調査・実験方法

 

植物相調査

 一般的に用いられるコドラート法による植生調査は、限られた面積内の植物相について解明する手法であるので、植物種多様性の低い地域以外では見落とす種が多い。そこで、広範囲にわたる生育植物種をリストアップする植物相調査を行った。各調査地域を踏査して、開花・結実している植物を中心として、目視、デジタルカメラによる撮影または採取を行い、その後植物図鑑を用いて種の同定を行った。なおこの調査方法では、踏査により視認可能な種が対象になるため、比較的量の多い植物種をピックアップすることになる。

 アドバンテスト・ビオトープおよびチノー・ビオトープにおいては、植物の生育期間の月に1度踏査を行った。調査日はアドバンテスト調査が2010年5月14日、6月17日、9月17日、11月28日で、チノー調査は2010年4月28日、7月22日、8月31日、9月28日であった。

 男井戸川調節池においては、7月23日と10月28日の2回、完成後に播き出すために保全されている土壌(鈴木 2010)の調査を行い、生育が確認された種をリストアップした。

 

気温・地温測定

 アドバンテスト・ビオトープ内10地点(図3)において、地上約1mおよび深さ約10cmの土壌中にそれぞれ温度データロガー(TRー52,T&D Corporation)を設置し、気温および地温を測定した。気温測定に際しては、センサ先端部分をアルミニウムカバーで覆い、直射日光が当たるのを避けた。測定期間は気温、地温ともに2009年12月18日から2010年11月15日であり、この間30分おきに気温と地温を自動記録した。測定データから、地点別に月ごとの日最高気温および地温・日平均気温および地温・日最低気温および地温の平均値と標準偏差を算出した。

 

発芽の冷湿処理・温度依存性実験

 2008年10月16日に、群馬県東部アドバンテスト・ビオトープの北部を近接して流れる谷田川の川岸において採取したフジバカマと、2009年6月25日にアドバンテスト・ビオトープ内で採取したミゾコウジュの2種の植物の種子について実験を行った。各種の種子の採取日時・場所、前処理(冷湿処理)、実験スケジュールを(表7)に示す。いずれの種子も前処理開始まで冷蔵庫に保管し、健全なものだけを峻別し、実験に用いた。

 前処理である冷湿処理は、一般に冬を経験させることによって種子の休眠を解除し発芽を促進させる処理であり、多くの野生植物の種子でその促進効果が確認されている(荒木ら 2003)。本研究では、植物の種子に対して、プラスチック製平型バット(約30cm×24cm)にキムタオルを敷き詰め、その間に種子を蒔いて蒸留水で十分湿らせ、ビニール袋に包んだうえで、4℃の薬用保冷庫(サンヨー、MEDICOOL MPR-504(H))で所定の期間保管することによって、1ヶ月または2ヶ月の冷湿処理を施した。

前処理の終了後、温度勾配型恒温器(TG-100-ADCT,NK system)にシャーレを入れて培養した。温度勾配型恒温器内の温度は30/15℃、25/13℃、22/10℃、17/8℃、10/6℃(昼14hr、夜10hr、昼間の光量子密度は約30μmol m-2s-1)の5段階とし、各温度区で1植物あたり3シャーレを培養した。実験開始後1ヶ月間は毎日、その後は1-3日おきに種子を観察し、肉眼で幼根が確認できたものを発芽種子とみなして数を記録し、取り除いた。また観察日ごとに蒸留水をつぎ足し、常時湿った状態を保った。新たな発芽が3日以上にわたって見られなくなるまで、培養を続けた。こうして得られた最終的な積算発芽率を、最終発芽率とした。

 

異なる光環境条件下における栽培実験

 発芽実験によって得られたフジバカマと、ミゾコウジュの2種の実生を用いた。実生をゴールデンピートバン(サカタのタネ)に移植し、グロースキャビネット(白熱球を用いて14L/10Dの日長で昼の光量子密度を約380〜400μmol m-2s-1とし、室温25℃に調節した)内で約1ヶ月〜2ヶ月栽培した。実生が複数の本葉を有するようになった時点で、1本ずつプラスチック製苗ポット(約95mL容量)に植栽した。用土は川砂とバーミキュライトを1対1で混ぜたものを用いた。これらの苗を1週間群馬大学荒牧キャンパス内の裸地で栽培した。

