結果および考察

リター生産

群馬大学構内混交林において、リターフォール量=リター生産速度は10〜11月に最大(0.07t/ha/day)、7〜8月に最低(0.012t/ha/day)となった(図1)。本研究では1月〜4月のリターフォールを測定していないので、この間の値を亀澤(2002)の結果を用いて推測して補完すると、一年間のリター生産量は13.8t/ha/yearと推定された。玉原高原ブナ林において、リター生産速度は10〜11月に最大(0.06t/ha/day)となり、6〜7月に最低(0.01t/ha/day)となった(図2)玉原高原ブナ林では冬季積雪期間のリターフォールは測定できなかったが、この期間の値をゼロとするならば、一年間のリター生産量は6.3t/ha/yearと算出された。すなわち、年間総リター生産量は玉原高原ブナ林のほうが、6.5t/ha/year小さい。この差異は、群馬大学構内混交林では、常緑針葉樹であるアカマツから年中落葉していたことと、積雪期間がないことによると考えられる。また、日本での年間リター生産量は、亜寒帯・赤穂算常緑針葉樹林4.23t/ha/year、温帯常緑針葉樹林4.57t/ha/year、温帯落葉広葉樹林4.07t/ha/year、照葉樹林6.51t/ha/yearであり、熱帯林は9.87t/ha/yearである(堤 1987)。今回の調査結果では、群馬大学構内混交林の年間リター生産量は熱帯林の生産量と同等の値になった。この原因として、例年と比較して8〜9月にリターの量が多くなっていることから、台風の影響によりリターが増加したことが考えられる。

土壌CO2放出速度測定時の地温・土壌含水率の季節変化

群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林において、土壌CO2放出速度測定と同時に測定した瞬間値の地温は、測定地間において玉原高原ブナ林では大きな違いはなかったが、群馬大学構内混交林では6月と8月に最大で5℃程度の差がみられた(図3図4)。これは、測定した地点に直射日光の当たる場所と当たらない場所があったために生じた差と考えられる。各月で平均すると、群馬大学構内混交林において、地温は8〜9月に最も高く(25.3〜26.0℃)、12月に最も低く(9.5℃)なった(図5)。玉原高原ブナ林においては、8〜9月に最も高く(17.2〜18.7℃)、5月に最も低く(9.1℃)なった(図6)。玉原高原ブナ林で、地温の季節変化パターンは群馬大学構内混交林とほぼ同様であるが、測定期間内を通じて、群馬大学構内混交林のほうがおよそ6℃〜9℃高かった。こうした地温の季節変化を河原・渡慶次(2006)の測定結果と比較すると、群馬大学構内混交林では最高値・最低値ともに1.5℃〜2℃程度高くなった。また、玉原高原ブナ林においては、2007年11月に積雪で地温を測定できなかったため最低値は単純比較できないが、最高値は2005年とほぼ同様の結果が得られた。

両調査地において連続測定した地温の月別の平均値(表1表2)をみると、群馬大学構内混交林における9月の値が土壌CO2放出速度測定と同時に測定した瞬間値より3℃ほど低かった以外は、瞬間値との明確な差異はなかった。ただし、群馬大学構内混交林の2007年の12月のデータが得られなかったため、2007年12月の地温は2006年12月の地温の値から推定である。群馬大学構内混交林の9月に差が生じた原因は、土壌CO2放出速度測定を行った当日の気象条件がその月の平年値より暖かかったためだと考えられる。以上より、月ごとの瞬間測定は、当月の平均的な地温条件下で行われたといえる。

土壌含水率は両調査地ともに測定地点間で差異がみられ、季節にかかわらず群馬大学構内混交林において3〜20%、玉原高原ブナ林において10~20%の分散があった(図7図8)。これらの値を調査地別に月ごとに平均すると、群馬大学構内混交林においては、土壌含水率は7月に最も高く(56.6%)、12月に最も低く(17.7%)なった(図9)。一方玉原高原ブナ林においては、7月に最も高く(82.3%)、9月に最も低く(70.5%)なった(図10)。すなわち、玉原高原ブナ林では土壌含水率は測定期間を通じて70%以上という群馬大学構内混交林の値の約2倍の非常に高い値であった。河原・渡慶次(2006)によると、2005年にも測定地点間で差異がみられ、季節にかかわらず群馬大学構内混交林で10〜30%、玉原高原ブナ林で10〜20%の分散があった。これらの値を月ごとに平均すると、群馬大学構内混交林では10月に最も高く(45.9%)、4〜6月に最も低く(19.0%)。玉原高原ブナ林では11月に最も高く(86%)、6・9・10月はほとんど変化がなく74%程度となった。玉原高原ブナ林では年間を通して常に土壌含水率が高いため、あまり大きな年ごとの差異はみられないが、群馬大学構内混交林では降雨などの気象条件の影響を受けやすいため、前日や当日の天候や環境条件により、河原・渡慶次(2006)の2005年の結果と差異が生じてしまったものと考えられる。今後は、土壌含水率も連続測定の必要があると考えられる。

