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教員紹介

新井康平(あらい・こうへい)准教授

新井 康平

ARAI, Kohei

  • 出身地: 愛知県
  • 最終学歴/学位: 神戸大学大学院経営学研究科/博士(経営学)
  • 研究室: 教養教育GC棟212
  • 所属学会: 日本会計研究学会,日本原価計算研究学会,日本管理会計学会
  • 専門分野: 管理会計,原価管理,経営分析,経営計画
  • 担当科目: 会計学Ⅰ・Ⅱ,社会関連会計,会計情報システムなど
  • 個人ページ: http://www34.atwiki.jp/arailab/

現在の研究テーマ


代表的な研究業績

専攻分野・研究内容紹介

社会情報としての会計学への招待

私が教育・研究している内容は,会計学と呼ばれるものです。「会計なんて,たがが金勘定じゃないかー」などと思われるのはもっともなのですが,大学レベルで会計学を学習することは,単なる簿記の技術の習得を超えて,非常に価値があるものだと言えます。ここでは,そんな会計学の魅力の一端をお伝えできればと考えています。

とはいえ,何を隠そう私自身が,高校を卒業して大学に入ったばかりのころは,このように考えていました。なぜ,そんな私が会計学者などという人種になったのかについては,割りと長い話なので,前任校で書いたエッセイ を参照してください。図書館の館報に載っているので,図書館の話も書いてあったりでさらに長いので,よっぽど時間に余裕が有るときに目を通していただければと思います。

とにかく,会計学の魅力を。まず先ほども書いたのですが,会計というと簿記(知らない方は帳簿のつけ方についての技術だと考えてください)というイメージをもっていらっしゃる方も多いと思います。その考え方は,全く間違ったものではないのですが,しかし十分とはいえないものです。大学レベルで会計を勉強するということは,少なくとも,次の3つの能力を養成することになると思います。

1つ目の能力: 情報についての理解力

1つ目の能力は,「情報内容」という概念について理解する能力です。「情報」という言葉も「内容」という言葉も日常的ですが,これらをくっつけた言葉を聞いた人はあまりいないかもしれません。これは,ある情報を知っている時と知らない時で,その人の行動に差がでるんですか? という問から生まれた概念です。例えば,朝のニュースで「前橋は昼から大雨」と伝えられれば,私は傘を持って行こうと考えます。しかし,例えばブラジルに住んでいる人は,前橋の天気を聞いても「ほー,そーなんかー。で?」以上の反応を示さないでしょう。つまり,情報は確かに情報なのだけれども,その人の行動に影響を与えるかどうかは,その人自身が置かれた状況にも影響を受けるわけです。

そして,このように,ある情報をある人が知った時に,その人の行動が変化した時,その情報はその人に対して「情報内容」を持っていたと呼びましょう,ということになりました。会計学では,この情報内容という概念は教育上も研究上も重要な考え方です。簿記であれ原価計算であれ,あるいは簿記の結果出てきた財務諸表を分析した結果であれ,生み出された情報が誰にどのように活用されるのかを意識しなければ,その情報に価値をもたらすことは難しい,ということになるからです。例えば,工場などでモノにどれだけ会計的な費用がかかったのかを計算することを原価計算といいます。その原価計算においては,原価情報を誰がどの局面で用いるのかによって原価計算の結果を変えたほうが良い,ということは割りと広く知られています。つまり,過去,あるモノを作るのにどれだけ原価がかかったのかを知りたい人と,将来同じ物を作るのに原価がどれだけかかるかを知りたい人には,同じ工場で同じモノをつくっていても,異なる情報を提供しなくてはなりません。情報に対して,絶対的な真実性を期待しないこの情報内容アプローチは,相対的真実性とも呼ばれていますが(その人にとって相対的に真実であればいいじゃない,という考えです),社会で用いられる情報というものに対しての本質を理解するうえで,会計に限らずなかなか役立つ思考法だといえるでしょう。この視点を養うのが,大学レベルの会計学で1つ目の目的と言えます。

2つ目の能力: 情報を作る能力

学生に身につけてほしい能力の2つ目は,会計情報を自分自身で生み出す能力です。組織であれ個人であれ,インプットされた情報を計算・加工することで新しい情報を生み出すことが出来ます。例えば,同じ材料を500円と600円で買った,という情報からは,それら購入価格情報を比較することで誰かが無駄使いをしているかもしれないという情報が新しく生み出されます。古典的には複式簿記と呼ばれるシステムが情報の算出では重要だったわけなのですが,現在の会計学においては,複式簿記に限らず経済情報などがなければ有用な会計情報を生み出せないことが知られています。帳簿以外にも経済学のモデルなどを使って価値を評価したりするわけですね。複式簿記などの古典的な仕組みからはじまり,情報を算出する技術の基本構造を理解し,応用的な価値算出の議論まで学習することは,会計学の理解に有用であるといえるでしょう。実は,会計情報を作成のために必要とされる幅広い経済・社会全般に対する教養を,情報という視点から学べる環境(例えば我が社会情報学部のように)が,会計学の学習で優位にあるといえるのです。

3つ目の能力: 情報を分析・批判する能力

そして3つ目は,情報内容を検証するための能力です。情報は,結構な勢いで歪んでいます。例えば会社がどれだけ儲かったのかという利益情報ですが,割りと歪んでいるといえます。というのも,情報を歪ませることで得をする人たちがいるからです。この得をする構造を「インセンティブを持つ」というように呼びます。例えば,社長さんは税金を払いたくなくて利益を過少報告するかもしれないし,逆にボーナスを増やすために利益を過大報告するかもしれません。これは,その社長さんがどんなインセンティブを持っているかで,どのように情報を歪ませようとしているのかを検証できる,ということでもあります。

やや固めの言い方ですが,ある情報を知った時にエイジェント(上記の例だと社長さんですね)がどのように振る舞うのかを検証することは,会計の制度を作る上でとっても重要です。特に,現在,世界中の会計制度を統一しようという国際財務報告基準をはじめとする会計基準の設定などにおいて,このような考え方が重要となってきているようです。また,個別の企業では,情報を算出するコストとその企業にとって情報内容を勘案し自社の管理システムを構築する必要がある,ともいえます。情報が歪んでいるという前提で,なお情報内容のある分析結果をだせるのか,という点が,現在の経営分析にとって重要な視点であると言えます。

現在の多くの大学で行われている会計教育の場合,2つめの能力に力点が置かれがちになることが多いといえます。しかし,過去の私自身の研究からも,情報内容を理解したり検証したりせずに,流行に従ったかのような会計システムが設計されている企業が非常に多いのが我が国の特徴です。このような状況を避けるためにも,1つ目や3つ目の能力をバランスよく備えた人間が今後,社会で必要とされるようになると考えています。そして,我が社会情報学部でも,(会計専門職ではないが)きちんと会計の実態を理解しているという人間が育っていく事を願ってやみません。


Last Update 2014/04/02