調査方法・実験方法




植物相調査
 一般的に用いられるコドラート法による植生調査は、限られた面積内の植物相について解明する手法であるので、植物種多様性の低い地域以外では見落とす種が多い。そこで、広範囲にわたる生育植物種をリストアップする植物相調査を行った。各調査地域を踏査して、開花・結実している植物を中心として、デジタルカメラによる撮影または採取を行い、その後植物図鑑を用いて種の同定を行った。なおこの調査方法では、踏査により視認可能な種が対象になるため、比較的量の多い植物種をピックアップすることになる。各調査地における調査日は表1のとおりである。

気温・地温、相対光量子密度、土壌含水率
 アドバンテスト・ビオトープにおいて、植物相調査と同時に相対光量子密度、土壌含水率の測定を行った。
 相対光量子密度の測定は光量子センサー(IKS27, KOITO)を用いて、ビオトープ内の5地点(図3)について行い、毎回各地点5回ずつ測定を行って平均値を算出した。各地点での光量子密度の測定の前後に直近の裸地で光量子密度の測定を行い、裸地の測定値を100%として各地点の光量子密度を相対値で表した。フジバカマ生育地における土壌含水率の測定は、含水率計(Theta probe, Delta T)を用いて行った。
 また、アドバンテスト・ビオトープ内10地点(図4)において、地上約1mおよび深さ約10cmの土壌中にそれぞれに温度データロガー(TR-52,T&D Corporation)を設置し、気温及び地温を測定した。気温測定に際しては、センサ先端部分をアルミニウムカバーで覆い、直射日光が当たるのを避けた。測定期間は気温、地温ともに2007年11月22日から2008年10月21日であり、この間30分おきに気温と地温を自動記録した。測定データから、地点別に月ごとの日最高気温および地温・日平均気温および地温・日最低気温および地温の平均値と標準偏差を算出した。

発芽実験
 2006年に西榛名地域で採取した5種の植物(カラハナソウ、サジオモダカ、ナガミノツルキケマン、ユキザサ、ノブキ)、2007年に西榛名で採取した3種の植物(ヒロハヌマガヤ、フシグロセンノウ、キンミズヒキ)、2008年に西榛名で採取した2種類の植物(ツリフネソウ、キバナアキギリ)、2006年にアドバンテスト・ビオトープで採取したミゾコウジュ、2007年にアドバンテスト・ビオトープで採取したフジバカマ、2008年に渡良瀬遊水池で採取したハナムグラ、2008年に伊勢崎やたっぽりで採取したカワヂシャの計14種類の種子を用いた(表2)。
 種子を、石英砂を敷いた直径9cmのプラスチック製シャーレに50個ずつ入れ、各々のシャーレに蒸留水を約20cc注入した。温度勾配恒温器(TG-100-ADCT,NK system)にシャーレを入れて培養した。温度勾配恒温器内の温度は30/15℃、25/13℃、22/10℃、17/8℃、10/6℃(昼14hr、夜10hr、昼間の光量子密度は約30μmol m-2s-1)の5段階とし、各温度区で1植物あたり3シャーレを培養した。実験開始後1ヶ月間は毎日、その後は1-3日おきに種子を観察し、肉眼で幼根が確認できたものを発芽種子とみなして数を記録し、取り除いた。また観察日ごとに蒸留水をつぎ足し、常時湿った状態を保った。
 冷湿処理を行わなかった4種類については、ツリフネソウは10月27日から11月30日までの35日間、ノブキとキバナアキギリは10月27日から12月12日までの47日間培養して実験を行った。これ以外の10種の植物の種子については培養前に2ヶ月間4℃で冷湿処理を施し、うちユキザサ、ナガミノツルキケマン、ハナムグラの3種類は2008年10月5日から2008年11月1日までの27日間、サジオモダカ、フシグロセンノウ、フジバカマの3種類は2008年10月5日から2008年11月12日までの34日間、カラハナソウ、キンミズヒキ、ヒロハヌマガヤ、ミゾコウジュの4種類は2008年10月5日から2008年12月4日までの60日間実験を行った。カワヂシャは種子が小さいため、0.0012gを50粒として、電子式上皿天秤で種子の重量を測定してシャーレに入れ、12月2日から12月12日までの10日間25/13℃の温度区で培養を行った。毎日実体顕微鏡を用いて幼根を観察し、発芽を確認した。