土壌CO2放出速度

両調査地において、測定地点間で土壌CO2放出速度に有意な差異が見られた。群馬大学構内混交林においては、6月に地点13で最高値(2.8g/hr/u)をとった。7・8月には、地点15で連続して高く(1.5 g/hr/u)、これに比べると地点9では6・7月に連続して低かった(0.1〜0.3 g/hr/u)(図11)。玉原高原ブナ林においては、7月に地点13で最高値(3.7 g/hr/u)をとった。8・9月には地点3で連続して高く(2.8〜3.1 g/hr/u)、これに比べると地点2ではと連続して低かった(0.3〜0.7 g/hr/u)(図12)。なお、玉原高原ブナ林においては、5月の地点16〜18、6月の地点20については測器の不調により測定できなかった。土壌CO2放出速度は、土壌中の微生物がリターを分解することで放出されるCO2、植物の呼吸によるCO2、それ以外の地中深くから放出されるCO2の3つが含まれている。したがって、こうした地点間の持続的な変異は、リター量(リターの厚さ)の違いの他に、土壌微生物・植物根の量的違いなどに起因しているものと推察される。

群馬大学構内混交林において、GA〜GEの5立地毎に平均すると、ほぼすべての月において立地GEで最高値(0.2〜2.2g/hr/u)をとり、逆に立地GCではほぼすべての月において最低値(0.1〜0.5g/hr/u)となった(図13)。立地GEは落葉樹由来のリターが厚く積もっている立地で、立地GCはマツ由来のリターが薄く積もっている立地である。このことから、土壌CO2放出速度はリターの量と質によって影響され、落葉樹のリター量が多い立地ほど土壌CO2放出速度が高くなるといえる。

各調査地で土壌CO2放出速度を月ごとに平均すると、群馬大学構内混交林においては、6月に最も高く(1.2 g/hr/u)、12月に最も低く(0.1 g/hr/u)なった(図14)。玉原高原ブナ林においては、7〜9月に最も高く(1.2〜1.3 g/hr/u)、5〜6月に最も低く(0.5 g/hr/u)なった(図15)。河原・渡慶次(2006)によると、2005年の群馬大学構内混交林における土壌CO2放出速度は7・8月に最も高く(1.5g/hr/u)、11月に最も低く(0.3g/hr/u)なった。玉原高原ブナ林においては、7月に最も高く(1.9g/hr/u)、積雪があった11月に最も低く(0.3g/hr/u)なった。測定日の気象条件の違いにより値に多少の差異はあるが、季節変化のパターンは両年でほぼ同等であった。地温と土壌含水率には2調査地間で大きな差異があったのに比べ、平均CO2放出速度の調査地点間での差は、最低値は玉原高原ブナ林が高くなっているが、最高値は両調査地間で大きな差異はなかった。なお、玉原高原ブナ林においては、11月以降は積雪のため測定できなかった。

地温と土壌CO2放出速度の間には、両調査地いずれにおいても、有意な正の相関がみられた(図16図17)。同様に2005年においても有意な正の相関がみられている(河原・渡慶次 2006)。地温は両調査地ともに夏期に高く春・冬期に低かったので、土壌CO2放出速度が春・冬期に低下するのは、地温の低下が一因であると考えられる。また、地温は測定期間内において、およそ6℃〜9℃玉原高原ブナ林のほうが低かったので、群馬大学構内混交林よりも相対的に寒冷な玉原高原ブナ林のほうが、より低い地温下でも土壌CO2放出速度が高くなるものと考えられる。

土壌含水率と土壌CO2放出速度の間には、群馬大学構内混交林において有意な正の相関がみられ、玉原高原ブナ林では有意な相関はみられなかった(図18.、図21)。同様に2005年も群馬大学構内混交林においては有意な正の相関がみられたが、玉原高原ブナ林においては有意な相関はみられなかった(河原・渡慶次 2006)。群馬大学構内混交林においては、土壌含水率が特に低かった月(5・8・12月)とそれ以外の月(6・7・9・10・11月)の2つのグループに分けて土壌CO2放出速度と地温の相関関係を分析したところ、いずれのグループにおいても有意な相関関係が見られた(図19図20)。微生物によるリター分解速度は、温度とともに土壌の水分条件にも大きく左右される。測定時の気温が5℃〜15℃のときには含水率50%〜60%で、微生物によるリター分解速度が最大となり、気温15℃以上の場合も含水率が60%以上になると微生物によるリター分解速度が低下するとされている(堤 1989)。すなわち群馬大学構内混交林において、これらの生物活性から構成される土壌CO2放出速度は、土壌含水率と地温が高いために微生物活性の高い時期に高く、土壌含水率と地温が低いために微生物活性の低い時期に低くなることが原因となって、このような相関関係が生じたと考えられる。一方、玉原高原ブナ林では土壌含水率が毎月の平均で70%を超えていたにもかかわらず有意な土壌CO2放出速度の低下はみられなかった。すなわち、玉原高原ブナ林において、土壌CO2放出速度は土壌含水率による微生物活性の制御によって必ずしも影響を受けるわけではなく、土壌含水率よりも地温による影響を強く受けていたと考えられる。

