2−1 緒言

 ダムとは、治水・利水・砂防などのために、河川・渓流などを堰き止める構造物で、使用材料からコンクリートダム、フィルダム、構造方式から重力ダム、アーチダムなどに分類される。また、一般にダムと呼ばれているもののうち、堤高が15メートル未満のものは堰とよばれる。日本で初めてのコンクリートダムは、1900年に神戸の生田川に水道用として建設された。その後、巨大ダム建設の時代を迎え、現在日本には、2735基のダムと堰があり、さらに500以上のダムが計画されている(天野 2001)。
 ダム建設は、地域の自然環境や社会環境・文化環境を破壊する最も大きな公共事業の1つである。ダム開発が大きな環境破壊をもたらす原因は、その開発規模の大きさと河川から海に至るまでの広範囲に影響が及ぼされるためである。ダムは、地質学的作用(浸食・運搬・堆積作用)を遮断し、土砂をため込んでいく。その結果、河川の緩衝帯の消滅や、海砂が供給されないことに起因する砂浜の後退や漁獲量の低下などもおこっている(天野 2001)。 
 ダムの悪影響は、建設地では、貴重な動植物が棲息の場を失った・絶滅した、景観が損なわれた、地滑りが誘発された、移転のため伝統文化が継承できなかったなど、下流においては、水質が悪化した、水辺の動植物が失われた、砂浜が後退した、などがあげられる。日本では、建設省は長年、ダムによって失われる「自然が自然に持っている浄化力という力」や「安全で美しい水」や「多様な生態系」や「川が流れているから生きている水循環」や、自然環境」を、無価値なものと考え、ダムから得られる利益(発電、工業用水・都市用水・農業用水の確保、洪水防止など)のみを計算して、市民にその効果だけを宣伝し、全国にダムを造りあげてきたのである(天野 2001)。
 現在、群馬県には多くのダムがあるが、これらのダムのほとんどは都市用水・工業用水の開発や治水を目的としており、群馬県よりも下流の人たちの為のものといえる。群馬は首都圏の水瓶と言われている。つまり、ダムの恩恵を受けるのはダムよりも下流の人たちであり、損失を最も被るのは主としてダム建設地の人々である。それにもかわわらず、これらのダムの計画・建設は、地元の住民にとってダムを造る意義が何であるかが明らかにされないまま行われている。ダム建設の行われる地域の住民は、農林業や自然観光などを生業としていることが多いので、その意義を明確にするためには、建設の前後で自然環境がどのように変化するのかを明らかにすることが必要である。
 そこで本研究では、ダムが出来てから32年が経っている下久保ダム地域と、これから本格的な建設に入る八ッ場ダム地域(図1)において、自然環境(植生)の現地調査および、民俗・文化、地質、ダムの利水・治水効果に関する文献調査を行った。この2地域の調査結果を比較解析することにより、従来ないがしろにされがちであった、地元の住民にとってのダムの計画・建設の意義を明らかにした。

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