はじめに

 

地球と日本の野生生物種の多様性

 地球上には、熱帯、温帯、極地、沿岸・海洋域や山岳地域など、多様な生態系が存在し、多種の生物が生育している。既知の総生物種数は約175万種で、このうち、哺乳類は約6,000種、鳥類は約9,000種、昆虫は約95万種、維管束植物は約27万種となっており、未確認の生物も含めた地球上の総種数はおよそ500万〜3,000万種の間と推定されている(IUCN 2009)。

 日本列島は、火山や地震の多い環太平洋火山帯に位置し、複雑な地形と豊富な降水量といった立地条件を有することから、5,500種を超える陸上植物種が生育するなど、世界の中でも植物種多様性の高い地域となっている。これらのうち約三分の一の種は、日本固有の植物である(植田1993)。しかし、第二次世界大戦後の高度経済成長期以降、産業構造の変化と土木開発行為による農耕地の縮小・衰退と森林の荒廃が急速に進み、この豊かな自然環境を有する国土は大きく変容し、21世紀を迎える頃から、生物種の絶滅と生態系の破壊が大きな社会問題となっている。

 生物種が多様であることを「生物多様性」と呼ぶ。生物多様性は、「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多様性」の3つの階層で構成されている。

 「生態系の多様性」は、地球上に自然林や里山林・人工林などの森林、湿原、河川、サンゴ礁などの様々な生育環境が存在することである。すべての生物はこれらの多様な生育環境に適応することで多様に分化してきたことから、生態系の多様性は「種の多様性」の源であるといえる。

 「種の多様性」は、科学的に解明されている生物種は約175万種、未知のものも含めると3,000万種いるとも言われる膨大な数の生物種の存在を指す。

 「遺伝子の多様性」は、様々な環境に対応するためには、乾燥に強い個体、暑さに強い個体、病気に強い個体など、様々な個性をもつ個体が存在し、また同じ種であっても個体間で、生育する同一地域内でも体の形や行動などの特徴に少しずつある違いのことを指す(COP10 HP 2009)。

 2002年に策定された新・生物多様性国家戦略では、日本の生物多様性の危機について、何が生物多様性を脅かし、人と自然の共生を困難にしているのかを明確にするために、3つの危機に言及した。

 第一の危機は、「開発や乱獲などによる種の絶滅や減少、生息・生育地の減少」である。これは人間活動の強い影響により、種が絶滅の危機にさらされることで、豊かな自然が失われるということである。これは以前からの危機であり、近年一層深刻化している危機である。

 第二の危機は、「人間の生活スタイルの変化に伴う里地・里山生態系の質の変化」である。これは里山などの、自然環境と人為的な干渉の2つのバランスで成り立っていた環境において、人間の生活スタイルの変化からこれまで資源として使われていた、生物や土地や利用方法が放棄されるなどの人為的干渉が減る、アンダーユース(利用不足)の状態になることで、そのバランスが崩れて維持されなくなることである(松田 2009、江崎・田中 1998)。

 第三の危機は「外来種による生態系の混乱」である。これは外来種など人為的に持ち込まれたものによって、地域固有の生態系が攪乱されることである(環境省HP 2007)。

 

里山とは

 里山は日本を代表とする景観の一つであるが、その定義は現在のところ統一されているわけではなく、複数提唱されている。犬井(2002)は『関東平野のような広大な平野では、里山は平地林からなる。山間地では人里に近い山林が里山である』とし、石井(2005)は『狭義には薪炭林あるいは農用林のことであるが、広義には水田やため池、水路からなる「稲作水系」や畑地、果樹園などの農耕地、採草地、集落、社寺林や屋敷林、植林地などの農村の景観全体、都市周辺の残存林などを含めることも多い』としている。また大住(2000)は『日常生活及び自給的な農業や伝統的な産業のため、地域住民が入り込み、資源として利用し攪乱することで維持されてきた、森林を中心にした景観』としている。いずれにしても人間の生活域と自然が、農林水産業を介して、境界で接しつつお互いが影響しあって成立している地域と言えそうである。

