材料および方法

材料植物

・オオブタクサ(キク科一年生草本、Ambrosia trifida):要注意外来種

北アメリカ原産で世界の温帯に広く帰化している。日本には第二次世界大戦敗北後に飼料穀物や豆類に混入して侵入し、1952年に静岡県清水港と千葉県で確認された。現在では西日本を中心に沖縄県から北海道まで分布している。

荒木(2010)によると、オオブタクサの種子は、冷湿処理を受け休眠が解除されても、低温環境下では長期にわたって発芽するため発芽期間が長く、発芽後に攪乱のような環境変化が発生した場合においても、ふたたび実生が発生して個体群が維持されるようになる可能性が高いと考えられている。

本研究では、2008年10月07日に群馬県前橋市川原町利根川河畔で採取した種子、2010年10月11日に長野県真田町菅平で採取した種子、2008年10月23日に群馬県西榛名地域で採取した種子を材料として用いた。

・メリケンカルカヤ(イネ科多年生草本Andropogon virginicus):要注意外来種

北アメリカ原産でアジア、オーストラリア太平洋諸島などに帰化している。1940年頃に愛知県で確認され、現在は本州〜九州に分布する。大量の種子を広範囲に散布し、攪乱地や乾燥した裸地で速やかに高密度個体群を形成する為、同様に裸地や攪乱地にいち早く生息することで種を存続させている「先駆的在来植物」にとって大きな脅威となると考えられる。

本研究では、2008年10月16日に群馬県明和町アドバンテスト・ビオトープで採取した種子を材料として用いた。

・イヌムギ(イネ科多年生草本、Bromus catharticus

南アメリカ原産で南アメリカ、北アメリカ。ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニアの温帯〜暖帯に分布する。日本には明治初期に渡来し、1882年に東京都で確認された。現在は北海道〜九州の農耕地や道端に広く定着している(清水ら 2001)。

本研究では、2008年6月19日に群馬県明和町アドバンテスト・ビオトープで採取した種子を材料として用いた。

・カモガヤ(イネ科多年生草本、Dactylis glomerata):要注意外来種

地中海〜西アジア原産でヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカなどの温帯に分布する、世界的に有名な牧草である。日本には1860年代にアメリカから北海道に導入され、広く牧草のオーチャードグラスとして利用されている。今は北海道〜九州で牧草地から逸出し、いわゆるvolunteer weed として問題になっている(清水ら 2001)。花粉症の原因植物として知られている。

本研究では、2008年6月19日に群馬県明和町アドバンテスト・ビオトープで採取した種子を材料として用いた。

・オオキンケイギク(キク科多年生草本、Coreopsis lanceolata):特定外来種

北アメリカ原産で日本へは1880年代に観賞用、緑化用として導入され、各地に広がった。河川敷や道路沿いなどに大群落をつくる(清水ら 2001)。

河毛(2010)によると、発芽最適温度域は10/6℃〜25/13℃と広い。また冬を経験しなくても、種子が散布されて吸水し適温におかれれば、発芽可能となる植物であると考えられている。 

本研究では、2008年7月6日に群馬県伊勢崎市上武工業団地で採取した種子を材料として用いた。

・ナガバギシギシ(タデ科多年生草本、Rumex crispus

ヨーロッパ原産で世界中に帰化している。日本では1891年に東京で定着したと報じられ、その後全国に広がっている。

芝宮(2008)によると、2ヶ月間の冷湿処理を施した後の発芽実験では、最終発芽率は10/6℃〜30/15℃の範囲でほぼ100%に達した。また高温区ほど発芽速度が速く、実験開始から10日以内に90%以上の発芽率に達した。土壌中に十分な水分さえあれば地温の低い冬季にも発芽し、生長を開始すると考えられている。

本研究では、2008年6月19日に群馬県明和町アドバンテスト・ビオトープで採取した種子を材料として用いた。

・ショカツサイ(アブラナ科二年生草本、Orychophragmus violaceus):群馬県・県内危険外来種

中国原産で、日本へは花卉として導入され、日本各地で逸出・野生化している。ハナダイコン、オオアラセイトウとも呼ばれる(清水ら 2001)。

荒木(2010)によると、1ヶ月の冷湿処理を施した種子においては、最適発芽温度区(30/15℃)で培養した結果、最終発芽率は約3%となり、冷湿処理を施すと著しく発芽率が低下した。

