概  要

 日本における外来植物とは、国外侵略的外来種である植物のことをいう。明治以降の盛んな諸外国との交易により、意図的・非意図的に導入されたため種数が大幅に増加した。今日、国内に存在している外来植物は、定着のおそれありとされる種を含めると、約1500種以上にものぼるとされる。外来植物は繁殖力が強いため、日本の在来植物を駆逐し、日本の従来の生態系を破壊する危険性が高いと考えられている。そこで本研究では、近年日本において多くの分布拡大・繁茂報告のある、アブラナ科冬季一年生植物ハナダイコンとマメ科木本植物ハリエンジュの2種類の外来植物をモデルケースとして、外来植物の生態的特性を解析することとした。
 群馬大学荒牧キャンパス構内において、ハナダイコンの分布地点の相対光量子密度測定を行ったところ、ハリエンジュ林林縁にある分布地点におけるハナダイコン群落直上の相対光量子密度は、4月に60%程度であったものが、種子の成熟する6月には20%前後になることが明らかになった。またこの群落直下の相対光量子密度は、6月に10%程度となり、ここに生育する在来の林床植物の生長は阻害される可能性が示唆された。各分布地点より採取した個体の乾燥重量・生産種子数測定を行ったところ、より明るい環境下で生育した個体の方が大きく生長し生産種子数も多いが、全体的に個体重量あたりの種子生産数は光環境によらず一定で、1gあたり約100個になることが明らかになった。また種子1粒当たり重量は、明るい環境下で生産された種子の方が大きいことも明らかになった。種子生産数に関しては先行研究と同様に、より明るい環境下で生育した個体の方が大きく生長し種子生産量も多いが、全体的に個体重量あたりの種子生産数は光環境によらず一定であるという結果になった。採集直後の種子について、各種の制御温度条件下で発芽実験を行ったところ、最終発芽率・発芽速度共にやや暗い(相対光量子密度20〜30%)環境下で生産された種子の方が、裸地で生産された種子よりも高くなった。しかしこの特性は、種子の保存期間によって変化し、乾燥状態で約8ヶ月間保管すると、逆の結果になることが明らかになった。生育地の光環境にかかわらず、全体として低温区(17/8℃)における最終発芽率は50%以下となり、高温区(30/15℃)では90%以上になった。発芽せずに残った種子に対して冷湿処理および高温処理を行っても、新たな発芽はほとんどみられなかったが、種子には見かけ上傷害はなかった。以上よりハナダイコンは、永続的シードバンクを形成する可能性が高いと考えられる。10月から1月にかけて人工被陰区において栽培実験を行ったところ、ハナダイコンは裸地において生育すると、気温の低下に伴って死亡率(5%〜41%)があがり、また生残個体もこの間ほとんど生長しなかった。また被陰区(相対光量子密度14%、11%、3%の3区)においては、この間の死亡率は3%以下と非常に低かったが、プラスのバイオマス生長をしていたのは、14%区の個体のみであった。生長解析を行ったところ、この14%区の個体は、SLAの大きな、すなわちより薄い葉を作り、これによって節約した光合成産物を、根の形成に投資すること示唆された。以上の結果から、ハナダイコンは相対光量子密度で14%程度の環境が生育適地であるが、これより明るい地点でも、多くの種子を生産することによって高い死亡率を補完して、今後ますます分布を拡大する危険性が高いと考えられる。また永続的シードバンクを形成するため、単発的な刈り取りなどでは駆除しにくいとも考えられる。
 渡良瀬川中・上流域においてハリエンジュの分布調査を行ったところ、桐生市よりも上流で足尾町までの範囲内の流域61カ所において、複数本が分布していることを確認した。これらの分布地点はいずれも土壌のある河原または河床から一段あがった道路沿いで、岩石河原では全く分布は見られなかった。桐生市内の渡良瀬川河原は、ほとんどの地域がハリエンジュの樹林で覆われている。これに対して、佐野市内の河原は、ヨシなどの草丈の高い草本に一面覆われていて、ハリエンジュの分布はほとんど見られなかった。足尾町の山地では、鉱毒により衰退した山林の復元のためにハリエンジュを植林しており、ここで生産された種子が、下流域のハリエンジュの分布の源になっているのかもしれない。2004年6月に群馬大学荒牧キャンパス構内で採取した種子について発芽実験を行ったところ、種皮に不透水性と発芽阻害物質が存在することが明らかになった。すなわち、ハリエンジュの種子種皮に傷をつけないとほとんど吸水せず、また吸水しても、茶色の物質が溶出してきてほとんど発芽しなかった。これらの発芽阻害要因を除去した後、各種の制御温度条件下で発芽実験を行ったところ、最終発芽率は10/6℃の低温区で最も高く(83.3%)、25/13℃で最も低く(8%)なった。これらの結果から、ハリエンジュはより寒冷な地域においても種子が導入されれば発芽し、定着する可能性が示唆された。分布調査の際伐採した幹の年輪解析を行ったところ、萌芽幹(ルートサッカーを含む)の方が非萌芽幹よりも直径生長が早い可能性が示唆された。ハリエンジュは抜倒・抜根しても、残った幹や根から萌芽して数年で樹林化すると報告されているが、その原因はこうした萌芽幹の迅速な生長にあると考えられる。群馬大学荒牧キャンパス構内におよそ30年前程度から成立したと考えられるハリエンジュ林で樹高・胸高直径(DBH)測定を行なったところ、最大樹高は18m、最大DBHは40cmとなった一方、測定した成木の半数近くが、これらの最大値の半分以下のサイズであった。すなわち、このハリエンジュ林では、多くの成木が生長途中であり、今後も多数の種子を生産して分布拡大の源になる危険性が高いといえる。またこのハリエンジュ林の林床にはハナダイコンの大群落があり、両外来植物の相乗効果によって、本来林床に生育する日本の在来植物が、排除されている可能性も示唆された。

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