結論

 本研究の結果より、アドバンテストビオトープ内に生育する植物の育成管理および外来植物の駆除方策について、以下のような提言が可能である。

 土壌シードバンク解析によって、今日までにビオトープ内での生育が確認されていない、3種の植物の出現可能性が示されたこと、および植物相調査で今年度初めて生育が確認された植物が14種あったことから、今後もビオトープ内において植物種の多様性が拡大してゆく可能性が高いと考えられる。しかし、この新規に生育が確認された植物のうち6種は外来植物であるため、今後も外来植物の除去を中心とした育成管理を、継続して行っていく必要があるといえる。その際には、新規出現の外来植物について、種子発芽特性、土壌シードバンク形成の可能性、および開花フェノロジーといった生態学的特性を解明することが、さらに新たな除去方策を提言することにつながる。一方、ビオトープ内に生育する11種の在来植物については、本研究で解明された発芽の温度依存性をもとにすれば、種子から効率良く増殖させることも可能になると考えられる。

 ビオトープの林内では、2003年度と比較して、相対光量子密度の高い地点が減少していることが示された。これは植栽した樹木が生長したことで、林内に日陰が増えたことを反映していると考えられる。今後もこうした林内の光条件の暗化傾向が続けば、一般に明るい光条件を好むとされる外来植物の生育が、しだいに抑制されていくものと推察される。また土壌シードバンク解析結果によれば、今後林内の土壌中から出現する外来植物の個体数は少ないであろうこと、およびハイチゴザサといった林内特有の植物のさらなる出現が示唆された。以上のことから、今後ビオトープの林内においては、外来植物の減少と在来植物の増加という、ビオトープの構築にとっては好ましい方向性が継続すると考えられる。また水辺の土壌においてはスゲsp.、オオイヌタデ、カモガヤといった湿地特有の在来植物の発芽が多数認められ、他方、過去にくり返しビオトープ内で出現が確認されている外来植物オオカワヂシャは、土壌からの出現が認められなかった。以上のことから、ビオトープの水辺においても、外来植物の減少と在来植物の増加傾向にあることが示唆される。

 発芽の温度依存性解析により土壌シードバンクを形成する可能性が示唆された、グループBに属する外来植物のセイタカアワダチソウ、イトバギク、オオアレチノギク、およびグループCに属する外来植物のオオニシキソウは、従来どおりの個体除去を続けても、短期間でビオトープから完全に除去できる可能性は低いと考えられる。しかし、これらの外来植物の個体を、開花前あるいは遅くとも結実までに引き抜けば、土壌シードバンクはしだいに縮退していくとも考えられる。したがって、時間はかかるにしても、今後も継続してこれらの外来植物の個体の引き抜き作業を行うことが、もっとも有効な管理方法であると考えられる。一方、在来植物のヨモギとススキは、土壌シードバンクを形成する可能性が示唆され、また多年草であることから、今後もビオトープ内において安定的に増加していくものと期待される。

 2003年度以降にビオトープ内に出現し、急速に拡大しているギニアグラスは、発芽の温度依存性解析によって、土壌シードバンクを形成する可能性が極めて少ないことが示唆された。すなわち、これまでのように結実前の引き抜き処理を続けていくことにより、除去が可能であると考えられる。しかし、インターネット調査で明らかになったように、本種はすでに群馬県を含む全国規模で植栽されているため、ビオトープ内から一度除去しても、これらの栽培地から再びビオトープ内に種子が運ばれてくる危険性も考えられる。

 在来植物には、園芸種のような派手な花をつける種は少ないので、その分布位置や開花季節を利用者に伝えることによって、ビオトープ利用がよりいっそう充実すると考えられる。本研究により、春植物の開花フェノロジーと分布位置を利用者に提供することが可能になったと考えられる。

 アドバンテストビオトープのような大型ビオトープでは、育成管理も大規模となる。特に、外来植物の除去にかかる労力と経費は、多大なものになりかねない。しかし、本研究で解明されたような植物の生態学的特性をもとにすれば、育成管理の効率化がはかられ、労力と経費を削減することも可能になると考えられる。こうした育成管理の効率化は、同時に利用者へのビオトープ内の生物相に関する諸情報を提供する機会を拡大することにもつながると考えられる。

ビオトープの構築は、自然の自己回復能力に人間が手を添えるという創造作業の一局面である。したがって今後も、学術調査に基づいた積極的な育成管理と、利用者への情報提供の促進をはかっていくことが必要不可欠であると考えられる。

 

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