結論

 

 本研究の結果により、アドバンテストビオトープ内に生育する植物の育成管理、特に外来種の駆除方策と在来種の増殖について以下のような提言ができる。

 植物相調査によりビオトープ全域において確認された101種の植物のうち、外来植物が22種で帰化率22%2006年度以前の調査で確認されなかった種が17種あった。今後もビオトープ内における植物の多様性が増大していく可能性が高いと考えられる。2006年度以前の調査で確認されなかった種のうち外来種が1種、在来種が16種と在来種の比率が高く、本来のビオトープの目的にかなった植物相になってきているといえる。しかし、外来種は一般に繁殖力が強いため、今後も、個体の除去による駆除や刈り取りによる勢力抑制といった管理を継続することが必要である。

 在来種のうち、絶滅危惧U類であるフジバカマ、準絶滅危惧であるミゾコウジュの継続的生育が明らかになった。フジバカマは、多くの種子を採取することができたため、発芽実験を行うことができ、その結果から、今後ビオトープ内でさらに個体数が増加する可能性が期待される。ミゾコウジュの生育を継続させるためには、シバ草原および道路周辺で草刈りを定期的に行って、明るい立地を継続的に確保する必要がある。

 コマツヨイグサ、コウゾリナは、発芽実験の結果から、土壌シードバンクを形成している可能性は低いと考えられる。したがって外来種であるコマツヨイグサは、結実前に引き抜き処理を続けていくことにより、駆除が可能であると考えられる。一方在来種であるコウゾリナは、ギャップ依存種で土壌シードバンクを形成しないため、今後ビオトープ内での増殖を計るためには、草刈りをして明るい立地を継続的に確保する必要があると考えられる。ホタルブクロの発芽特性は、今回の実験結果の一部に不明な点があったため再度実験を行って解明する必要がある。しかし少なくとも種子に発芽能力があることが確認されたことから、本種は今後ビオトープ内で個体数が増えていく可能性はあると予測される。ヒロハホウキギクの発芽特性の解明のためには、冷湿処理を施した後に再度発芽実験を行う必要がある。

 ビオトープの気温・地温調査によって、植物の環境緩和作用により一日の温度差が低草地、高草地、林内の順に小さくなっていることが明らかになった。さらには、狩谷(2004)によれば、当林内の相対光子密度が、2003年(星野2003)と比較して低下していることも明らかになっている。これらのことは、林内や高草原には外来植物が侵入しにくい環境がしだいに形成されていることを示唆するものである。外来植物の中には、地温の日変化が大きいと発芽しやすいものが多くあり、また、一般に外来植物は明るい光条件下で生長が良く、暗いところではあまり生育しないからである。

植物の開花フェノロジーと分布位置調査により、各月においてどの場所にどのような植物が開花するかが明らかになった。これらの結果を案内板に記載して、絶滅危惧種の植物がある場所は立ち入りを制限して保護し、また在来種の開花時期と生育場所をビオトープ利用者に情報提供するようにすれば、ビオトープ利用の増加や利用方法の充実を図ることができると考えられる。

 アドバンテストビオトープにおいてめざすべき植物多様性とは、在来種の成長を妨害する繁殖力の強い外来種を除去することに加えて、ビオトープ周辺から風散布や鳥散布によって種子が持ち込まれる在来種を、定着・拡大させることにより、その土地が元々持っていた豊かな自然を取り戻すことである。そのため、今までの研究で解明された生態学的特性をもとにして、今後も外来種の引き抜き・刈り取りを継続していくことが必要である。外来種が減少すれば、外来種と比べて繁殖力の弱い在来種の定着、さらには、絶滅危惧種の繁殖がより促進されると考えられる。

 ビオトープづくりは自然の自己回復力に手を添えるという創造作業の一局面である。そのため、学術調査に基づいた積極的な育成管理が必要である。また、ビオトープ利用者への情報提供を行い、利用者のビオトープに対する理解や関心を深め、今後のさらなる成長を共に見守っていくことにつながり、ひいては一人一人の環境問題への意識が高まっていくことが期待される。

 

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