 里山では長年、主として農業が営まれ、農民は水田、畑地、ため池、二次林、草地を形成して持続的に利用してきた。農山村に住む人々にとっては、生活や生産活動を支える物資の供給源でもあり、生活に密着した存在であった。山菜や、キノコ、木の実の採集を初め(吉武 2000)、日常生活に必要な薪炭材、農作物に必要な堆肥や厩肥の材料となる落葉、落枝、下草、あるいは家畜の餌となる下草を里山に依存していた。里山は農山村の人々の生活とは切っても切れない強い結びつきがあったのである(堀 2000)。

 しかし、こうした強い結びつきも、戦後の経済成長とグローバル化の進展によって衰退していった。その原因の一つは、1960年代以降、薪炭材などの木質エネルギーがしだいに石炭、石油、天然ガスなどの、主として輸入される化石エネルギーに転換された、いわゆる「エネルギー革命」である。このエネルギー革命によって、里山の薪炭材供給という意義が小さくなった。もう一つの原因として農業の化学化が挙げられる。化学肥料の利用によって里山から落葉、落枝、下草を採取する必要がなくなった(堀 2000)。また、水道の普及によって、ため池や小川に生活用水を依存する必要がなくなった(吉武 2000)。このようにして、里山の存在価値がしだいに薄れてゆき、人々と里山とのつながりが薄れ、里山は、宅地や工場、ゴルフ場などに転用されていった。また、残された里山の雑木林や草地や水田も、放置されたりゴミの投棄場にされるなど管理の疎放化が進んでいった(坂口 2000)。

 里山の衰退はこれらだけではない。農業の機械化は、圃場整備を必要とする。丘陵地に作られる谷津田は、ため池やそこから流れ出る水路などを含む生物相豊かな内水系であったが、圃場整備により水生生物相が特に大きなダメージを受けた(石井 1993)。谷津田や棚田では、区画が小さい、農道が作りにくい、農家から遠いなどの悪条件下にあるため、大河川沿いに広がる平野よりも稲作を続けるのに多くの労力を必要とする(山本 2000)。このため、耕作しにくい谷津田などの休耕化が進んでいった(西原ら 2007)。

 

生物多様性と里山

 近年の研究により、現在も昔に近い形で残っている里山地域には、非常に多くの野生生物が生育し、高い生物多様性が維持されていることが明らかにされつつある。特に植物に関しては、種数の多さに加えて、多数の絶滅危惧種を含む希少種の生育が確認されている(例、大森 2006;2007、高橋 2009、江方 2010)。また、里山地域に絶滅のおそれがある種の分布を重ねてみると、絶滅危惧種が多く出現する場所の5割が里山にあるとされることなど、里山は生物多様性保全の意味でも重要な位置を占めている(生物多様性政策研究会 2002)。

 里山では伝統的な農耕手法により、長期間にわたって人と自然の共生関係が維持されてきた。このことが原因で、里山は植物種多様性が非常に高く、また多くの絶滅危惧種・希少種が生育するとされている(例、大森 2006;2007、高橋 2009、江方 2010)。里山では長年、主として農業が営まれ、農民は田畑を耕すことにより裸地をつくり、ススキの原を刈ったり焼いたりすることにより草原を維持し、雑木林を定期的に伐採することにより照葉樹林への移行を停止してきた(石井 1993)。このような行為は、成熟した生態系への遷移を遅らせる攪乱の一つである(日本生態学会 2003)。里山は、これらのような中規模な人為的攪乱を常に受けている生態系であり、里山の環境はこれによって常に変動している。したがって、人為的撹乱の種類や強さが変われば、里山の環境は変化し、植物相を含む生物相も変化すると推察されている(佐藤 2005)。

 逆にみれば、里山の植生は中規模な人為的攪乱を常に受けて成立しているので、人が何もしないで放置すれば、二次遷移が進行して、雑木林は照葉樹林のような陰樹樹林へ、草原はブッシュ化しやがて疎林へ変貌してしまうとも推察されるし、現実にこれらが起こっている地域も多い(石井 1993)。したがって、里山のような二次遷移が人為的中規模攪乱によって停止されている生態系を、その状態で維持するためには、伝統的農耕手法あるいはこれに類似の人為的な管理が不可欠であると考えられている(石井 1993)。

