結果および考察
土壌シードバンクの解析
ヨモギ草原の土壌から19種(外来4種、在来15種)、林内の土壌から21種(外来6種、在来15種)、川辺の土壌から5種(外来2種、在来3種)の発芽がみられ、全体で30種(外来9種、在来21種)の発芽が確認された。ヨモギ草原の土壌において発芽個体数が多かった種は、シロツメクサ(115個体)、チガヤ(85)、カタバミ(38)、カモガヤ(26)であった(シロツメクサ、カモガヤは外来植物)。林内の土壌において発芽個体数が多かった種は、ヤエムグラ(64個体)、ハコベ(52)であった。川辺の土壌において発芽個体数が多かった種は、スゲsp.(424個体)、オオイヌタデ(239)、カモガヤ(39であった(カモガヤは外来植物)。
2003年度の現地での植生調査(星野2003)によれば、2003年度のヨモギ草原におけるシロツメクサの被度(約34.5%)は、ヨモギの被度(約4.7%)の約7倍であった。本解析においては、ヨモギ草原の土壌におけるシロツメクサの発芽個体数(115)は、ヨモギの発芽個体数(9)の約13倍であった。ヨモギ草原においてヨモギの生育を促進するためには、拡大してしまったシロツメクサの除去が必要である。しかし、本解析により、シロツメクサが大きなシードバンクを形成している可能性が示唆されたことから、シロツメクサ個体を引き抜いているだけでは、本種を短時間でビオトープから除去することはできないと考えられる。しかし、継続的に個体を除去すれば、シードバンクは縮退していくとも考えられる。
林内土壌において発芽が確認されたハイチゴザサは、植生調査でも生育が確認されており、今後ビオトープ内で定着・拡大していくものと期待される。同様に土壌シードバンク・植生調査の双方で確認された種は、アメリカフウロ、オランダミミナグサ、ハコベ、ヤエムグラである。これらの種も、ビオトープ内に定着・拡大していく可能性が高いと考えられる。アメリカフウロとオランダミミナグサは外来種であるので、今後注意深く動態を追跡する必要がある。川辺に植栽されたガマは、川辺の土壌においては発芽が確認されず、ヨモギ草原と林内の土壌において発芽が確認された。ガマが風散布種子であり、近接する地域に種子が飛んだものと考えられる。
2003年度までにビオトープ内での生育が確認された植物リストと今回土壌シードバンクから発芽が確認された植物リストを比較した(表4~7)。今年度までの植物相調査で生育が一度も確認されていないにもかかわらず、土壌からの発芽が確認された種は、エノキグサ、ムシクサであった。これらはビオトープ周辺から風や鳥、もしくは人為的な移動により種子が導入されたと考えられ、これらはすべて在来種であるので、今後個体数の増加と土壌シードバンク増加の可能性が期待される。竣工直後の2001、2002年度にビオトープ内で生育が確認されたが、2003年度には生育が確認されず、今回土壌において発芽が確認された種は、シロザ、スカシタゴボウであった。しかし、土壌からの発芽個体数は少ない(シロザ2個体、スカシタゴボウ6個体)ので、シードバンクは小さいと推察される。
土壌における外来植物の出現種数と個体数は、ヨモギ草原で4種合計148個体、林内で6種合計24個体、川辺で2種合計41個体であった。林内の土壌においては、出現種数は他の立地よりも多かったが、個体数が少なかった。これは植栽された樹木が大きく育って林内を被陰して、外来種の生育を抑制しているためと考えられる。外来植物の多くは、攪乱のある明るい場所を好み、芽生えの時期の成長に明るい光条件を必要とすると考えられている(鷲谷・森本1993)。実際、今年度は林内の光環境が外来種に適さない暗い光環境(相対光量子密度で10~20%程度)となっていた(表14、図51参照)。
発芽の温度依存性解析
アドバンテストビオトープ内で採取した、21種の植物の種子の、種別の発芽の温度依存性は、以下のとおりとなった。
1.アメリカイヌホウズキ(ナス科一年生草本、Solanum americanum Mill.)
