はじめに

グローバル化と生物の移動

現代はグローバル時代といわれ、経済・文化・人の動きのグローバル化が当然のこととして捉えられている。これと同じことが動植物の世界でも起きている。グローバル時代では、物資や人の移動制限が撤廃、緩和されることによって、他国の人・モノ、そして生物までもが比較的容易に入り込んできている。人間の経済・文化の視点に立てば、このようなグローバル化は歓迎すべきことなのかもしれないが、動植物にとっては、歓迎できるものではないようだ。

産業革命以降の国際化、近年の経済・文化のさらなるグローバリゼーションにより、多様な生物種の利用のための意図的な大量導入と、人と物資の頻繁な移動に伴う非意図的な導入が日常化し、地理的な障壁が生物移動の障壁として役に立たなくなった。そのため多くの野生生物が本来の生息地の外に持ち込まれ、そのうちの一部の種が野生化し、定着した結果、「外来種」として生態系や人間活動に何らかの影響を及ぼすことが多くなってきた。一方で、農耕地、植林地、市街地など、人為的干渉の大きな場所が陸地面積に占める割合が急激に増大し、自然界には本来存在しない新しいタイプの環境が地球全体に広がった。それに乗じて、攪乱地や荒れ地に適応していた一部の生物種が、それら人為的干渉の大きい生息・生育場所に分布を拡大した。その結果、少数の種がコスモポリタン(地球規模で広域に分布する種)となって世界中で目立つようになり、地球の生物相の均質化が急速に進みつつある(村上・鷲谷 2002)。

外来種とは何か

外来種とは、過去あるいは現在の自然分布域外に導入された種、亜種、あるいはそれ以下の分類群を指し、生存し繁殖することができるあらゆる器官、配偶子、種子、卵、無性的繁殖子を含むものをいう。また、外来種のうち、その導入もしくは拡散が生物多様性を脅かすものを侵略的外来種という(村上・鷲谷 2002)。外来種と同様の意味で、導入生物、帰化生物、侵入生物という用語が用いられていたこともある。これらの用語は対象とする生物を移入目的と移入時期によって区別しようとして用いられたが、非常に混乱しやすい用法となってしまった。そこで今日では、特に問題を起こしている=侵略的な生物のみを対象として、外来種もしくは外来生物という言葉に統一されており、結果的に日本おいては、明治以降に持ち込まれた主として外国起源の生物が対象となっている(鷲谷・森本 1993)。本稿では以後、国外起源の侵略的外来種である植物を「外来植物」と呼ぶものとする。

外来植物の一般的性質

植物の形質の進化を促す選択圧には、1) 物理化学的「ストレス」2) 植物体破壊作用?資源をめぐる「競争」がある。これらに応じて進化した戦略として、「ストレス耐性戦略」「攪乱依存戦略」「競争戦略」の3つがある(巌佐ら 2003)。

ストレス耐性戦略をとる植物は、特定のストレスに顕著な適応をとげた植物である。ストレスとは、光や水などの資源の欠乏といった光合成活性の抑制をもたらす物理的環境要因を指す。競争能力や攪乱抵抗性を犠牲にしているので、競争や攪乱に弱く、外来植物としての定着は難しい。

攪乱依存戦略は、多くの外来植物にみられる戦略と報告されている。攪乱は、植物体の1部または全体に損傷を与えるような外力であり、台風や洪水などの自然的攪乱と、森林伐採などの人為的攪乱がある。いずれの場合においても、植物体が少ないか存在しない空間である「ギャップ」が形成される。都市では開発や整備が頻繁に起こるため、人為的攪乱が恒常化し、多くの外来植物の生育が見られる。

競争戦略をとる植物は、光や水などの資源を獲得する能力に長けている。環境条件の良好な場所に優占するような植物は、とくに競争戦略者としての性格が強い。外来植物の中には、攪乱依存戦略と競争戦略という2つの性質を持つものもある(鷲谷・森本 1993)。