 しかし高度経済成長期以降、里山の存在価値は次第に失われていき、放置されていった(石井 1993)。このため里山の生態系は多様性が衰退し、里山の生物は生育場所を失って衰退・絶滅していき、里山の環境に依存して生きている生物種は、次々と絶滅危惧種・希少種になっていった(中島 2004)。

 

絶滅危惧種とその現状

 国際自然保護連合(IUCN)の働きかけにより、世界各国で「絶滅のおそれのある生物のリスト」の作成が行われ、継続的調査研究によって毎年改定されている(IUCN ホームページ参照)。このリストは「レッドリスト」と称され、レッドリストに掲載された生物の分類・生態学的特徴と絶滅危険度の現状をとりまとめた刊行物は「レッドデータブック」と称されている。

 日本においては、最初の植物レッドデータブックは1989年に発行された。1994年からさらに詳細な調査が行われ、1997年にレッドリストが改定され、これを改定する形で2000年には環境庁版の新しい植物レッドデータブック「改定・日本の絶滅のおそれのある野生生物‐レッドデータブック 植物I(維管束植物)」が出版された(矢原 2003)。

 レッドリストでは、過去にわが国に生息したことが確認されており、飼育・栽培下を含め、わが国ではすでに絶滅したと考えられる種を「絶滅(EX:Extinct)」、過去にわが国に生息したことが確認されており、飼育・栽培下では存続しているが、わが国において野生ではすでに絶滅したと考えられる種を「野生絶滅(EW:Extinct in the Wild)」、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性がきわめて高いものを「絶滅危惧IA類(CR:Critically Endangered)」、IAほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いものを「絶滅危惧IB類(EN:Endengered)」、現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧I類」のランクに移行することが確実と考えられるものを「絶滅危惧II類(VU:Vulnerable)」、現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては、「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要因を有するものを「準絶滅危惧(NT:Near Threatened)」、環境条件の変化によって、容易に絶滅危惧のカテゴリーに移行し得る属性を有しているが、生息条件をはじめとして、ランクを判定するに足る情報が得られていない種を「情報不足(DD:Data Deficient)」と評価している。

 最新版の日本のレッドリストは平成19年に見直しが行われたもので、記録されている維管束植物の種数は、絶滅33種、野生絶滅8種、絶滅危惧IA類523種、絶滅危惧IB類491種、絶滅危惧II類676種、準絶滅危惧種255種、情報不足32種の合計2018種である(環境省ホームページ参照)。

 レッドリストやレッドデータブックは各都道府県でも作成されており、各都道府県それぞれの独自の基準を設け、地域の動植物を評価している。群馬県では、県内の絶滅の恐れのある野生植物の一覧(群馬県の植物レッドリスト)をまとめ、平成12年2月に公表した。また、レッドリスト掲載の個々の種について、特徴や評価の理由、分布状況等の情報を加えた「群馬の絶滅の恐れのある野生生物(植物編)」(群馬県レッドデータブック植物編)を作成し、平成13年1月に発行した(群馬県庁ホームページ参照)。

 群馬県レッドリストでは、県内ですでに絶滅した種を「絶滅」、県内では絶滅の危険性が増大している種を「絶滅危惧I類」、県内では当面絶滅のおそれはないが、個体数が著しく減少している種を「絶滅危惧II類」、県内では個体数が少なく、分布の限られている種を「準絶滅危惧」、群馬の地域的な特性として、もともと個体数が少なく分布が限られている種を「希少」、県内では評価するだけの情報が不足している種を「情報不足」、とする6段階の評価を行っている。群馬県レッドリストでは植物について絶滅55種、絶滅危惧I類157種、絶滅危惧II類26種、準絶滅危惧種11種、希少104種、情報不足29種の合計382種が記載されている。平成21年度より、この群馬県版レッドリストの改定作業が開始されるが、これはこの数年間の調査研究により、特に県内の里山地域と水辺地域において、多数の絶滅危惧種の生育が明らかになってきた(大森 2006;2007)からである。

 

生物多様性条約とCOP10名古屋会議

 1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)に合わせ「気候変動に関する国際連合枠組条約」(気候変動枠組条約)、「生物の多様性に関する条約」(生物多様性条約)が採択された。特定の貴重種や生態系だけでなく、地球全体として、生態系、生物種、遺伝子の3つのレベルから、多様な生物とその恵みを国際社会が協力して将来の世代に引き継ぐための国際的枠組として設けられたものである。

