VI-3. 結果及び考察

 2001年度は計15種の帰化植物の侵入を確認した [表4]。造成工事は、土を他の場所から運んでくるため、土壌中に様々な種子が含まれてしまう。そのため、帰化植物の侵入、群生化が起こりやすい。また、造成後は土壌が緑に覆われておらず、いわば荒れ地であるのだが、帰化植物はこの荒れ地に繁茂する特性を持つものが多いため、造成後1〜2年は帰化植物の群落に植裁した植物が負けてしまう危険性があった。しかし、造成後すぐの6月16日の調査で帰化植物の出現が出現種23種中11種と多く確認された以外は、在来種の出現を確認する事が多かった[表4]。当初、みられたシロザ、コアカザ、ブタクサ、コセンダングサ、センダングサなどの帰化植物は、6月16日以降の調査ではビオトープ内でもほとんどみられなくなった。これは、アドバンテストが業者に刈り取りを指示したためである。その方法は、刈り取り指示のあった種のみを一つ一つ刈り取るものである。6月16日以降の調査では、ヤハズソウ、スズメウリ、ミミナグサなどの在来種がみられ、確認された在来種はその生態特性に従って出現していた[表4]。つまり、ヒメホタルイ、ホタルイ、クサネム、チョウジタデなど湿地や水田を生育地とする種は、渓流沿い、池の水辺際に出現していた。こうした生態特性に従った植物の出現は、ビオトープ内でこれから生態系が築かれていくことを十分に期待させるものである。
 また、土壌の水分環境の変化は植生種の多様性を引き起こす要因の一つである。調査の結果、ビオトープ内の土壌含水率は、水際から内陸に向かう勾配がみられた[図6-1][図6-2]。ビオトープの水系、池と川の水は循環方式になっているが、毎日、工業用水、浄化槽からの水を200t入れている。これは、土壌への浸透、空気中への蒸発、植物の蒸散により失われる分である。土壌水分環境は立地ごとに多様化しており、今後水際には、生育地を水辺とする種の出現が期待される。
 植裁3種の定着率はかなり低かった[表5]。最も定着率の悪かったのはヨモギである。ヨモギはビオトープの北側、駐車場にほど近い草原一帯に種子をまいた。しかし、ヨモギは49m2のコドラートに株数1、定着率は0.2%と実に少ない。当地点は、メヒシバ、タイヌビエ、エノコログサが優占しており、ヨモギは草原全体で数えてみても3,4本であった。ヨモギは成長期間が2〜10月の多年草であり、種子及び地下茎で繁殖する。暖地では幼苗で越冬するものもあるが、多くは春先地下茎や種子から発生してくる。何らかの原因で発芽がなかったと考えられる。
 ススキの調査は9月27日に行った。これは8月30日の時点では、ススキの穂が出ていなく他の種と判別がつきづらかったからである。ススキの定着率は11.5%である。被度にすると20%である。一部オギ(20%)に優占されているものの、比較的よく定着がみられた種である[表5]。
 チガヤの定着率は3地点調査した。地点1,2では、定着率0.6%、4.4%と悪い。地点3はチガヤの被度が25%だが、ここは、植栽地ではなく、自生したと思われる[表5]。
 森林内の光強度の多様性測定結果[表6]によると、相対光強度に多様性はあるものの10%以下の地点は一つと少ない。原因は、まず一つに道路から差す光を遮るものが何もないこと、森林内の高木の密度が低いことがあげられる。森林の下などに生える林床性の植物は10%以下の光強度でなければ生育出来ないものが多い。植物の多様性を求めるビオトープは、樹木をもっと植栽するなどして、より多様な光環境を創出する必要がある。
 土壌シードバンクからは、全発芽数79、計11種の発芽がみられた [表7]。その内、帰化植物はコアカザ、シロザ、カタバミなど8種、在来種は2種であった。植生調査では出現しなかった種としては、ヒメムカシヨモギ、ハハコグサがあげられる。(カタバミ、は[表4]には記載していないが、出現は確認していた。)ヒメムカシヨモギは北アメリカ原産の帰化植物である。生育期間が11〜10月、越年草であるため、これまでの調査では出現が確認出来なかったと思われる。越年草としては他にはハハコグサが確認された。
 2001年のアドバンテストビオトープの植生(植栽予定図)[資料8]は、最終形態ではない。あくまでも、1年目の姿として選定された植生なのである。今後、ビオトープにとって適切な必要物の導入の促進と不適当な植物の侵入防止と除去方法を用意する必要がある。
今年度は、定期的な植生調査と、その結果を基にしての除去作業の実施によって、帰化植物の定着を阻止することに成功し、ビオトープとしての特徴が保たれた。また、除去した帰化植物はビオトープ外に持ち出したので、種子の飛散も防ぐことが出来た。土壌シードバンクの調査結果によると、来年以降にシードバンクから出現する可能性のある種のほとんどは植生調査で出現を確認した種であり、今年に引き続いて丁寧な刈り取りを行うことで、定着を防ぐことができるとおもわれる。とはいえ、帰化植物の種子を土壌内から完全に消し去る方法はない上、外部から種子が持ち込まれることも十分あり得る。帰化植物の除去作業は当分続けなければならない。
 草原は植栽計画通りの姿とはならなかった。これは、ヨモギ、ススキ、チガヤの定着が悪かったためである。これらの種は草原の代表種として導入を決めたわけであり、本ビオトープのコンセプトにとっても必要不可欠であり、再植栽する必要がある。ヨモギ草原については、特に早急な対応が望まれる。このまま優占しない状態にしておくと、帰化植物の格好の侵入地と化してしまう恐れがある。
森林内の光強度の多様性が低い。今後は、光強度10%以下の地区を効率的に作っていかなくてはならない。まず、道路からの光を遮るためのバッファとなる高木として、ヤブツバキを植栽するとよいと思われる。ヤブツバキは海沿い、山地を生育地とする常緑高木である。主に防風林、防潮林、庭木として植栽されている。これによって、かなり光強度を森林全体で下げることが出来る。これとともに、常緑樹と落葉樹をそれぞれまとめて植えていく必要がある。常緑樹をまとめて植えることにより、その直下の林床は年間を通して暗い状態で保たれる。落葉樹はまとめて植えることで、落葉後の冬から春までその直下の林床を明るい状態とすることができる。こうした対策を講じることで、様々な林床性の植物と春植物が入り込み、多様な生物相が形成される。
 また、全域的に植栽種の見直しも行わなくてはならない。現在川沿いに植栽されているツワブキは、本来海岸沿いの水辺を生育地としており、関東平野をコンセプトとする当ビオトープにはふさわしくない。また人口渓流上流部に植栽したアラカシは、株立ちと呼ばれる造園手法で成枝されているが、これでは不自然な樹形となってしまう。本来、アラカシは一本立ちする樹木である。こうした造園の都合で手を加えられた植栽種については、今後是正していかねばならない。ツワブキを撤去し、水辺を生育地とするフキを植栽すべきである。アラカシは、せん定を行い一本立ちへと戻していかなければならない。
さらに、鳥寄せの効果がある実のなる樹木(グミ、ズミなど)の導入、水源域の松の樹木密度の増加などが今後の課題としてあげられる。

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