外来植物の移入経路

明治維新の開国により外国との交流が盛んになるにつれて、外国の生物の移入が著しく増大した。日本の外来種には、北アメリカ原産の植物が特に多い。これは、日本とアメリカの密接な政治・経済関係と気候条件の類似性によるものであるとされている(鷲谷・森本 1993)。

外来植物の移入経路は、意図的移入と非意図的移入に大別される。前者は観賞用や食用などの目的があって輸入された生物が、十分な管理が行われず野外へ逸出してしまうというルートである。後者は輸入物資や積み荷などに混入して、国内に移入されたものである。

外来植物の意図的導入の最大経路のひとつである緑化においては、適地適栽(植栽対象地の環境条件、空間特性、雰囲気に合致した植物の選択をおこない、植栽すること)という原則の下、使用する植物材料の選択が行われてきた。その際、自然環境地の緑化は基本的に在来植物に限って使用されてきたが、都市緑化では在来・外来にこだわらないで使用されてきた。在来種では達成できない緑化目的を、外来種が満たしてくれると捉えられ、多くの外来植物が導入された(日本農学会 2008)。

外来植物の非意図的導入の窓口としては、港や空港など諸外国との物資のやりとりが行われる場所がある。そこでは、輸入物資に種子が混入して移入されてしまう。家畜の飼料用として外国産の穀物を輸入している場合が、これに該当する最大の事例である。また日本では多くの外国起源の牧草を、牧草地で栽培している。これらが牧草地から逸出して野生化することもあるし、輸入牧草に混じって外国産の雑草種子が移入されることもある。牧草地と同様に外国から飼料を輸入し使用している精米場、養鶏場、毛織工場なども、同様に外来植物の非意図的移入経路だとされている(淺井 1993)。

日本から外国への移入

日本産の植物が外国へ移入され定着することもある。外国で定着に成功した植物としては、イタドリ、クズ、スイカズラ、ヤハズソウなどがある。中でもクズは、アメリカ南部を中心に広く野生化し、市街地の道端や空き地だけでなく、畑や野原にまでもはびこり、厄介な存在になっている。クズは、日本全国に分布し、朝鮮や中国にも分布しているマメ科の多年生つる草で、日当たりのよい山野に生育している。環境適応性に優れ、非常に丈夫で、生長が早い点を買われ、飼料用や砂防用としてアメリカに導入された。初期導入地から、種子の拡散や工事などによる根茎の持ち出しによって、道端や草地、森林の周りや、川沿いの土地に広く進出している。葉が大きく、他の植物の上にのしかかるように生育して光を遮り、他の植物を被圧してしまう。さらに樹木にまでも絡み、枯死に追い込むことがある(淺井 1993)。

外来植物がおよぼす悪影響

競争力の強い外来植物は、在来植物を脅かし生態系の基盤をも変化させてしまうと危惧されている。植物はそれぞれの生活に必要な資源の共通性が高く、固着性であるため、光などの資源を巡る競争はその生死や生長・繁殖を大きく支配する。したがって、競争力の大きい種が侵入すると、資源の独占による他種の排除が起こりやすい。資源の奪い合いに勝てない種は絶滅し、群落の種の多様性が低下する。

北アメリカ原産のオオブタクサとセイタカアワダチソウは、資源をめぐる競争力が強く、群落の種多様性を低下させる。セイタカアワダチソウが群生する所では、絶滅危惧種のフジバカマなど在来種が激減している(村上・鷲谷 2002)。

また、外来植物は特異的な環境を形成することがある。例えば、北アメリカ原産の落葉高木であるハリエンジュは、共生菌による窒素固定により痩せた土地でも生育できる。これが貧栄養な砂礫質の川原に侵入すると、土壌を富栄養化させる(村上・鷲谷 2002)。