 条約の3つの目的は、1.生物多様性の保全、2.生物多様性の構成要素の持続可能な利用、3.遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分である(渡辺 2010)。

 生物多様性条約はその第六条で、それぞれの国が生物多様性の保全と持続可能な利用を目的とした「国家戦略」つまり、国をあげて取り組むための方針と計画を作ることを求めている(鷲谷 2003)。これを受けて、日本では1995年に「生物多様性国家戦略」が策定され閣議決定された。その後2007年11月には、「第三次生物多様性国家戦略」が閣議決定された。この第三次国家戦略は、具体的な取り組みについて、目標や指標などもなるべく盛り込む形で行動計画とし、実行に向けた道筋が分かりやすくなるよう努めたこと、「100年計画」といった考え方に基づくエコロジカルな国土管理の長期的な目標像を示すとともに、地球規模の生物多様性との関係について記述を強めたこと、地方公共団体、企業、NGO、国民の参画の促進について記述したことなどが大きな特徴である(環境省HP 2007)。

 2010年10月には、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が愛知県名古屋市で開催された。生物多様性条約の今後の方向性を決める、重要な会議である。COP10では主に、2002年にオランダのハーグで開かれたCOP6で採択された2010年目標の評価、新戦略の策定、遺伝資源のアクセスと利益配分に関する名古屋議定書の採択が行われた。

 2010年目標とは、「貧困の緩和と地球上のすべての生命のために、2010年までに生物多様性損失速度を顕著に減少させる」という目標のことであった。COP10では、2020年までの取り組みを総括的に示した全体目標と、その下にある20の個別項目で構成される(読売新聞記事 2010)、「愛知ターゲット」が採択された。意欲的な目標を求めるEUと、実現可能性を重んじる途上国との間で最終的には妥協が図られ、「2020年までに、生態系保全を確保する目的で、生物多様性の損失を止めるための行動を起こす」との趣旨の文言となった。中期的目標(「自然との共生」)については、「2050年までに、生態系サービスを維持し、健全な地球を維持し全ての人に必要な利益を提供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用される。」ことが合意された(読売新聞記事 2010、環境省ホームページPDFファイル参照)。名古屋議定書のように強い法的拘束力はないが、今後の各国の政策の目安となる(読売新聞記事 2010)。

 また、生物遺伝資源の利益配分ルールである、「名古屋議定書」が採択された。遺伝資源のアクセスと利益配分(ABS)に関する名古屋議定書については、ABS議定書案の検討により、いくつかの論点での資源提供国と利用国の意見対立が続いたが、最終日に我が国が議長国としての議長案を各締約国に提示し、同案が「名古屋議定書」として採択された。具体的な内容として、「名古屋議定書」の第一条「目的」では、「生物遺伝資源の利用がもたらす利益を、生物遺伝資源の適切な利用、関連技術の適切な移転、および適切な資金を通して、公正かつ公平に分配することにより、生物多様性の保全と生物の持続的な利用を促進する」としている(読売新聞記事 2010、環境省ホームページPDFファイル参照)。

 COP10会議においては、生物多様性条約の今後の方向性が示されただけでなく、参加国からホスト国のとりまとめ努力に対して高い評価が示されるなど、生物多様性に対しての日本の姿勢を世界に示すことができたと考えられる。

 

SATOYAMAイニシアティブ

 鳩山首相麾下の日本政府は、COP10において、我が国の里地・里山のような持続的生態系管理の思想や手法を国際的に促進していく取り組みとして、SATOYAMAイニシアティブを提唱した。SATOYAMAイニシアティブでは自然と共生的な社会のモデルとして、日本の里地里山における伝統的な自然−人間関係に注目している。

 このイニシアティブは、生物多様性の悪化を止め、回復の方向に転換し、生物多様性の恵みを将来にわたって人類が受け取るためには、原生的な自然の保全強化に加えて、人と自然の調和的な関係を再構築することが不可欠という考え方に基づいている。「生物多様性の保全」と「持続可能な利用」という2つの目的を同時に達成するための土地や自然資源の利用・管理のあり方を考え、世界各地での実践を促進していくことを目的としている(渡辺 2010)。

