調査地概要

 

西榛名地域

 当調査地は群馬県の榛名山麗西部に位置し、東吾妻町と高崎市の一部を含む。当調査地は海抜450-800mであり(石川 2008)、気温は日中高く、夜間は冷え込むという山地特有の気候である(写真1、倉渕町ホームページ参照)。

 ここに分布する森林の大部分は、コナラやアカマツなどの二次林かスギやカラマツの植林地である。土地利用様式は、農耕地(ミョウガなど野菜類)および薪炭林や農用林として利用されてきた二次林が主で、これらが集落後背地に隣接して分布し、典型的な里山景観をなしている。2005年-2006年の群馬県自然環境調査研究会の合同調査により、特に植物の種多様性が非常に高いことが明らかにされている。すなわち、植生区分ではクリ−コナラ群集(Castaneo- Quercetum serratae Okutomi, Tsuji et Kodaira 1976)やオニヒョウタンボク−ハルニレ群集(Lonicero- Ulmetum japonicae Okuda 1979)など23種類もの多様な群落・群集の成立が確認された(鈴木・大森 2008)。また植物相では、シダ植物と種子植物が計113科768種、雑種・変種、以上の分類群を含めると計813種類生育していることが確認された。この中には、国または県指定の絶滅危惧種(環境庁自然保護局野生生物課 2000、群馬県 2001)および県レッドデータブック公表後に発見された希少種が30種含まれている(大森ら 2008)。これらの貴重種の中には、当地の農耕特性に適応して繁殖していると推察されるものも数種ある。ミョウガ畑に保温のために周辺の二次林・草地からリターまたは植物体を集めて被せる、という農耕方法によって中規模攪乱が定期的に生じ、これにより数種の貴重種の繁殖が促進されている可能性があるとされている(石川ら 2009)。

 このように里山地域において、伝統的農耕に伴って多様な植生・植物相が成立し、かつこれだけ多くの貴重種が生育している現状は、全国的にみても極めて希である。したがって当地域は、群馬県の自然環境保全政策の根本にも関わる貴重な地域であるといえる。

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