調査・実験方法

植物相調査

 一般的に用いられるコドラート法による植生調査は、限られた面積内の植物相について解明する手法であるので、植物種多様性の低い地域以外では見落とす種が多い。そこで、広範囲にわたる生育植物種をリストアップする植物調査を行った。各調査地域を踏査して、開花・結実している植物を中心として、目視、デジタルカメラによる撮影または採取を行い、その後植物図鑑を用いて種の同定を行った。なおこの調査方法では、踏査により目視可能な種が対象になるため、比較的量の多い植物種をピックアップすることになる。

 アドバンテスト・ビオトープおよびチノービオトープにおいては、植物の生育期間の月に1度踏査を行った。調査日はアドバンテストが2011年4月21日、5月26日、6月23日、7月21日、9月16日、10月27日で、チノーが2011年4月25日、5月23日、6月20日、7月25日、9月20日、10月13日であった。

気温・地温測定

 アドバンテスト・ビオトープ内10地点(図4)、またチノービオトープ内2地点において、地上1mおよび深さ約10cmの土壌中にそれぞれ温度データロガー(TR‐52,T&D Corporation)を設置し、気温および地温を測定した。気温測定に際しては、センサー先端部分をアルミニウムカバーで覆い、直射日光が当たるのを避けた。アドバンテスト・ビオトープにおける測定期間は気温、地温ともに2010年11月15日から2011年11月17日、またチノービオトープでは2010年4月26日から2011年11月24日であった。この間30分おきに気温と地温を自動記録した。測定データから、地点別に月ごとの気温および地温の日平均・日最高値・日最低値の平均値と標準偏差を算出した。

相対光量子密度測定

 アドバンテスト・ビオトープの5地点(図2)において、光量子センサー(IKS‐20、koito)を用いて光量子密度を測定し、同ビオトープ内の裸地で測定した光量子密度との相対値を算出した。この相対値が相対光量子密度であり、植物の生育・分布と強い相関関係があるとされている(村岡・鷲谷1999)。測定日は2010年7月21日であった。

発芽の温度依存性実験

 フジバカマについては2010年11月23日に、アドバンテスト・ビオトープの北部を近接して流れる谷田川の川岸において採取した種子と、2007年9月18日にアドバンテスト・ビオトープ内で採取したもの、およびミゾコウジュについては2009年6月25日にアドバンテスト内で採取した種子を用いて発芽実験を行った。各種の種子の採取日時・場所、前処理(冷湿処理)、実験スケジュールを(表1)に示す。いずれの種子も前処理開始まで保冷庫に保管し、健全なものだけを峻別し、実験に用いた。

 前処理である冷湿処理は、一般に冬を経験させることによって種子の休眠を解除し発芽を促進させる処理であり、多くの野生植物の種子でその促進効果が確認されている(荒木ら2003)。本研究では、植物の種子に対して、プラスチック製平型バット(約30cm×24cm)にキムタオルを敷き詰め、その間に種子を蒔いて蒸留水で十分湿らせ、ビニール袋に包んだうえで、4℃の薬用保冷庫(サンヨー、MEDICOOL MPR‐504(H))で所定の期間保管することによって、1ヶ月間冷湿処理を施した。

 前処理の終了後、石英砂を敷いた直径9cmのプラスチック製シャーレに種子を50個ずつ入れ、各々のシャーレに蒸留水を約20cc注入した。温度勾配型恒温器(TG‐100‐ADCT, NK system)にシャーレを入れて培養した。温度勾配型恒温器内の温度は30/15℃、25/13℃、22/10℃、17/8℃、10/6℃(昼14hr、夜10hr、昼間の光量子密度は約30μmol m-2s-1)の5段階とし、各温度区で1植物あたり3シャーレを培養した。実験開始後1ヶ月は毎日、その後は1‐3おきに種子を観察し、肉眼で幼根が確認できたものを発芽種子とみなして数を記録し、取り除いた。また観察日ごとに蒸留水をつぎ足し、常時湿った状態を保った。こうして得られた最終的な積算発芽率を、最終発芽率とした。

フジバカマの挿し木

 2011年5月26日に谷田川の自生地で採取したフジバカマの苗を5月30日に挿し木し、群馬大学荒牧キャンパス内の裸地で栽培した。フジバカマの苗は45cm程度のものを選別して27本採取し、それらを15cm長で先、中、元の3つに切り分けた。川砂を入れた直径30cmの3つのプランターを用意し、切り分けたフジバカマ苗を植えた。1ヶ月後の7月1日に活着したものの本数を数え、活着率を算出した。

栽培実験

 前述の発芽実験で発芽した実生を用いた。栽培スケジュールを表2に示す。これらをゴールデンピートバン(サカタのタネ)に移植し、植物育成棚(白熱球を用いて140L/10Dの日長で昼の光量子密度を約380〜400μmolm-2s-1とし、室温25℃に調節した)内で約1〜2ヶ月栽培した。実生が複数の本葉を有するようになった時点で、プラスチック製苗ポット(約200mL容量に3個体ずつ)に植栽した。用土は川砂を用いた。2011年7月1日ポットに移植し、その後10月3日まで栽培し、この間約1ヶ月おきに一部の個体をサンプリングサンプリングした。栽培は、群馬大学荒牧キャンパス内の裸地で行った。栽培中は、2〜3日に1度水道水をポットから水が流れ出るまで十分灌水した。

