、上記の窒素濃度を土壌中の水1リットルあたりの濃度として再計算した。

相対光量子密度
 ハリエンジュが在来植物の生育光環境に与える影響を解明するため、200643日、69日、915日に、群馬県桐生市内の渡良瀬川河川敷のうち、桐生大橋上流のハリエンジュ林床とススキ群落、および松原橋上流の皆伐されたハリエンジュ林床において相対光量子密度の測定を行った(写真2
 測定には光量子センサー(IKS-27)(NO.958、小糸工業)を用いた。桐生大橋上流では、ハリエンジュが伐採されていないためハリエンジュ林床で測定し、ススキ草原では、ススキ群落の上部と下部で測定した。松原橋上流では、ハリエンジュが皆伐されているため、ハリエンジュの樹冠上、樹冠下でそれぞれ測定した。各地点ごとに5回測定を行った。
 各地点での光量子密度の測定の前後に、直近の裸地でも光量子密度の測定を行った。裸地の測定値を100%として、各地点の光量子密度を相対値で表した。この相対値が相対光量子密度であり、植物の生育・分布と強い相関関係があるとされている(村岡・鷲谷 1999)。

ハリエンジュ伐採実験
 松原橋のハリエンジュ林(写真2)は、群馬大学工学部・清水義彦助教授らの研究をもとに、国土交通省渡良瀬川河川工事事務所によって200531日に皆伐された。その後のハリエンジュの回復状況を追跡調査することによって、伐採の外来樹木に対する抑制効果を解明するものとした。
200643、萌芽の出ているハリエンジュを20個体選び、GPS(ポケナビ map21EXEMPEX)を用いてそれらの生育地点の緯度・経度を記録し、さらに黄色ラッカーでマーキングした。その後、20個体中7個体は萌芽を根元から切除し、萌芽本数、長さ、根元直径をデジタルノギスで測定した後、送風低温乾燥機(FC-610ADVANTEC)を用いて80℃で1週間乾燥させ、乾燥重量を測定した。これらより、萌芽の根元直径と乾燥重量の関係を表す回帰式を作成した(KaleidaGraph 4.01、ヒューリンクス);
Y(萌芽の乾燥重量、g= 54.4X2 +3.6 X - 0.3・・・・(1)   (図17
   Xは萌芽の根元直径(cm)である。
 他の13個体は、萌芽を根元から切断し、萌芽本数、長さ、根元直径をデジタルノギスで測定した。この13個体の萌芽の乾燥重量は、上記の回帰式(1)を用いて推定した。
 20061212日、マーキングした20個体すべてについて、再び萌芽をすべて根元から切除し、萌芽本数と根元直径を測定した。この根元直径を元にして、(1)の回帰式を用いて各萌芽の乾燥重量を推定した。
 以上の調査最終日については、植物季節、種子成熟・散布時期を考慮し、最善なスケジューリングを行った。

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