材料および方法

1 オオブタクサ

生物学的記載
 オオブタクサ(学名:Ambrosia trifida, 標準和名:クワモドキ)は北アメリカ原産のキク科ブタクサ属の一年生帰化植物であり、原産地では小麦畑や大豆畑で生育する。わが国には大豆など輸入農産物に混入されもたらされ、1952年(昭和27年)に静岡県清水港において最初の個体が確認された(長田、1972)。その後本州・四国・九州に広がり、近年北海道にも帰化しているとされる(鷲谷、1996)。わが国において、オオブタクサは、都市およびその周辺の大きな河川の河川敷および造成地、廃棄物の処理場などに群生する。春に芽生え、夏の終わりから秋にかけて頭状花をつけ、風媒花のために黄色い花粉をあたりが黄色くみえるほど散布し、秋の終わりには種子をつけて枯れる。その個体サイズは時には6mになるほど巨大なものである。2002年10月に伊勢崎の調査地で採取したオオブタクサの最大サイズは、4m41cmであった(写真1)。

調査地概要
 調査地通称・伊勢崎は、群馬県伊勢崎市柴町の市民憩いの家付近の利根川河川敷で、北緯36度17分32秒、東経139度9分51秒である。
 調査地通称・水上は、群馬県水上町大穴の湯檜曽川にかかる幸知橋のたもとで、利根川と湯檜曽川の合流地点、北緯36度47分48秒、東経138度59分23秒である。

調査・実験方法
実験@ 伊勢崎・水上両地点に生育するオオブタクサの生長・種子生産比較
<目的>低温環境である水上に自生する個体は、南部の伊勢崎の個体よりも生長速度が低いのか。両地で生育した個体について、生長速度と種子生産数を比較して検証する。
 伊勢崎からは、2002年3月から、2002年11月の間、毎月サンプリングを行った(表1)。 水上からは、2002年5月から、2002年11月の間毎月サンプリングを行った(表1)。サンプリング個体数については、伊勢崎からは2002年3月〜6月の期間は毎月10個体、7月から11月の期間は毎月5個体ずつサンプリングを行った。水上は2002年5月〜11月の期間毎月10個体ずつサンプリングを行った。

実験A 異なる窒素態比での栽培下における伊勢崎・水上両地点に生育するオオブタクサの生長・種子生産比較
<目的>低温環境である水上に自生する個体は、南部の伊勢崎の個体よりも生来的に生長速度が低いのか。両地より採取した個体を同一の環境条件下で栽培し、生長速度・種子生産数を比較して検証する。
 2002年3月9日に伊勢崎の調査地点から、2002年5月25日に水上調査地点からオオブタクサの実生をそれぞれ採取し、群馬大学(前橋市荒牧町)構内にてポット栽培した。栽培中の湿度は60〜100%(図44)、気温は15〜31℃(図43)であった。
ポット(直径28cm・高さ26cm)に1本ずつオオブタクサを植裁し、硝酸態窒素肥料追加区(通称・硝酸区)、アンモニア態窒素肥料追加区(アンモニア区)、水道水のみ(水道水区)の3種類の処理区に配分し、週に1度、1ポット当たり約400ccずつ灌水した。栽培用に使った土壌は、群馬清風園の国土(硝酸態窒素0.005mg/g,アンモニア態窒素0.0002mg/g,亜硝酸態窒素0.00003mg/g,総窒素濃度0.0052mg/g)を用いた。硝酸態窒素肥料は、ハイポネックスを用い、アンモニア態窒素肥料は、日清製油(株)リン・カリ肥料と大熊商事の化成肥料を混合したものを用いた。各処理区における灌水中の窒素・リン酸・カリ肥料成分の組成は、(表2)を参照のこと。この他に2〜3日おきに水道水を、ポットから流れ出る程度に与えた。ポット植え個体は雨水と虫害を防ぐために、ビニールと防虫ネットで囲いをしたハウスに収容したが、その被陰効果はおよそ10%程度であった。
 実験は2度行った。1度目の実験(通称・施肥実験1)伊勢崎の調査地から採取し、植え替えを行ったのは、2002年3月9日、水上は、2002年5月25日である。実験期間2002年5月28日〜8月12日においては、(表3)に示すおよそ月1度おきの日に、各処理区5個体ずつサンプリングした。
 2度目の実験(通称・施肥実験2)で使用したオオブタクサの株の植え替え日は1回目の実験と同様である。実験期間2002年7月19日〜10月17日は、2002年7月19日に肥料投与を開始した。(表3)に示すおよそ月1度おきの日に、各処理区5個体ずつサンプリングした。
 サンプリングした各個体について、葉面積と各器官別乾燥重量を測定し、生長解析(後述)を行った。

実験B 水上・伊勢崎の気温測定
<目的>両調査地点の気温を比較する。
 水上、伊勢崎の両調査地の地上約50cmほどで直射日光にさらされない場所に、温度データロガ―(T&D Corporation,TR-52)を設置し、気温を測定した。測定期間は、水上で2002年5月25日から同年11月4日、伊勢崎で8月5日から11月5日2002年5月26日、測定間隔は15分であった。伊勢崎の調査地においては、7月に河川工事に伴って測器が紛失してしまったので、 前橋気象台発表のデータ(http://www.data.kisyou.go.jp/index42.htm)より、4月から8月の気温データを、回帰式を用いて推定した。