本研究では、2010年7月15日に群馬大学荒牧キャンパス内農場裏で採取した種子を材料として用いた。

・メハジキ(シソ科越年生一年草本、Leonurus sibiricus):在来種

日本、台湾、朝鮮、中国などアジアに広く分布する。道端や荒れ地などに生育する。 

本研究では、2009年10月22日に群馬県明和町アドバンテスト・ビオトープで採取した種子を材料として用いた。

・チヂミザサ(イネ科一年生草本、Oplismenus undulatifolius):在来種

世界では温帯から熱帯にかけて広く分布しており、日本では全土に生育する。

本研究では、2008年11月27日に群馬県明和町アドバンテスト・ビオトープで採取した種子を材料として用いた。

・クヌギ(ブナ科落葉高木、Quercus acutissima):在来種

コナラと並んで、山野でもっとも普通に見る落葉高木の一つである。高さは15mくらいになる。日本では岩手県や山形県以南の各地に広く分布する。

本研究では、2009年10月に群馬の森で採取した種子を2010年4月に群馬大学荒牧キャンパス構内に播種し栽培した一年生実生をを材料として用いた。

・コナラ(ブナ科落葉高木、Quercus serrate):在来種

雑木林の代表種として知られており、日当たりの良い山野に普通に見られ、高さは15〜20m、大きいもので30mなる。日本では雑木林に多く見られ、全国各地にも見られる。根は太く深く伸張し、特に主根がしっかり発達するので、台風や大雨などでも倒壊のおそれが少ない。

本研究では、2009年10月に群馬の森で採取した種子を2010年4月に群馬大学荒牧キャンパス構内に播種し栽培した一年生実生を材料として用いた。

・シラカシ(ブナ科常緑高木、Quercus myrsinaefolia) :在来種

山地に生え、20mくらいになる。福島県以西の山地に自生するが、主に関東地方の照葉樹林帯に多い。公園樹や庭木として利用されることが多い。

本研究では、2009年10月に群馬の森で採取した種子をを2010年4月に群馬大学荒牧キャンパス構内に播種し栽培した一年生実生を材料として用いた。

発芽の温度依存性解析実験

 オオブタクサ(前橋産、菅平産、西榛名産)、メリケンカルカヤ、イヌムギ、カモガヤ、オオキンケイギクの種子を用いた。各種の種子の採取日時・場所、前処理(冷湿処理)条件、実験スケジュール、培養日数を表1に示す。いずれの種子も前処理開始まで冷蔵庫に保管し、健全なものだけを峻別し、実験に用いた。石英砂を敷いた直径9cmのプラスチック製シャーレに種子を50個ずつ入れ、各々のシャーレに蒸留水を約20cc注入した。

 前処理である冷湿処理は、一般に冬を経験させることによって種子の休眠を解除し発芽を促進させる処理であり、多くの野生植物の種子でその促進効果が確認されている(荒木ほか 2003)。本研究では、オオブタクサのみ4℃の薬用保冷庫(サンヨー、MEDICOOL MPR-504(H))で保管することによって、1ヶ月の冷湿処理を施した。

 前処理の終了後、温度勾配型恒温器(TG-100-ADCT,NK system)にシャーレを入れて培養した。温度勾配型恒温器内の温度は30/15℃、25/13℃、22/10℃、17/8℃、10/6℃(昼14hr、夜10hr、昼間の相対光量子密度は約30μmol m-2s-1)の5段階とし、各温度区で1植物あたり3シャーレを培養した。実験開始後1ヶ月間は毎日、その後は1-3日おきに種子を観察し、肉眼で幼根が確認できたものを発芽種子とみなして数を記録し、取り除いた。また観察日ごとに蒸留水をつぎ足し、常時湿った状態を保った。新たな発芽が3日以上にわたって見られなくなるまで、培養を続けた。こうして得られた最終的な積算発芽率を、最終発芽率とした。

気温を調節した栽培実験

 移植・栽培スケジュールを表3に示す。イヌムギ、カモガヤ、チヂミザサ、ナガバギシギシ、メハジキ、ショカツサイの実生については、発芽実験と同様の方法で準備し、25/13℃で培養して発芽した実生をゴールデンピートバン(サカタのタネ)に移植した。これらをグロースキャビネット(白熱球を用いて14L/10Dの日長で昼の光量子密度を約380〜400μmolm-2s-1とし、室温25℃に調節した)内で約1ヶ月栽培した。実生が複数の本葉を有するようになった時点で、1本ずつプラスチック製苗ポット(約95mL容量)に植栽した。用土は黒土を用いた。これらの苗を1週間、群馬大学荒牧キャンパス内の裸地で前栽培した。

