概要

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC:International Panel on Climate Change)の第一作業部会による第三次報告書(2001)によると、21世紀までに大気中のCO2濃度は、540ppm〜970ppmに上昇し、地球全体の平均気温は、1.4℃〜5.8℃上昇すると予測されている。温暖化の防止対策としてはCO2排出量の削減とCO2吸収源の確保が必須である。

 このCO2吸収源として最も大きな役割を果たすと考えられているのが、森林生態系である。実際2005年に発効した京都議定書において、各国の有する森林などの陸上生態系によるCO2吸収量をCO2排出削減目標量から差し引くことができることになり、日本は森林による吸収量を3.9%まで認められた。しかし、森林生態系の実際のCO2収支を精緻に研究した例は多くはなく、CO2吸収源としての実効性は検証されていない。森林生態系ごとに異なるCO2収支および収支に対する生物的、物理化学的環境条件の諸影響についても、統一的に整理できるほどデータがそろっていない。またCO2収支の測定手法もまだ未確立で、さまざまな問題点が指摘されている。

 そこで本研究では、町田(2005)の後を受けて、日本の代表的森林生態系であるアカマツ・コナラ・クヌギ混交林(群馬県前橋市群馬大学構内)において、リターバッグ法の改良と汎用CO2放出速度測定システムによる多点測定を行った。これらによって、平地混交林におけるリター分解速度と土壌からのCO2放出速度の定量化、およびこれらと環境条件(地温、土壌含水率)の関係を解析した。またこれらの結果を基にして、今後の京都議定書をはじめとする国際的なCO2削減対策の中における森林生態系、特に人の管理下にある平地森林生態系の位置づけについて考察した。

地温と土壌CO放出速度の間には、町田(2005)の結果と同様、有意な正の相関がみられた。地温は夏期に高く、春・冬期に低かったので、土壌CO2放出速度が春・冬期に低下するのは、地温の低下が一因であると考えられる。

 土壌含水率と土壌CO2放出速度の間にも、町田(2005)の結果と同様、有意な正の相関がみられた。微生物によるリター分解速度や植物根の呼吸速度は土壌含水率と密接な関係をもっており、土壌含水率の高い夏に高く、土壌含水率の低い冬には低くなる。

 土壌CO放出速度は、測定地点間で有意な差異がみられた。7・8月には、地点7で連続して値が高く(3.6g/hr/m2)、これに比べると地点2は連続して値が低かった(0.6g/hr/m2)。土壌CO2放出速度は、土壌中の微生物がリターを分解することで放出されるCO2、植物根の呼吸によるCO2、それ以外の地中深くから放出されるCO2の3つが含まれている。したがって、こうした地点間の短期的な変異は、土壌微生物による分解活性の変化の他に、植物根の呼吸活性の変化などに起因するものと推察される。

 リター分解速度は、年間リター分解速度は、全地点が全体平均値とほぼ同等(0.002g/g/day)となり、地点間に大きな差異はなかった。

地球温暖化対策の抜本的な強化のためには、今後さらに日本各地の森林生態系におけるCO2収支の実態とその変動原因を解明して、実際には日本の森林生態系全体としてどれくらいのCO2吸収能力があるのかを解明することが必要と考えられる。

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