結論

 

 本研究により、地球温暖化による気温上昇が植物に与える影響は種ごとに異なり、発芽・生長が促進される種、阻害される種が存在することが明らかになった。

 発芽の温度依存性解析では、オオブタクサ、オオキンケイギクの種子において高温区で最終発芽率が低くなる結果となった。オオブタクサとオオキンケイギクはいずれも原産地が北方であるため、種子が低温環境下においても発芽して長い生長期間を獲得することによって、生存競争に勝ち抜く特性を持っていると考えられる。これらの外来植物は、将来の地球温暖化の進行によって種子発芽が阻害されることにより、多少なりとも衰退するかもしれない。

 一方イヌムギ、カモガヤ、メリケンカルカヤは高温区での最終発芽率が高くなった。つまりこれらの外来植物は種子が地球温暖化によって発芽を阻害されることはなく、むしろ促進されるかもしれない。また、土壌中に十分な水分があれば冬季からでも発芽が始まり、早い時期からの発芽によって生育期間が長くなり、他種よりも大きく生長する可能性があると考えられる。

 異なる温度条件下で栽培した植物の生長解析では、カモガヤ、ショカツサイ、の2種は、温度の高い区ほど相対生長速度(RGR)が高くなり、その原因は主として光合成活性(NAR)の増加であった。イヌムギ、チヂミザサ、メハジキの3種は、RGR、LAR、NARいずれも区間の差は見られなかった。ナガバギシギシは温度の高い区ほど相対生長速度(RGR)が低くなり、その原因は主として光合成活性(NAR)の減少であった。すなわち、温度上昇によって生長が促進されるかまたは阻害されるかは、外来種であるか在来種であるかによらず、種によって異なるといえる。今回用いた材料植物では、在来植物2種は温度上昇の影響を受けにくいという結果が得られたが、これは材料選択で起こった偶然であって、他の多くの在来植物については個別に研究を行って、影響評価を行う必要があると考えられる。外来植物についても同様であるが、北方起源のナガバギシギシが温度上昇によって生長阻害を受けたように、それぞれの種の起源が影響の有無や方向性を左右していると推察される。今後は各外来植物の起源をファクターとして、影響評価を行う必要があると考えられる。

 ブナ科の木本植物については、生長解析によってクヌギ、コナラ、シラカシの3種いずれも地球温暖化によって衰退することはないと考えられる結果が得られた。実験に用いた3種はすべてコナラ属である。コナラ属はブナ科の中でも特に多くの種(300種以上)を有し、分布も広域に及んでいる。その分布域は南半球を除き、ブナ科の分布域のほとんどすべてをおおうものである。また、ブナ科の他属の分布が比較的、湿潤な地域に限られるのに対し、ある程度、乾燥した地域にも分布を広げているのがコナラ属の特徴である(1996 原)。したがって、温暖化に伴ってブナ林が衰退した場合、その地域では長期的に見ると他のブナ科植物が森林を形成するのかもしれない。ただし、降水量の極端な変化により乾燥化が極端化したり、どんぐりを運ぶネズミなど小動物が衰退したりと、温暖化の影響は多くの物理化学的環境と生物間相互作用を劣化させる危険性がある。したがって個別の研究を積み重ねた上で、総合的に予測評価を行わなくてはならない。


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