外来植物の悪影響は人間にも及んでいる。例えば、風媒植物であるオオブタクサなどによる花粉症などがある(村上・鷲谷 2002)。

このような悪影響を及ぼす外来種は、一度定着すると駆除するのに多大なコストがかかるので、侵入を許さない予防措置が必要である。

外来種の防除のための日本の法制度

日本では、人の健康に関わる種や経済的産業的被害が大きい種については、早くから対策法の整備がなされてきた。農業に有害な動植物の輸入を禁止する「植物防疫法」、家畜への伝染病の発生予防および蔓延の阻止を目的とする「家畜伝染病予防法」などがある。しかし、これらの法制度では、ごく一部の外来種だけしか規制できておらず、生物多様性の保全とは無関係に規制が行われている(村上・鷲谷 2002)。

1992年に生物多様性条約(CBD)が採択された後には、外来種への対策が進んでいった。同条約第8条で「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」と、基本的な方向性が盛り込まれた。2002年の第6回締約国会議では、15の指針原則がまとめられた。そこでは、予防が侵入後の対策と比べ効果的であり、優先的に取り組むべき対策であり、すでに侵入した種は、初期の発見と定着の防止を図ることが必要であるとしている。

このような動きを受け、日本では2004年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(これ以降「外来生物法」と称する。)が制定され、翌年施行された。外来生物法の対象となる「外来生物」は、海外から日本に導入されることで、その本来の生息地または生育地の外にいる生物と定義されている。一方、「在来生物」は、日本にその本来の生息地または生育地がある生物を指す。

この法律では、「特定外来生物」「未判定外来生物」「要注意外来生物」といった区分が導入されている。

「特定外来生物」は、生態系や人の身体・生命、農林水産業に被害を及ぼす、または及ぼすおそれがある海外起源の外来生物のことである。「未判定外来生物」は、被害を及ぼすおそれがある可能性がある、もしくは実態が不明である海外起源の外来生物のことである。輸入するには届け出をして許可を受ける必要があり、許可がなければ輸入出来ない。「要注意外来生物」は、外来生物法による禁止や罰則規定の対象にはならないが、取り扱いに注意が必要とされる外来生物のことである。

種の指定には、輸入制限措置をとるのでWTO加盟国に事前に通報を行い、意見を求める手続きが必要である。指定された外来生物は、輸入、国内での飼養、栽培、保管、運搬、譲渡が出来なくなる。例外もあり、学術研究、展示等の目的で逸出しない施設を保有するなど一定の基準を満たせば飼養できることになっている(池田 2006;日本農学会 2008)。

外来生物法により、水際でチェックが可能になり、外来種の人為的導入も減少してきた。しかし、まだまだ外来種対策は不十分である。非意図的導入や日本に定着している外来種に対して効果的な対策を行う必要がある。

群馬県における外来植物の定着状況

群馬県内にも外来種が数多く定着し、生態系だけでなく産業にまで悪影響を及ぼすようになっている。

2008年に発行された「群馬県外来生物調査報告書」によると、特定外来生物に指定された12種の植物のうち、ミズヒマワリ、アレチウリ、オオフサモ、オオカワヂシャ、オオハンゴンソウ、オオキンケイギク、ボタンウキクサ、の7種類が群馬県内に定着していることが確認された。

ミズヒマワリ、オオフサモ、オオカワヂシャは、主に平野部に分布する水草である。群馬県では2000年ごろから急増し、大規模な個体群が確認されている。オオハンゴンソウは主に県北部や山岳域に分布し、草原や林緑に密生した個体群を形成している。榛名山では、2007年からオオハンゴンソウの駆除活動が始まった。オオキンケイギクは園芸用に販売され、国交通省や自治体が道路沿いや河川敷に植栽してしまい、県内全域に分布している。アレチウリは輸入飼料や穀類に混入した種子が起源と考えられており、河川敷や耕作地周辺を覆い、在来種の生育阻害や景観の著しい劣化などの問題を引き起こしている。

要注意外来植物は、52種類が県内に定着していることが確認された。この中には、シナダレスズメガヤ、ハリエンジュ、コカナダモ、オオブタクサなど、特定外来種と同等の生態リスクを持つ種も含まれている。

