結論

 

 本研究から、造成後3年を経過するアドバンテストビオトープは、植物相および物理的環境条件ともに、多様化が進んでいるものと考えられる。今年度の出現植物数は92種に増加しており、新たに46種の出現が確認された。特に、林内においては、低光強度地点が増加したこと、土壌窒素濃度が高くなっていることから、今後さらに、林床性植物をはじめとする多様な植物の出現が考えられる。一方、草原においては、植物の多様化とともに、外来植物の侵入も多く確認されている。ヨモギ草原はヨモギの定着は進んでいるものの、シロツメクサ等の外来植物の侵入が目立った。また、この地帯は、日当たりはよいものの、土壌の窒素濃度が低いため、高温、乾燥、貧栄養といった環境ストレスに強い外来植物が、今後増加する可能性が考えられる。シバ草原においてもギニアグラス、シロツメクサをはじめとする外来植物の侵入が目立った。特にギニアグラスについては、今後の更なる拡大が考えられるため、引き抜き処理を行うことが必須であると考えられる。水辺においては、土壌含水率も高く、せせらぎ周辺でセリなどの湿地環境で生育する植物の出現が確認されていることから、水辺環境の創出が進んでいるものと考えられる。その一方で、池周辺の土壌は非常に貧栄養になっているため植物の生育には適していない可能性も考えられる。今後もビオトープの外来植物の除去を中心とした育成管理は継続して行っていかなくてはならない。また、在来種についても、今年度新たに31種の出現が確認された。従来は主に外来植物の除去に重点を置いてきたが、今後は在来種を増やす方策についても検討しうる段階に入ってきているものと思われる。また動物・昆虫類も本年度の調査で新たな種が確認された。特に昆虫類は、植物との結びつきが強く、植物の種類や状態によって種や個体数が左右されるため、今後のさらなる種の増加のためには、動物・昆虫類と植物との結びつきを考慮した育成管理が必要になってくるものと思われる。

 アドバンテストビオトープにおいて、生物相、物理化学的環境条件の多様性が実現されつつあるのは、造成時からの継続的な育成管理が行われてきたからである。アドバンテストビオトープのような大型ビオトープでは、育成管理の規模も大きなものとなってくる。特に、外来植物の除去においては、相当の労力を費やすことになる。ビオトープづくりは、自然の自己回復能力に人間が手を添えるという創造作業の一局面であり、学術調査に基づいた積極的な育成管理によって今後も生長されていくと考えられる。

 

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