V. 沼田市玉原湿原


 V-1. 調査地概要


 調査地2は、群馬県は沼田市の玉原湿原である。市の北方15km、迦葉山の北面、水上町との市境にある。迦葉山(1322m)鹿俣山(1637m)尼ヶ禿山(1466m)に囲まれた高原凹地で、湿原植物が群生し、「第二の尾瀬」「小尾瀬」と呼ばれ、行楽地として親しまれている。
 玉原湿原は、武尊山(2158m)の西山麓に鹿俣山を扇頂とする南西に開いた緩い扇形の斜面に標高1200mから1180mにかけて大小6つの湿原が展開する一大湿原地帯である。この中で最大の湿原である一の原は、長径約200m、短径約150mで、南西方向に緩く傾斜しており、厚さ1.5mほどの泥炭層が堆積している。湿原表面には低いブルテ(小凸地)とシュレンケ(小凹地)が認められる。湿原は中間湿原植生であるミズギク-ヌマガヤ群集が広い範囲をおおい、周縁部には低層湿原植生であるオオカサスゲ群集などがみられる。湿原内には、ハイイヌツゲが侵入し、群落を構成している(1986 群馬県)。
 玉原湿原は玉原と呼ばれる地域に属しており、周辺部は日本海側多雪地に広く分布するブナ林である高さ25mほどのヒメアオキ-ブナ群集が広範囲に残されている。また湿原の西側には、代償植生の日本海側ミズナラ林であるオオバクロモジ-ミズナラ群集となっている。
 また、周辺の環境には、玉原スキー場、たんばらラベンダーパーク、キャンプ場などの観光施設も揃っている。これらの多くは、市が第三セクター方式によって、「玉原レクリェーションゾーン」として開発を進めたものである。このような観光開発は、玉原に発知川の源流近くの谷をせき止めて「玉原ダム」を作るという東京電力の計画が発端である。昭和57年12月に完成した「玉原ダム」は、最大発電量120万キロワットという利水目的のダムである。水上町の藤原湖を下池とし、518m上の玉原に上池を作り、夜間の余剰電力を利用して水を汲み上げ、昼間落水することによって、発電する揚水式発電方式をとるロックフィル式のダムである。計画当初の段階では、下段の湿原が水没し、中段の湿原に水がかかる計算になっており、人造湖に玉原湿原が沈むことに対して沼田の人々が強力に反対をした。そのため、東京電力側はダムの水位を20m下げるよう計画を変更し、玉原湿原は今に姿を残すこととなった(堀 1975)。湿原の大半がダムに沈むという最悪の事態は逃れたものの、玉原湿原の観光地化は、湿原に様々な影響を与えている。もともと、玉原湿原のすぐ側には車道が整備されていたため、入山が比較的容易な地域であった。そこに、玉原湿原から700mほどの地点にレストランが建設された。それに伴う大規模な駐車場が整備され、玉原湿原の観光化に拍車をかけたわけである。現在は駐車場から玉原湿原までをつなぐ道には車止めが設置され、一般車は通行できないようにされている。しかし、湿原のほど近くに駐車場があるというのは、アクセスを容易にしていることに変わりはない。
 また、玉原湿原は木道だけでなく、植生図などの案内板、テラスなどが整備されており、予備知識を持たない者に対しての配慮も行き届いている。また、湿原からも近隣のブナ林を散策する遊歩道があり、玉原の雄大な自然を楽しむことが出来るようになっている。なお、湿原入口にある自然環境センターは「玉原自然を愛する会」が管理している。同団体は、玉原を愛する有識者の会であり、定期的に行楽客に対し玉原についての講習、体験学習を実施している。また、事前の連絡があれば、会のメンバーによる説明を誰でも受けることができる。
 玉原湿原の管理は、沼田市役所商工観光課が行っている。覚満淵と違い、県などの指定を受けていないため、当該市町村が管理に当たっている。

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