本種は北アメリカ原産で、日本には1950年代から侵入記録がある。現在、全国の畑地や路傍などに定着しているとされる(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では全く発芽しなかったのに対して、17/8℃では最終発芽率が平均で約69%であり、22/10、25/13、30/15℃においては100%が発芽した(表8、図4、図27)。
このような温度依存性を有する種子を生産する植物は、地温の低い冬季には発芽せずに、春になって地温が高くなってから発芽し、生長を開始するものと考えられる。実際、本ビオトープでは夏頃になって個体が肉眼で確認されている(星野2003)。10℃以下の低温で発芽が完全に抑制されることから、本種は早春の明るい立地=季節的ギャップを利用できない種と考えられる。このため本種は、攪乱地などの裸地に多く生育し、林内など地温の上昇が抑制される立地ではあまり生育しないと考えられる。
2.イトバギク(キク科一年生草本、Schkuhria pinnata Kuntze.)
本種はメキシコ原産で、日本には第二次世界大戦後から侵入記録がある(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、25/13℃で最大となった。すなわち、10/6℃では平均で62%、17/8℃では約83%、22/10では約89%、25/13では約97%であり、30/15℃では約61%が発芽した(表8、図5、図26)。
このような温度依存性を有する種子を生産する植物は、地温の低い冬季には発芽せずに、春になって地温が高くなってから発芽して生長を開始するものと考えられる。しかし、発芽最適温度を越えると発芽率が低くなることから、高温による二次休眠の可能性があることが示唆される。このため本種は、シードバンクを形成する可能性があると考えられる。
3.イヌビエ(イネ科一年生草本、Echinochloa crus-galli var. crus-galli)
本種は日本の在来種で、全国の湿地に生育しているとされる(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では最終発芽率が平均で2%であり、17/8℃、22/10℃では100%であり、25/13℃では94%、30/15℃においては100%が発芽した(表8、図6、図27)。
このような温度依存性を有する種子を生産する植物は、地温の低い冬季には発芽せずに、春になって地温が高くなってから発芽して生長を開始するものと考えられる。低温で発芽が極端に抑制されることから、本種は早春の明るい立地=季節的ギャップを利用できない種と考えられる。このために本種は、攪乱地などの裸地に多く生育し、林内など地温の上昇が抑制される立地ではあまり生育しないと考えられる。
4.イノコズチ(ヒユ科多年生草本、Achyranthes japonica)
本種は日本の在来種で、全国の山地、林下、竹やぶなどに生育しているとされる(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内ではほとんど変化がなく、すべての温度条件で高い発芽率となった。すなわち、10/6℃では平均で約99%、17/8℃では98%、22/10、25/13、30/15℃においては100%が発芽した(表8、図7、図25)。
5.ウシハコベ(ナデシコ科越年生草本、Stellaria aquatica)
本種は日本の在来種で、全国の山野に生育しているとされる(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では最終発芽率は平均で12%だったのに対して、17/8℃では約79%となり、22/10℃では88%、25/13℃では94%、30/15℃においては約93%が発芽した(表8、図8、図27)。
6.オオアレチノギク(キク科越年生草本、Erigeron sumaterensis)
本種はブラジル原産で、日本には大正末期から侵入記録がある。現在、関東以西の荒れ地や道ばたなどに定着しているとされる(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、22/10℃で最大となった。すなわち、10/6℃では平均で10%、17/8℃では約11%、22/10では約25%、25/13では18%であり、30/15℃では約9%が発芽した(表8、図9、図26)。
このような温度依存性を有する種子を生産する植物は、地温の低い冬季には発芽せずに、晩春になって地温が20℃以上と高くなってから発芽し、生長を開始すると考えられる。しかし、発芽最適温度を越えると発芽率が低くなることから、高温による二次休眠の可能性があることが示唆される。このため本種は、シードバンクを形成する可能性があると考えられる。
7.オオニシキソウ(トウダイグサ科一年生草本、Euphorbia maculata)
本種は北アメリカ原産で、日本には明治末期から侵入記録がある。現在、全国の牧草地、畑地、鉄道沿線、荒れ地、道ばたなどに定着しているとされる(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では最終発芽率は平均で10%、17/8℃では約19%であり、22/10℃では約43%、25/13℃では約45%、30/15℃においては約53%が発芽した(表8、図10、図27)。
8.カゼクサ(イネ科多年生草本、Erangrostis ferruginea)
本種は日本の在来種で、全国の道ばたや空き地などに生育している(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では全く発芽しなかったが、17/8℃では最終発芽率は平均で80%であり、22/10℃では約89%、25/13℃では約87%、30/15℃においては96%が発芽した(表8、図11、図27)。
9.カントウヨメナ(キク科多年生草本、Kalimeris pseudoyomena)
本種は日本の在来種で、本州関東以北の田のあぜや川べりなどに生育している(林1983)。本種の培養30日後における25/13℃での最終発芽率は、0%であった(表8、図12)。
10.ギシギシ(タデ科多年生草本、Rumex japonicus)
本種は日本の在来種で、全国の田畑のあぜ、湿った道ばた、野原などに生育している(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では最終発芽率は平均で約49%であり、17/8℃では約96%、22/10℃では約95%、25/13℃では約97%、30/15℃においては約95%が発芽した(表8、図13、図27)。10/6℃において約49%が発芽し、また4℃での冷湿処理期間中にも約83%が発芽した(表9、10)。また、培養30日後に施した二度目の冷湿処理期間中にもさらに約14%が発芽した。
11.ギニアグラス(イネ科多年生草本、Panicum maximum Jacq.)
