V-3. 結果及び考察

  V-3-1. 植生調査

 植生調査を行った結果計38種の植物資料[表2][資料5]を得た。玉原湿原内でみられた植物はアキノキリンソウ、ヒヨドリバナ、ヤマトリカブト、アヤメなどである。オゼヌマアザミ、オゼタイゲキなど尾瀬の名を冠する植物も確認した。地点1-1、1-2はコウガイセキショウ、アブラガヤ、ハナウドなど生育地を湿地や水辺とするものがみられた[表2]。地点2では、生育地を山地とするナナカマド、タムシバ、ミヤマガマズミがみられた。なお、玉原湿原では、代表的な植物については案内板を設置しており、観察がしやすくなっている。植物資料を得たもの以外にも、ミカヅキグサ、トキソウ、アサヒラン、コバイケイソウ、ワタスゲなど湿原を代表する植物の存在を確認する事が出来た。
 レストハウスから玉原湿原に向かう車道沿いでは、計14種の植物資料を得た[表3]。山野に特有の種が多くヨツバヒヨドリ、キンミズヒキ、ハンゴンソウなどである。高木ではヤナギが多くみられ、オノエヤナギ、オオキツネヤナギ、イヌコリヤナギなどがみられた。いずれも川沿い、河原を生育地とする種であった。また、湧き水をくめる場所もあり、湿原内ほどではないにしろ、観察・観光の場として成り立っているといえる。
 これら湿原植生の中に侵入、拡大しているのが、ハイイヌツゲとヨシである。ハイイヌツゲは、県内では玉原、尾瀬、利根川源流部の湿原に多くみられる。ハイイヌイヌツゲは高さ70cmほどになる低木で、太平洋岸気候域にあるイヌツゲに対して、樹枝が低く圧伏されている。これは、重い雪に押される状態が長く続き、それに適応して変異したものと考えられている。ハイイヌツゲはイヌツゲを母種とする日本海要素の植物である(群馬の自然 発行年不詳)。玉原湿原で、ハイイヌツゲは主に木道沿いに分布していた。分布調査の結果、ハイイヌツゲは最大750m2の分布面積をもつことが分かった[表3]。木道沿いには長く分布するが、木道からの分布距離は平均6.8mと短い。これは、ハイイヌツゲが木道沿いの水分環境の悪い地域を好んで生育するためと考えられる。一方、ヨシは木道沿いのみに分布するのではなく、広大に群生していた。ヨシは泥質立地であれば、水際から周辺の乾性立地に至る広い範囲にまで生育可能な種であり、多様性の低い単純な群落を形成する。この種が生育する地域はすでに湿原の変質化(植物群落の質の低下)が進んでいるといえる。ヨシは既にほぼ湿原全域に分布してた。最もヨシが分布している地点5は人工排水路を挟んだ地点で、分布面積は4185m2にもなっていた[表3]。

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