調査地概要




西榛名、大道峠、板倉ウエットランド地域での調査は、群馬県自然環境課と群馬県自然環境調査研究会との合同調査で行われた。

西榛名(東吾妻町・高崎市)
 当調査地は群馬県の榛名山麓西部に位置し、東吾妻町と高崎市の一部を含む(図1)。標高は400-800mで、大部分は農耕地と二次林が集落に隣接して立地している(大森 2008)。気温は日中高く、夜間は冷え込むという山地特有の気候である(倉渕町ホームページ参照)。炭を生産しているのに加えて、特産品であるきのこやミョウガの栽培に原木や保温用の落ち葉が必要なため、伐採や落ち葉かきが定期的に継続された二次林が広い範囲で残されている(大森 2008)。

大道峠(中之条町・みなかみ町)
 当調査地は群馬県北部にある中之条町とみなかみ町の一部を含む地域である(図1)。中之条町は、森林が面積の約8割を占めており、盆地、河岸段丘、丘陵地などがみられ、変化に富んでいる。標高差があるため気候に地域的な格差はあるが、山に囲まれた盆地状の地形であるため、内陸性気候となっている。産業は、米、こんにゃく、野菜、果樹など色々な農産物が生産される農業、広大な山林を基盤とする林業、郡内一円を商圏としている商業、製糸や製材から電気機器製造へと主業種が移行している工業、四万・沢渡などの温泉などを拠点とする観光業が主要である(中之条町ホームページ参照)。

板倉ウエットランド(板倉町・渡良瀬遊水池)
 当調査地は群馬県の東南端にある板倉町と、群馬県・栃木県・埼玉県・茨城県の県境に立地する渡良瀬遊水池を指す(図1)。
 渡良瀬遊水池は面積33平方キロメートルという日本で6番目、本州では1番目に大きな湿地帯である(大和田 2005)。渡良瀬川・思川・巴波川の流量を調整し、洪水を防ぐことを目的としている(板倉町ホームページ参照)が、実際には足尾鉱毒事件で下流に流出した水や土壌に含まれている鉱毒を沈殿させることも目的とされていたようである(澤口 2000)。その足尾地域と関連して、2000年から「わたらせ未来プロジェクト」と称する渡良瀬川流域を対象とした自然再生事業が行われ、足尾地域の自然再生活動に渡良瀬遊水池で採取したヨシを利用するなどさまざまな試みがなされている(飯島 2003)。
 また、板倉町は、渡良瀬川と利根川、渡良瀬遊水池に挟まれ、標高13-24mの低湿地帯が広い面積を占めているため、昔からたびたび洪水・水害に見舞われている地域である。しかし、豊富な水と平坦な地勢、群馬県下で最も温暖な気候を利用して水田・畑作などの農業を中心とした町である(板倉町ホームページ参照)。本研究においては、この地域の中で板倉ニュータウンにある調整池(通称・あさひの池)、谷田川周辺、および行人沼において調査を行った。

やたっぽり(伊勢崎市)
 当調査地は利根川の支流である男井戸川の遊水池予定地を指す(図1)。
伊勢崎市では、たびたび起こる男井戸川の洪水に備えるために調節池(遊水池)をつくる計画がある。男井戸川は市街地を流れているので川幅を広げることが難しく、早急な対策を行うためには遊水池をつくることが有効であると考えられた本計画では、治水だけでなく水質改善、生物の生育・生息環境の確保などの点においても同時に整備することが基本方針に盛り込まれている。2001年から住民と県との懇談会が開かれ、遊水池の管理に対する住民参加を促進している。また、2008年11月から住民参加型の検討委員会が開かれている。本研究においては、この遊水池予定地の中にある、買収済未耕作水田を暫定的に利活用するために造られたビオトープとその周辺の休耕田において調査を行った。

アドバンテスト・ビオトープ(明和町)
 当調査地は群馬県邑楽郡明和町、株式会社アドバンテスト群馬R&Dセンタ2号館敷地内に2001年4月に竣工した大型ビオトープである(図12)。本ビオトープは、半導体試験装置等の開発・製造業者であるアドバンテスト社が、環境保全活動の一環として、自然環境との共生をうたって構築したものである。本ビオトープの面積は約17,000uと、民間企業所有としては国内最大級の規模のものである。ビオトープは工業団地の一角に位置しており、建設前の用地は、雑草がまばらに育成する程度の裸地であった。敷地周辺は水田が広がり、畑地、雑木林などが点在しており、敷地北側には谷田川が、約2km南には利根川が流れている。
 本ビオトープは、「多様な生き物の生育空間の創出とネットワーク」、「失われつつある昔ながらの風景の再現」、「従業員の安らぎの場の創出」を目標として造成された。「多様な生き物の生育空間の創出とネットワーク」とは、地域の多様な生物種が生息できるよう、生態学的な知見に基づいた生育空間を創出し、R&Dセンタの北側に谷田川をはじめとする周辺環境との連続性とネットワークを形成しようというものである。「失われつつある昔ながらの風景の再現」とは、ひと昔前には関東平野北部のどこにでも広がっていた広大な氾濫原、失われてしまった水辺、湿性環境、雑木林と空き地の草原などの風景の再生を目指し、周辺環境の保全を行なうというものである。「従業員の安らぎの場の創出」とは、工場内で働く従業員の人々に対して、自然と触れ合える安らぎの場を創出するものである。このように、本ビオトープは単純に緑地を創出しようというものではなく、本来の定義に沿ったビオトープの創出を目指している。



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