群馬県では国の指定外来種以外に、「県内危険外来種」を指定している。これには、県内で生態系等に被害を及ぼす危険性の高い11種の植物が指定されている。

このうちセリバヒエンソウ、ナガミヒナゲシ、外来アブラナ科、ショカツサイ、ニワウルシ、タカサゴユリは栽培個体群を起源として野外で分布を拡大している。ナヨクフジは緑肥として導入され、河川敷などに密生個体群を形成している。ニワウルシは天蚕のエサとして導入されたものから逸出し、河川敷や林緑に生育する樹木である。ハリエンジュと同様に、根から多数出芽して高密度の樹林を形成する。ウキアゼナは局地的だが、水田雑草として問題になっている。イケノミズハコベは県南東部に侵入した水生植物である。ヒゲナガスズメノチャヒキは道端や堤防で高密度個体群を形成する。ヒメモロコシは県南部から上武国道沿いに繁茂している(石川ら 2009)。

身近に繁茂する外来植物の例

・コセンダングサ(Bidens pilosa キク科一年草)

北アメリカ原産で江戸時代に渡来し、現在は本州以南に分布する。畑地、果樹園、牧草地、芝地、河川敷などに生育する。河川敷の在来植物や農作物への悪影響が懸念されているが、駆除などの対策は実施されていない。

葉は対生し、羽状に分裂する。夏から秋にかけて枝先に黄色の頭花をつける。筒状花のみで舌状花はないのが普通である。果実は痩果で、刺で人や動物に付着するか、雨で散布される(池田 2006)。

・ショカツサイ(Orychophragmus violaceus アブラナ科冬季一年草)

中国原産で、観賞用として江戸時代に導入されたが、本格的な導入は1970年代から園芸用に販売されたことによる。現在も園芸用に販売され、日本各地に自生が見られる。別名はハナダイコン、オオアラセイトウという。秋に芽生え、春に咲く冬季一年生である。美しい紫色の花を咲かせるので、道端や堤防などに人為的に播種されることも多い(清水・森田・廣田 2001)。

・ナガバギシギシ(Rumex crispus タデ科多年草)

ヨーロッパ原産で世界中に分布している。日本でも全国に広がっており、道端や荒れ地に生育する。粗大な根茎から直立する茎をだし、高さ1.5mに達する。類似種に在来のギシギシがある。ギシギシ類は葉の形が似ていて、見分けるのは難しいが果実の形が違うので、果実で見分けるのがポイントである(清水・森田・廣田 2001)。

・ハリエンジュ (Robinia pseudoacacia L. マメ科木本)

北アメリカ東部原産の要注意外来生物。別名をニセアカシアという。マメ科の落葉高木で高さ20mにも達するパイオニア樹種である。枝には鋭い刺があり、葉は奇数羽状複葉で小葉は3cmほどの楕円形を示す。5月ごろに白の総状花序をたくさんつけ、養蜂業の重要な蜜源として重宝されている。10〜20年経つと生長速度が減少し、せん孔虫の食害や腐朽などによりほとんどが死亡する。

最初は公園緑化樹として植栽されたが、荒廃地緑化や海岸防災林としても植栽された。花は養蜂の蜜源として、材は薪炭として使われている。多様な利用方法があるので、大量に導入された。そこから旺盛な種子繁殖力によって逸出し、各地で皆伐跡地、放牧放棄地、道路際など人為攪乱を受けた場所や河川敷に侵入し樹林を形成していった(崎尾 2009)。

外来樹木ハリエンジュの生態学的特徴

ハリエンジュは、地中に広く張り巡らした水平根から根萌芽を発生させ増殖する。特に河川敷で高密度の樹林を形成し、在来種の生育を阻害するなど群落構造に大きな影響を与えてきた。また窒素固定能を有して土壌を富栄養化させるので、窒素の吸収速度が早く生長の早い植物に対して、遅い植物は競争に負けて衰退する危険性が指摘されている。また他の植物の生理活性を阻害する他感作用(アレロパシー)物質を有していることが明らかになっている(Nasir et al 2003 ;Iqbal et al 2004)。これらの在来植物への悪影響と、これを抑止するための効果的な管理が行われなかったことで、日本固有の河川植生が各地で失われようとしている(崎尾 2009)。

