緒言

 

 人間の住んでいるまわりには、つねに人為的な撹乱を受けているところがたくさんある。そういった場所には必ずといっていいほど、ある植物を見かける。それは、帰化植物と呼ばれている植物たちである。帰化植物とは、明治以降に入ってきて野生化した外来植物である。人が観賞用や食用、薬用、飼料などといった目的で日本に輸入され、栽培されていた植物が野外へ逃げ出し野生化したり、種子が輸入物質などと共に持ち込まれ、定着することもある(浅井1993)。侵入をまず始める場所のことを第一次帰化地と呼ぶが、そのようなところとして、諸外国との交通や物質輸入に直接に関わりを持つ港や空港などが挙げられる。帰化植物の大半は明治以降、外国との交易が盛んになるに伴ってやって来ている。特に、第二次世界大戦以降は帰化植物の種類数は急増し、現在も増加していると考えられている(沼田1975,飯泉1975,長田1975, 浅井1993,鷲谷・森本1993)。そこで、帰化植物の原産地を種類数が多いものから順に並べてみると、ヨーロッパ、北アメリカ、アジア、南アメリカ、中国およびインド、オーストラリア、アフリカ他となり、ほとんど世界各地をカバーしていることがわかる。これらの原産地から必ずしも日本へ直接渡来してきたとは言えないが、ヨーロッパや北アメリカなど日本と気候条件が似ている地域からのものが多いのである。これは、日本がヨーロッパや北アメリカとの交流が特に盛んであるために持ち込まれる種類数が増加しているだけでなく、帰化植物の定着しやすい環境、例えば撹乱地といったような、本来の自然植生を人為的に破壊された場所が増加していることが原因であると考えられている。つまり、都市の拡大や開発に伴う宅地の造成などが帰化植物の絶好の生育環境を提供しているのである(山口1997)。最近では、新たに造成した道路の周辺の土留めを目的として法面に帰化植物を植え付ける「吹きつけ」と呼ばれている一種の緑化用に使われるケースが多い。定着に成功した帰化植物は、人為的に撹乱された場所へ次から次へと進出していく。帰化植物の侵入と生育の状況は自然破壊の程度を示す一つのインジケーターと言える。帰化植物に共通する特徴は、貧栄養の痩せた土地でも十分に生育できること、繁殖力や生活力が強いこと、種子を非常に多量に生産すること、日当たりのよい陽地を好むものが多いことなどが挙げられている(岩瀬1989)。
 帰化植物は侵入地域の種多様性を低下させ地位を占め、本来の植物相に脅威を与えることもある。例えば、ハワイでは外来植物が栄養塩の循環や土壌の組成を変化させ、在来植物を駆逐したという報告(Vitousek,1986;Vitousek et al.,1987)や、カナダでは緑化のために導入された植物種が群落中の在来種の生長を抑圧したという報告(Wilson,1989)がある。また、定着に成功し、大々的に繁殖を開始してしまった帰化植物の駆除は非常に困難とされている (宮脇1994;鷲谷1996)。以上のように、定着に成功した帰化植物は侵入した地域の生態系や植生に多大な悪影響を与える危険性があるとされている。
 帰化植物が植生や生態系に与えている影響を正しく評価するためには、まずその侵入の現状および帰化植物の特性を把握することが必要である。帰化植物の大半は主に種子で繁殖をする。そこで、本研究では帰化植物のうち、種子が販売されているものの現状を把握するために帰化植物の発芽特性を調べた。種子発芽の温度特性を調べるために、最大発芽率・発芽の限界温度・冬越しの可能性の発芽実験を室内で行った。野生のハナダイコンは早春に開花し結実するため、夏以降も生長を続けている可能性がある。これを野外で検証するため、生長解析を行った。そして、群馬県内において帰化植物がどのような地域で生育しているのか、現状を知るために分布状況調査を行った。また、実際に全国をまわって帰化植物の分布状況を調査するのは困難であるため、インターネットの検索エンジンを使い、日本全国でどの県に生育しているのかを調査した。

←目次へ                 次へ→