 初期サンプリングに際しては、苗のみかけのサイズが大きい順に並べ、これを順番に等区分して、区分ごとにサイズ分布と個体数がおおむね同等になるようにした。このうち1区分を初期サンプルとして採取し、残りの区分をそれぞれの処理区に供した。

 サンプリングした苗は個体ごとに根・茎・葉に分けて紙袋に入れ、送風定温乾燥機(FC610,ADVANTEC・DRS620DA,ADVANTEC)に入れて1週間80℃で乾燥させた後、電子式上皿天秤(BJ210S Sartorius)で乾燥重量を測定した。葉面積はカラースキャナー(GT-8700 EPSON)を用いて解像度300dpi 、16bitグレーでスキャンした後、ImageJ 1.41o(NIH)を用いて面積を測定した。今回は148cm2あたり2074515ドットとした。

 

光強度を調節した栽培実験

 寒冷紗を用いて光量子密度を3%、9%、13%、100%(裸地)に調節した4つの光条件区を、群馬大学荒牧キャンパス内の裸地に設けた。ただし、ミゾコウジュを用いた実験においては、実験者のミスにより9%区が存在しない。これらの処理区に苗ポットを配置して4週間栽培し、栽培期間の最終日に全ての個体をサンプリングした。栽培中は、2-3日に1度水道水をポットから水が流れ出るまで十分灌水した。また、1週間おきにハイポネックス(ハイポネックス・ジャパン)の1000倍濃度液を1ポットあたり約100mL与えた。各植物の栽培スケジュールを(表8)に示す。

 

生長解析

生長解析の各パラメータは、以下の式を用いて算出した。

・相対生長速度(RGR : Relative Growth Rate):各個体の乾燥重量ベースの成長速度を表す指標である。

 RGR=(ln(TW2)−ln(TW1))/(T2−T1)

 TW1:初期サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 TW2:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 T1:初期サンプリング日

 T2:最終サンプリング日

 

・純同化率(NAR:Net Assimilation Rate):各個体の光合成活性を表す指標である。

 NAR=(TW2−TW1)(ln(LA2)−ln(LA1))/(LA2−LA1)/(T2−T1)

 TW1:初期サンプリング日における個体総乾燥重量(g)

 TW2:最終サンプリング日における個体総乾燥重量(g)

 LA1:T1における個体の葉面積(m2

 LA2:T2における個体の葉面積(m2

 T1:初期サンプリング日

 T2:最終サンプリング日

 

・葉面積比(LAR:Leaf Area Ratio):各個体の乾燥重量と葉面積の比率を表す指標である。

 LAR=(LA1/TW1+LA2/TW2)/2

 TW1:初期サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 TW2:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 LA1:T1における個体の葉面積(m2

 LA2:T2における個体の葉面積(m2

 

・比葉面積(SLA:Specific Leaf Area):各個体の葉の厚みを葉面積/重量ベースで表す指標である。

 SLA=LA/TW

 LA:最終サンプリングにおける個体の葉面積(m2

 TW:最終サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)

 

・器官別重量比:光合成産物をそれぞれの器官にどれくらい配分したかを示す指標である。

・葉重比(LWR:Leaf Weight Ratio)

 LWR=LW/TW

 LW:最終サンプリングにおける個体の葉乾燥重量(g)

 TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 

・茎重比(SWR:Stem Weight Ratio)

 SWR=SW/TW

 SW:最終サンプリングにおける個体の茎乾燥重量(g)

 TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 

・根重比(RWR:Root Weight Ratio)

 RWR=RW/TW

 RW:最終サンプリングにおける個体の根乾燥重量(g)

 TW:最終サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

 

それぞれのパラメータ間には、以下のような関係がある。

 RGR=NAR・LAR

 LAR=SLA・LWR

 これらの式によって、処理区間でRGRまたはLARの差異があった場合、それがどのパラメータの差異によって引き起こされたかを確認することができる。

 

栽培時の環境測定

・光量子密度

 栽培実験を行った群馬大学荒牧キャンパス構内裸地において、光量子センサー(IKS27, KOITO)を用いて、裸地の光量子密度を2010年6月9日から10月5日まで、10分おきに連続測定した。測定結果はデータロガー(UIZ3635, ウイジン)で自動記録した。

・気温

 群馬大学荒牧キャンパス構内において温度データロガー(TR52,T&D corporation)を用いて、裸地および各光強度区の気温を2010年6月9日から10月5日まで、15分おきに連続測定した。なお、センサ先端部分をアルミニウムカバーで覆い、直射日光が当たるのを避けた。

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