ハリエンジュは、4〜5月に花を咲かせ、良質な蜂蜜を生産する。ミツバチを用いて集め、大量の蜂蜜を生産している。東ヨーロッパやアジアでも、ハリエンジュの蜜源植物としての地位は高く依存度が大きい。しかし、ハリエンジュの強い繁殖力と生態系へ与える影響が問題視され、2005年には要注意外来生物に指定された。これに危機感を覚えた養蜂家は「アカシアを守る会」を結成し、ハリエンジュの保護を訴えている(崎尾 2009)。植物を農作物として利用する者は、当然、作物を自分で保有し管理する農地で栽培するべきである。他人の土地で生育するハリエンジュのような植物を、適切な管理もせずに利用するためにその存続を訴えるのは、筋違いであると言わざるをえない。

ハリエンジュは、種子繁殖、損傷した幹から再生する萌芽、根萌芽という3つの繁殖方法を有している。(崎尾 2009)

ハリエンジュの種子は、硬皮休眠という性質(堅固な種皮が吸水を阻害するため、種皮が損傷を受けないと発芽しない、一時的な休眠状態)を持っている。この休眠は種子が洪水で土石流に揉まれたり、山火事の高熱などの攪乱に遭遇したりすることで、種皮に傷がついて解除される。硬皮休眠中で水を吸収していない種子は水に浮くので、洪水などで長距離移動し、新たな生育地を開拓できる。つまりハリエンジュは、攪乱依存戦略をとっている(崎尾 2009)。攪乱が起こらなければ、ハリエンジュの種子は土壌中で休眠を続け、土壌シードバンクを形成すると唱える研究(崎尾 2009)もあるが、マメ科植物の種子は一般に寿命が短く腐りやすいので、これに継続性があるとは考えにくく、実際に土中での種子の寿命を計測した事例はない。

ハリエンジュは、萌芽によるクローン生長で個体群を拡大することができる。また肥大し水平方向に広がる根から芽を出す「根萌芽」によっても個体群を拡大する。この根萌芽は、ハリエンジュが河川敷で迅速に樹林化する最大の要因である。ハリエンジュは胸高直径が大きいほど木質内の貯蔵物質(デンプン)が多く、これを利用し根萌芽を大量に作ることができる(崎尾 2009)。

河川におけるハリエンジュの繁茂と在来植物への悪影響

日本では、明治時代以降に山地崩壊跡地や河川の堤防沿いの緑化にハリエンジュが植栽されており、河川の上流には種子供給源が多い。日本では台風による大規模な増水と攪乱が起こりやすく、上流から河川敷に種子が大量に供給される(崎尾 2009)。ハリエンジュは栃木県・群馬県を流れる渡良瀬川礫床区間の落葉広葉樹の占有面積の大半を占めており、多摩川、千曲川の礫床区間でも同様である。群馬県では、桐生市内の渡良瀬川で最大の樹林を形成している。足尾町から桐生市に至る渡良瀬川河川敷一帯および草木湖周辺は、足尾町での植林由来のハリエンジュが繁茂している(石川ら 2009)。このようにハリエンジュは、礫床河川における河道内樹林化の代表種となっている(清水 2005)。

ハリエンジュは表層に細砂とシルトからなる堆積層がある河川敷で繁茂しているが、丸石河原や砂地の河川敷では生育が難しいとされている(石川ら 2009)。この堆積層形成には、礫床河川の近年の河道特性の変化が大きく関わっている。その変化には、河道の一部が河床低下することより生じる複断面化、もともと低水路であった河床の一部が相対的に比高の高い河床となる高水敷化といったものがある。この変化と洪水で土砂が堆積したことで、比高差が拡大し、攪乱を受けない安定的な陸地部が形成されて、ハリエンジュなどが樹林化するようになったとされる(清水 2005)。

