概要

そもそもダムとは、治水・利水・砂防などのために、河川・渓流などを堰き止める構造物で、使用材料からコンクリートダム、フィルダム、構造方式から重力ダム、アーチダムなどに分類される。また、一般にダムと呼ばれているもののうち、堰高が15m未満のものは堰とよばれる。現在日本には、2,735基のダムと堰があり、さらに500以上のダムが計画されている(天野 2001)。

ダムがもたらす諸影響は決して小さくなく、建設地の自然環境・社会環境の破壊はもちろん、ダムと繋がった下流域の広範囲に渡る水環境を中心とした自然環境への悪影響、それによって引き起こされる生態系の破壊などがすでに起こっている。

そこで本研究では、群馬県内において、下久保ダム地域、草木ダム地域、八ッ場ダム建設予定地域、倉渕ダム建設予定地域において、植物相で代表される自然環境の現地調査、および、民族・文化、地質、ダムの利水・治水効果に関する文献調査を行い、ダム建設に伴う、植物相で代表される自然環境、および各種の環境変化の現状を明らかにし、そこからダム建設が地域生態系をどのように改変し、地域社会にどのような影響を与えるものであるかを解明する。

現地調査を行った結果、下久保ダム地域では木本25種・草本82種の合計107種を確認した。生活型は、木本では落葉低木と落葉高木が多くを占め、草本では多年草が多かった。生育立地条件は、木本では山地から丘陵にかけて生育する種が多く、草本では野山や野原に生育する種の他に、市街地に生育する草本種も多く確認された。三波石峡では木本12種、草本21種の計33種を確認した。生活型は、木本では落葉低木と落葉高木がそのほとんどを占め、草本ではほとんどが多年草であった。生育立地条件は、木本は山地に生息するものが多く、草本では野山や野原に生育する種の他に、市街地に生育する草本種も多く確認された。草木ダム地域地点では木本48種・草本61種の合計109種を確認した。生活型は、木本では落葉高木が比較的多いが、落葉低木や落葉小高木なども確認し、草本では多年草が最も多かった。生育立地条件は、木本は山地に生育するものが多く、草本では野山や野原に生育する種の他に、市街地やそれに近い土手・道ばたなどに生育する草本種も多く確認された。八ッ場ダム建設予定地域では、木本62種・草本102種の計164種を確認した。生活型は、木本では落葉低木と落葉高木が多数を占め、草本ではで多年草が多数を占めた。生育立地条件は、木本は山地渓流沿いに生息するものがほとんどで、草本では山地、特に林床や湿った場所に生育する種が多く確認された。倉渕ダム建設予定地域では木本6種・草本46種の合計52種を確認した。生活型は、木本では全て落葉低木や低木種など低木であった。これは高木種は植栽または確認不能な位置に生育するものがほとんどのため、調査対象としなかったためである。草本では多年草が多数を占めた。生育立地条件は、木本は山地に生息するものが多く、草本では野山や野原に生育する種が多く確認された。

各調査地に生育する外来種および攪乱地や崩壊地を好む種は、下久保ダム地域で合計32種、三波石峡地域で合計4種、草木ダム地域で合計15種、八ッ場ダム建設予定地域で合計27種、倉渕ダム建設予定地域で合計7種であった。確認できた総植物種数に調査地域間で差があるが、外来種や攪乱地等を好む種は建設が凍結されて手つかずの状態の倉渕ダム建設予定地で最も少なく、完成して39年経過した下久保ダム地域で最も多いことを強く示唆する結果となった。

以上より、ダム建設に伴い自然環境や自然資源、自然観光資源が大きく損なわれることが明らかにされた。また、自然資源や自然観光資源については、一部において回復の兆しが見られるとはいえ、ダム建設によって失われるものの大きさは膨大なものであると言えることも判った。

よってダム建設以外の手法も視野に入れて、地球環境、地域環境、地域住民の生活に配慮した、政治的でなく真に国民の福祉のためになる河川整備が強く望まれる。

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