調査地概要

栃木県足尾町(現・日光市)
 栃木県の最西部の足尾山地の北西部に位置し(図1(写真1、利根川の支流である渡良瀬川の源流部があり、さらには足尾銅山の地として知られている(石川 2001
 足尾銅山の歴史は古く、江戸時代初期から銅山の開発が進められた。低迷が続き江戸時代末期には休山、稼業を繰り返したが、明治時代に入り、先進国からの新しい機械や技術を導入し、外国人技術者を招いたことで、急激に開発が進み、1884年には日本一の銅山の地位を確立した。しかし、この急激な足尾銅山開発により、製錬用薪炭材や坑木用材が乱伐され、さらに製錬に伴う亜硫酸ガスが鉱山周辺の山林を枯死させ、雨によって渡良瀬川に流出し、広大な農地が汚染された(石川 2001)。
 1897年に山地を復旧するための訓令が出され治山工事が開始されたが、亜硫酸ガスに浸された山肌は強酸性で、保水力のない細かい岩で覆われており土壌と養分が乏しく緑化は成功しなかった。そこで1958年からは、成長しやすいハリエンジュやクロマツが植林された(石川 2001)。ところが近年は、このハリエンジュが渡良瀬川流域の河川敷の広い範囲に生育し始め、従来の植生が衰退している(石原 2006)。足尾町内ではハリエンジュは植林地に多く残っているが、川原は(れき)岩石(がんせき)が多いためほとんど生育していない。

渡良瀬川
 渡良瀬川は足尾山塊を源とし、足尾の町から南西にかけて群馬県に入り、勢多郡東村(現・みどり市)、黒保根村(現・みどり市)を通り、山田郡大間々町(現・みどり市)へといたる(図1)。ここから流れを南東に変え、栃木・群馬両県境の桐生市、太田市、足利市、佐野市、館林市を抜け、栃木県下都賀郡藤岡町を経て、茨城県古河市と埼玉県北埼玉郡付近で利根川へと合流する。   
 これらの地域は、古くから渡良瀬川の恩恵を受け、農業や商工業が栄えていた。渡良瀬川からの灌漑用水路は豊かな稲作を可能にし、桐生・足尾・佐野の織物は優れた水質によって美しい仕上がりを誇った。さらに、利根川を経て江戸へいたる水運の発展は、商品の流通を円滑にし、流通一帯の経済を活性化させた。そして、アユやサケをはじめとする水質資源の豊かさも沿岸の人々の生活を潤した。こうして渡良瀬川は、流域に住む30万の命を育んできた(石川2001

群馬県桐生市内渡良瀬川河川敷
 草木ダムより約26km下流に位置する(図1(写真2。河川敷の本来の植生はススキ、オギ、ヨシなどであるが、近年広範囲にわたって外来樹木のハリエンジュが樹林化している(慶野 2005)。当地では1998年に洪水があり、その際草木ダムの水が放水されてからハリエンジュが急増したとの報告がある(星野・清水2005)。上流の足尾山地では前述のようにハリエンジュが植林されているため、当地のハリエンジュの樹林化がこれに深く関与していると推察されている(慶野 2005)。

アドバンテスト・ビオトープ
 群馬県邑楽郡明和町(図1の株式会社アドバンテスト群馬R&Dセンタ2号館敷地内に20014月竣工した大型ビオトープがある(図2(写真3。本ビオトープは、半導体試験装置等の開発・製造業者であるアドバンテスト社が、環境保全活動の一環として、自然環境との共生をうたって構築したものである。本ビオトープの面積は約17,000u(100m×170m)と、民間企業所有としては国内最大級の規模のものである。ビオトープ建設地は工業団地の一角に位置しており、建設前の用地は、雑草がまばらに育成する程度の裸地であった。敷地周辺は水田が広がり、畑地、雑木林などが点在しており、敷地北側には谷田川が、2kmには利根川が流れている。
 本ビオトープは、「多様な生き物の生息空間の創出とネットワークの形成」、「失われつつある昔ながらの関東平野北部の自然環境の再現」、「従業員の安らぎの場の創出」を目標として造成された。「多様な生き物の生息空間の創出とネットワークの形成」とは、地域の多様な生物種が生息できるよう、生態学的な知見に基づいた生息空間を創出し、R&Dセンターの北側に谷田川をはじめとする周辺環境との連続性を持った地域生態系の再生をめざすものである。「失われつつある昔ながらの関東平野北部の自然環境の再現」とは、ひと昔前には関東平野北部のどこにでも広がっていた広大な氾濫原、失われてしまった水辺、湿性環境、雑木林と空き地の草原などの風景の再生をめざすことである。つまり本ビオトープは、緑地を創出しようというものでなく、本来の定義に沿ったビオトープの創出をめざしている(株式会社アドバンテストHP)。
 本ビオトープでは、株式会社アドバンテストグリーンによって管理が行われている。群馬大学社会情報学部・環境科学研究室および清水建設株式会社生態系ソリューション部が定期的に行っている調査結果(小松ら 2005)に基づいて、外来植物種の引き抜き・刈り取り駆除を定期的に行っている他、年に3回程度草刈りを行って、過剰に繁茂した在来・外来植物種の抑制を行っている(大矢 2006)。また、ビオトープ内を流れる小川と池の水質・水温を、アドバンテストグリーン社が定期的にモニタリングしている。近年は、近隣の小学生を招いて「ザリガニ釣り大会」を行って、池で大増殖したアメリカザリガニの駆除を行ったり、スズメバチのトラップをビオトープ内の方々に仕掛けて駆除を行っている。

西榛名地域
 群馬県・西榛名地域1は人と自然が共生している里山がある(写真4。この地域では、里山としての持続的な利用を前提とした維持管理が、住民によって適切に行われ、絶滅危惧植物が多数確認されている(高橋 2006)。なお保護上の理由により、当地域の具体的位置を非公開とする。

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