攪乱頻度が減少していくと、カワラノギクなどの河川敷固有の在来植物は減少してしまうが、一方でハリエンジュなどの外来種が増えていくという報告がある(村上・鷲谷 2002)。また河毛(2010)が群馬県内を流れる神流川、渡良瀬川のハリエンジュ林で行った植物相調査によれば、ハリエンジュ林林床やクズの群生している場所では、土壌が富栄養化しており、オオブタクサやセイタカアワダチソウなどの競争力の強い外来植物の生育が確認された。すなわち河川敷でハリエンジュが樹林化すると、在来植物が減少し外来植物が増加して、河川敷本来の植生が損なわれてしまう危険性が高まるといえる。

ハリエンジュを除去するために多くの対策が考案されている。薬剤散布や巻枯らしなどがあるが、最も代表的なのが伐採である。

群馬県で最大のハリエンジュ繁茂地である渡良瀬川河川敷では、2005年3月に国土交通省が一部皆伐を行った。それ以降も毎年1度、葉がでる前の早春に、一部の個体群で萌芽した幹を全て切除した。その結果、毎年すべての幹を除去した個体の幹の重量は、2005年の皆伐以後放置した個体に比べ40分の1以下に減少し、なかには枯死する個体も複数出始めている。一方、皆伐以後3年間そのまま放置した個体群では、樹高3m程度の樹林が復活してしまった(依田 2007;石川ら 2009)。

ハリエンジュのアレロパシー(他感作用)と光環境の改悪

アレロパシーは、植物から放出される化学物質が、他の生物に阻害・促進、あるいはその他の何らかの影響を及ぼす現象である(日本農学会 2008)。ハリエンジュのアレロパシーの原因物質として、ロビネチン(Nasir et al 2003)とカテキン(Iqbal et al 2004)などがあげられており、いずれもレタス種子の発芽を阻害した。また河田(2009)によると、ハリエンジュの根・茎・葉の抽出液はハリエンジュの種子自体の発芽も抑制した。さらにハシフー(2010)による同様の発芽実験では、ハリエンジュの根と茎の抽出液が、河川敷に生育する外来種3種(ナガバギシギシ、コセンダングサ、ショカツサイ)および在来種3種(チヂミザサ、ミゾコウジュ、メハジキ)の発芽率を大きく低下させた。またこの低下の度合いは、全体として外来種3種よりも在来種3種でより大きくなった。

河毛(2011)が群馬大学荒牧キャンパス構内のハリエンジュ林林床で相対光量子密度の季節変化を計測したところ、ハリエンジュの葉が展開し始める6月の上旬からおよそ4ヶ月間、林床は相対光量子密度10%程度以下の暗い環境が続くことが示された。

これらの結果から、ハリエンジュの樹林化によって在来植物が減少し外来植物が増加して、河川敷本来の植生が損なわれてしまう原因としては、ハリエンジュの持つアレロパシーと光環境の改悪が想定できる。

研究目的

明治時代以降、日本国内で激増を続けている外来植物は、生態系・人・産業などに様々な悪影響を与えている。早急に外来植物の繁茂を抑制しなければ、私たちにとってかけがえのない生態系が失われてしまう危険性が極めて高い。外来植物を防除するためには、その繁殖特性、生育条件、諸影響の発生メカニズムを研究し、結果をもとにして有効な駆除対策を検討する必要がある。

本研究で対象とするのは、明確な実害が報告されているハリエンジュである。ハリエンジュは早春から葉を展開し林床の光環境を悪化させる。また、他感作用を持って他の植物の発芽を阻害し、土壌を富栄養化させる。これらがハシフー(2009)や河毛(2011)などの先行研究により明らかになりつつある。

そこで本研究では、ハシフー(2009)および河毛(2011)の研究を継承し、ハリエンジュが在来植物の生育環境と生長に及ぼす影響を解明することを目的とした。そのため、ハリエンジュ林土壌と黒土を用土とした操作実験下で外来・在来植物を栽培して生長解析を行った。さらに、国土交通省によってハリエンジュの除去実験が行われている渡良瀬川河川敷での植物相調査と土壌窒素・リン濃度分析、群馬大学構内の雑木林とハリエンジュ林での相対光量子密度の測定を行って、ハリエンジュが在来植物の生育環境をいかに改変するかを解析した。

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