. 概要

 本論文は水辺の自然環境の保全と利用について考察したものである。
 水辺の自然環境の多くは人間に保全、あるいは利用されているが、その際「生態
系保護」「観光利用」の二つの要望に応えなくてはならないことが多い。
 まず、「保全と利用」を通して、水辺の自然環境に関わる人々の意識を類型化し
た。「保全と利用」に関わる人々は、学識者、観光客、地域住民など様々であるが、
その関わり方によって大きく「タブロー型」「専門家型」「タブロー脱却型」の三
つに類型化した。
 自然に対して保全を働きかけない「タブロー型」は観光客が該当し、「専門家型」
は専門知識を有する学識者、「タブロー脱却型」は自然に関わりを持ち始めた人々
が該当する。この場合、自然環境の行く末はその管理主体に委ねられているといえ
る。
 この3つの類型の、現在、群馬県内で保全・利用されている水辺の自然環境の管
理方法と現状を生態学、人文科学の両面から分析した。
 調査地は、赤城山覚満淵、沼田市玉原高原、明和町アドバンテストビオトープの
3地点である。3地点において、植生調査、群落調査、土壌含水率調査などの調査
を行った。また、3地点の管理主体に対して管理の基本姿勢と管理方法の聞き取り
調査を行った。
 これらの調査の結果、そこに関わる人々の類型によって、大きく現状、そして今
後が左右されることが確認できた。特に赤城山覚満淵と沼田市玉原高原における差
は顕著であった。玉原湿原は管理主体が学識者(東京農工大学)に指示を仰ぎ、施
策を行っており、湿原は乾燥化からの回復をみせていた。一方、覚満淵は、数年後
には湿原が裸地と化す可能性の高い木道改修工事の計画があり、しかも、その管理
主体がその間題点を認知していなかった。これは、玉原湿原の管理主体が「タブロ
ー脱却型」、覚満淵の管理主体が「タブロー型」であったためといえる。次に、ア
ドバンテストビオトープでは「専門家型」が各種の調査を行い、その結果に基づい
た処置を「タブロー脱却型」の管理主体がとることで、生物の多様性の創出を目指
していた。
 管理主体に求められていることは、水辺の自然環境を保全することだけではなく、
これを利用する人々を自然環境への保護、保全といった発想へと導いていく施策を
行っていくことであるといえる。そうしなければ、多くの自然環境は「保全・利用」
の下に、破壊されていくだけであろう。

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