本種は南アフリカ原産で、日本には1970年代から侵入記録がある。現在、関東以西の農耕地周辺に定着しているとされる(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内のすべてにおいて高い値となった。すなわち、10/6℃では約71%、17/8、22/10、25/13、30/15℃においては100%が発芽した(表8、図14、図25)。
このような温度依存性を有する種子を生産する植物は、地温の低い冬季にも発芽し、生長を開始すると考えられる。また試験した全温度域で最終発芽率が90%以上であることから、本種は土壌シードバンクを形成する可能性は非常に少ないと推察される。すなわち、2003年よりビオトープ内で出現し急速に拡大している本種を、種子を生産する前に刈り取りや引き抜くことにより、ビオトープ内から除去することが可能であると考えられる。
12.コセンダングサ(キク科一年生草本、Bidens pilosa L.)
本種は熱帯アメリカ原産で、日本には江戸時代から侵入記録がある。現在、本州中部以西の畑地、樹園地、牧草地、芝地、道ばた、荒れ地などに定着している(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では最終発芽率が平均で約45%であり、17/8℃では94%、22/10、25/13℃では100%、30/15℃においては98%が発芽した(表8、図15、図27)。10/6℃で約45%が発芽し、また4℃での冷湿処理期間中にも約99%が発芽した(表9、10)。また、培養30日後に施した二度目の冷湿処理期間中にもさらに16%が発芽した。
13.ススキ(イネ科多年生草本、Miscanthus sinensis)
本種は日本の在来種で、全国の平地や山地の日当たりのよい場所に生育している(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では全く発芽しなかったのに対して、17/8℃では最終発芽率が平均で約33%であり、22/10℃では44%、25/13℃では38%、30/15℃においては40%が発芽した(表8、図16、図27)。
14.セイタカアワダチソウ(キク科多年生草本、Solidago altissima)
本種は北アメリカ原産で、日本には第二次世界大戦後から侵入記録がある。現在、全国の空き地や河川敷に定着しているとされる(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、全体として非常に高く、さらに25/13℃で最大となった。すなわち、10/6℃では平均で約85%、17/8℃では86%、22/10では約93%、25/13では約99%であり、30/15℃では約85%が発芽した(表8、図17、図26)。
このような温度依存性を有する種子を生産する植物は、地温の低い冬季を含めて一年中、土壌水分が十分にありさえすれば発芽して、生長すると考えられる。
15.チカラシバ(イネ科多年生草本、Pennisetum alopecuroides)
本種は日本の在来種で、全国の道ばたに生育している(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では最終発芽率が平均で約1%であり、17/8、22/10、25/13、30/15℃においては100%が発芽した(表8、図18、図27)。
16.チヂミザサ(イネ科多年生草本、Oplismenus undulatifolius)
本種は日本の在来種で、全国の山野の林内に生育している(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなった。すなわち、10/6℃では最終発芽率が平均で約1%であり、17/8、22/10、25/13℃では100%、30/15℃においては約97%が発芽した(表8、図19、図27)。
17.ハイチゴザサ(イネ科多年生草本、Isachne nipponensis)
本種は日本の在来種で、関東以西の湿地に生育している(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、すべてにおいて高い値となった。すなわち、10/6℃では約99%、17/8℃では約98%、22/10、25/13、30/15℃においては100%が発芽した(表8、図20、図25)。さらには、4℃での冷湿処理期間中にも約69%が発芽した(表9)。
このような温度依存性を有する種子を生産する植物は、地温の低い冬季にも発芽し、生長を開始すると考えられる。また最終発芽率が90%以上であることから、本種は土壌シードバンクを形成する可能性は非常に少ないと考えられる。
18.ヘラオオバコ(オオバコ科一年生草本、Plantago lanceolata)
本種はヨーロッパ原産で、日本には江戸時代末期から侵入記録がある。現在、全国の道ばた、荒れ地、空き地などに定着しているとされる(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における25/13℃での最終発芽率は、56%であった(表8、図21)。また、培養前の冷湿処理期間中にも全体の約14%が発芽した(表9)。なお、本種については、今回採取した種子数が少なかったので、今後追試が必要である。
19.アオビユ(ヒユ科一年生草本、Amaranthus viridis L.)