 なお、結果を詳細に比較するため、石川が11種の同様の種について2007年に行った発芽実験の結果(未発表)を合わせて、考察を行うこととした。石川は4℃冷湿処理を約3ヶ月施した後に、上記と同等の温度条件下で発芽実験を行った。

生長解析
 2008年7月2日に伊勢崎市やたっぽりにおいて採取したカワヂシャの種子を用いた。ジフィー・ピートバン(サカタのタネ)に2008年9月5日に種子を播種し、光量子密度245μmol m-2s-1、気温28/20℃(昼 12h、夜 12hr)に制御した人工気象器(MLR-350、SANYO)約1ヶ月間栽培した。2008年10月7日に、連結ビニールポット(各ポットは各辺5cmの立方体)に花卉園芸用培養土(カインズホーム)を約100cc入れ、これらに1本ずつ苗をランダムに植栽し、120ポットを作出した。これらの苗を1日室内で静置した後、同上の人工気象器に入れて約1週間栽培した。その後、2008年10月13日に20ポットを初回サンプリングし、残りの100ポットを5区に分けて、20ポットずつをそれぞれ5段階の光条件に設定した(光量子密度は36μmol m-2s-1、55μmol m-2s-1、139μmol m-2s-1、245μmol m-2s-1、445μmol m-2s-1)人工気象器内に設置して栽培した。栽培期間中の人工気象器内の気温は28/20℃(昼12hr、夜12hr)に調節した。苗は毎日水道水を灌水し、約1ヶ月間栽培し、2008年11月10日に最終サンプリングを行った。
 サンプリングした苗は個体ごとに根・茎・葉に分けて紙袋に入れ、送風定温乾燥機(FC-610, ADVANTEC)に入れて一週間80℃で乾燥させた後、電子式上皿天秤(BJ210S Sartorius)で乾燥重量を測定した。葉面積はカラースキャナー(GT-8700 EPSON)を用いて解像度300dpi、16bitグレーでスキャンした後、Image J 1.41o(NIH)を用いて面積を測定した。今回は148cm2あたり2067835ドットとした。
 生長解析の各パラメータは、以下の式を用いて算出した。

  相対生長速度(RGR:Relative Growth Rate)
   RGR=(ln(TW2)−ln(TW1))/(T2−T1)
TW1:初回サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
TW2:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
T1:初回サンプリング日
T2:最終サンプリング日

  純同化率(NAR:Net Assimilation Rate)
   NAR=(TW2−TW1)(ln(LA2)−ln(LA1))/(LA2−LA1)/(T2−T1)
TW1:初回サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
TW2:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
LA1:T1における個体の葉面積(m2)
LA2:T2における個体の葉面積(m2)
T1:初回サンプリング日
T2:最終サンプリング日

  葉面積比(LAR:Leaf Area Ratio)
   LAR=(LA1/TW1+LA2/TW2)/2
TW1:初回サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
TW2:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
LA1:T1における個体の葉面積(m2)
LA2:T2における個体の葉面積(m2)

  比葉面積(SLA:Specific Leaf Area)
   SLA=LA/TW
LA:最終サンプリングにおける個体の葉面積(m2)
TW:最終サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)

  葉重比(LWR:Leaf Weight Ratio)
   LWR=LW/TW
LW:最終サンプリングにおける個体の葉乾燥葉量(g)
TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

  茎重比(SWR:Stem Weight Ratio)
   SWR=SW/TW
SW:最終サンプリングにおける個体の茎総乾燥重量(g)
TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

  根重比(RWR:Root Weight Ratio)
   RWR=RW/TW
RW:最終サンプリングにおける個体の根乾燥重量(g)
TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)


統計解析
 発芽実験、生長解析の結果については、STAT VIEW 4.2J for Macintosh(Abacus Concepts)を用いて分散分析を行った。



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