実験C 水上・伊勢崎の土壌窒素肥料成分測定
<目的>伊勢崎・水上両調査地点の土壌1gあたりの硝酸態窒素・アンモニア態性窒素含量を分析し、オオブタクサの生長との関係を考察する。
 両調査地点各5箇所から土壌(地上から深さ5cm)を採取し(伊勢崎2002年10月3日、水上2002年10月4日)、測定まで冷凍庫で保管した。土壌の一部は乾燥前の質量と乾燥後の質量を量り、土壌水分含量を算出した。各地点の土壌約40gを、蒸留水30mlで懸濁して約10分間静置した後、ガラスファイバー製ろ紙(ADVANTEC NO 2)にて濾過した。この濾液中の硝酸態窒素・亜硝酸態窒素・アンモニア態窒素濃度を、ポータブル簡易窒素計(東亜ディーケーケー, NM-10)を用いて測定し、土壌1g当たりの値として算出した。

2 ハナダイコン

生物学的記載
 ハナダイコン(学名:Orychophragmus violaced O.E,Schul, 標準和名:オオアラセイトウ, 中国名:諸葛菜・ショカツサイ )は、中国原産のアブラナ科の冬季1年草で、紫色の花が3〜5月頃にかけて咲く。江戸時代から既に渡来し、観賞用として栽培されたものが日本の各地で野生化、定着している。日本では戦没者への供養の意味にもされる花でもある。一説によるとハナダイコンの拡大は、戦後、薬草の権威であった山口誠太郎博士が、新聞にハナダイコンの種をプレゼントする旨を投稿したところ、全国から募集が大殺到し、そこから全国に定着が拡大されたとある(昭和46年4月11日大阪朝日新聞)。また、帰化植物は人間によって運ばれ人間が攪乱した二次帰化地である鉄道・幹線道路付近は侵入地として特化している(山口、1997)。ハナダイコンの生育地も、同様に畑の付近、幹線道路付近、線路付近などに多く見られる。

調査・実験方法
実験D 前橋市内の主要幹線道路付近におけるハナダイコンの分布調査
<目的>前橋市内におけるハナダイコンの分布と、各分布地点での相対光強度を計測し、ハナダイコンの分布と光環境の関係を解明する。
 前橋市内の主要幹線道路付近にてハナダイコン生育地を、2002年4月20日、5月8日、5月14日、5月15日に探索した。探索地点数は62地点(図48)であった。各地点において相対光量子密度を光量子センサー(LI-COR, LI-190SB)を用いて測定した。

実験E 人工被陰下におけるハナダイコンの栽培実験
<目的>異なる光条件下における、ハナダイコンの生長解析および枯死率比較により、当種における生育の限界光強度を解明する。
 黒色寒冷紗を用いて、群馬大学(前橋市荒牧町)構内に相対光量子密度が100%・30%・9%・3%の4段階の光強度区を設けた。2002年6月15日に前橋市荒牧町から採取した野生のハナダイコンの種子を2002年7月8日に同大学構内において播種し、栽培した。栽培は1ポット(直径11.5cm・高さ10.5cm)に1個体ずつ植裁した後、各光強度区内に設置して行った。実験は2回行った。1回目の実験は2002年8月27日〜10月24日の期間、2回目の実験は2002年10月10日〜12月3日の期間に行った。水やり・枯死確認は2日おきに行った。栽培に使用した土は、群馬清風園の黒土を用いた。実験中の気温は、15〜20℃であった(図43)。

3 生長解析方法
オオブタクサ、ハナダイコンの生長解析は共通で、サンプリング後の手順は以下の通りである。

乾燥重量と葉面積の測定
 採取した植物体を根・茎・葉の部分に分け紙袋に入れて、送風定温乾燥器(ADVANTEC, FC-610)で一週間80℃で乾燥させた後、電子式上皿天秤(SARTORIOUS, BP310S)で乾燥重量を測定した。葉面積は、カラーイメージスキャナー(SHARP, JX-350)で葉をスキャンした後に、Adobe photoshop 3.0JとNIH Image1.67を用いて測定した。

生長パラメータの計算
上記の方法により得られたデータから、次のような方法で計算した。

・ 葉面積(LA : Laef Area)
LA=(L1+L2+L3+ノノ)*C
   L: スキャンした葉のドット数
   C: ドット数/面積の換算計数。今回は148cm2/517572ドットを用いた。

・ 相対生長速度(RGR: Relative Grouwth Rate)
RGR={Ln(W2)-Ln(W1)}/(T2-T1)
T1 : 前サンプリング日 T2 : 現サンプリング日
W1: T1における個体総乾燥重量(g)
W2 : T2における個体総乾燥重量(g)

・ 純同化率(NAR: Net Assimilstion Rate)
NAR=(W2-W1){Ln(LA2)-Ln(LA1)}/(T2-T1)(LA2-LA1)
T1 : 前サンプリング日 T2 : 現サンプリング日
LA1:T1における個体あたり葉面積(F)
LA2:T2における個体あたり葉面積(F)

・ 比葉面積(SLA: Specific Leaf Area)
SLA=LA/LW
LA :1個体あたり葉面積(F) 
LW : 1個体あたり乾燥重量(g)
・ 葉面積比(LAR: Leaf Area Ratio)
LAR=(LA2/W2+LA1/W1)/2
LA1 : 前サンプリングにおける1個体あたり葉面積(F)
LA2 : 現サンプリングにおける1個体あたり葉面積(F)
W1 : 前サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)
W2 : 現サンプリングにおける個体総乾燥重量(g)

・葉重比(LWR:Leaf Weight Ratio)
LWR=LW/W
LW : 1個体あたりの乾燥重量(g)
W : 1個体あたりの総乾燥重量(g)

・茎重比(SWR:Stem Weight Ratio)
SWR=SW/W
SW : 1個体あたりの乾燥重量(g)
W : 1個体あたりの総乾燥重量(g)

・ 根重比(RWR:Root Weight Ratio)
RWR=RW/W
RW : 1個体当たりの乾燥重量(g)
W : 1個体あたりの総乾燥重量(g)

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