本種は熱帯アメリカ原産で、日本には大正末期から侵入記録がある。現在、全国の畑地、牧草地、道ばた、荒れ地などに定着しているとされる(清水・森田・廣田2001)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、25℃以下では非常に低かったのに対して、30/15℃では極めて高かった。すなわち、10/6℃では0%、17/8℃では約1%、22/10℃では2%、25/13℃では14%であったのに対して、30/15℃においては約91%が発芽した(表8、図22、図28)。
以上の結果から、本種は撹乱地などの裸地において、直射日光が当たって地温が極端に上昇することを環境シグナルとして受けて発芽してくる、典型的なギャップ検出機構を有する種であると考えられる。本ビオトープにおいては、竣工直後の2001年には多数のアオビユ個体の生育が確認されていた(新岡 2002)。これは、本種が上述のような生態学的特性を有していることに起因すると考えられる。2003年度と今回の植物相調査および土壌シードバンク解析においては、本種はほとんど検出されなかったので、本ビオトープにおいては土壌シードバンクを形成していないか、していたとしても非常に小さなものになっていると推察される。
20.ヨシ(イネ科多年生草本、Phragmites communis)
21.ヨモギ(キク科多年生草本、Artemisia princeps)
本種は日本の在来種で、全国の山地や野原などに生育している(林1983)。本種の培養30日後における最終発芽率は、設定した温度条件の範囲内では、温度が高くなるにつれて高くなり、22/10℃で最大となった。すなわち、10/6℃では平均で約37%、17/8℃では約43%、22/10では約59%、25/13では49%であり、30/15℃では約55%が発芽した(表8、図24、図26)。
このような温度依存性を有する種子を生産する植物は、地温の低い冬季を含めて一年中、土壌水分が十分にありさえすれば発芽して、生長すると考えられる。しかし、発芽最適温度を越えると発芽率が低くなることから、高温による二次休眠の可能性があることが示唆される。このため本種は、シードバンクを形成する可能性もあると考えられる。
以上21種類の植物の種子発芽の温度依存性を、最終発芽率をもとに分類すると、4つのグループに大別することができる(図25〜28)。
グループA(図25):設定温度範囲(10/6℃〜30/15℃)においては、すべての温度区において高い(70%以上)発芽率を有する、または温度区間で最終発芽率に差がない種。イノコズチ、ハイチゴザサ、ヨシの3種の在来種と外来種のギニアグラスが該当する。季節を問わず、温度以外の環境要因(例えば土壌水分)が満たされれば発芽すると推察される。また、土壌シードバンクを形成する可能性は低いと推察される。
グループB(図26):設定温度範囲(10/6℃〜30/15℃)内で発芽に最適な温度区が存在する種。最適温度区は、22/10℃または25/13℃と比較的高い。セイタカアワダチソウ、イトバギク、オオアレチノギク、ヨモギが該当し、すべてキク科の植物である。ヨモギが在来種で、それ以外の3種は外来種である。高温(30/15℃)で最終発芽率が低下することから、高温によって二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性があると推察される。
グループC(図27):設定温度範囲(10/6℃〜30/15℃)では、温度が高くなるにつれて最終発芽が高くなる種。10/6℃では最終発芽率が他の温度と比べて非常に低いことから、主として春になって地温が17℃以上になってから、発芽すると推察される。イヌビエ、チヂミザサ、チカラシバ、カゼクサ、ギシギシ、ウシハコベ、コセンダングサ、アメリカイヌホオズキの8種が属すサブグループでは、10/6℃以外の温度区では70%以上が発芽する。したがってこれらの種が土壌シードバンクを形成する可能性は低いと推察される。またオオニシキソウ、ススキの2種が属するサブグループでは、最終発芽率は最大でも50%程度であることから、高温によって二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性があると推察される。このグループCに属す種のうち在来種にはイネ科が多く(5種)、また外来種は3種のみである。
