概要

 産業革命以降の国際化、近年の経済・文化の発達により、多様な外来種を利用するための意図的な大量導入と、人と物資の頻繁な移動に伴う非意図的な導入が激増した。外来種とは、自然分布域外に導入された種を指し、外来種のうち、その導入若しくは拡散が生物多様性を脅かすものを侵略的外来種(本稿では以後、国外侵略的外来種である植物を「外来植物」と呼ぶ)という。そのため多くの外来種が国内に持ち込まれ、そのうちの一部の種が野生化し、定着したことで、外来種として生態系や人間活動に何らかの影響を及ぼすことが多くなってきた。また、農耕地、植林地、市街地など、人為的攪乱が頻繁に起こる場所が陸地面積に占める割合が急激に増大し、攪乱に適応した競争力の強い外来種が在来種を圧倒して、人為的攪乱地に分布を拡大している。その結果、生態系における均質化が進んできている。

 本研究では、近年全国規模で繁茂が報告されている外来植物7種を用いて、操作された環境条件(温度、光量子密度、土壌窒素濃度)下で発芽実験、生長解析を行うことにより、その旺盛な生長能力・繁殖能力の原因を明らかにすることを目的とした。また、渡良瀬川流域・神流川流域で現地調査を行い、外来植物の一種であるハリエンジュの侵入拡大による植物相の変化を解明した。

 7種類の外来植物(キク科:オオキンケイギク、オオブタクサ、アメリカセンダングサ、イネ科:ヒメモロコシ、イヌムギ、カモガヤ、マメ科:ハリエンジュ)を用いて発芽実験を行い、発芽の温度依存性を解析した。オオキンケイギク、オオブタクサ、アメリカセンダングサ、イヌムギ、カモガヤ、ハリエンジュを人工的に光強度を制御した環境下で栽培して生長解析を行った。オオブタクサは土壌窒素濃度を制御した環境下で栽培して生長解析を行った。渡良瀬川流域・神流川流域で現地調査を行い、ハリエンジュの侵入拡大による植物相の変化について調査し、各地点の土壌から窒素濃度分析を行った。また、群馬大学荒牧キャンパス内馬術部横に群生するハリエンジュ林林床で相対光量子密度の季節変化の測定を行った。

 種子発芽の温度依存性解析(冷湿処理1ヶ月処理、2ヶ月処理・培養温度10/6℃〜30/15℃の5段階)により、オオキンケイギク、オオブタクサ、ヒメモロコシ、イヌムギ、カモガヤの種子において、早春または土壌中に十分な水分があれば冬季からでも発芽が始まり、早い時期からの発芽によって生育期間が長くなり、他種よりも大きく生長する可能性が示唆された。オオキンケイギク、オオブタクサの2種では、高温下で種子の二次休眠が誘導され、土壌シードバンクを形成する可能性が示唆された。すなわち、これらの種の種子のうち、早春に発芽しなかった種子は、次年の最適な発芽時期になるまで土壌シードバンクを形成するものと考えられる。アメリカセンダングサの種子は、発芽するためには2ヶ月以上の冬を経験することが必要で、約4ヶ月間におよぶ長期間の間に、広い温度域で発芽することが可能であることが示唆されたが、最終発芽率はいずれの処理温度下でも高かったため、土壌シードバンクは形成しないと推察された。ハリエンジュの種子は、不透水性の種皮が傷つき、種子の吸水がなされれば、冬を経験する必要はなく、高い温度下(17/8℃〜30/15℃)なら5日以内にほとんどの種子が発芽し、低温下(10/6℃)でも時間をかければ約80%の種子が発芽したため、広範な温度条件下で発芽が可能であると考えられる。

 異なる光条件下(相対光量子密度3%、9%、13%、100%)で栽培した外来植物の生長解析により、オオキンケイギク、オオブタクサ、イヌムギ、カモガヤは、明るい場所でよく生長することが示された。これらの種は他種の実生がみられない冬季または早春から発芽する特性を持つ植物であるため、このような生長特性を有するものと考えられる。アメリカセンダングサは、明るい環境下でよく育ち、比較的暗い環境下でもある程度の耐陰性を持っているので生育することが可能であると考えられる。ハリエンジュは、陽樹特有の生長特性がみられ、暗い場所では極端に生育が阻害されることが明らかとなった。河川敷の攪乱地に多く生育がみられるハリエンジュは、陽樹としての特性を生かして、明るい立地で早く生長して他種を圧倒する優占種となると考えられる。

 異なる土壌窒素濃度(無施肥、ハイポネックス3000倍施肥、1000倍施肥)下で栽培した生長解析により、オオブタクサは土壌窒素濃度が高いほど早く生長することが明らかになった。オオブタクサは、最も土壌窒素濃度の高いハイポネックス1000倍施肥区において、無施肥区NAの約2倍の相対生長速度を示した。

 各地のオオブタクサ群落下で採取した土壌の窒素濃度分析を行った結果、ハイポネックス3000倍施肥区に相当する窒素濃度が検出された。菅平オオブタクサ群落では、畑に用いられる肥料により、利根川オオブタクサ群落では、マメ科植物のクズに共生する根粒菌による窒素固定よって土壌窒素濃度が高くなったと考えられ、オオブタクサが生育する場所では、土壌が富栄養化しており、オオブタクサが今後さらに巨大化する可能性が示唆された。

 ハリエンジュが樹林化している神流川と渡良瀬川の河川敷で採取した土壌の窒素濃度分析を行った結果、ハイポネックス3000倍施肥区に相当、または1000倍施肥区以上の窒素濃度が検出された。ハリエンジュはクズと同様、根に共生する根粒菌によって空中窒素を固定し、土壌を富栄養化させるといえる。このためハリエンジュは貧栄養土壌に適応している在来種を排除し、富栄養化土壌を好む競争力の強いオオブタクサなどの外来植物の侵入を助長していると考えられる。

 群馬大学荒牧キャンパス構内のハリエンジュ林林床で相対光量子密度の季節変化を計測したところ、ハリエンジュの葉が展開し始める6月の上旬からおよそ4ヶ月間、林床は相対光量子密度10%程度以下の暗い環境が続くことが示された。渡良瀬川河川敷松原橋横と桐生大橋横のハリエンジュ林林床で、同様の相対光量子密度の季節変化が起きていると考えられる。

 神流川、渡良瀬川で行った植物相調査によって、ハリエンジュ林林床やクズの群生している場所では、土壌が富栄養化しており、オオブタクサやセイタカアワダチソウなどの競争力の強い外来植物の生育が確認され、河川敷において外来種が優占種となる危険性が示唆された。

 外来植物の多くは、発芽・初期生長過程の特性に種ごとに違いはあるが、いずれも生存競争を勝ち抜くような特性を持ち、定着能力が高いことが明らかとなった。このような植物が日本の植生に侵入すると、貧栄養土壌に適応している多くの在来種が淘汰され衰退することが危惧される。今後さらに外来植物の分布状況や環境適応様式について、研究を進めていく必要があるといえる。

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