概要

 「地球温暖化」は21世紀に入り急速に一般的になった地球環境問題である。この地球温暖化は大気中の温室効果ガス濃度が人間活動によって急激に上昇することによって引き起こされている。地球大気中CO2濃度は、産業革命前と比べると急激に増大し、気温についても、この100年間に1℃の気温上昇がみられ、異常高温発生件数が増加し続けている。IPCCによる予測では2030年〜2040年には0.5〜1.5℃、2050年ごろには0.8〜2.6℃程度の地上気温の上昇があるとされている。世界および日本列島に対する温暖化は、生態系の適応からみて危険とみられる速さで進行している。IPCC第四次評価報告書第二作業部会のとりまとめ(2007)によると、これまで評価された植物及び、動物種の約20〜30%は、全体平均気温の上昇が1.5〜2.5℃を越えた場合、増加する絶滅リスクに直面する可能性が高いとされている。

 また、地球環境保全の観点から、多くの科学者によって生物多様性の危機が指摘されている。日本の生物多様性が現在直面している危機は4つに分類されるが、中でも近年増大し、今後生物多様性の減少をもたらす最大の脅威となると考えられているのは、外来種である。外来植物は、環境適応能力も繁殖能力も高く、主に攪乱地に生育するため、在来の植物が駆逐されて衰退し、従来の生態系のバランスが崩れ破壊される危険がある。地域生態系に競争力の高い植物種が侵入すると、資源の独占による他種の排除が起こり、少数の競争に強い種が優占する単純な植生へと早変わりしてしまう。すなわち、温度環境は光合成生産活動を通じてその生長と生存・繁殖に直接的な影響を及ぼすので、温暖化が外来植物の光合成生産・生長を促進するならば、その競争力はさらに強くなる危険性があると想定される。

 そこで本研究では、今後地球温暖化により植物の発芽・生育期間における気温上昇が起こるというシナリオをもとに、植物の発芽と生長にどのような直接影響を受けるかについて、操作実験を行って解明することを目的とした。数種類の植物を実験的に栽培し、発芽実験、生長解析を行うことにより究明する。

 実験材料は外来植物であるオオブタクサ(キク科)、メリケンカルカヤ(イネ科)、イヌムギ(イネ科)、カモガヤ(イネ科)、オオキンケイギク(キク科)、ナガバギシギシ(タデ科)、ショカツサイ(アブラナ科)、そして対照モデル在来植物として、メハジキ(シソ科)、チヂミザサ(イネ科)を用いた。

 また、森林植生への温暖化の直接影響を解明するため、ブナ科のコナラ、クヌギ、シラカシの3種の実生を用いて栽培実験を行った。

 発芽の依存性解析を行ったところ、オオブタクサ、オオキンケイギクの2種の種子において高温区で最終発芽率が低くなる結果となった。これら2種の外来植物は、将来の地球温暖化の進行によって種子発芽が阻害されることにより、多少なりとも衰退するかもしれない。一方イヌムギ、カモガヤ、メリケンカルカヤの3種は高温区での最終発芽率が高くなった。つまりこれら3種の外来植物は地球温暖化によって発芽が促進されるかもしれない。

 異なる温度条件下で栽培した植物の生長解析を行ったところ、温度上昇によって生長が促進されるかまたは阻害されるかは、外来種であるか在来種であるかによらず、種によって異なるという結果になった。しかし、これは材料選択で起こった偶然であって、他の多くの在来植物については個別に研究を行って、影響評価を行う必要があると考えられる。

 ブナ科の木本植物について異なる温度条件下で栽培した植物の生長解析では、クヌギ、コナラ、シラカシの3種いずれも地球温暖化によって衰退することはないと考えられる結果が得られた。実験に用いた3種はすべてコナラ属であり、このコナラ属はブナ科の中でも特に多くの種(300種以上)を有し、分布も広域に及んでいる。また、ブナ科の他属より乾燥した地域にも分布を広げている。したがって温暖化に伴うブナ林衰退が進行した場合は、他のブナ科植物が森林を形成する可能性が考えられる。

 以上、本研究により、地球温暖化が植物に与える影響は種によって様々であることが明らかになった。

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