概 要


気候変動に関する政府間パネル(IPCC: International Panel on Climate Change)の第一作業部会の作成した第三次報告書(2001)によると、21世紀中にCO濃度は4901260ppmとなり、これによって地球の平均気温が1.45.8℃上昇すると予測されている。

 この地球温暖化を防止する方策の一つとして、森林生態系が注目されており、実際、京都議定書においても、CO削減措置として植林など森林の育成が認められている。他方、現存する森林生態系は、そのCOの収支バランスが明らかにされていないためCO削減措置としてはまだ認められていない。しかし国土の70%程度を森林に覆われている日本においては、国際条約による認定いかんにかかわらず、そのCO収支バランスを明らかにする必要がある。そこで本研究では、立地と構成樹種の異なる2つの代表的森林生態系(玉原高原ブナ林と群大構内混交林)において、リターの生産・分解量、および樹幹成長量を連続測定することにより、CO収支バランスを構成する主要素の動態と、それらに対する立地環境条件の影響を解析することを目的とし、調査を行った。

 それぞれの森林において群馬大学構内混交林・玉原高原ブナ林ともに活発に成長を行っている成木が多くみられた。

 地温と土壌CO放出速度の間には、群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林の2調査地いずれにおいても、有意な正の相関がみられた。

 土壌含水率と土壌CO放出速度の間には、群馬大学構内混交林において有意な正の相関がみられ、玉原では弱い負の相関がみられた。玉原高原ブナ林では、土壌含水率が高い季節には地温が低かったため、玉原では主として地温の季節変化が土壌CO放出速度の季節変化を制御していたと考えられる。

 土壌CO放出速度は、両調査地において、測定地点間で有意な差異が見られた。群馬大学構内混交林においては、56月に20地点中1地点で連続して値が高く(3.1g/h/m2)、これに比べると他1地点では連続して値が低かった(0.5g/h/ m2)。玉原高原ブナ林においては、78月に20地点中1地点で連続して値が高く(3.0g/h/ m2)、これに比べると他1地点で連続して値が低かった(1.5g/h/ m2)。地点間の短期的な変異は、土壌微生物による分解活性の変化の他に、根の呼吸活性の変化や、モグラなど大型土壌動物の予測不能な移動などに起因するものと推察される。

リター分解速度は、両調査地において、測定地点間で分解速度に有意な差異が見られた。群馬大学構内混交林においては、年間リター分解速度は12地点中、1地点が全体平均値(0.002g/g/day)の約2倍の値(0.005g/g/day)となった。玉原高原ブナ林においては、年間リター分解速度は12地点中、8地点が全体平均値とほぼ同等となった(0.001g/g/day)。一方2地点で全体平均値の約2倍の値(0.003g/g/day)2地点で全体平均値の約1/2の値(0.0005g/g/day)となった。地点別の地温・土壌含水率に地点別の変化の違いはなく、安定していたことから、物理的環境条件の違いでは、リター分解速度の地点間差は説明できない。

 今後、温室効果ガスであるCO2の挙動をおっていく方法として、地点別のCO放出速度・リター分解速度に着目した研究が必要となってくるであろう。




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