グループD(図28):外来種のアオビユのみが属すグループである。本種だけ別グループに類別した理由は、本種が30/15℃でのみ高い(90%程度)発芽率を有するからである。前述のように、これはギャップ検出機構とされる。
以上のように、発芽の温度依存性をグループ化しても、同一グループ内には在来種と外来種が混在する。したがって、ビオトープ内に生育する植物の発芽の温度依存性に関して、外来種と在来種の間に明確な差異は認められないといえる。すなわち、野外での発芽季節に関して、外来種と在来種の間に明確な差異はなく、いずれの時節においても、外来種と在来種の双方が発芽していると推察される。
春植物の開花フェノロジーと植物相
2004年度の計7回の現地調査により、ビオトープ内全域において49種(外来植物20種、在来種29種)の植物の生育が確認された(表11)。また、今年度確認された49種中、初めて出現が確認された種は14種(外来植物6種、在来種8種)であった。
2004年の各月に確認された開花植物種数は、2月に4種(外来種3種、在来種1種)、3月に5種(外来種3種、在来種2種)、4月に17種(外来種3種、在来種14種)、5月に13種(外来種7種、在来種6種)、6月に4種(外来種2種、在来種2種)であった(図29)。すなわち、4月以外の月では、開花が確認された植物の半数以上が外来種であった。以上より、ビオトープ本来の目的に沿った最も良好な景観は4月にみうけられるといえる。
春植物の分布位置・分布面積
ビオトープ内において20種、計72地点の春植物が確認された(表12)(図29、図30、図31、図32、図33、図34、図35、図36、図37、図38、図39、図40、図41、図42、図43、図44、図45、図46、図47、図48、図49)。このうち外来種はオオイヌノフグリ、セイヨウタンポポ、オランダミミナグサ、ノボロギク、ヒメジョオン、オニウシノケグサの6種であった。確認された地点数が最も多く、分布面積も最大であったのは、外来種であるオオイヌノフグリ(計32地点、約3910F)であった。オオイヌノフグリは春植物=冬季一年生植物で、早春の空きニッチを利用するタイプの植物である。したがって、本種は外来種ではあるが、繁茂しても後続する植物への影響は小さいのではないかと推察される。今後、後続する植物に対する影響が検出された場合には除去を行う必要があるが、それまでは当面除去の必要はないと考えられる。
ギニアグラスの全国分布
「Yahoo!Japan」を用いて「ギニアグラス」をキーワードとして検索した結果、304件のホームページを検出した(2004年6月30日現在)。その結果、日本全国28県(図50)で生育が確認された。ギニアグラスは飼料用としてだけではなく、作物の連作障害やセンチュウ防除のために畑地で栽培されていること明らかになった。すなわち使用用途は、飼料用16県、連作障害・センチュウ防除用13県であった(表13)。このように各地で栽培されていることから、今後も畑地から飛散したギニアグラスの種子により、分布が拡大していく可能性があると考えられる。
林内の相対光量子密度
林調査地点の内計16地点において、相対光量子密度は11.6~41.9%の範囲であった(表14)。光量子密度10%きざみの頻度分布(図51b)においては、10~20%区分内に8地点があり、20~30%では6地点があった。2003年度の調査結果(星野による、図51a、調査地点数は36)と今年度の調査結果を比較すると、2003年度においては、50%以上の地点は7地点であったのに対し、今年度は0地点と大幅に減っていた。こうした高い光量子密度の地点の大幅な減少は、ビオトープ造成時に植栽された高木の成長によるものと考えられる。外来植物の多くは直射光の多い立地を好むため、今後ビオトープの林内において外来植物は減少することが期待される。