リター分解速度

群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林において、それぞれ4月と5月に設置したリターバッグを群馬大学構内混交林では8・11・12月、玉原高原ブナ林では8・10・11月に回収した。玉原高原ブナ林では立地TAと立地TCにおいて、リターバッグ設置時に回収した周辺リターの含水率の測定がうまくいかなかった。そこで、両立地では残りの3立地周辺のリターの平均含水率をそれぞれの含水率とみなして設置時のリター乾燥重量を算出し、リター分解速度を計算した。また10月の立地TCのリターバッグが回収不能となり、この分のデータが得られなかった。測定期間全体の平均値は、いずれの調査地においても立地間で大きな差異が見られ、群馬大学構内混交林で0.0016?0.0021(g/g/day)(表3)、玉原高原ブナ林で0.0007?0.0015(g/g/day)(表4)となった。全体的には、リター分解速度は群馬大学構内混交林での値が玉原高原ブナ林の値よりも高い傾向がみとめられた。こうした立地間、調査地間のリター分解速度の差異は、温度・土壌含水率といった物理化学的環境条件の違いと、リターの質の違いにより引き起こされた(堤 1987)ものと推察される。今後は、同一林内においてもリター分解速度に場所ごとに大きな差異があることを考慮して、森林生態系のCO2収支の計算を行う必要があるといえる。

群馬大学構内混交林12月と玉原高原10月の結果は回収期間が近いこと、また玉原高原ブナ林では立地TCの10月のデータがないため、両調査地とも8月と11月回収分の結果のみグラフ化した(図22図23)。群馬大学構内混交林では、すべての地点において4月〜8月期のリター分解速度が、4月〜11月期よりも高くなっている。すなわち当地においてリターの分解は8月〜11月期よりも4月〜8月期に盛んに行われていると考えられる。また、期間別に分析しても、リター分解速度には立地間で大きな差があり、最もリターの層が薄かった立地GCにおいて最低値、立地GDとGEにおいて最高値となった。どちらの立地もリター層は薄く、リターは主としてマツ落葉で構成されている。立地GDにおいてはリターバッグのから相当量のマツのリターが抜け落ちてしまったのではないかと考えられるため、立地GDの結果を測定失敗として除外することとする。そうすると、主としてコナラなどの落葉広葉樹の落葉でリターが構成される立地GEにおいて、リター分解速度が最大値となることになる。一般に針葉樹の落葉は落葉広葉樹の落葉よりも微生物による分解速度が遅いとされているので(堤 1987)、この結果はこうしたリターの質の違いを反映したものであると考えられる。

玉原高原ブナ林においては立地TA・TB・TCの3立地では群馬大学構内混交林と同様に、リターの分解は8月〜11月期よりも4月〜8月期に盛んに行われていると考えられる結果が得られた。しかし残りの2立地では、8月〜11月期にも5〜8月期と同様またはそれ以上にリター分解が行われていると考えられる(図23)。すなわち、ランダムにリターバッグ設置地を選んだ玉原高原ブナ林においても、リターの分解速度が場所によって異なるばかりでなく、リター分解の季節変化パターンも、場所によって異なる可能性がある。今後さらに詳細な研究を行い、これらのリター分解の時空間的多様性を解明していく必要がある。

群馬大学構内混交林での平均リター分解速度は0.00173g/g/dayと算出され、玉原高原ブナ林では0.00113g/g/dayと算出された。これは河原・渡慶次(2006)が算出した群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林のリター分解速度とほぼ同等である。すなわち、詳細な手法違いや結果の時空間的な多様性にかかわらず、リターバッグ法で得られるリター分解速度の測定結果は、再現性が高く信頼できるものであるといえる。

河原・渡慶次(2006)においては、リターバッグをペアで用いるダミーバッグ法を用いて実験を行ったが、毎回ダミーバッグに入れていたリターが、入れっぱなしのリターに比べると新鮮であったために、リターバッグ内のリターの含水率を正確に測定することができなかった。これらの点を解決するため、今回はリターバッグ設置する際に周辺リターを回収し、周辺リターの含水率から設置したリターバッグの乾燥重量を推定した。しかし、周辺リターの回収に失敗すると設置時の重量の推定に大きな誤差を生じる。今後は設置の際に周辺のリターを複数回収してその平均値をとるなど、リターバッグ内のリター含水率をより正確に測定する方法をさらに検討する必要がある。