 各月のサンプリングに際しては、2〜4ポットをランダムに選んで6〜11個体をサンプリングに供した。

 サンプリングした苗は個体ごとに根・茎・葉に分けて紙袋に入れ、送風定温乾燥機(FC-610,ADVANTEC・DRS620DA,ADVANTEC)に入れて1週間80℃で乾燥させた後、電子式上皿天秤(BJ210S Sartorius)で乾燥重量を測定した。葉面積はカラースキャナー(GT-8700 EPSON)を用いて解像度300dpi 、16bitグレーでスキャンした後、ImageJ 1.41o(NIH)を用いて面積を測定した。今回は148cm2あたり2827200ドットとした。

生長解析

生長解析の各パラメータは、以下の式を用いて算出した。

・相対生長速度(RGR:Relative Growth Rate):各個体の乾燥重量ベースの生長速度を表す指標である。

 RGR=(1n(TW2)−1n(TW1))/(T2−T1)

 TW1:当月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 TW2:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 T1:当月サンプリング日

 T2:次月サンプリング日

・純同化率(NAR:Net Assimilation Rate):各個体の光合成活性を表す指標である。

 NAR=(TW2−TW1)(1n(LA2)−1n(LA1))/(LA2−LA1)/(T2−T1)

 TW1:当月サンプリング日における個体総乾燥重量(g)

 TW2:次月サンプリング日における個体総乾燥重量(g)

 LA1:T1における個体の葉面積(m2

 LA2:T2における個体の葉面積(m2

 T1:当月サンプリング日

 T2:次月サンプリング日

・葉面積比(LAR:Leaf Area Ratio):各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す指標である。

 LAR=(LA1/TW1+LA2/TW2)/2

 TW1:当月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 TW2:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 LA1:T1における個体の葉面積(m2

 LA2:T2における個体の葉面積(m2

・比葉面積(SLA:Specific Leaf Area):各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す指標である。

 SLA=LA/TW

 LA:次月サンプリングにおける個体の葉面積(m2

 TW:次月サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)

・器官別重量比:光合成産物をそれぞれの器官にどれくらい配分したかを示す指標である。

・葉重比(LAR:Leaf Weight Ratio)

 LWR=LW/TW

 LW:次月サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)

 TW:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

・茎重比(SWR:Stem Weight Ratio)

 SWR=SW/TW

 SW:次月サンプリングにおける各個体の茎乾燥重量(g)

 TW:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

・根重比(RWR:Root Weight Ratio)

 RWR=RW/TW

 RW:次月サンプリングにおける個体の根乾燥重量(g)

 TW:次月サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 それぞれのパラメータ間には、以下のような関係がある。

 RGR=NAR・LAR

 LAR=SLA・LWR

 これらの式によって、処理区間でRGRまたはLARの変化があった場合、それがどのパラメータの差異によって引き起こされたかを確認することができる。

体積土壌含水率

 アドバンテスト・ビオトープ内のフジバカマを移植した2地点A、B(図2写真5)において、土壌含水率計(ThetaProbeTypeML, Delta-T社)を用いて土壌含水率を測定した。植栽地Bでは盛り土の斜面の上、中、下の3か所を測定した。各所3回ずつの測定を行い、その平均値から、含水率付属の換算グラフ(ML1‐UM‐1 NOV.1995)を用いて体積土壌含水率を算出した。測定日は6月23日と9月16日であった。

土壌窒素・リン濃度測定

 体積土壌含水率を測定したビオトープ内の同じ2地点、およびフジバカマの自生地である谷田川、矢場川において土壌を採取し、土壌窒素・リン濃度の測定を行った。土壌を採取した日は、アドバンテスト・ビオトープが5月26日と10月27日、谷田川が5月26日と10月27日、矢場川が10月27日であった。

 土壌採取に際しては、それぞれの地点で表土を除き地下5cm程度までの土壌を、石や根・リターが混ざらないようにして約500〜1000gずつ3ヵ所で採取した。採取した土壌はビニール袋に入れて口を縛って持ち帰り、分析するまで−20℃の冷庫に入れて保管した。これらの冷凍土壌は、分析の直前に実験室で自然解凍させた。

 各土壌サンプルから石やリターを除く50g程度を計量し、送風定温乾燥機(FC‐60、ADVANTEC)内にて80℃で約1〜2週間乾燥させた後、乾燥重量を測定し、湿潤重量と乾燥重量から土壌含水率を以下の計算により求めた。

 重量土壌含水率=(湿潤重量−乾燥重量)/湿潤重量

 次に、各土壌サンプルから石やリターを除く50g程度を計量してそれぞれのビーカーに入れ、蒸留水100mLを加えて約3分間攪拌した後、約1時間放置した。これらの土壌抽出液をガラスファイバー製濾紙(TOYO FILTER NO.2, TOYO)を使用して濾過した。濾液は全てシルト成分で濁っていたため、遠心分離器(M‐160‐24、佐久間製作所)を用いて10分間、9000rpmで分離し、その上澄み液を以後の窒素・リン濃度分析に使用した。

窒素濃度分析、全窒素濃度分析、全リン濃度分析

 各土壌抽出液の硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、アンモニア態窒素濃度、全窒素濃度、全リン濃度をポータブル全リン全窒素計(TNP-10、東亜ディーケーケー)を用いて測定した。ポータブル全リン全窒素計での測定値と土壌含水率から、土壌水分1Lあたりの各無機栄養物質の濃度を算出した。

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