 クヌギ、コナラ、シラカシについては、2010年4月に群馬大学荒牧キャンパス構内に播種し栽培した一年生実生を、2010年4月に、1本ずつプラスチック製苗ポット(約約200mL容量)に植栽した。用土は黒土を用いた。これらの苗を約1ヶ月、群馬大学荒牧キャンパス内の裸地で前栽培した。

 栽培は、群馬大学荒牧キャンパス内の裸地で行った。ここに農業用ビニール温室(サイズはおよそ2m×2m×高さ2.5m)3基を設置し、透明ビニールシートで囲って中の気温を調節し、外気温と比べて0℃上昇区、1℃上昇区、2℃上昇区とした(以後、それぞれ+0℃区、+1℃区、+2℃区と称す)。これらの温室内の気温は温度データロガー(TR52,T&D corporation)を用いて、30分おきに連続測定した。なお、センサ先端部分をアルミニウムカバーで覆い、直射日光が当たるのを避けた。栽培中の実際の温室内の気温を表4に示す。栽培中は、2-3日に1度水道水をポットから水が流れ出るまで十分灌水した。

 前栽培終了後に、初期サンプリングを行った。その際、苗のみかけのサイズが大きい順に並べ、これを順番に等区分して、区分ごとサイズ分布と個体数がおおむね同等になるようにした。このうち1区分を初期サンプルとして採取し、残りの区分をそれぞれの処理区に供した。イヌムギ、カモガヤは28日間、チヂミザサ、ナガバギシギシ、メハジキ、ショカツサイは42日間、コナラ、クヌギ、シラカシ138日間栽培し、最終サンプリングを行った。チヂミザサ、ナガバギシギシ、メハジキ、ショカツサイの初期サンプルについては高畠(2012)によるものを使用した。

 サンプリングした個体はそれぞれ根・茎・葉に分け紙袋に入れ、送風定温乾燥機(FC-610,ADVANTEC・DRS620DA,ADVANTEC)に入れて1週間80℃で乾燥させた後、電子式上皿天秤(BJ210S Sartorius)で乾燥重量を測定した。葉面積はカラースキャナー(GT-8700 EPSON)を用いて解像度300dpi 、16bitグレーでスキャンした後、ImageJ 1.41o(NIH)を用いて面積を測定した。今回は148cmあたり2827200ドットとした。

生長解析

 生長解析の各パラメータは、以下の式を用いて算出した。

・相対生長速度(RGR : Relative Growth Rate):各個体の乾燥重量ベースの生長速度を表す指標である。

 RGR=(ln(TW2)−ln(TW1))/(T2−T1)

 TW1:初期サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 TW2:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 T1:初期サンプリング日

 T2:最終サンプリング日

・純同化率(NAR:Net Assimilation Rate):各個体の光合成活性を表す指標である。

 NAR=(TW2−TW1)(ln(LA2)−ln(LA1))/(LA2−LA1)/(T2−T1)

 TW1:初期サンプリング日における個体総乾燥重量(g)

 TW2:最終サンプリング日における個体総乾燥重量(g)

 LA1:T1における個体の葉面積(m2

 LA2:T2における個体の葉面積(m2

 T1:初期サンプリング日

 T2:最終サンプリング日

・葉面積比(LAR:Leaf Area Ratio):各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す指標である。

 LAR=(LA1/TW1+LA2/TW2)/2

 TW1:初期サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 TW2:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 LA1:T1における個体の葉面積(m2

 LA2:T2における個体の葉面積(m2

・比葉面積(SLA:Specific Leaf Area):各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す指標である。

 SLA=LA/TW

 LA:最終サンプリングにおける個体の葉面積(m2

 TW:最終サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)

・器官別重量比:光合成産物をそれぞれの器官にどれくらい配分したかを示す指標である。

・葉重比(LWR:Leaf Weight Ratio)

 LWR=LW/TW

 LW:最終サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)

 TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

・茎重比(SWR:Stem Weight Ratio)

 SWR=SW/TW

 SW:最終サンプリングにおける個体の茎乾燥重量(g)

 TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

・根重比(RWR:Root Weight Ratio)

 RWR=RW/TW

 RW:最終サンプリングにおける個体の根乾燥重量(g)

 TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

それぞれのパラメータ間には、以下のような関係がある。

 RGR?NAR・LAR

 LAR=SLA・LWR

 これらの式によって、処理区間でRGRまたはLARの差異があった場合、それがどのパラメータの差異によって引き起こされたかを確認することができる。

統計解析

生長解析の結果については、STAT VIEW 4.2J for Macintosh(Abacus Concepts)を用いて分散解析を行った。

目次

←前  次→