結果および考察



生長解析
 オオカワヂシャについては柴宮(2009)を参照のこと。
 カワヂシャとオオカワヂシャの相対生長速度(RGR)は、生育光条件に対して有意に異なる反応を示した(P<0.0001)。すなわち、両種とも生育光条件が明るいほどRGRは高くなり、光量子密度が365μmol m-2s-1の1区で最小0.027(g g-1 day-1)で、55μmol m-2s-1の2区で0.031、139μmol m-2s-1の3区で0.038、245μmol m-2s-1の4区で0.058、445μmol m-2s-1の5区で最大の0.063となった(図18)。これらの値をオオカワヂシャのRGRの値と比較すると、1-3区ではRGRの値に大きな種間差はなく、4区ではカワヂシャの方がオオカワヂシャよりも大きく、5区ではオオカワヂシャの方が大きくなった。すなわちカワヂシャは、4区で設定した程度のやや暗い光条件したではオオカワヂシャよりも生長が早いが、5区のような明るい光条件したでは、オオカワヂシャよりも生長速度において劣るといえる。
 光合成生産速度を示す指標である純同化率(NAR)は、両種とも生育光条件が明るい区ほど高くなった(P<0.0001)。また葉を面積としてどれくらいつけたかを表す指標である葉面積比(LAR)は、カワヂシャでは生育光条件が明るい区ほど高く(P<0.0001)、0.035-0.057(m2g-1)程度となったが、オオカワヂシャでは生育光条件によらず0.02前後となった。すなわち、両種において生育光条件が明るいほどRGRが高くなった原因は、光合成器官である葉の面積の変化によるものではなく、光合成生産速度の変化によるものであるといえる。さらには、最も明るい生育光条件である5区において、RGRがカワヂシャよりもオオカワヂシャにおいて高くなった原因は、NARの違いにあるといえる。こうした生長パラメータの種間差は、カワヂシャとオオカワヂシャの体制の違いが主たる原因であると考えられる。すなわち、オオカワヂシャの実生は一本の茎を伸ばしてゲリラ的に地を這って伸び、また小さな葉をつけるのに対し、カワヂシャの実生は根元から複数の茎を出して叢生するファランクス的な体制をとり、大きな葉をつける(写真11)。このためオオカワヂシャは自己被陰が少なく、小さな葉でも十分に光を受けることができるため、効率よく光合成を行うためにNARが明るい光条件下でより高くなる。一方カワヂシャは自己被陰が多く、大きな葉をつけても重なってしまって十分に光を受けることができないため、明るい光条件下でも効率よく光合成を行えずにNARが高くならないと考えられる。
 両種のLARを比較すると、カワヂシャの方がオオカワヂシャの2 -2.5倍高い(P<0.0001)。両種の根・茎・葉への分配率の間には、生育光条件にかかわらず大差がない(図19)ので、このようなLARの種間差は、葉の厚さを表す指標である比葉面積(SLA)の差に起因していると考えられる。すなわち、カワヂシャはオオカワヂシャに比べて、同じ光合成産物の投資量に対してより広い葉面積を生産する(P<0.0001)。特に1区において種間差が大きく(P<0.0001)、オオカワヂシャのSLAが0.053(m2g-1)であったのに対してカワヂシャでは0.082となった。
 以上の結果から、同様の生育立地に生育する両種であるが、体制の違いが原因となって、生育光条件が明るい場合にはオオカワヂシャの方がカワヂシャよりも生長が早く、逆に生育光条件がやや暗い場合にはカワヂシャの方が生長が早くなることが明らかになった。すなわち裸地的な立地条件下では、準絶滅危惧種のカワヂシャは特定外来種のオオカワヂシャに生長速度で負けるため、駆逐されるおそれがあると推察される。逆に他種に被陰されてやや暗い条件下では、オオカワヂシャはカワヂシャに生長速度で負けるため、侵入に失敗する可能性が高まると推察される。
 植物体の乾燥重量は、生育光条件にかかわらず、カワヂシャの方がオオカワヂシャよりも有意に大きかった(P<0.0001)。RGRはこれとは全く異なる反応を示し、特に5区ではオオカワヂシャの方が高かった。この一見矛盾してみえる結果は、両種の種子サイズの違いに起因している。すなわち、種子サイズはカワヂシャ(0.024mg)の方がオオカワヂシャ(0.016mg)の約1.5 倍大きい。オオカワヂシャは、少ない投資でより多くの種子を生産し、種子が小さいデメリットをゲリラ的な体制で補って高いRGRを達成することにより、旺盛な生長と繁殖を遂げていると考えられる。



←前
目次
次→