 生物多様性の持続的利用を図るためには、自然を侵略的に開発することをやめ、自然を単に資源の供給先と考えるだけではなくて、生命系の一要素である人が、自分を取り巻く自然環境と共生しながら生きる道を模索することが望まれる。これらは、日本人が歴史で実践してきた生き方であり、COP10に向けて発信されているSATOYAMAイニシアティブは、日本的なみどりの観念を世界に発信しようとしている。しかし、日本の里山環境を他の地域に押しつけるようなものではなく、各地域の特徴を尊重しながら、国内外の自然共生の現状を踏まえて持続可能な自然資源の利用・管理を、世界各国で推進していくものである(渡辺 2010)。

 SATOYAMAイニシアティブの長期目標は、自然のプロセスに沿った社会経済活動(農林水産業を含む)の維持発展を通じた「自然共生社会」の実現である。生物資源を持続可能な形で利用・管理し、結果として生物多様性を適切に保全することにより、人間は様々な自然の恵みを将来にわたって享受できるような自然共生社会の実現を長期目標としている(SATOYAMAイニシアティブHP参照)。

 その長期目標の達成に向けた道筋として、3つの行動指針を提案している。1.多様な生態系サービスと価値の確保のための知恵の集結、2.革新を促進するための伝統的知恵と近代科学の融合、3.伝統的な地域の土地所有・管理形態を尊重した上での、新たな共同管理のあり方(「コモンズ(共同管理の仕組み)」の発展的枠組)の探求、などが提案されている(SATOYAMAイニシアティブHP参照)。

 また、この行動指針に沿って、各地域において持続可能な自然資源の利用と管理を実践していく際には、実践的な視点として、次の5つの生態学・社会経済学的視点が重要であると考えられている。これらは、1.環境容量・自然復元力の範囲内での利用、2.自然資源の循環利用、3.地域の伝統・文化の価値と重要性の認識、4.多様な主体の参加と協働による自然資源と生態系サービスの持続可能で多機能な管理、5.貧困削減、食糧安全保障、生計維持、地域コミュニティのエンパワーメント(自律性を促す)を含む持続可能な社会・経済への貢献、である(SATOYAMAイニシアティブHP参照)。

 人間と自然の良好な関係を構築することによって、SATOYAMAイニシアティブは世界的なレベルで進行する生物多様性の損失を減少させることに貢献できると考えられている。あわせて二次的自然環境での生物多様性の維持・向上、及び持続可能な自然資源利用の促進といった二重の効果が期待されている(SATOYAMAイニシアティブHP参照)。

 また、持続可能な土地や自然資源の利用・管理に興味を持つ政府、市民社会、企業、NGO、教育・研究機関、国際機関などで構成されるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)が立ち上げられた。世界各地域での実践を推進するために、国際的にこのイニシアティブが特定する活動を実践することを目指している(渡辺 2010、SATOYAMAイニシアティブHP参照)。

 この政策を今後実際に実行していくためには、里山地域における生物多様性の現状とその形成・衰退要因を解明することが不可欠であると考えられる。

 

本研究の目的

 以上を踏まえ、本研究では、里山地域における絶滅危惧種・希少種を含む、植物種多様性の現状とその形成・衰退要因を解明することを目的とした。

 このために、群馬県内において長期間里山として維持されている地域である西榛名地域を調査地とした。この地域において植物相調査を行うことによって、里山地域においてどのような植物が生育しているのか、里山地域における植物種多様性がどのようにして維持されているのか、現状を評価した。具体的には、調査地において環境条件(相対光量子密度、土壌含水率)の立地別季節変化を計測することによって、絶滅危惧種・希少種の生育環境の特徴について考察を行った。また、この地域において絶滅危惧種・希少種の種子を採取し、結実率を調査することにより、個体群の維持機構について考察した。

 さらに調査地で採取した数種の在来植物の種子について、発芽実験を行って発芽の温度特性を解析し、発芽した実生を用いて栽培実験を行って生長特性を解析した。これらの結果から、里山に生育する在来植物種の発芽・生長特性と生育環境条件の関係について、考察を行った。

 なお保護上の理由により、本稿の一部を非公開とし、白紙にした。

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